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赤毛のアン 〜毎日読むアン〜
〜ギルバートはアンを愛しています。
それは、友情以上の愛でした。
しかし、彼がそれを匂わせるようなそぶりを見せると、
アンにとっては "危険信号" 。
話をはぐらかしてしまいます。〜
私は、大学1年生。
「その方は、お嬢様を好いておられるようですね。」
また余計な事を、佐竹は確信を持って私に進言した。
近隣の大学との交流を目的とした、ピクニックが企画された。
早い話が、 "ゴウコン" 。
誰が考えたか知らないが、高校生の遠足でもしたことのないようなゲームを
させられ、 幼稚園児のように芝生に座ってお弁当を食べさせられた。
お尻がめちゃくちゃ冷える。
「寒いさかい、ベンチに座らへんかぁ?」
なんじゃ、このコテコテの大阪弁。 それが、セイスケだった。
四角い顔に一重で吊り上がった目、少々ずんぐりした鼻がついて、
唇を洗濯ばさみで止めたみたいにとがらせている。
顔もコテコテの大阪府民である。
「やっぱり来るんじゃなかったわ。 男ほしさに、馬鹿みたいなゲームしてさ、
なんかサモシイじゃないの。」
馬鹿面さげた大学生をメタメタに殴りたい気分。
「そないに考えんかてえんちゃう? 友達つくりや思うたらええねん。」
そしてセイスケは、まんまと友達つくりに成功したのだ。
「なぁ、よっちゃん。」
よっちゃんはやめろと何度注意しても、 「やっぱり、よっちゃんやんかぁ」 と
しつこく呼び続ける性格がうっとうしい。
しょっちゅう電話を掛けてきて、長々としゃべる。
全く疲れを見せずに、何キロも歩いて家に遊びに来る。
バイト先の喫茶店の前をうろうろして、偶然通りかかったような
見え透いた演技をする。
なんもかんもがイジましい男だった。
「しかし、セイスケ様はお優しい方とお見受けいたしますが…
遠くの恋人より、近くの友と申しますから。」
佐竹… それを言うなら "遠くの親戚より近くの他人" やんか。
お〜嫌だ。 大阪弁がうつっている。
私にはヨシロー君という大好きな人がいることをセイスケに話した。
「そうかぁ… そいつが好きなんかぁ… しゃあないなぁ…
せや、これから "お化け屋敷" 行かへんか?」
恐るべし、大阪府民。
「怖ないでぇ。 ワシにしがみついたらええ。」
はいはい、友達としてしがみつかせて頂きまひょ。
セイスケがどんな気持ちでいるのかさっぱり見当がつかない、
私はそんなフリをし続けていた。
佐竹に言われなくても、セイスケの気持ちはわかっている。
それでいて、気付かぬフリをしなければならないのはセイスケのせいだ。
友達としてのセイスケなら、私だって神経質にならなくて済むのだ。
ある日、遊びに来たセイスケを私は追い返した。
私が不機嫌なのを見て取ると、彼は何も言わずに立ち去ったが、
しばらくして電話がかかってきた。
公衆電話からだった。
「ヨシロー君との恋に狂ってるんか?」
「私が誰に狂ってようが、あなたには関係ないことだわ。」
セイスケ… それこそ "危険信号" 、というか "地雷" を踏んだのはアンタよ。
これでアンタとの仮面の友情とも決別だわ。
うっとうしいけど、まるで嫌いでもなかった友達のセイスケを、
私は心底嫌になった。
女同士の友達では有り得ないような別れ方だ…
と思ったのもつかの間、 しばらくすると何も無かった様に
セイスケは、またやって来た。
「ゆうてなかったけど、大阪に帰っとったんや。
電話も出来ひんでごめんな。 お土産持ってきたったで。」
うぇ〜ん、 アンタはいなくなったともんと思っておりましたのに…
セイスケ… アンタも私と同じや。 納得するまで諦められへんのやな…
私もアンタも、うっとうしがられるタイプやわぁ。
"同類相憐れむ" ゆうやっちゃな。
せやからゆうて… あんたの事は友達以上にはどうしても考えられへんねん。
No.77 『第6章 仮面の友情』
〜ギルバートはアンを愛しています。
それは、友情以上の愛でした。
しかし、彼がそれを匂わせるようなそぶりを見せると、
アンにとっては "危険信号" 。
話をはぐらかしてしまいます。〜
私は、大学1年生。
「その方は、お嬢様を好いておられるようですね。」
また余計な事を、佐竹は確信を持って私に進言した。
近隣の大学との交流を目的とした、ピクニックが企画された。
早い話が、 "ゴウコン" 。
誰が考えたか知らないが、高校生の遠足でもしたことのないようなゲームを
させられ、 幼稚園児のように芝生に座ってお弁当を食べさせられた。
お尻がめちゃくちゃ冷える。
「寒いさかい、ベンチに座らへんかぁ?」
なんじゃ、このコテコテの大阪弁。 それが、セイスケだった。
四角い顔に一重で吊り上がった目、少々ずんぐりした鼻がついて、
唇を洗濯ばさみで止めたみたいにとがらせている。
顔もコテコテの大阪府民である。
「やっぱり来るんじゃなかったわ。 男ほしさに、馬鹿みたいなゲームしてさ、
なんかサモシイじゃないの。」
馬鹿面さげた大学生をメタメタに殴りたい気分。
「そないに考えんかてえんちゃう? 友達つくりや思うたらええねん。」
そしてセイスケは、まんまと友達つくりに成功したのだ。
「なぁ、よっちゃん。」
よっちゃんはやめろと何度注意しても、 「やっぱり、よっちゃんやんかぁ」 と
しつこく呼び続ける性格がうっとうしい。
しょっちゅう電話を掛けてきて、長々としゃべる。
全く疲れを見せずに、何キロも歩いて家に遊びに来る。
バイト先の喫茶店の前をうろうろして、偶然通りかかったような
見え透いた演技をする。
なんもかんもがイジましい男だった。
「しかし、セイスケ様はお優しい方とお見受けいたしますが…
遠くの恋人より、近くの友と申しますから。」
佐竹… それを言うなら "遠くの親戚より近くの他人" やんか。
お〜嫌だ。 大阪弁がうつっている。
私にはヨシロー君という大好きな人がいることをセイスケに話した。
「そうかぁ… そいつが好きなんかぁ… しゃあないなぁ…
せや、これから "お化け屋敷" 行かへんか?」
恐るべし、大阪府民。
「怖ないでぇ。 ワシにしがみついたらええ。」
はいはい、友達としてしがみつかせて頂きまひょ。
セイスケがどんな気持ちでいるのかさっぱり見当がつかない、
私はそんなフリをし続けていた。
佐竹に言われなくても、セイスケの気持ちはわかっている。
それでいて、気付かぬフリをしなければならないのはセイスケのせいだ。
友達としてのセイスケなら、私だって神経質にならなくて済むのだ。
ある日、遊びに来たセイスケを私は追い返した。
私が不機嫌なのを見て取ると、彼は何も言わずに立ち去ったが、
しばらくして電話がかかってきた。
公衆電話からだった。
「ヨシロー君との恋に狂ってるんか?」
「私が誰に狂ってようが、あなたには関係ないことだわ。」
セイスケ… それこそ "危険信号" 、というか "地雷" を踏んだのはアンタよ。
これでアンタとの仮面の友情とも決別だわ。
うっとうしいけど、まるで嫌いでもなかった友達のセイスケを、
私は心底嫌になった。
女同士の友達では有り得ないような別れ方だ…
と思ったのもつかの間、 しばらくすると何も無かった様に
セイスケは、またやって来た。
「ゆうてなかったけど、大阪に帰っとったんや。
電話も出来ひんでごめんな。 お土産持ってきたったで。」
うぇ〜ん、 アンタはいなくなったともんと思っておりましたのに…
セイスケ… アンタも私と同じや。 納得するまで諦められへんのやな…
私もアンタも、うっとうしがられるタイプやわぁ。
"同類相憐れむ" ゆうやっちゃな。
せやからゆうて… あんたの事は友達以上にはどうしても考えられへんねん。
赤毛のアン 〜毎日読むアン〜
〜名士の令嬢である友人、フィル(フィリッパ)のおかげで、
レッドモンドの社交界にすんなり入れたアン。
他の1年生の羨望の的になります。
男子学生を取り巻きに従える、フィル。
しかし頭のいいフィルは、ギルバートがアンに夢中なのを
見抜いていました。〜
私は、大学1年生。
この大学に社交界などない。
ラウンジでの井戸端会議が社交の全てだが、慣れてくると派閥のようなものが
ある事に気付く。
下宿派、寮派、 自宅派の三派。
下宿派には何となく一人暮らしの生活臭が漂っており、自宅から通うお嬢様とは
違う独特の匂いで、それとわかる。
社交の幅を広げるには、下宿派の女と知り合いになることだ。
彼女達の部屋は、単位の攻略から男の子の攻略まであらゆる分野に関する
"談合" の場であり、 更に新しい友人と出会える一種の "アジト" のような
役割を果たしていた。
九州出身のミッチの下宿は、お好み焼き屋の二階。
頬骨が高く、笑うと唇の両端がキュッと上がる彼女は、大学進学の目的は
男を沢山つくって遊ぶ事、と明確だ。
「私の顔、九州顔でしょ? この手は九州にはゴロゴロしてるけど、
本土では珍しいから。 今が人生最大のモテどきなんよ。」
はい、確かに。 私もあんたの顔には惹かれる。
ミッチの下宿で知り合ったアメリカ帰りのハルは、 私と同じ年生まれで、
誕生日が3日早い。
1年生とは思えない、落ち着きのある大人っぽい女だった。
「私、アメリカで結婚するつもりの人がいたのよ。 でも、おばあちゃまが
倒れたって騙されて。 帰国したらそのままお縄になって、大学に戻れって
言われたの。 皇族御用達の大学には戻りたくないから、彼と別れるのと
引き換えにここを選んだってわけ。」
合格祝いの電話を貰って以来、 私と京都のヨシロー君とは友達付き合いが
始まっていた。
私は彼に宛てて、月に一度は膨大な枚数の手紙を送り付けたが、
返事はめったに来ない。
その日もミッチにグチったり、のろけたりで騒いでいたのだった。
ハルはごく自然な仕草でたばこをバッグから取り出して、火を付けた。
そして、 「あなたは… 」 と切り出した。
私は、ぎくっとした。 ハルは軽々と人を見抜く目を持っていた。
「あなたは、そのヨシロー君とやらを好きな自分が好きなのよ。
一種のナルシストね。 それ、恋愛でも愛でもなんでもないわ。」
心にも無い慰めを言われるよりいいが、ハルの冷たい言葉に私はカチンときた。
ナルシストですって!
自分勝手な恋愛願望で、ヨシロー君を利用してなんかいない。
「私のどこがジコチューだっていうのよ!」
「じゃ、好きと言われたの?」
痛いところを突かれてしまった。
好きだと言われてはないが、彼は私の気持ちを知っているはず。
目には見えない、耳でも聞けない事を私は感じるからわかるのだ。
「私を大切にしてくれているのよ。」 私はムキになった。
「よしこさん… 若い男なら好きな女を抱きたいと思って当たり前でしょ。
何もないなんて、ヨシロー君、病気かもしれないわよ。」
失礼な! ヨシロー君のことまで酷く言うのは許さん。
「結婚しようと思ってたんなら、またアメリカに帰れば!」
「追いかけても来ないような男よ。 そんな男、追いかけてどうなるの… 」
あくまでクールなハル。
「私なら、納得するまで追いかけるわ。」
ハルはちょっと笑って、 「あなたならね。」 と言った。
ヨシロー君への想いが私の "独りよがり" かもしれないって事は、
心の底では気付いていた。
でも認めれば、私自身が壊れてしまう。
認めたくない事をハルは口に出しただけなのだ。
ハルにバッサリ斬られてかなり痛かったけど、私は諦めたりしない。
本当の事がわかるまで、止めたりはしない。
「キチガイじみてるけど、あなたって面白いわ。」 ハルが言った。
こうして、先祖代々続いた庶民の私は、金持ちで美人で頭のいいハルと友達に
なった。
青春時代には、 相手とエネルギーを交換したり、利用したりすることで、
自分自身の膨らみすぎた力を放出しようとするものなのかもしれない。
それは時として、相手の気持ちを汲み取れず、自分勝手に暴走してしまう
悲しさがある。
うわべは無邪気に楽しく遊んでいるように見えても、心の底では寂しさを
溜め込んでいる。
だから何かに強烈に引き付けられ、情熱を注ぎ込まずにはおられないのだ。
見かけはクールなハルだって同じだ、と私は思った。
No.76 『第5章 大学の社交界を知る』
〜名士の令嬢である友人、フィル(フィリッパ)のおかげで、
レッドモンドの社交界にすんなり入れたアン。
他の1年生の羨望の的になります。
男子学生を取り巻きに従える、フィル。
しかし頭のいいフィルは、ギルバートがアンに夢中なのを
見抜いていました。〜
私は、大学1年生。
この大学に社交界などない。
ラウンジでの井戸端会議が社交の全てだが、慣れてくると派閥のようなものが
ある事に気付く。
下宿派、寮派、 自宅派の三派。
下宿派には何となく一人暮らしの生活臭が漂っており、自宅から通うお嬢様とは
違う独特の匂いで、それとわかる。
社交の幅を広げるには、下宿派の女と知り合いになることだ。
彼女達の部屋は、単位の攻略から男の子の攻略まであらゆる分野に関する
"談合" の場であり、 更に新しい友人と出会える一種の "アジト" のような
役割を果たしていた。
九州出身のミッチの下宿は、お好み焼き屋の二階。
頬骨が高く、笑うと唇の両端がキュッと上がる彼女は、大学進学の目的は
男を沢山つくって遊ぶ事、と明確だ。
「私の顔、九州顔でしょ? この手は九州にはゴロゴロしてるけど、
本土では珍しいから。 今が人生最大のモテどきなんよ。」
はい、確かに。 私もあんたの顔には惹かれる。
ミッチの下宿で知り合ったアメリカ帰りのハルは、 私と同じ年生まれで、
誕生日が3日早い。
1年生とは思えない、落ち着きのある大人っぽい女だった。
「私、アメリカで結婚するつもりの人がいたのよ。 でも、おばあちゃまが
倒れたって騙されて。 帰国したらそのままお縄になって、大学に戻れって
言われたの。 皇族御用達の大学には戻りたくないから、彼と別れるのと
引き換えにここを選んだってわけ。」
合格祝いの電話を貰って以来、 私と京都のヨシロー君とは友達付き合いが
始まっていた。
私は彼に宛てて、月に一度は膨大な枚数の手紙を送り付けたが、
返事はめったに来ない。
その日もミッチにグチったり、のろけたりで騒いでいたのだった。
ハルはごく自然な仕草でたばこをバッグから取り出して、火を付けた。
そして、 「あなたは… 」 と切り出した。
私は、ぎくっとした。 ハルは軽々と人を見抜く目を持っていた。
「あなたは、そのヨシロー君とやらを好きな自分が好きなのよ。
一種のナルシストね。 それ、恋愛でも愛でもなんでもないわ。」
心にも無い慰めを言われるよりいいが、ハルの冷たい言葉に私はカチンときた。
ナルシストですって!
自分勝手な恋愛願望で、ヨシロー君を利用してなんかいない。
「私のどこがジコチューだっていうのよ!」
「じゃ、好きと言われたの?」
痛いところを突かれてしまった。
好きだと言われてはないが、彼は私の気持ちを知っているはず。
目には見えない、耳でも聞けない事を私は感じるからわかるのだ。
「私を大切にしてくれているのよ。」 私はムキになった。
「よしこさん… 若い男なら好きな女を抱きたいと思って当たり前でしょ。
何もないなんて、ヨシロー君、病気かもしれないわよ。」
失礼な! ヨシロー君のことまで酷く言うのは許さん。
「結婚しようと思ってたんなら、またアメリカに帰れば!」
「追いかけても来ないような男よ。 そんな男、追いかけてどうなるの… 」
あくまでクールなハル。
「私なら、納得するまで追いかけるわ。」
ハルはちょっと笑って、 「あなたならね。」 と言った。
ヨシロー君への想いが私の "独りよがり" かもしれないって事は、
心の底では気付いていた。
でも認めれば、私自身が壊れてしまう。
認めたくない事をハルは口に出しただけなのだ。
ハルにバッサリ斬られてかなり痛かったけど、私は諦めたりしない。
本当の事がわかるまで、止めたりはしない。
「キチガイじみてるけど、あなたって面白いわ。」 ハルが言った。
こうして、先祖代々続いた庶民の私は、金持ちで美人で頭のいいハルと友達に
なった。
青春時代には、 相手とエネルギーを交換したり、利用したりすることで、
自分自身の膨らみすぎた力を放出しようとするものなのかもしれない。
それは時として、相手の気持ちを汲み取れず、自分勝手に暴走してしまう
悲しさがある。
うわべは無邪気に楽しく遊んでいるように見えても、心の底では寂しさを
溜め込んでいる。
だから何かに強烈に引き付けられ、情熱を注ぎ込まずにはおられないのだ。
見かけはクールなハルだって同じだ、と私は思った。
赤毛のアン 〜毎日読むアン〜
No.75 『第4章 女の園で友を得る』
〜アンは天真爛漫な令嬢フィリッパ・ゴードンと友達になります。
大学一の美人、フィルの目にもギルバートのハンサムぶりは
目に留まったようです。〜
私は、女子大1年生。
ジュリーホール。
初代学長様(我が校では、学長には必ず "様" をつけねばならない。)の
シスター・ジュリーを記念して名づけられた、 学生食堂兼ラウンジ。
そこは、 "女" ばっかりだ。
うへ〜というくらい "女" で埋め尽くされて、はみ出した "女" は中庭に並んだ
テーブルにひしめき合っている。
昼食時のラウンジに足を踏み入れた瞬間、 食べ物とコーヒーと、女の匂いで
息が止まりそうになる。
そんな中からクラスメートを見つけるのは至難の業だ。
向こうから見つけて貰えるまで売店の付近に立っているのがいいと気が付いた。
高校時代の英語の先生は、 私達のことを主体性がないとか、人の意見に
すぐなびくとか…
要するに、髪型や服装の事だけに脳ミソを使い、 日々喰い、眠り、しゃべるに
全精力を使う動物だと決めつけていた。
主体性を持たせる教育をしないで、一方的に言い過ぎだし、少なくとも私は
有意義な事にも脳ミソを使っている、と先生に反論した。
女子校生だと思って馬鹿にしていませんか、と言った。
しかし、ジュリーホールにたむろする "おねいさま方" を見る限りでは、
先生の意見もごもっともという気になる。
むしろ高校生の方が自己主張があり、不良らしく "私はひねくれています" と
顔に書いてあって、潔い。
この女子大の女達は化粧とファッションで腹黒さを隠し、しがないサラリーマンの
娘のクセにお高くとまった、お嬢様気取りだ。
「これから学長様の講義だから、急いで前の席を取らなければね。」
卒業したらお見合いをしてそこそこの家に嫁ぐのに、学長の講義が何になるのか。
大学の事務方の人間まで "学長様" だから、どうかしている。
私と斉藤女史はそんな連中の前で、わざと大きな声で「がくちょう」と
呼び捨てることにした。
経済的理由と学力の程度を考えて選んだ大学だったが、これは選択間違ったかな…
そんな時。
「よしこさん… 新聞部に部員がいないなんて信じられる?」
ある日、斉藤女史があきれ顔で訴えた。
アカデミックであるべき大学に新聞部はあっても、部員が集まらないのを
嘆いているのだ。
「よしこさん… 2年生になったら、新聞部を立て直して、新聞を出そうよ。
一緒にやらない?」
大学にも学生にも、言いたいことはかなりあったし、そりゃ面白そうだ。
しかし、これが意外に難航した。
結局3年生になった秋、斉藤女史が国文科の変わり者1年生を勧誘するのに成功。
私も英文科から1名を引っ張り込んで、やっと第1号を発刊する運びとなった。
記念すべき1号のインタビューには、 "がくちょう" が選ばれた。
テープレコーダーを肩に下げた凛々しい姿の斉藤女史を引き連れて、
私はインタビューに向かった。
学長は大学祭の記念講演を終えたところだった。
講演内容の補足質問の後、私は隠し球を出した。
「学長様と呼ばれることについて、ご自身はどう思われますか?」
学長は絹の上を滑るような綺麗な抑揚で答えた。
「あなたはどう思われますか?」
私が聞いとんじゃ! こいつ、結構やるな…
「私は学長様とお呼びしておりません。 私にとっては、学長以外の
何者でもないですから。」
「それで、よろしいですよ。 わたくしは学長でございますから。」
「では、何故みんなが学長様と呼ぶのをやめさせないのですか?」
「わたくしは木を切ることに専念するあまり、森を見ることを疎かに
していたのだと思い、反省しております。」
はっ? 斉藤! 助けてくれ!
「あなたは、なかなか鋭い質問をされましたね。」
固まった斉藤を尻目に、私は続けた。
「わかるように言って頂けませんか?」
上に立つ者は、自分の事を自分の思うようには出来ないものなのだ、
そう学長は話してくれたが、 私には充分理解できなかった。
つまりマザー・テレサは "聖人" と呼ばれたが、テレサ自身は自分のやるべき
仕事をしていただけ。
そんな風に、私は理解した。
学生達の中には、この学長のいる大学に学んでいることを誉れにする者も
多くいた。
尊敬、というより自慢の種にしているようで、私は胸が悪くなる。
学長と直に話してわかったことだが、彼女だって周囲のから騒ぎにムナクソが
悪いのだ。
目の動きでわかったような気がする。
汚れ無き偉い人である学長としては言えないだろうから、私が代わって
新聞に書いてあげることにした。
学生なら勉強せえや。 自分の大学の塀の中だけが世界じゃない。
他の大学と、学問の交流や情報の交換をしよう。
ハクを付けるために来てるんじゃないでしょ。
私はいつも、こういうはめになる。
書いた以上は、私も斉藤女史も引っ込みがつかない。
成績結果はともかく、 かなり無理して勉強した。
その後、卒業謝恩会が派手すぎるのを批判。
決められてもいないのに "全員振り袖" はおかしいし、ホテルで開催する
必要もない。
私も斉藤女史も出席するに及ばず、と潔く欠席した。
反対の立場を表明しておいて、のこのこと振り袖なんて着て行かれるか。
そんなこと誰もとやかく言わない、と周囲の学生は出席を勧めたが、
不審に思わないアンタ達がどうかしているって言ってるんでしょうが!
でも、この頑固一徹が私ってもの。
これでいいんだ。 信じて疑ってない。
大学一の美人、フィルの目にもギルバートのハンサムぶりは
目に留まったようです。〜
私は、女子大1年生。
ジュリーホール。
初代学長様(我が校では、学長には必ず "様" をつけねばならない。)の
シスター・ジュリーを記念して名づけられた、 学生食堂兼ラウンジ。
そこは、 "女" ばっかりだ。
うへ〜というくらい "女" で埋め尽くされて、はみ出した "女" は中庭に並んだ
テーブルにひしめき合っている。
昼食時のラウンジに足を踏み入れた瞬間、 食べ物とコーヒーと、女の匂いで
息が止まりそうになる。
そんな中からクラスメートを見つけるのは至難の業だ。
向こうから見つけて貰えるまで売店の付近に立っているのがいいと気が付いた。
高校時代の英語の先生は、 私達のことを主体性がないとか、人の意見に
すぐなびくとか…
要するに、髪型や服装の事だけに脳ミソを使い、 日々喰い、眠り、しゃべるに
全精力を使う動物だと決めつけていた。
主体性を持たせる教育をしないで、一方的に言い過ぎだし、少なくとも私は
有意義な事にも脳ミソを使っている、と先生に反論した。
女子校生だと思って馬鹿にしていませんか、と言った。
しかし、ジュリーホールにたむろする "おねいさま方" を見る限りでは、
先生の意見もごもっともという気になる。
むしろ高校生の方が自己主張があり、不良らしく "私はひねくれています" と
顔に書いてあって、潔い。
この女子大の女達は化粧とファッションで腹黒さを隠し、しがないサラリーマンの
娘のクセにお高くとまった、お嬢様気取りだ。
「これから学長様の講義だから、急いで前の席を取らなければね。」
卒業したらお見合いをしてそこそこの家に嫁ぐのに、学長の講義が何になるのか。
大学の事務方の人間まで "学長様" だから、どうかしている。
私と斉藤女史はそんな連中の前で、わざと大きな声で「がくちょう」と
呼び捨てることにした。
経済的理由と学力の程度を考えて選んだ大学だったが、これは選択間違ったかな…
そんな時。
「よしこさん… 新聞部に部員がいないなんて信じられる?」
ある日、斉藤女史があきれ顔で訴えた。
アカデミックであるべき大学に新聞部はあっても、部員が集まらないのを
嘆いているのだ。
「よしこさん… 2年生になったら、新聞部を立て直して、新聞を出そうよ。
一緒にやらない?」
大学にも学生にも、言いたいことはかなりあったし、そりゃ面白そうだ。
しかし、これが意外に難航した。
結局3年生になった秋、斉藤女史が国文科の変わり者1年生を勧誘するのに成功。
私も英文科から1名を引っ張り込んで、やっと第1号を発刊する運びとなった。
記念すべき1号のインタビューには、 "がくちょう" が選ばれた。
テープレコーダーを肩に下げた凛々しい姿の斉藤女史を引き連れて、
私はインタビューに向かった。
学長は大学祭の記念講演を終えたところだった。
講演内容の補足質問の後、私は隠し球を出した。
「学長様と呼ばれることについて、ご自身はどう思われますか?」
学長は絹の上を滑るような綺麗な抑揚で答えた。
「あなたはどう思われますか?」
私が聞いとんじゃ! こいつ、結構やるな…
「私は学長様とお呼びしておりません。 私にとっては、学長以外の
何者でもないですから。」
「それで、よろしいですよ。 わたくしは学長でございますから。」
「では、何故みんなが学長様と呼ぶのをやめさせないのですか?」
「わたくしは木を切ることに専念するあまり、森を見ることを疎かに
していたのだと思い、反省しております。」
はっ? 斉藤! 助けてくれ!
「あなたは、なかなか鋭い質問をされましたね。」
固まった斉藤を尻目に、私は続けた。
「わかるように言って頂けませんか?」
上に立つ者は、自分の事を自分の思うようには出来ないものなのだ、
そう学長は話してくれたが、 私には充分理解できなかった。
つまりマザー・テレサは "聖人" と呼ばれたが、テレサ自身は自分のやるべき
仕事をしていただけ。
そんな風に、私は理解した。
学生達の中には、この学長のいる大学に学んでいることを誉れにする者も
多くいた。
尊敬、というより自慢の種にしているようで、私は胸が悪くなる。
学長と直に話してわかったことだが、彼女だって周囲のから騒ぎにムナクソが
悪いのだ。
目の動きでわかったような気がする。
汚れ無き偉い人である学長としては言えないだろうから、私が代わって
新聞に書いてあげることにした。
学生なら勉強せえや。 自分の大学の塀の中だけが世界じゃない。
他の大学と、学問の交流や情報の交換をしよう。
ハクを付けるために来てるんじゃないでしょ。
私はいつも、こういうはめになる。
書いた以上は、私も斉藤女史も引っ込みがつかない。
成績結果はともかく、 かなり無理して勉強した。
その後、卒業謝恩会が派手すぎるのを批判。
決められてもいないのに "全員振り袖" はおかしいし、ホテルで開催する
必要もない。
私も斉藤女史も出席するに及ばず、と潔く欠席した。
反対の立場を表明しておいて、のこのこと振り袖なんて着て行かれるか。
そんなこと誰もとやかく言わない、と周囲の学生は出席を勧めたが、
不審に思わないアンタ達がどうかしているって言ってるんでしょうが!
でも、この頑固一徹が私ってもの。
これでいいんだ。 信じて疑ってない。
赤毛のアン 〜毎日読むアン〜
No.74 『第3章 私とメグミ、京都に着く』
〜雨の降る早朝、アンとギルバート、その他一名(出目の
チャーリー・スローン)は島を離れ、夜遅くやっと大学のある
キングスポートに着きます。
アンはクイーン短大時代の友人プリシラと、
オールド・セント・ジョン墓地の見える下宿屋に
小さな根を下ろします。〜
私は今、19歳。
話はさかのぼって9ヶ月前、初夏の日差しが眩しい6月に、 私とメグミは
2度目の京都旅行に出掛けた。
メグミは京都の男性と文通をしている。
そんなん初耳だわぁ…
私の事を話したら会ってみたいというから一緒に行こう、 と誘われた。
私の何を、どう話したんだよ!
メグミはいつも自分の事を「能がないから…」と言う。 でも、違うよ。
メグミは目立たないけど、何と言っていいか…、気持ちのキレイな人。
私は思っているのと逆の事を言ったりしてるけど、彼女はいつだって本音だ。
3年間付き合って、彼女のそういう所が私は大好きになっていた。
「うん… 理想的な人って言った。」
フォッ フォッ フォ…
それでは、会ってやらねばなるまいな。
もちろん、私と話をするのは素晴らしく楽しいでありましょう。
そろそろ本格的に受験勉強しなければという時に、私は浮かれていたのだった。
最初の京都旅行では、メグミに全く計画性がないことが判明。
2月、寒風吹きすさぶ中を、私はメグミの手を引いて路面電車やバスを乗り継いで
大原あたりまで散策した。
今度の旅行はメグミに任せればいいらしい。
厳密にはメグミが京都の文通相手に、旅行スケジュールを委託したのだ。
「車があるから、それであちこち連れて行ってくれるんだってよ。」
車の持ち主は、大学1年生のヨシロー君。
へぇ〜 これが大学生というものなのかぁ…
私が知っている男子学生とは全く違っている。
きたないカッコウをしていないぞ… 白い木綿のズボンに白いカッターシャツ
(ボタンダウンというらしい)を着て、皮のひらひらのついた靴を履いてる…
なに?
アイビーっていうのかぁ… 知らんわぁ…
それより… 私の目を惹いたのは托鉢僧。
墨染めの衣を着て笠をかぶった托鉢僧が、シャラシャラ音のする杖をついて
フツウに歩いている姿を見ると、 さすが京都と私は心から感じ入っていた。
托鉢僧、 ヨシロー君、 緑の季節。
「見せたいものがあるんだ。」
夜景を見に嵐山を走った。京都の夜景を目の前にしてヨシロー君が言った。
「この街で、一晩で何億って金が動くんだ。」
はぁ〜 さすが経済学部の方は観点が違うと、またまた私は感じ入ったのだった。
夜の京都の街を車で走る。
カーラジオから流れるのは、誰の歌だろう。 「緑の季節」って曲。
あなたが 好きよ というまえに… てな歌詞だったな。
京都を思い出す時はいつもこの曲が流れ、色と光りにまばゆい街の明かりが
目に浮かんでくる。
そして、自由っていいなと思うのだ。
ヨシロー君は自由な大学生で、私は浪人生。
私も自由を手に入れたら、彼のように明るく人なつっこい目をして、
何処にだって行けるようになるのかなぁ。
そうだったらいいなぁ。
「また、会おうな。」
ヨシロー君の言葉に大きく頷いて、 私は自由への憧れを胸に、
家路に着いたのだった。
その後、受験勉強に明け暮れる生活の中で、私は次第にヨシロー君の事は
忘れてしまったが、 まばゆい自由と緑の季節はひとつになって、
心に深く刻まれていった。
チャーリー・スローン)は島を離れ、夜遅くやっと大学のある
キングスポートに着きます。
アンはクイーン短大時代の友人プリシラと、
オールド・セント・ジョン墓地の見える下宿屋に
小さな根を下ろします。〜
私は今、19歳。
話はさかのぼって9ヶ月前、初夏の日差しが眩しい6月に、 私とメグミは
2度目の京都旅行に出掛けた。
メグミは京都の男性と文通をしている。
そんなん初耳だわぁ…
私の事を話したら会ってみたいというから一緒に行こう、 と誘われた。
私の何を、どう話したんだよ!
メグミはいつも自分の事を「能がないから…」と言う。 でも、違うよ。
メグミは目立たないけど、何と言っていいか…、気持ちのキレイな人。
私は思っているのと逆の事を言ったりしてるけど、彼女はいつだって本音だ。
3年間付き合って、彼女のそういう所が私は大好きになっていた。
「うん… 理想的な人って言った。」
フォッ フォッ フォ…
それでは、会ってやらねばなるまいな。
もちろん、私と話をするのは素晴らしく楽しいでありましょう。
そろそろ本格的に受験勉強しなければという時に、私は浮かれていたのだった。
最初の京都旅行では、メグミに全く計画性がないことが判明。
2月、寒風吹きすさぶ中を、私はメグミの手を引いて路面電車やバスを乗り継いで
大原あたりまで散策した。
今度の旅行はメグミに任せればいいらしい。
厳密にはメグミが京都の文通相手に、旅行スケジュールを委託したのだ。
「車があるから、それであちこち連れて行ってくれるんだってよ。」
車の持ち主は、大学1年生のヨシロー君。
へぇ〜 これが大学生というものなのかぁ…
私が知っている男子学生とは全く違っている。
きたないカッコウをしていないぞ… 白い木綿のズボンに白いカッターシャツ
(ボタンダウンというらしい)を着て、皮のひらひらのついた靴を履いてる…
なに?
アイビーっていうのかぁ… 知らんわぁ…
それより… 私の目を惹いたのは托鉢僧。
墨染めの衣を着て笠をかぶった托鉢僧が、シャラシャラ音のする杖をついて
フツウに歩いている姿を見ると、 さすが京都と私は心から感じ入っていた。
托鉢僧、 ヨシロー君、 緑の季節。
「見せたいものがあるんだ。」
夜景を見に嵐山を走った。京都の夜景を目の前にしてヨシロー君が言った。
「この街で、一晩で何億って金が動くんだ。」
はぁ〜 さすが経済学部の方は観点が違うと、またまた私は感じ入ったのだった。
夜の京都の街を車で走る。
カーラジオから流れるのは、誰の歌だろう。 「緑の季節」って曲。
あなたが 好きよ というまえに… てな歌詞だったな。
京都を思い出す時はいつもこの曲が流れ、色と光りにまばゆい街の明かりが
目に浮かんでくる。
そして、自由っていいなと思うのだ。
ヨシロー君は自由な大学生で、私は浪人生。
私も自由を手に入れたら、彼のように明るく人なつっこい目をして、
何処にだって行けるようになるのかなぁ。
そうだったらいいなぁ。
「また、会おうな。」
ヨシロー君の言葉に大きく頷いて、 私は自由への憧れを胸に、
家路に着いたのだった。
その後、受験勉強に明け暮れる生活の中で、私は次第にヨシロー君の事は
忘れてしまったが、 まばゆい自由と緑の季節はひとつになって、
心に深く刻まれていった。
赤毛のアン 〜毎日読むアン〜
〜ギルバートはレッドモンド大学での4年間、
忍耐強く待とうと決心します。
いつか、僕のことを思ってくれるだろうか。
不安に胸が締め付けられるのでした。〜
私はもうすぐ大学生。
中学の同窓会の案内状が届いた。
志望校に合格したことを、より多くの人々に宣伝するために出席したつもり
だったが、 行ってすぐに、来てしまった事を後悔し始めた。
私の座布団に押しピンを仕込んだ男の子の顔だけは忘れようがなかったけど、
誰もかれもがまるで初対面で、記憶がないのだ。
買ったばかりのオレンジ色のセーターが目立ち過ぎているのではないかと、
そればかりが気になった。
メグミを誘えば良かった…
「同窓会に行ったんだって? みんな、あんたが来たので驚いてたみたいよ。」
メグミが愉快そうに電話してきた。
わからない。 どうして私が出席したら驚くのか。
「だって、同窓会なんか興味なさそうに見えるじゃない。」
それは、誤解だ。
少し前に私はコンタクトレンズを入れたばかりで、外の世界を見るのが楽しくて
たまらなかった。
それに眼鏡より、 ムフッ… 美人に見える。
同窓会は、美人効果を試してみる絶好の機会だ。
"はっきり見える" とは、実に素晴らしい。
世界が明るくなった。 遠くを歩く男前だってよく見える。
デパ地下の食料品はぴかぴかに輝いて、こんなにウマそうだとは
気付かなかったぞ。
特にここ4・5年、はっきり物を見ていない近眼の私にとっては、何もかもが
大発見である。
私にとって "初対面" の級友達が、思い出話や近況の報告に花を咲かせている間、
私はコンタクトの見え具合を思う存分楽しんでいた。
信号機の鮮やかな赤や青色に、驚きと感動を持って眺め続けていた。
「かたおかぁ〜 おまえ、ボーイフレンドいるんか?」
「いるわよ、しかも沢山。 ただし、実在してないけど。
ターバンを巻いた、おそらくインド人とか、コペンハーゲンの飲んだくれとか、
修行中の僧侶。」
ツー ツー ツー
話は途切れた…
「それは、お嬢様に興味があるということでしょうね。」
コンタクト効果ってもんでしょ。
佐竹が思うほど私は馬鹿じゃない。 私の方が彼に興味がなかったということ。
彼は私が聞きたい、話したいと思うようなことは、 まぐれにも一言だって
言えそうにない、マヌケだもの。
春の河原には、たんぽぽが一斉に咲き始めた。
去年の春、風に乗って吹き飛ばされ、 よい土地に根付いた幸運の綿毛だけが、
こうして花を咲かせることができたのだ。
しかし、一週間後の大学の入学式を控えて、 私が幸運なたんぽぽの綿毛に
なれるのか… そんな自信はない。
胸が締め付けられるような不安。 ほとんど鬱状態。
私の合格が間違いだったという夢を見た。
次の夜は、入学金が未納で入学を取り消された。
その次の夜は、宿題の提出が遅れて落第した。
佐竹でもいれば話相手になるのに、年金暮らしなのでアルバイトに忙しいらしい。
親父さんは、人の気も知らないでからかう。
「よっ、学士さん!」
誰かの胸にすがって泣きたい。 漢文の先生の映像が浮かぶ…
「大丈夫だよ、心配ない。」
いや〜ん、ちょっといい気分。
いかん、いかん!
私があの悪魔の化身である男の胸で泣くなんて、あってはならないことだ。
男の人にすがるなんて、負けることだ。
とりあえず風に乗って、飛ばされてみることにした。
落ちたところが悪ければ枯れるだろうし、良ければ花が咲く。
それは、私が決められるわけじゃなし、 そう思えば気が楽だ。
人は見えない力によって動かされているって、レオナルド・ダビンチが
言っていた。
天才なんだから、間違ってはないだろう。
見えない力。
この力に翻弄され、右往左往する私の大学生活が始まろうとしていた。
No.73 『第2章 入学式迫る』
〜ギルバートはレッドモンド大学での4年間、
忍耐強く待とうと決心します。
いつか、僕のことを思ってくれるだろうか。
不安に胸が締め付けられるのでした。〜
私はもうすぐ大学生。
中学の同窓会の案内状が届いた。
志望校に合格したことを、より多くの人々に宣伝するために出席したつもり
だったが、 行ってすぐに、来てしまった事を後悔し始めた。
私の座布団に押しピンを仕込んだ男の子の顔だけは忘れようがなかったけど、
誰もかれもがまるで初対面で、記憶がないのだ。
買ったばかりのオレンジ色のセーターが目立ち過ぎているのではないかと、
そればかりが気になった。
メグミを誘えば良かった…
「同窓会に行ったんだって? みんな、あんたが来たので驚いてたみたいよ。」
メグミが愉快そうに電話してきた。
わからない。 どうして私が出席したら驚くのか。
「だって、同窓会なんか興味なさそうに見えるじゃない。」
それは、誤解だ。
少し前に私はコンタクトレンズを入れたばかりで、外の世界を見るのが楽しくて
たまらなかった。
それに眼鏡より、 ムフッ… 美人に見える。
同窓会は、美人効果を試してみる絶好の機会だ。
"はっきり見える" とは、実に素晴らしい。
世界が明るくなった。 遠くを歩く男前だってよく見える。
デパ地下の食料品はぴかぴかに輝いて、こんなにウマそうだとは
気付かなかったぞ。
特にここ4・5年、はっきり物を見ていない近眼の私にとっては、何もかもが
大発見である。
私にとって "初対面" の級友達が、思い出話や近況の報告に花を咲かせている間、
私はコンタクトの見え具合を思う存分楽しんでいた。
信号機の鮮やかな赤や青色に、驚きと感動を持って眺め続けていた。
「かたおかぁ〜 おまえ、ボーイフレンドいるんか?」
「いるわよ、しかも沢山。 ただし、実在してないけど。
ターバンを巻いた、おそらくインド人とか、コペンハーゲンの飲んだくれとか、
修行中の僧侶。」
ツー ツー ツー
話は途切れた…
「それは、お嬢様に興味があるということでしょうね。」
コンタクト効果ってもんでしょ。
佐竹が思うほど私は馬鹿じゃない。 私の方が彼に興味がなかったということ。
彼は私が聞きたい、話したいと思うようなことは、 まぐれにも一言だって
言えそうにない、マヌケだもの。
春の河原には、たんぽぽが一斉に咲き始めた。
去年の春、風に乗って吹き飛ばされ、 よい土地に根付いた幸運の綿毛だけが、
こうして花を咲かせることができたのだ。
しかし、一週間後の大学の入学式を控えて、 私が幸運なたんぽぽの綿毛に
なれるのか… そんな自信はない。
胸が締め付けられるような不安。 ほとんど鬱状態。
私の合格が間違いだったという夢を見た。
次の夜は、入学金が未納で入学を取り消された。
その次の夜は、宿題の提出が遅れて落第した。
佐竹でもいれば話相手になるのに、年金暮らしなのでアルバイトに忙しいらしい。
親父さんは、人の気も知らないでからかう。
「よっ、学士さん!」
誰かの胸にすがって泣きたい。 漢文の先生の映像が浮かぶ…
「大丈夫だよ、心配ない。」
いや〜ん、ちょっといい気分。
いかん、いかん!
私があの悪魔の化身である男の胸で泣くなんて、あってはならないことだ。
男の人にすがるなんて、負けることだ。
とりあえず風に乗って、飛ばされてみることにした。
落ちたところが悪ければ枯れるだろうし、良ければ花が咲く。
それは、私が決められるわけじゃなし、 そう思えば気が楽だ。
人は見えない力によって動かされているって、レオナルド・ダビンチが
言っていた。
天才なんだから、間違ってはないだろう。
見えない力。
この力に翻弄され、右往左往する私の大学生活が始まろうとしていた。
赤毛のアン 〜毎日読むアン〜
No.72 『第1章 変化の兆しの春』
〜18歳のアンは、レッドモンド大学への入学を前に
忙しい毎日を送っています。
そんなある日、ギルバートはアンの手に自分の手を重ね、
気持ちを伝えようとしますが、アンは彼を大切な友達としか
考えることができません。〜
私は今、19歳。
私の夢は、物語を書くこと。
美しい女性が愛のために死ぬ悲しい物語、
あるいは大自然の中で逞しく生きる人々の物語、
又は平凡で慎ましやかに暮らす人々の生活…、
ありとあらゆるものを描いてみたいと思う。
高校時代に書いた "マドモァゼル・ヨシコ パリを行く" では、
見た様なウソを書き、行った事もない外国の街を知ったかぶりに
話さねばならない、良心の呵責に耐えねばならなかったが、
今度は本当に、この目で見た事を書くつもりだ。
一年間、私は入試という "悪魔のようなアイツ" に追いかけられ、
息も絶え絶えになっていた。
"アイツ" は今や、 私を追いかけることに飽きてしまい、
私も追いかけられることに疲れ果て、海外逃亡を考えていた所で、
幸運な結末が訪れた。
志望大学に合格。
大学に入ったからといって、素晴らしい人生が約束されているわけではなく、
ある一つの望みが叶えられたというだけのことなのだから、
大学生活の終わりには、自分の目標をみつけられるよう…
これからが、本番なのだから… よく考えて…、
フニャ フニャ
ぁ〜 私、なんも考えたくない。
そういう時に限って、心を騒がす出来事が起きるのは何故?
高校の親友メグミが結婚を申し込まれたって…
相手は、スイミングスクールのコーチだった。 えっ、イエスなのか??
だってまだ20歳にもなってないし、ついこの前高校を出たばっかりじゃないの。
しかも… ひと回りも年上だなんて、おじさんじゃない!
去年の秋。 私は久しぶりにメグミと、クラスメートのナラコに会った。
聞けば二人は、一緒にスイミングスクールに通い始めたそうだ。
ナラコは 「先生」 と名の付く男に、やたら惚れっぽいので有名だった。
案の定、水泳のコーチと付き合っている事を匂わせていたが、メグミはその話を
穏やかに笑いながら聞いていたはずだ。
そのコーチとメグミが結婚するってことは…、 まさに水面下で女の戦いが
繰り広げられていたのか。
私には、わけがわからない。
海パン姿のコーチと、どこをどうやったらロマンスが芽生えるのか。
ぜんぜんロマンチックでないにも関わらず、 メグミは謎めいた微笑みを
浮かべて言う。
「あなたは大学に行って、波乱万丈な恋愛をすればいいわ。」
なんだか、さよならを言い渡された気分。
仲の良い友達が、自分とは全く違う感じ方の人間だった、と思い知らさせた。
ひんやりとして寂しい。
ついこの間まで、 男はかぼちゃ頭で、叩くとポカポカ音がするって
笑ってたのに…。
これからは、彼女はなんでもあの海パンに相談するんだ。
おうどんをすすりながら、涙が込み上げてきた。
おうどんの湯気のせいよ…
私達は "分かれ道" に来てしまったのだ。
「しかし、お嬢様には例の漢文の教師がおられるではありませんか。」
佐竹が口を出した。
佐竹は想像上の私の "執事" で、 勝手な時に出てきては、いらん事を言うのだ。
岩手県出身の、自称 "庄屋" のおぼっちゃま。
胡散臭いが、お茶をいれるのがうまいので気に入っている。
「私の勘では、お嬢様に気がありますな。」
佐竹の勘は当たっていた。
高校時代の漢文の先生。 変人ぽいのが好きだった。
私ほどの変わり者だったら、普通の人じゃつまらん。
でもある日、 彼が普通の男に見えてきて、怖くなった。
彼の友人の中国人が経営する雑貨屋で、熱いウーロン茶を頂いた帰り道、
夕暮れ時の河原を二人で散歩した。
その時、彼が私の手に触れようとした。 私は慌てて手を引っ込めたわ。
友達なのか恋人なのか、 このどっちつかずがいいのだ。
男って、どうして何も起こらないままにしておいてくれないのだろう。
「勉強を口実に敬遠してるんだから、いいの!」
私の理想の人。
隅っこにいる私、影の私、普段からは考えられないような私、 いつもの私、
色んな私を受け止めてくれて、それぞれにウソのない気持ちを分かってくれる人。
だから安心して、私をさらけ出せる人。
その人に出逢うのが、私のもうひとつの夢なのだ。
「ご婦人方の心は、わたくしには謎でございます。」
佐竹がコーヒーと糠漬けを持ってきた。
最近、趣味で糠漬けを作り始めたのが自慢で、 東北人らしく何にでも漬け物を
添えて出すのだ。
想像上の恋人は沢山いた。
ある男はターバンを巻き、輝く黒い瞳をしていた。
場末の酒場で飲んだくれた男は、芸術家。
毎日毎晩、日記の中で彼らに話をするのが私の密かな楽しみだった。
佐竹の言う通りだ。
はっきりわかるのは私の気持ちだけ。 人のことなんかわからない。
それが男ともなれば、何を考えているのか…、 私はわからない。
知る術を、私は知らない。
忙しい毎日を送っています。
そんなある日、ギルバートはアンの手に自分の手を重ね、
気持ちを伝えようとしますが、アンは彼を大切な友達としか
考えることができません。〜
私は今、19歳。
私の夢は、物語を書くこと。
美しい女性が愛のために死ぬ悲しい物語、
あるいは大自然の中で逞しく生きる人々の物語、
又は平凡で慎ましやかに暮らす人々の生活…、
ありとあらゆるものを描いてみたいと思う。
高校時代に書いた "マドモァゼル・ヨシコ パリを行く" では、
見た様なウソを書き、行った事もない外国の街を知ったかぶりに
話さねばならない、良心の呵責に耐えねばならなかったが、
今度は本当に、この目で見た事を書くつもりだ。
一年間、私は入試という "悪魔のようなアイツ" に追いかけられ、
息も絶え絶えになっていた。
"アイツ" は今や、 私を追いかけることに飽きてしまい、
私も追いかけられることに疲れ果て、海外逃亡を考えていた所で、
幸運な結末が訪れた。
志望大学に合格。
大学に入ったからといって、素晴らしい人生が約束されているわけではなく、
ある一つの望みが叶えられたというだけのことなのだから、
大学生活の終わりには、自分の目標をみつけられるよう…
これからが、本番なのだから… よく考えて…、
フニャ フニャ
ぁ〜 私、なんも考えたくない。
そういう時に限って、心を騒がす出来事が起きるのは何故?
高校の親友メグミが結婚を申し込まれたって…
相手は、スイミングスクールのコーチだった。 えっ、イエスなのか??
だってまだ20歳にもなってないし、ついこの前高校を出たばっかりじゃないの。
しかも… ひと回りも年上だなんて、おじさんじゃない!
去年の秋。 私は久しぶりにメグミと、クラスメートのナラコに会った。
聞けば二人は、一緒にスイミングスクールに通い始めたそうだ。
ナラコは 「先生」 と名の付く男に、やたら惚れっぽいので有名だった。
案の定、水泳のコーチと付き合っている事を匂わせていたが、メグミはその話を
穏やかに笑いながら聞いていたはずだ。
そのコーチとメグミが結婚するってことは…、 まさに水面下で女の戦いが
繰り広げられていたのか。
私には、わけがわからない。
海パン姿のコーチと、どこをどうやったらロマンスが芽生えるのか。
ぜんぜんロマンチックでないにも関わらず、 メグミは謎めいた微笑みを
浮かべて言う。
「あなたは大学に行って、波乱万丈な恋愛をすればいいわ。」
なんだか、さよならを言い渡された気分。
仲の良い友達が、自分とは全く違う感じ方の人間だった、と思い知らさせた。
ひんやりとして寂しい。
ついこの間まで、 男はかぼちゃ頭で、叩くとポカポカ音がするって
笑ってたのに…。
これからは、彼女はなんでもあの海パンに相談するんだ。
おうどんをすすりながら、涙が込み上げてきた。
おうどんの湯気のせいよ…
私達は "分かれ道" に来てしまったのだ。
「しかし、お嬢様には例の漢文の教師がおられるではありませんか。」
佐竹が口を出した。
佐竹は想像上の私の "執事" で、 勝手な時に出てきては、いらん事を言うのだ。
岩手県出身の、自称 "庄屋" のおぼっちゃま。
胡散臭いが、お茶をいれるのがうまいので気に入っている。
「私の勘では、お嬢様に気がありますな。」
佐竹の勘は当たっていた。
高校時代の漢文の先生。 変人ぽいのが好きだった。
私ほどの変わり者だったら、普通の人じゃつまらん。
でもある日、 彼が普通の男に見えてきて、怖くなった。
彼の友人の中国人が経営する雑貨屋で、熱いウーロン茶を頂いた帰り道、
夕暮れ時の河原を二人で散歩した。
その時、彼が私の手に触れようとした。 私は慌てて手を引っ込めたわ。
友達なのか恋人なのか、 このどっちつかずがいいのだ。
男って、どうして何も起こらないままにしておいてくれないのだろう。
「勉強を口実に敬遠してるんだから、いいの!」
私の理想の人。
隅っこにいる私、影の私、普段からは考えられないような私、 いつもの私、
色んな私を受け止めてくれて、それぞれにウソのない気持ちを分かってくれる人。
だから安心して、私をさらけ出せる人。
その人に出逢うのが、私のもうひとつの夢なのだ。
「ご婦人方の心は、わたくしには謎でございます。」
佐竹がコーヒーと糠漬けを持ってきた。
最近、趣味で糠漬けを作り始めたのが自慢で、 東北人らしく何にでも漬け物を
添えて出すのだ。
想像上の恋人は沢山いた。
ある男はターバンを巻き、輝く黒い瞳をしていた。
場末の酒場で飲んだくれた男は、芸術家。
毎日毎晩、日記の中で彼らに話をするのが私の密かな楽しみだった。
佐竹の言う通りだ。
はっきりわかるのは私の気持ちだけ。 人のことなんかわからない。
それが男ともなれば、何を考えているのか…、 私はわからない。
知る術を、私は知らない。
赤毛のアン 〜毎日読むアン〜
"アンの愛情" 〜はじめに〜
「アンの愛情」 の扉に書かれている一節。
アンのことを "もっと知りたい" と思っている世界中の少女たちへ
そりゃあもう、知りたいさ。
18才のアンがどんな大人の女になっていくのか、
そしてギルバートと結ばれるのか。
私は自分のことを知っているだろうか?
私は "もっと知りたい" 。 自分のことを。
若かった頃、 何を考え、何を目指している "つもり" だったのか?
それが今の私に繋がって、私をつくっている。
馬鹿な昔の私を肯定してあげられるのは、 私しかいない。
私の中には蜘蛛の巣を張り巡らすように、ネットワークが広がっている。
私が回路を回復するのを、暗いところでチカチカ点滅しながら待っている。
回路を探して、 ただ今模索中…
週末までたっぷり考えて、 3月24日(月)、第1章を発行する予定です。
どうぞ、お楽しみに。
もうひとつ、お知らせがあります。
NHK教育テレビで4月より、
「赤毛のアン」への旅 〜原書で親しむAnneの世界〜 がスタートします。
教育テレビ 毎週火曜日/午後11:10〜11:30
再放送 毎週火曜日/午前6:40〜7:00(翌週)
午後0:10〜0:30(翌週)
※ 放映スケジュールは新聞などでご確認下さい。
私は…、 ちょっと、覗いてみるつもりです。
英文科はダテに出ただけだし…
アンになりきってる、松坂慶子をみるのが怖いし…
でも、講師の松本侑子先生は、膨大な資料をお持ちの立派な研究者ですから、
興味のある方は是非ご覧下さい。
号外 『番外特別号』
"アンの愛情" 〜はじめに〜
「アンの愛情」 の扉に書かれている一節。
アンのことを "もっと知りたい" と思っている世界中の少女たちへ
そりゃあもう、知りたいさ。
18才のアンがどんな大人の女になっていくのか、
そしてギルバートと結ばれるのか。
私は自分のことを知っているだろうか?
私は "もっと知りたい" 。 自分のことを。
若かった頃、 何を考え、何を目指している "つもり" だったのか?
それが今の私に繋がって、私をつくっている。
馬鹿な昔の私を肯定してあげられるのは、 私しかいない。
私の中には蜘蛛の巣を張り巡らすように、ネットワークが広がっている。
私が回路を回復するのを、暗いところでチカチカ点滅しながら待っている。
回路を探して、 ただ今模索中…
週末までたっぷり考えて、 3月24日(月)、第1章を発行する予定です。
どうぞ、お楽しみに。
もうひとつ、お知らせがあります。
NHK教育テレビで4月より、
「赤毛のアン」への旅 〜原書で親しむAnneの世界〜 がスタートします。
教育テレビ 毎週火曜日/午後11:10〜11:30
再放送 毎週火曜日/午前6:40〜7:00(翌週)
午後0:10〜0:30(翌週)
※ 放映スケジュールは新聞などでご確認下さい。
私は…、 ちょっと、覗いてみるつもりです。
英文科はダテに出ただけだし…
アンになりきってる、松坂慶子をみるのが怖いし…
でも、講師の松本侑子先生は、膨大な資料をお持ちの立派な研究者ですから、
興味のある方は是非ご覧下さい。
赤毛のアン 〜毎日読むアン〜
私は小学校3年の時から、10回の引越しをした。
初めての引越しは夜逃げだった。
父の経営する印刷工場が、不渡手形を掴まされて倒産したのだ。
夕食が終わって、父が厳かに言い渡した。
「明日の夜、家を変わるから勉強道具と着替えの用意をしておきなさい。
これは夜逃げである。」
はっ?
夜逃げを成功させるコツは、茶碗も箸も卓袱台に置きっぱなしにし、
"さも帰ってきそうな雰囲気" を漂わせながら立ち去る事。
債権者達の裏をかいて消えるという作戦だ。
何もこんな、芝居じみた演出をしなくてもいいようなものだが、父が
さも誠しやかに説明するので、幼い私はなるほどと感心したものだ。
かくして私は、手はず通りにランドセルと着替えだけを持って、
夜逃げしたのだった。
新しい生活は、がらんとした部屋から始まる。
荷物は少ない方がいい。 私は家具を持たない主義だ。
物が多ければ引っ越し費用が高くつくし、家具なんて次の家に入るかどうかも
わからないではないか。
"初めての引越し" のインパクトが強過ぎたためか、 不測の事態
(つまり夜逃げとか) に備えて、常日頃からいつでも引っ越せるように
しているのだ。
引越しの醍醐味は、 バンバン物を捨てる快感と、全てが運び出され
がらんとした部屋に、一人たたずむことに尽きる。
静まりかえった部屋から部屋を見て回り、浮かんでは消える思い出に浸りながら、
ドアに鍵をかける。
ここからまた、新しい生活が始まるのだ。
夢も、笑い声も、人生も、 まだ終わってしまったわけではないのだ。
しかし、とんとん拍子に落ちのつかないのが、 私の人生。
一昨年の10月、 別れた亭主がマンションへ引っ越す事になった。
見積に来た某大手引越し屋の女性担当者は、ゴミに溢れたダイニングテーブルの
隅っこに、やっと空き地を見つけて座った。
そして、手慣れた様子で予算内の作業にチェックを入れ終わると、こう言った。
「とにかく、大変でしょうが… 頑張って片付けて下さいね。」
誰が? 誰がやるんだよぉ!?
動く気など更々ない元亭主。 おかんがやる、とたかをくくる娘と息子。
私がやるしかない。
別居の時、蒲団と身の回りの物だけ持って "夜逃げ同然に" 家を出た私には、
どうしても奪回したいものがあった。
押入れの一番奥にしまった数十冊の日記と、友人達とやり取りした手紙の束。
そんなん絶対読まれてたまるか。
だが、その押入れまでの道はゴミと物に塞がれ、おいそれと辿り着けるものでは
なかったのだ。
彼女の言葉通り、その日から想像を絶する戦いが始まった。
ゴミと不要品の山を詰め込んだ袋は、常に軽自動車一杯になった。
後ろもろくに見えやしない。 週2回の収集日だけでは捨てきれない。
川沿いの人気のないゴミ捨て場を選んで、娘の友達のライトバンと
私の軽自動車2台で往復した。
ある日ふと見ると、 手は傷だらけ、足は打ち身だらけ…
それでもまだ、押し入れの戸は開かない。
最後の週になって、ようやく元亭主が自分の部屋を片付ける気になった頃、
これが更なる地獄だった。
物持ちのいいのが自慢の彼は、自慢するだけのことはあった。
高校時代の服まで後生大事に持っていた。
一度彼の部屋に入った物は、ゴミに到るまで出されることがないのだから。
そんな処から私は、ようも出られたもんだと思った。
捨てる気などいっこうにない彼を怒鳴り上げ、廃品回収業者を呼ぶ。
「トイレットペーパー、ぎょうさんになるで。」
アホや… こっちが金払って、持って帰ってもらうんやがな…
オマエも一緒に捨てたろか。
引っ越し前日。 ようやく最後の荷物をまとめ終わり、後は不要品だけが
残された。(これは最終的に、引っ越し費用の三分の一に及んだ。)
仕上げに冷蔵庫のコンセントを抜く。
やっと帰れる…
思った瞬間、うろつくだけでほとんど疲れていない "ヤツ" が、
上機嫌でピザを注文すると言いだした。
おおはしゃぎでピザをぱくつくヤツ。 コイツのコンセントを抜くべきだった…
当日、天気はまずまず。 コンビニに寄って元気の出るドリンク剤を一気飲み。
ついでに引っ越し費用の25万を用意した。
「絶対アイツ、支払いの現場にいない。」
案の定、引っ越しの現場どころかヤツの姿は終日、どこにもなかった。
引っ越し費用を立て替え、最後のガス代の集金が来るのを、
私はがらんとした部屋で、一人待った。
スーパーで買って来た、安物のお弁当の空き箱が最後のゴミになった。
20年あまりを過ごした全ての思い出に、私は礼儀正しく 「さよなら」 を
告げると、ドアに鍵をかけた。
この家にはもう二度と帰ることはない。
バカ亭主と子供達はゴミと不要品だけの古い暮らしから、新しい世界へ
船出して行った。
「これで完全に夫との離婚を成し遂げたのね。」
その時、 まとわりついていた古い殻がポロリと剥がれ落ちた。
私はその殻を景気よく払い落とすと、晴れやかな気分で家路に着いたのだった。
借家から立ち退き命令が出たのを機に、マンション購入を元亭主に勧めたのは、
私だ。
行動を起こさない元亭主にしびれを切らした私は、 マンション選びから契約、
引っ越しまで全て、結局やらされるはめになった。
子供達に帰るべき自分の家を持たせてやりたい。
そうでなければ、ヤツの顔など誰が見たいものか。
時が過ぎて、頑張って良かったと思えるような花盛りの春が来るのを期待するが、
それが後悔の冬になったとしても、 まあ、それも良しだ。
起こした行動の結果は、どんな形であれ自分に戻って来るものだから。
こだまの様に。
そしてこだまが帰ってきたら、ありのままに受け止めたらいい。
今は、その時が来るのを待っていればいいのだ。
時の流れの向こうに、こだまが出番がやって来るのを待っているように、
私には思えた。
No.71 『最終章 こだま』
私は小学校3年の時から、10回の引越しをした。
初めての引越しは夜逃げだった。
父の経営する印刷工場が、不渡手形を掴まされて倒産したのだ。
夕食が終わって、父が厳かに言い渡した。
「明日の夜、家を変わるから勉強道具と着替えの用意をしておきなさい。
これは夜逃げである。」
はっ?
夜逃げを成功させるコツは、茶碗も箸も卓袱台に置きっぱなしにし、
"さも帰ってきそうな雰囲気" を漂わせながら立ち去る事。
債権者達の裏をかいて消えるという作戦だ。
何もこんな、芝居じみた演出をしなくてもいいようなものだが、父が
さも誠しやかに説明するので、幼い私はなるほどと感心したものだ。
かくして私は、手はず通りにランドセルと着替えだけを持って、
夜逃げしたのだった。
新しい生活は、がらんとした部屋から始まる。
荷物は少ない方がいい。 私は家具を持たない主義だ。
物が多ければ引っ越し費用が高くつくし、家具なんて次の家に入るかどうかも
わからないではないか。
"初めての引越し" のインパクトが強過ぎたためか、 不測の事態
(つまり夜逃げとか) に備えて、常日頃からいつでも引っ越せるように
しているのだ。
引越しの醍醐味は、 バンバン物を捨てる快感と、全てが運び出され
がらんとした部屋に、一人たたずむことに尽きる。
静まりかえった部屋から部屋を見て回り、浮かんでは消える思い出に浸りながら、
ドアに鍵をかける。
ここからまた、新しい生活が始まるのだ。
夢も、笑い声も、人生も、 まだ終わってしまったわけではないのだ。
しかし、とんとん拍子に落ちのつかないのが、 私の人生。
一昨年の10月、 別れた亭主がマンションへ引っ越す事になった。
見積に来た某大手引越し屋の女性担当者は、ゴミに溢れたダイニングテーブルの
隅っこに、やっと空き地を見つけて座った。
そして、手慣れた様子で予算内の作業にチェックを入れ終わると、こう言った。
「とにかく、大変でしょうが… 頑張って片付けて下さいね。」
誰が? 誰がやるんだよぉ!?
動く気など更々ない元亭主。 おかんがやる、とたかをくくる娘と息子。
私がやるしかない。
別居の時、蒲団と身の回りの物だけ持って "夜逃げ同然に" 家を出た私には、
どうしても奪回したいものがあった。
押入れの一番奥にしまった数十冊の日記と、友人達とやり取りした手紙の束。
そんなん絶対読まれてたまるか。
だが、その押入れまでの道はゴミと物に塞がれ、おいそれと辿り着けるものでは
なかったのだ。
彼女の言葉通り、その日から想像を絶する戦いが始まった。
ゴミと不要品の山を詰め込んだ袋は、常に軽自動車一杯になった。
後ろもろくに見えやしない。 週2回の収集日だけでは捨てきれない。
川沿いの人気のないゴミ捨て場を選んで、娘の友達のライトバンと
私の軽自動車2台で往復した。
ある日ふと見ると、 手は傷だらけ、足は打ち身だらけ…
それでもまだ、押し入れの戸は開かない。
最後の週になって、ようやく元亭主が自分の部屋を片付ける気になった頃、
これが更なる地獄だった。
物持ちのいいのが自慢の彼は、自慢するだけのことはあった。
高校時代の服まで後生大事に持っていた。
一度彼の部屋に入った物は、ゴミに到るまで出されることがないのだから。
そんな処から私は、ようも出られたもんだと思った。
捨てる気などいっこうにない彼を怒鳴り上げ、廃品回収業者を呼ぶ。
「トイレットペーパー、ぎょうさんになるで。」
アホや… こっちが金払って、持って帰ってもらうんやがな…
オマエも一緒に捨てたろか。
引っ越し前日。 ようやく最後の荷物をまとめ終わり、後は不要品だけが
残された。(これは最終的に、引っ越し費用の三分の一に及んだ。)
仕上げに冷蔵庫のコンセントを抜く。
やっと帰れる…
思った瞬間、うろつくだけでほとんど疲れていない "ヤツ" が、
上機嫌でピザを注文すると言いだした。
おおはしゃぎでピザをぱくつくヤツ。 コイツのコンセントを抜くべきだった…
当日、天気はまずまず。 コンビニに寄って元気の出るドリンク剤を一気飲み。
ついでに引っ越し費用の25万を用意した。
「絶対アイツ、支払いの現場にいない。」
案の定、引っ越しの現場どころかヤツの姿は終日、どこにもなかった。
引っ越し費用を立て替え、最後のガス代の集金が来るのを、
私はがらんとした部屋で、一人待った。
スーパーで買って来た、安物のお弁当の空き箱が最後のゴミになった。
20年あまりを過ごした全ての思い出に、私は礼儀正しく 「さよなら」 を
告げると、ドアに鍵をかけた。
この家にはもう二度と帰ることはない。
バカ亭主と子供達はゴミと不要品だけの古い暮らしから、新しい世界へ
船出して行った。
「これで完全に夫との離婚を成し遂げたのね。」
その時、 まとわりついていた古い殻がポロリと剥がれ落ちた。
私はその殻を景気よく払い落とすと、晴れやかな気分で家路に着いたのだった。
借家から立ち退き命令が出たのを機に、マンション購入を元亭主に勧めたのは、
私だ。
行動を起こさない元亭主にしびれを切らした私は、 マンション選びから契約、
引っ越しまで全て、結局やらされるはめになった。
子供達に帰るべき自分の家を持たせてやりたい。
そうでなければ、ヤツの顔など誰が見たいものか。
時が過ぎて、頑張って良かったと思えるような花盛りの春が来るのを期待するが、
それが後悔の冬になったとしても、 まあ、それも良しだ。
起こした行動の結果は、どんな形であれ自分に戻って来るものだから。
こだまの様に。
そしてこだまが帰ってきたら、ありのままに受け止めたらいい。
今は、その時が来るのを待っていればいいのだ。
時の流れの向こうに、こだまが出番がやって来るのを待っているように、
私には思えた。
赤毛のアン 〜毎日読むアン〜
事の起こりは、 馬鹿な中年同士の不倫だった。
二人は事の重大さに気付き、一旦はそれぞれの家庭に戻ったものの、
やがて女は別居の末、離婚した。
そして一年あまりが過ぎた頃、男は夫婦不和のため家を出た。
しばらくして、男も離婚。 二人は再会して、一緒に暮らすようになった。
私と "赤毛のアン太郎" のロマンスを、マリラ流に "ありのままに" 見ると
こうなる。
裁判所の冒頭陳述みたいに、味も素っ気もない…。
「事実じゃないかね。」
まぁ… そう、違ってはないけど… 何かが欠けている気がする。
事実を並べれば事柄の全体像は浮かび上がるが、ありのままの人の姿は
見えてこない。
"赤毛のアン太郎" は、朝起きられない。 昼も夜も寝たら最後、起きられない。
つまり、決めた時間に起きられないし、 たとえ起こしても、めったなことでは
目が覚めない。 それが事実である。
朝一人で起きられないのは、基本的生活習慣ができてないって?
遅刻しないのは社会人としての基本。
世間はこの事実をそう "判断" し、一笑に付すだろう。
しかし彼は、やはりそのために遅刻ばかりするので、 真剣に悩んでいた。
火災報知機並みの目覚まし時計を鳴らしても駄目。
体内時計の修正計画も効果なし。
枕の種類から食生活に至るまで、考えられることはやってはみたけど、
さっぱり起きられない。
小学校の遠足の日ですら目が覚めないと聞いて、私はコレだと思った。
「あなたは、もともと起きられないんだから、それでいいじゃないの。」
この言葉に救われたと、彼は今でもよく口にする。
たまに起きられると、 "時の運" だと言う。
私も、 "それくらいの事で一喜一憂していたらアン太郎の女は務まらん" と
言い返している。
そんなアン太郎は起きるだんになると、寝ている間にばらばらになった体を
もと通り組み立てるかのように、ぱきぱき音をさせて苦しげに身を捩じらせ、
まるで産まれたての子鹿のように、 おぼつかない足取りで立ち上がる。
「ほっほぉ〜 すごいなぁ…」 ええもん見せてもろうたわ。
私もさすがに腹立つことはあるけど、 常識を超えて起きないんだから、
アン太郎は。
それにしても 「もともと起きられない」 とは、我ながらよく言ったものだと
感心する。
私にとって "ありのまま" とは、 "無理に変えられない事" を意味しているのかも
しれない。
私がじたばたしたってしょうがない、 と思ってしまうのだ。
子鹿の "生命の神秘" に毎日立ち会えるとは、なんと幸せなことか。
信じられないなら、いっぺんウチへ来てみ。
幸せそうなので、羨ましくなると思うけど。
大体、アン太郎が朝起きるかどうかで、 私の幸、不幸が決定的に左右される
わけでもないし。
物事を "ありのままに" 見る方法とは、なんだろうか。
"赤毛のアン" を読み進んできた私たちなら、もう既に知っているはずだ。
この物語の中では、 マリラやマシュー、アヴォンリーの村人、 そして
プリンスエドワード島の自然に到るまで、 すべてアンの目を通して見た、
"ありのまま" が描かれている。
アンの想像力は並外れているので、自分には無理だと思ってしまいがちだが、
つまりは、自分の目で見て "いい" と感じる、 それだけの事なのだ。
アンを取り巻く人々はそれぞれが個性を発揮しているが、
アンはそれを否定もせず判断もせず、勿論めげることもなく、
"どう感じたか" を語っているだけなのだ。
それで充分面白い。 人並みはずれた想像力はなくてもいいのだ。
やっかみや偏見に囚われていようと、惚れた弱みで盲目になっていようと
いいではないか。
それらもひっくるめて、 私は確かに、この世界を "ありのまま" に見ている。
アン・シャーリーは、自分の見た世界を言葉に変え、 時には瞳の輝きで
私たちに伝える。
そして私も、 この世界を私の目で見つめている。
うまく言葉にできないけど、 "いい" と感じた事を "ありのままに" 伝えたいと
夢みている。
No.70 『第29章 "ありのままに"』
事の起こりは、 馬鹿な中年同士の不倫だった。
二人は事の重大さに気付き、一旦はそれぞれの家庭に戻ったものの、
やがて女は別居の末、離婚した。
そして一年あまりが過ぎた頃、男は夫婦不和のため家を出た。
しばらくして、男も離婚。 二人は再会して、一緒に暮らすようになった。
私と "赤毛のアン太郎" のロマンスを、マリラ流に "ありのままに" 見ると
こうなる。
裁判所の冒頭陳述みたいに、味も素っ気もない…。
「事実じゃないかね。」
まぁ… そう、違ってはないけど… 何かが欠けている気がする。
事実を並べれば事柄の全体像は浮かび上がるが、ありのままの人の姿は
見えてこない。
"赤毛のアン太郎" は、朝起きられない。 昼も夜も寝たら最後、起きられない。
つまり、決めた時間に起きられないし、 たとえ起こしても、めったなことでは
目が覚めない。 それが事実である。
朝一人で起きられないのは、基本的生活習慣ができてないって?
遅刻しないのは社会人としての基本。
世間はこの事実をそう "判断" し、一笑に付すだろう。
しかし彼は、やはりそのために遅刻ばかりするので、 真剣に悩んでいた。
火災報知機並みの目覚まし時計を鳴らしても駄目。
体内時計の修正計画も効果なし。
枕の種類から食生活に至るまで、考えられることはやってはみたけど、
さっぱり起きられない。
小学校の遠足の日ですら目が覚めないと聞いて、私はコレだと思った。
「あなたは、もともと起きられないんだから、それでいいじゃないの。」
この言葉に救われたと、彼は今でもよく口にする。
たまに起きられると、 "時の運" だと言う。
私も、 "それくらいの事で一喜一憂していたらアン太郎の女は務まらん" と
言い返している。
そんなアン太郎は起きるだんになると、寝ている間にばらばらになった体を
もと通り組み立てるかのように、ぱきぱき音をさせて苦しげに身を捩じらせ、
まるで産まれたての子鹿のように、 おぼつかない足取りで立ち上がる。
「ほっほぉ〜 すごいなぁ…」 ええもん見せてもろうたわ。
私もさすがに腹立つことはあるけど、 常識を超えて起きないんだから、
アン太郎は。
それにしても 「もともと起きられない」 とは、我ながらよく言ったものだと
感心する。
私にとって "ありのまま" とは、 "無理に変えられない事" を意味しているのかも
しれない。
私がじたばたしたってしょうがない、 と思ってしまうのだ。
子鹿の "生命の神秘" に毎日立ち会えるとは、なんと幸せなことか。
信じられないなら、いっぺんウチへ来てみ。
幸せそうなので、羨ましくなると思うけど。
大体、アン太郎が朝起きるかどうかで、 私の幸、不幸が決定的に左右される
わけでもないし。
物事を "ありのままに" 見る方法とは、なんだろうか。
"赤毛のアン" を読み進んできた私たちなら、もう既に知っているはずだ。
この物語の中では、 マリラやマシュー、アヴォンリーの村人、 そして
プリンスエドワード島の自然に到るまで、 すべてアンの目を通して見た、
"ありのまま" が描かれている。
アンの想像力は並外れているので、自分には無理だと思ってしまいがちだが、
つまりは、自分の目で見て "いい" と感じる、 それだけの事なのだ。
アンを取り巻く人々はそれぞれが個性を発揮しているが、
アンはそれを否定もせず判断もせず、勿論めげることもなく、
"どう感じたか" を語っているだけなのだ。
それで充分面白い。 人並みはずれた想像力はなくてもいいのだ。
やっかみや偏見に囚われていようと、惚れた弱みで盲目になっていようと
いいではないか。
それらもひっくるめて、 私は確かに、この世界を "ありのまま" に見ている。
アン・シャーリーは、自分の見た世界を言葉に変え、 時には瞳の輝きで
私たちに伝える。
そして私も、 この世界を私の目で見つめている。
うまく言葉にできないけど、 "いい" と感じた事を "ありのままに" 伝えたいと
夢みている。
赤毛のアン 〜毎日読むアン〜
No.69 『第28章 ちょっと悲しいところ』
春の日差しが温かい土曜日の午後、 車で1時間程の処にある美術館に、
父と二人で出掛けた。
春の衣替えにはまだ早く、常設展示は冬の風景である。
この画家は、木を大変丁寧に描く。
黒々とした枝が雪に映えて、悲しいコントラストを創り出していた。
絵を描いたことがあれば判ると思うが、木の枝を描くのは結構難しい。
適当に描き流すと、ただの木ぎれになってしまう。
画家の描いた枝は確かに幹に繋がり、大地に根を下ろしている。
命が繋がっているのだ。
父にとっては亡くなった母とよく来た、 思い出深い美術館。
帰り道に立ち寄ったレストランでも、母の思い出に話が及んだ。
父は、祖父が始めた小さな印刷工場で働いていた。
結婚して2年の間、祖父は決まった給料をくれないので苦労したそうだ。
ある日、ふと通りがかった古道具屋の店先に、母が持ってきた茶道具や着物が
並んでいるではないか。
母はこっそり嫁入り道具を売り払って、しのいでいたのだ。
これではたまらんと、父は給料を取れる仕組みを作り、初めて母にお金を渡した。
その翌日、母はデパートに出掛けて全部使って帰って来た。
なにしろ1個で足りるものでもロットで買う癖は、母の武勇伝として
あまりに有名。
しかもそのお金を何に使ったのかは、さっぱり判らないのだ。
私も、そこまでヤルとは思ってもみなかった。 さすが母である。
しかし、資金繰りに父がどれほど苦労したかは初めて聞いた話だった。
物事には幾つかの側面があり、見る方の側によって違うとよく言われる。
話は両方の側から聞かなければ、本当に知っているとは言えない。
母はよくぼやいていたものだ。
「お父さんはお金をくれない」
それはそうだ、 渡したら最後、使っちまうんだもの…
「たんすの着物を全部ほり捨ててしまったが、悪かったのう…」
たんすの中身は母の着物だったが、その中に一枚私のものが仕舞ってあった。
お正月に着ようと思っていた矢先のことだった。
「どうにも… 腹が立ってのう…」
片付けをしていたら、箱の中から年金手帳が出てきたというのだ。
母は自分だけに掛けていた。
ゆとりがなく、二人とも厚生年金を支払っていないと母から聞いていたので、
私も正直驚いた。
父の場合は、驚きよりも怒りが勝った。
持って行き場のない彼は、母の着物をゴミ袋に詰め込むしかなかったのだろう。
父はいい男だ。 使っても使っても、なんとか工面してくる。
まぁ、母に惚れた弱みだからしかたない。
私と出掛けても財布ごと渡してくれるのだから、気前がいいと言っていい。
そんな父の心配は、 "私と妹の経済観念がしっかりしているか" ということ
だった。
それは、大丈夫。 私はむしろ、父に似ているのだ。
やはり、血は確実に繋がっている。
それが証拠に、別れた亭主は母みたいな人だった。
経済観念がない上に見栄っ張りで、計画性ゼロ。
父もそこには気付いてないようなので、私はそっと心に仕舞っておくことにした。
今、私は自分自身を生きていると思えるから、 辛いことなどない。
父も最近では、「お母さんが、生きていれば…」 と言う回数が減って来た
ように思う。
その代わり、残りの人生は自分がやりたい事にお金を使おうという姿勢に
なっている。
母が自分にだけ内緒で年金を掛けていた事、父に数口掛けた死亡保険の意味、
それらを父は、年月を掛けてやんわりと受け止めたように思う。
妻にしてみればそりゃ当然、 女とはそんなものと思えることでもあり、
娘としてはちょっと悲しい所も混じっているようでもある。
「世の中には、手に負えないものがいくらでもあるんですから、
どうせ手に負えないなら、旦那さんのほうがまだましですよ。」
いいえ、シャーロッタ四世、 世の中で一番手に負えないのは旦那さんなのだ。
惚れていればなおのこと、 愛が冷めればさらに修羅場。
だから、ちょっと悲しいのだ。
父と二人で出掛けた。
春の衣替えにはまだ早く、常設展示は冬の風景である。
この画家は、木を大変丁寧に描く。
黒々とした枝が雪に映えて、悲しいコントラストを創り出していた。
絵を描いたことがあれば判ると思うが、木の枝を描くのは結構難しい。
適当に描き流すと、ただの木ぎれになってしまう。
画家の描いた枝は確かに幹に繋がり、大地に根を下ろしている。
命が繋がっているのだ。
父にとっては亡くなった母とよく来た、 思い出深い美術館。
帰り道に立ち寄ったレストランでも、母の思い出に話が及んだ。
父は、祖父が始めた小さな印刷工場で働いていた。
結婚して2年の間、祖父は決まった給料をくれないので苦労したそうだ。
ある日、ふと通りがかった古道具屋の店先に、母が持ってきた茶道具や着物が
並んでいるではないか。
母はこっそり嫁入り道具を売り払って、しのいでいたのだ。
これではたまらんと、父は給料を取れる仕組みを作り、初めて母にお金を渡した。
その翌日、母はデパートに出掛けて全部使って帰って来た。
なにしろ1個で足りるものでもロットで買う癖は、母の武勇伝として
あまりに有名。
しかもそのお金を何に使ったのかは、さっぱり判らないのだ。
私も、そこまでヤルとは思ってもみなかった。 さすが母である。
しかし、資金繰りに父がどれほど苦労したかは初めて聞いた話だった。
物事には幾つかの側面があり、見る方の側によって違うとよく言われる。
話は両方の側から聞かなければ、本当に知っているとは言えない。
母はよくぼやいていたものだ。
「お父さんはお金をくれない」
それはそうだ、 渡したら最後、使っちまうんだもの…
「たんすの着物を全部ほり捨ててしまったが、悪かったのう…」
たんすの中身は母の着物だったが、その中に一枚私のものが仕舞ってあった。
お正月に着ようと思っていた矢先のことだった。
「どうにも… 腹が立ってのう…」
片付けをしていたら、箱の中から年金手帳が出てきたというのだ。
母は自分だけに掛けていた。
ゆとりがなく、二人とも厚生年金を支払っていないと母から聞いていたので、
私も正直驚いた。
父の場合は、驚きよりも怒りが勝った。
持って行き場のない彼は、母の着物をゴミ袋に詰め込むしかなかったのだろう。
父はいい男だ。 使っても使っても、なんとか工面してくる。
まぁ、母に惚れた弱みだからしかたない。
私と出掛けても財布ごと渡してくれるのだから、気前がいいと言っていい。
そんな父の心配は、 "私と妹の経済観念がしっかりしているか" ということ
だった。
それは、大丈夫。 私はむしろ、父に似ているのだ。
やはり、血は確実に繋がっている。
それが証拠に、別れた亭主は母みたいな人だった。
経済観念がない上に見栄っ張りで、計画性ゼロ。
父もそこには気付いてないようなので、私はそっと心に仕舞っておくことにした。
今、私は自分自身を生きていると思えるから、 辛いことなどない。
父も最近では、「お母さんが、生きていれば…」 と言う回数が減って来た
ように思う。
その代わり、残りの人生は自分がやりたい事にお金を使おうという姿勢に
なっている。
母が自分にだけ内緒で年金を掛けていた事、父に数口掛けた死亡保険の意味、
それらを父は、年月を掛けてやんわりと受け止めたように思う。
妻にしてみればそりゃ当然、 女とはそんなものと思えることでもあり、
娘としてはちょっと悲しい所も混じっているようでもある。
「世の中には、手に負えないものがいくらでもあるんですから、
どうせ手に負えないなら、旦那さんのほうがまだましですよ。」
いいえ、シャーロッタ四世、 世の中で一番手に負えないのは旦那さんなのだ。
惚れていればなおのこと、 愛が冷めればさらに修羅場。
だから、ちょっと悲しいのだ。
赤毛のアン 〜毎日読むアン〜
まるでNHKの朝の連続ドラマを見るような慌しさで、
「アンの青春」 は最終章へと近づいていく。
嫁さんに逃げられていたことが発覚したハリソンさんは、元のさやに収まり、
別人のようにこざっぱりして、普通のオジサンに成り下がってしまった。
ミス・ラベンダーは、喧嘩別れした昔の恋人と結婚することになり、
生活の苦労を知らない彼女も、少しは世間の常識を知ることになるだろう。
そしてダイアナは、 あまりに普通の、田舎の若者フレッド・ライトと婚約。
それぞれが、一緒に生きる人の手をとって歩き始めていた。
そして、野心を抱きキャリアを目指すアンだけが、ひとり大学へ旅立とうと
していた。
残すところ3章となっても、私はまだアンの本性がわからない。
後ろ姿のアンに呼びかけると、爽やかな風が起きて、 彼女は振り返る。
上品につんと顎をあげ、賢そうな顔立ちが明るく笑っている。
大人っぽくアップにした赤褐色の艶やかな髪。 日の光に輝く後れ毛が眩しい。
「なぁに?」
彼女は瞳で問いかけるが、 私は何も言うことがないのに気付き、慌てふためく。
すると、近寄り難い微笑を残し彼女はまた、 前を向いて歩いて行くのだった。
風に揺れる木の枝のように。
「どうして、いつもそんな風に希望をもっていられるの?」
いいことなんて、そうあるもんじゃないのにさ。
「アン、あなたって素性のわからない孤児のくせに、
大家のお嬢様みたいに上品ぶっている」
やってる事は、 "天然" だけど。
もしかするとアンは、彼女に接した人の本性を映し出す "鏡" なのかもしれない。
アンがなぜ人を惹きつけて止まないのか。 それはこのように書かれている。
アンを後光のように包んでいる可能性
アンの中にひそんでいる、将来に向かって花開いていく力
アンは、つぎに起こることへの期待感に包まれて歩いているように
見えるのだ。
なにやら実体の無い光のようではないか。
未来の世界に期待できるなど、今の世の中では誰も思っちゃいない。
薔薇色に芳しい未来を期待していたらアテが外れる、と相場は決まっている。
この世界はろくでもない所だし、この先も大していいことないのだから、
せめて大風呂敷を広げておけば、ちょうどいい位に折り合いがつく。
これなら私は膝をたたいて、 "その通り" と納得できるのだ。
大風呂敷を広げる、 それが想像力。
つまりは自分に対して、大嘘つきであることなのだと私は思う。
これから始まる一日に、退屈極まりない仕事が待っていようとも、
わくわくするような事など、あるはずがないとわかっていても、
朝の太陽を受けて、私は自分に嘘をつく。
「天気はいいし… ふふっ… なんかいいことありそう… 」
これが本気で出来ると思う? そんな自分を想像するのも悲しいわ。
人はそんなに単純にはできてないもの。
"なにかいいことありそう" と思っているふりを自分にさせることが、
正直 "精一杯" の、 想像力の大風呂敷なのだ。
心から本当に… などということは、人にはできない、 と私は思う。
もしかすると、アンは人間じゃないのでは…?
私は赤毛のアンシリーズ8巻を残して、大変なことに気付いてしまったのかも
しれない。
アヴォンリーの村が集団催眠にかけられた結果、 "アン" という人物を
実在するように思い込んだのでは…?
そして、これを読んだ者も催眠的魔法にかかり、 "アンのようになりたい" と
思い始めるのでは…?
世間知らずで真面目な人、心優しく在りたいと願う人ほど、 かかり易い魔法。
棘で塞がれた道をかきわけ、眠っている人々をたたき起こしてやらなくては。
アンの言動ばかりに目を向けていては、この本の真意を汲み取ることは
できない。
アンの失敗や成功に、周りの人々がどのように反応するか。
そこから人の率直な心の動きや、 本性剥き出しの、在りのままの姿を
読み取れる。
読んでいる自分の本性をみて、目を覚まそうよ。
私はジョシー・パイに近いのが面目ないが、 ま、それもいいではないか。
実態のない "光" よりは、生身の方がずっと気持ちいい。
No.68 『第27章 赤毛のアンの本性』
まるでNHKの朝の連続ドラマを見るような慌しさで、
「アンの青春」 は最終章へと近づいていく。
嫁さんに逃げられていたことが発覚したハリソンさんは、元のさやに収まり、
別人のようにこざっぱりして、普通のオジサンに成り下がってしまった。
ミス・ラベンダーは、喧嘩別れした昔の恋人と結婚することになり、
生活の苦労を知らない彼女も、少しは世間の常識を知ることになるだろう。
そしてダイアナは、 あまりに普通の、田舎の若者フレッド・ライトと婚約。
それぞれが、一緒に生きる人の手をとって歩き始めていた。
そして、野心を抱きキャリアを目指すアンだけが、ひとり大学へ旅立とうと
していた。
残すところ3章となっても、私はまだアンの本性がわからない。
後ろ姿のアンに呼びかけると、爽やかな風が起きて、 彼女は振り返る。
上品につんと顎をあげ、賢そうな顔立ちが明るく笑っている。
大人っぽくアップにした赤褐色の艶やかな髪。 日の光に輝く後れ毛が眩しい。
「なぁに?」
彼女は瞳で問いかけるが、 私は何も言うことがないのに気付き、慌てふためく。
すると、近寄り難い微笑を残し彼女はまた、 前を向いて歩いて行くのだった。
風に揺れる木の枝のように。
「どうして、いつもそんな風に希望をもっていられるの?」
いいことなんて、そうあるもんじゃないのにさ。
「アン、あなたって素性のわからない孤児のくせに、
大家のお嬢様みたいに上品ぶっている」
やってる事は、 "天然" だけど。
もしかするとアンは、彼女に接した人の本性を映し出す "鏡" なのかもしれない。
アンがなぜ人を惹きつけて止まないのか。 それはこのように書かれている。
アンを後光のように包んでいる可能性
アンの中にひそんでいる、将来に向かって花開いていく力
アンは、つぎに起こることへの期待感に包まれて歩いているように
見えるのだ。
なにやら実体の無い光のようではないか。
未来の世界に期待できるなど、今の世の中では誰も思っちゃいない。
薔薇色に芳しい未来を期待していたらアテが外れる、と相場は決まっている。
この世界はろくでもない所だし、この先も大していいことないのだから、
せめて大風呂敷を広げておけば、ちょうどいい位に折り合いがつく。
これなら私は膝をたたいて、 "その通り" と納得できるのだ。
大風呂敷を広げる、 それが想像力。
つまりは自分に対して、大嘘つきであることなのだと私は思う。
これから始まる一日に、退屈極まりない仕事が待っていようとも、
わくわくするような事など、あるはずがないとわかっていても、
朝の太陽を受けて、私は自分に嘘をつく。
「天気はいいし… ふふっ… なんかいいことありそう… 」
これが本気で出来ると思う? そんな自分を想像するのも悲しいわ。
人はそんなに単純にはできてないもの。
"なにかいいことありそう" と思っているふりを自分にさせることが、
正直 "精一杯" の、 想像力の大風呂敷なのだ。
心から本当に… などということは、人にはできない、 と私は思う。
もしかすると、アンは人間じゃないのでは…?
私は赤毛のアンシリーズ8巻を残して、大変なことに気付いてしまったのかも
しれない。
アヴォンリーの村が集団催眠にかけられた結果、 "アン" という人物を
実在するように思い込んだのでは…?
そして、これを読んだ者も催眠的魔法にかかり、 "アンのようになりたい" と
思い始めるのでは…?
世間知らずで真面目な人、心優しく在りたいと願う人ほど、 かかり易い魔法。
棘で塞がれた道をかきわけ、眠っている人々をたたき起こしてやらなくては。
アンの言動ばかりに目を向けていては、この本の真意を汲み取ることは
できない。
アンの失敗や成功に、周りの人々がどのように反応するか。
そこから人の率直な心の動きや、 本性剥き出しの、在りのままの姿を
読み取れる。
読んでいる自分の本性をみて、目を覚まそうよ。
私はジョシー・パイに近いのが面目ないが、 ま、それもいいではないか。
実態のない "光" よりは、生身の方がずっと気持ちいい。
赤毛のアン 〜毎日読むアン〜
No.67 『第26章 道の曲がり角』
風はまだ冷たいのに、土手沿いの桜はつぼみをびっしりとつけて、
一雨ごとの暖かさを待っている。
山の斜面に広がる墓石さえ、春が来るのを心待ちにしているようだ。
春になると墓地は桜で埋め尽くされ、花見客で賑やかになる。
川は大きくカーブを描いて、 最後の目的地、海を目指して流れていく。
マンションを買うなら眺めのいい所と思っていたのだが、ご存知の様に
我がグリーンゲーブルズマンションは、工業地帯にある。
いい眺めが欲しいときは、こっちから出向けばいいことだ。
会社の昼休みには、こうしてぼんやり時を過ごす。
アンはマリラの勧めでレッドモンド大学へ進学することを決心し、
再び道の曲がり角に立った。
若い人は曲がり角の先に、野心や希望を抱いて進んでいく。
私くらいの歳になると、角を曲がるたびに死に近づいていくのだから、
最後はどんな風に迎えたいのか、少しは考えておいた方が良さそうだ。
今ならまだ想像の余地がある。
私は、最後の時をどこで迎えたいのだろう…
マンションに引っ越して、初めての管理組合総会に出席した時。
ある老夫婦が、ここを自分達の "終の棲家" と決めて購入したと
話しているのを聞いて、 少なからず驚いた。
私は自分のマンションに入ったその日に、次はどこに住もうかと
思っていたのだから。
放浪の民でもない限り、砂漠や草原では死なせてはもらえない。
地に足をつけた生活設計をしないといけない歳になったのだ。
人生に冒険を求める歳は、とうに過ぎてしまったのだ。
老夫婦の言う通り、 快適なマンションライフの究極は、"ここで死ねるか" に
かかっている。
グリーンゲーブルズには、夫を亡くしたリンド夫人が同居することになり、
マリラとリンド夫人、それにデイビーとドーラを加えた "他人ばかりの
共同生活" がスタートすることとなった。
離婚して間もない頃は、老後は気の合った女同士で暮らすのも
いいかもしれない、 と思ったりした。
眺めが良くても悪くても、一人で居ては分かち合うことも出来やしない。
"ここで死ねるか" という問いは、 "誰と生きるか" ということを考えさせる。
実際、二人の友からのオファーもあった。
「あんたには世話になったから、おしめの取替でも
なんでもさせてもらいますぅ」
というのは、年下の親友。
「あなたとだったら、一緒に暮らしてもいいわ」
と言って下さる、お姉さま。
人気者はつらいなぁ… 言ってる場合ではなく、アヴォンリーの村人も噂の種に
事欠かない程の、実に個性的な二人なのだ。
女同士は個性に応じた距離が必要。 老後を女同士で暮らすのは御免だ。
村人達は、 うるさがたのリンド夫人を誘うなんて、マリラも早まったことを
したものだと噂しあったが、 マリラは良い選択をしたと私は思う。
独身のマリラが両親、兄を亡くし、 一人で生きていくためには他人と暮らす
ことしかないのだから。
孤児のアンを引取ったことをきっかけに、 双子、それにレイチェル・リンドと、
彼女は "共に生きる家族" をつくったのだ。
皮肉屋の堅物も、随分変わったものだと思う。
"誰と生きるか" 。 それは他人なのだ。
考えてみれば私は他人の中に生まれ、 他人同士の関係に四苦八苦しながら、
他人のお世話になって死んでいくのだ。
欠点はあってもその人がいなければ寂しい、 その一方で互いの生活には
口を出さない、どうぞご勝手にといういいかげんさも必要だ。
苦情がメモで廻ってこようと、無愛想であろうと、 「私の知ったことか」 と
思っていれば腹も立たない。
快適なマンションライフになくてはならないもの、それは他人と生きる事が
できる能力なのだろう。
とは言え、 私はこのマンションを "終の棲家" とはまだ決められない。
まだまだもう一つや二つは、曲がらねばならない角に立つような、
そんな気がしてならない。
一雨ごとの暖かさを待っている。
山の斜面に広がる墓石さえ、春が来るのを心待ちにしているようだ。
春になると墓地は桜で埋め尽くされ、花見客で賑やかになる。
川は大きくカーブを描いて、 最後の目的地、海を目指して流れていく。
マンションを買うなら眺めのいい所と思っていたのだが、ご存知の様に
我がグリーンゲーブルズマンションは、工業地帯にある。
いい眺めが欲しいときは、こっちから出向けばいいことだ。
会社の昼休みには、こうしてぼんやり時を過ごす。
アンはマリラの勧めでレッドモンド大学へ進学することを決心し、
再び道の曲がり角に立った。
若い人は曲がり角の先に、野心や希望を抱いて進んでいく。
私くらいの歳になると、角を曲がるたびに死に近づいていくのだから、
最後はどんな風に迎えたいのか、少しは考えておいた方が良さそうだ。
今ならまだ想像の余地がある。
私は、最後の時をどこで迎えたいのだろう…
マンションに引っ越して、初めての管理組合総会に出席した時。
ある老夫婦が、ここを自分達の "終の棲家" と決めて購入したと
話しているのを聞いて、 少なからず驚いた。
私は自分のマンションに入ったその日に、次はどこに住もうかと
思っていたのだから。
放浪の民でもない限り、砂漠や草原では死なせてはもらえない。
地に足をつけた生活設計をしないといけない歳になったのだ。
人生に冒険を求める歳は、とうに過ぎてしまったのだ。
老夫婦の言う通り、 快適なマンションライフの究極は、"ここで死ねるか" に
かかっている。
グリーンゲーブルズには、夫を亡くしたリンド夫人が同居することになり、
マリラとリンド夫人、それにデイビーとドーラを加えた "他人ばかりの
共同生活" がスタートすることとなった。
離婚して間もない頃は、老後は気の合った女同士で暮らすのも
いいかもしれない、 と思ったりした。
眺めが良くても悪くても、一人で居ては分かち合うことも出来やしない。
"ここで死ねるか" という問いは、 "誰と生きるか" ということを考えさせる。
実際、二人の友からのオファーもあった。
「あんたには世話になったから、おしめの取替でも
なんでもさせてもらいますぅ」
というのは、年下の親友。
「あなたとだったら、一緒に暮らしてもいいわ」
と言って下さる、お姉さま。
人気者はつらいなぁ… 言ってる場合ではなく、アヴォンリーの村人も噂の種に
事欠かない程の、実に個性的な二人なのだ。
女同士は個性に応じた距離が必要。 老後を女同士で暮らすのは御免だ。
村人達は、 うるさがたのリンド夫人を誘うなんて、マリラも早まったことを
したものだと噂しあったが、 マリラは良い選択をしたと私は思う。
独身のマリラが両親、兄を亡くし、 一人で生きていくためには他人と暮らす
ことしかないのだから。
孤児のアンを引取ったことをきっかけに、 双子、それにレイチェル・リンドと、
彼女は "共に生きる家族" をつくったのだ。
皮肉屋の堅物も、随分変わったものだと思う。
"誰と生きるか" 。 それは他人なのだ。
考えてみれば私は他人の中に生まれ、 他人同士の関係に四苦八苦しながら、
他人のお世話になって死んでいくのだ。
欠点はあってもその人がいなければ寂しい、 その一方で互いの生活には
口を出さない、どうぞご勝手にといういいかげんさも必要だ。
苦情がメモで廻ってこようと、無愛想であろうと、 「私の知ったことか」 と
思っていれば腹も立たない。
快適なマンションライフになくてはならないもの、それは他人と生きる事が
できる能力なのだろう。
とは言え、 私はこのマンションを "終の棲家" とはまだ決められない。
まだまだもう一つや二つは、曲がらねばならない角に立つような、
そんな気がしてならない。
赤毛のアン 〜毎日読むアン〜
No.66 『第25章 覆水盆に返らず』
夫婦で暮らしていると、ものすごく些細なことが神経に障ることがある。
それは小骨が刺さった様に、いつまでもチクチクする。
別れた亭主は何度注意しても、ドアを静かに閉めることができなかった。
そもそも大きな音をさせている意識がない… いや、静かに閉める事自体
どうでもいいのだろう。
「それっ! その音! 大きな音したでしょうが!」
「えっ そうかぁ」
これだから… どうしようもない。
バカ亭主曰く、 ドアを開け閉めする音に神経を立てる私の方がおかしいと、
改める気は全くない。
そのくせ、ヤツはスプーンやフォークが歯にカチッと当たる音に鳥肌が立つと、
鬼みたいに怒るのだから理不尽だ。
夫婦仲がうまく行っている間は気を付けもするが、仲が悪くなってからはわざと
カチカチやってやった。
怒るヤツを尻目に、
「あら、そんな音したかしら…?」
と、私はしらばっくれていた。
些細なことだが、それは大きな問題となる "根っこ" から伸びて出てくるのだ。
離婚の原因は、妻が御飯茶碗を伏せて置くのがどうしても許せなかった事、と
いう人がいた。
「そんなこと、どっちだっていいじゃないの。」
どっちでもいいなら、こだわっている人に合わせておけばいいのだが、
それが出来ないのは、何か別の問題がその根にあったのだろう。
妻は最後まで、茶碗を伏せて置くことはなかったそうだ。
存在を認めてくれている実感があれば、大概の事はどっちでもいいのだ。
むしろどちちでもいいから、相手が喜ぶ方に合わせる事が喜びにもなる。
そしてその実感は、 どうも日常の小さな積み重ねの中にあるようだ。
以前、お向かいに越してきた新婚夫婦。
奥さんはたいへんな整理整頓好きとみえて、 家の中はきちんとしている
レベルを遙かに超えていた。
一糸乱れぬマスゲームをみるような、整然とした部屋だった。
部屋中の物全てが前を向いて直立不動の姿勢を保ち、私に向かって敬礼していた。
ソースと醤油の注ぎ口は必ず左側に向けて大きい順に並んでいなければならないし、
タオルの端は、ずれてはいけない。
10分も居ればホームシックにかかりそうだった。
さぞご主人は落ち着かないだろうと思いきや、奥さんの言いつけをよく守って
いる。
どこに愛されている実感があるのか。
それは、 "味噌汁" 。
彼はお鍋でもカレーでも、驚くことにクリームシチューでも、 "味噌汁"付きで
ないと駄目なんだそうだ。
「鍋に "味噌汁" はいらんやんかぁ〜」
そう言いながらも、彼女は "味噌汁" をちゃんと付けるのだ。
コレだな、と私は思ったものだ。
"好きだ" と何遍言われても、そんなんでいい年した女は納得しない。
一緒に暮らしている私の嫌がる事、喜ぶ事がわかっているのか。
ドアは静かに閉めて欲しい、と言っているでしょ。
私の存在を無視しないで欲しい。
"赤毛のアン太郎" はドアを静かに開け閉めする。
"バッタ〜ンッ!" に慣れていた私には、新鮮な驚きだった。
もう、 "愛" すら感じてしまう。
バスマットを濡らさないために、お風呂場で身体を拭き、 最後に足の裏まで
拭いてから出てくる。
これにはメロメロになった。
トイレでは座って用をたす。 床を汚さないためだと言う。
私はこれで、ノックダウン。
二、三日お風呂に入らないくらい、許してあげるわ。
アン太郎の部屋は、掃除も "不可能な状態" に散らかっているけど、
それで本人が落ち着くなら、これも大目に見てあげる。
アン太郎は三度のメシよりコーヒーが大好きだ。
カップにはいつもコーヒーが入っている。
だから、その都度洗わなくてもいいと言う。
ずに乗って、 私は軽く四、五日は洗わず注ぎ足している。
さすがにそれ位になると、青いカップが茶色になるので、 申し訳なくて洗う。
「きれいにしてくれてありがとう。」
いや〜 面目ないです。
アン太郎は私より物の扱いがキチンとしていて、CDは "記録面" を上にして
置くようにと、 私は注意される。
おっ、コレは茶碗とおなじだぞ…
「毎日カレーでもいいなぁ」
お〜 コレは "味噌汁" 付けなくていいから楽だぁ…
気を遣うのもなかなか楽しいものだ。
別れた亭主には出来なかったことばかりである。
喧嘩別れをした二人を再び結び付けるのは、モンゴメリーの主題でもある。
そんな彼女自身も、病弱な夫と気難しい姑には苦労したらしい。
素直に自分の過ちを認めること、 多くを期待して相手を変えようとしないこと、
少々の癖には片目をつむっておくこと。
「相手を理解すれば向こうも理解してくれる」
それはモンゴメリーの夢だったのかもしれない。
「誠意を持って接すれば、必ず解り合える。」
アン太郎も私もそれを信じて耐えた結果、 人生をめちゃくちゃにされてしまった
者の一人である。
同じ人ともう一度やり直すことは難しい、と言わざるを得ない。
私は綺麗事を一生やり通す気はないし、 いっそのことオトコを変え、
出来なかった事をしてあげる方が、 ずっと前向きな生き方だと思っている。
それは小骨が刺さった様に、いつまでもチクチクする。
別れた亭主は何度注意しても、ドアを静かに閉めることができなかった。
そもそも大きな音をさせている意識がない… いや、静かに閉める事自体
どうでもいいのだろう。
「それっ! その音! 大きな音したでしょうが!」
「えっ そうかぁ」
これだから… どうしようもない。
バカ亭主曰く、 ドアを開け閉めする音に神経を立てる私の方がおかしいと、
改める気は全くない。
そのくせ、ヤツはスプーンやフォークが歯にカチッと当たる音に鳥肌が立つと、
鬼みたいに怒るのだから理不尽だ。
夫婦仲がうまく行っている間は気を付けもするが、仲が悪くなってからはわざと
カチカチやってやった。
怒るヤツを尻目に、
「あら、そんな音したかしら…?」
と、私はしらばっくれていた。
些細なことだが、それは大きな問題となる "根っこ" から伸びて出てくるのだ。
離婚の原因は、妻が御飯茶碗を伏せて置くのがどうしても許せなかった事、と
いう人がいた。
「そんなこと、どっちだっていいじゃないの。」
どっちでもいいなら、こだわっている人に合わせておけばいいのだが、
それが出来ないのは、何か別の問題がその根にあったのだろう。
妻は最後まで、茶碗を伏せて置くことはなかったそうだ。
存在を認めてくれている実感があれば、大概の事はどっちでもいいのだ。
むしろどちちでもいいから、相手が喜ぶ方に合わせる事が喜びにもなる。
そしてその実感は、 どうも日常の小さな積み重ねの中にあるようだ。
以前、お向かいに越してきた新婚夫婦。
奥さんはたいへんな整理整頓好きとみえて、 家の中はきちんとしている
レベルを遙かに超えていた。
一糸乱れぬマスゲームをみるような、整然とした部屋だった。
部屋中の物全てが前を向いて直立不動の姿勢を保ち、私に向かって敬礼していた。
ソースと醤油の注ぎ口は必ず左側に向けて大きい順に並んでいなければならないし、
タオルの端は、ずれてはいけない。
10分も居ればホームシックにかかりそうだった。
さぞご主人は落ち着かないだろうと思いきや、奥さんの言いつけをよく守って
いる。
どこに愛されている実感があるのか。
それは、 "味噌汁" 。
彼はお鍋でもカレーでも、驚くことにクリームシチューでも、 "味噌汁"付きで
ないと駄目なんだそうだ。
「鍋に "味噌汁" はいらんやんかぁ〜」
そう言いながらも、彼女は "味噌汁" をちゃんと付けるのだ。
コレだな、と私は思ったものだ。
"好きだ" と何遍言われても、そんなんでいい年した女は納得しない。
一緒に暮らしている私の嫌がる事、喜ぶ事がわかっているのか。
ドアは静かに閉めて欲しい、と言っているでしょ。
私の存在を無視しないで欲しい。
"赤毛のアン太郎" はドアを静かに開け閉めする。
"バッタ〜ンッ!" に慣れていた私には、新鮮な驚きだった。
もう、 "愛" すら感じてしまう。
バスマットを濡らさないために、お風呂場で身体を拭き、 最後に足の裏まで
拭いてから出てくる。
これにはメロメロになった。
トイレでは座って用をたす。 床を汚さないためだと言う。
私はこれで、ノックダウン。
二、三日お風呂に入らないくらい、許してあげるわ。
アン太郎の部屋は、掃除も "不可能な状態" に散らかっているけど、
それで本人が落ち着くなら、これも大目に見てあげる。
アン太郎は三度のメシよりコーヒーが大好きだ。
カップにはいつもコーヒーが入っている。
だから、その都度洗わなくてもいいと言う。
ずに乗って、 私は軽く四、五日は洗わず注ぎ足している。
さすがにそれ位になると、青いカップが茶色になるので、 申し訳なくて洗う。
「きれいにしてくれてありがとう。」
いや〜 面目ないです。
アン太郎は私より物の扱いがキチンとしていて、CDは "記録面" を上にして
置くようにと、 私は注意される。
おっ、コレは茶碗とおなじだぞ…
「毎日カレーでもいいなぁ」
お〜 コレは "味噌汁" 付けなくていいから楽だぁ…
気を遣うのもなかなか楽しいものだ。
別れた亭主には出来なかったことばかりである。
喧嘩別れをした二人を再び結び付けるのは、モンゴメリーの主題でもある。
そんな彼女自身も、病弱な夫と気難しい姑には苦労したらしい。
素直に自分の過ちを認めること、 多くを期待して相手を変えようとしないこと、
少々の癖には片目をつむっておくこと。
「相手を理解すれば向こうも理解してくれる」
それはモンゴメリーの夢だったのかもしれない。
「誠意を持って接すれば、必ず解り合える。」
アン太郎も私もそれを信じて耐えた結果、 人生をめちゃくちゃにされてしまった
者の一人である。
同じ人ともう一度やり直すことは難しい、と言わざるを得ない。
私は綺麗事を一生やり通す気はないし、 いっそのことオトコを変え、
出来なかった事をしてあげる方が、 ずっと前向きな生き方だと思っている。
赤毛のアン 〜毎日読むアン〜
温かいこの地方でも、今年はよく雪が降った。
気象庁は朝になって、慌てて昨日の予報を "雪時々晴れ" に訂正した。
ところが、 エイブおじさんの "嵐" はその逆だった。
「春に嵐が来る。」
この予言を、ギルバートがシャーロットタウン日々新聞の "アヴォンリー便り" に
書き送ったのだ。
エイブおじさんのお天気の予言は、当たった試しがないのに、
5月23日の午後7時と、日時まで指定して…。
そして当日。 本当に嵐はやって来た。 書いた通りに嵐はやって来た。
家庭内離婚生活をしていた当時、 バカ亭主について、話した内容から
その日の行動に至るまで、細かく書き残すようにしていた。
決して面白いとは言えない内容ばかりだが、中には "昨夜の夢" と言ったような
たわいもないものに、下手なイラストを描き添えたりした日もあった。
"昨夜の夢" に、らくだが現れた。 長くて黒いまつ毛に囲まれた、大きな涙目。
ベドウィンの娘の様に誇り高い私は、 らくだに乗って砂漠を旅する。
私は随分昔から、砂漠の風景に心惹かれていた。
風によって創り出される砂の造形が、横たわる裸婦の様にエロティックである。
なにもないのに、飽きることがない。
目的地は… わからん…。 けど、どっかに向かっているわけよ。
昼間の暑さが去った夜、 私は一人で大地にうずくまり、星と砂だけの空間に
取り残される。
らくだの背中にもたれて星を占ったり、古い歌を唄ったりして眠った。
独りでも寂しくはなかったけれど、語り合う相手がいないことが辛かった。
長い旅になりそう…
らくだは本来凶暴な動物らしい。 しかし私の乗るらくだは、変わり種。
まつ毛の長い、 涙目のらくだ。
夜になると、 歩きずめで疲れた足をさすってくれと、哀願する。
「ワシ、寝られんわぁ。 だから、あんたも寝んといてくれ〜」
結構わがままねぇ…
目が覚めてすぐに、らくだの絵を描いた。 ロバみたいになった。
イラストは下手なのだが、これは残しておかなければならん。
巡り逢える日のために…。 何となくそんな気になっていた。
このラクダに見覚えありませんか?
「この手のラクダは、ここら辺りじゃごろごろいるサ。
悪いナ…。 他をあたってくれないか。」
らくだはものを言わなかったが、 砂漠の静寂のなかで私は、はっきりと彼の声を
聞き、 確かに語り合ったのだ。
らくだはしばらく、私の心の中に居たけれど、 現実にはどこにいるのか
わからない。
生身の私は、 抱き合ったり手を繋いだりできなければ、満足する事はない。
私の旅は、自立への旅だったように思う。
離婚して一人になったから自立した、とは言えないのだ。
一人で生きて、楽しむ術を覚えなければ。 休みの日には海までドライブした。
映画を観た。 "おひとり様" で、食事もした。
一人で何をしてみても、 苦しいばかりの違和感を感じるばかり。
気の合う人と、共に会話したいと思った。
この快楽とも言える楽しみが与えられるよう、祈った。
夢のらくだが人になって現れますように。
「アンタ、 ラクダの何なのさ?」
最近気付いたんだけど、 それって… "赤毛のアン太郎" かも??
まつ毛は長いし、 あくびばっかりしていつも涙目だし、 結構わがままな
とこもあるし…。
夢に見たラクダが側に居た、って訳? とんでもないこじつけだと笑われる。
運命的な出逢いと思い込むのは危険でもある。
ところが私は、自分の馬鹿さ加減を信じたの。
日記に書いた通り、 日々語り合い、慰めあう生活をしているからだ。
自分の直感に従って生きるとは、どういう事だろう。
世間の常識や周囲の目、空気を読んで、 考えに考えてもどうして良いのか
判らなくなってしまったら…。
誰かが言っていた。 「考えることを止めるんだ。」
自分が正しいと思える直感に従うしかないだろう。
「彼が、 あの夢のラクダです。」
No.65 『第24章 夢のお告げ』
温かいこの地方でも、今年はよく雪が降った。
気象庁は朝になって、慌てて昨日の予報を "雪時々晴れ" に訂正した。
ところが、 エイブおじさんの "嵐" はその逆だった。
「春に嵐が来る。」
この予言を、ギルバートがシャーロットタウン日々新聞の "アヴォンリー便り" に
書き送ったのだ。
エイブおじさんのお天気の予言は、当たった試しがないのに、
5月23日の午後7時と、日時まで指定して…。
そして当日。 本当に嵐はやって来た。 書いた通りに嵐はやって来た。
家庭内離婚生活をしていた当時、 バカ亭主について、話した内容から
その日の行動に至るまで、細かく書き残すようにしていた。
決して面白いとは言えない内容ばかりだが、中には "昨夜の夢" と言ったような
たわいもないものに、下手なイラストを描き添えたりした日もあった。
"昨夜の夢" に、らくだが現れた。 長くて黒いまつ毛に囲まれた、大きな涙目。
ベドウィンの娘の様に誇り高い私は、 らくだに乗って砂漠を旅する。
私は随分昔から、砂漠の風景に心惹かれていた。
風によって創り出される砂の造形が、横たわる裸婦の様にエロティックである。
なにもないのに、飽きることがない。
目的地は… わからん…。 けど、どっかに向かっているわけよ。
昼間の暑さが去った夜、 私は一人で大地にうずくまり、星と砂だけの空間に
取り残される。
らくだの背中にもたれて星を占ったり、古い歌を唄ったりして眠った。
独りでも寂しくはなかったけれど、語り合う相手がいないことが辛かった。
長い旅になりそう…
らくだは本来凶暴な動物らしい。 しかし私の乗るらくだは、変わり種。
まつ毛の長い、 涙目のらくだ。
夜になると、 歩きずめで疲れた足をさすってくれと、哀願する。
「ワシ、寝られんわぁ。 だから、あんたも寝んといてくれ〜」
結構わがままねぇ…
目が覚めてすぐに、らくだの絵を描いた。 ロバみたいになった。
イラストは下手なのだが、これは残しておかなければならん。
巡り逢える日のために…。 何となくそんな気になっていた。
このラクダに見覚えありませんか?
「この手のラクダは、ここら辺りじゃごろごろいるサ。
悪いナ…。 他をあたってくれないか。」
らくだはものを言わなかったが、 砂漠の静寂のなかで私は、はっきりと彼の声を
聞き、 確かに語り合ったのだ。
らくだはしばらく、私の心の中に居たけれど、 現実にはどこにいるのか
わからない。
生身の私は、 抱き合ったり手を繋いだりできなければ、満足する事はない。
私の旅は、自立への旅だったように思う。
離婚して一人になったから自立した、とは言えないのだ。
一人で生きて、楽しむ術を覚えなければ。 休みの日には海までドライブした。
映画を観た。 "おひとり様" で、食事もした。
一人で何をしてみても、 苦しいばかりの違和感を感じるばかり。
気の合う人と、共に会話したいと思った。
この快楽とも言える楽しみが与えられるよう、祈った。
夢のらくだが人になって現れますように。
「アンタ、 ラクダの何なのさ?」
最近気付いたんだけど、 それって… "赤毛のアン太郎" かも??
まつ毛は長いし、 あくびばっかりしていつも涙目だし、 結構わがままな
とこもあるし…。
夢に見たラクダが側に居た、って訳? とんでもないこじつけだと笑われる。
運命的な出逢いと思い込むのは危険でもある。
ところが私は、自分の馬鹿さ加減を信じたの。
日記に書いた通り、 日々語り合い、慰めあう生活をしているからだ。
自分の直感に従って生きるとは、どういう事だろう。
世間の常識や周囲の目、空気を読んで、 考えに考えてもどうして良いのか
判らなくなってしまったら…。
誰かが言っていた。 「考えることを止めるんだ。」
自分が正しいと思える直感に従うしかないだろう。
「彼が、 あの夢のラクダです。」
赤毛のアン 〜毎日読むアン〜
No.64 『第23章 乙女の夢が破れる時 その4』
目抜き通りに並ぶ、店の明かりが灯る。
街路樹に縁取られた道を、人々が通り過ぎる。
待ち合わせてお茶をするのにちょうどいい時間だ。
食事をして映画を観るのもいい。
車のヘッドライトは互いに反射し、暗闇で光る魚達のようにヌメヌメとして
見えた。
バスの窓から見るそんな景色は、 私がこれから戻ろうとする生活とは
かけ離れたものだった。
その頃私は、 "家庭内離婚" の生活を送っていた。
夫の給料は弁護士に差し押さえられ、私一人で家族の生活を支えていた。
「この街角で、誰かと待ち合わせて…」
私だって、私だって… 男とデートしたいやい!
昔、同僚の女性に聞いた話だが、 "付き合う" ってのは、私の考えているような
甘いものではないらしい。
「あの二人付き合ってるらしいよ…」
意味深に声をひそめる彼女。 え〜 どういう付き合いなんだろう。
「んっもう!」
バシッ!
「 "付き合う" ゆうたら、 "最後までいく" ゆうことじゃないの!」
バシッ バシッ! と叩かれた。
しっ… 知らなかった… そんな深い意味があろうとは。
この深い意味を知って "仮免を取ったつもりの私" は、 路上教習に出かけた。
お相手は、時々会社に来る社長の友人。
お昼ご飯を食べに行こうとしきりに誘われていたから。
土曜日の昼、中華レストランで待ち合わせすることになった。
5分程前に私が到着すると、すでに彼は来ていた。
だだっ広い駐車場で、 彼はタクシー運転手が使うような "羽ぼうき" で
クラウンの車体をにこやかに磨いていた。
私に気付くと更ににこやかに、まるで青年のように高々と手をあげた。
「ゲッ… どういうつもりなんじゃ こいつ」
味はまぁまぁの中華料理を食べ、好物のジャスミン茶もたっぷり頂いたところで、
ドライブに誘われた。
わたし、ご年配の男性はやっぱり駄目…
お断りしたのだが、 コーヒーだけでもと熱心に誘われて、私も折れた。
道を間違えたふりをしてラブホテルに突っ込むヤツはいるが、この方はほんとに
道に迷い、 田舎のお百姓の家の前でドン詰まってしまった。
どんな喫茶店なんやろか。 不安…
畑仕事中のおじいちゃんを捕まえて道を尋ねる彼。
おじいちゃんが目当ての喫茶店を知っているとは思えない、 と思っていると
彼は意気揚揚と帰って来た。
どうやら海へ出るつもりが、山へ登っていたと言うのだが、 明らかに山へ
登っている事は、聞かなくてもわかりそうなもの。
さっきからずっと坂道だったじゃん。
海辺に建つ、白亜のホテルの一階にある喫茶店に行きたかったらしい。
それなら私が道を知っていると言うと、彼はほっとしたようにハンドルを握ると
おしゃべりを始めた。
喫茶店でもしゃべりっぱなしの彼は、帰り道でついにクロージングに入った。
「最近の奥様方は、カラオケやら飲み屋でいい男性を見つけてはお付き合い
してるんですよ。」
ほぅ! でっ?
「ボクは、戦没者の慰霊をする退役軍人の会に入っておりましてね。」
はぁ?
「なんというか… 家庭にいる奥さんが、お付き合いするには
一番安全なんですよ。」
でっ?
「ボクと付き合いませんか。」
待ってました! その言葉の意味、知っとる、知っとる。
心の中では手を叩いて大喜びした私だが、最初から付き合う気はないので、
きっぱりとお断りした。
それから何度もお誘いの電話があったが、私が断るのでついには逆ギレ。
性悪女が昼飯目当てに、純情な男心をもて遊んだような言われ方で幕切れと
なった。
一人よがりもいいところ。
何が "戦没者の霊を慰める" よ。 とんだ偽善者だわ。
別にどうでもいいけど、あの男のどこが純情なのか未だにわからない。
私はまたひとつ賢くなった。
離婚が成立するまでは、このことを誰にも話さないと心に決めたから。
心の幼い、世渡りのへたな私を認めます。
そんな自分を守るには、黙って闘うしかない。
「男って… 男って… バツイチの女性とか、離婚調停中の女性を見ると
下心むきだしなんだから。」
かくして心に秘めたデートの夢は、私の破れた乙女心の中にあった。
心に思い描いているようなデートでなきゃ、絶対しない。
心が通じ合う人とお付き合いしなければ、せっかくバカ亭主と別れる意味がない。
柔らかな乙女の心は中年女(!)の革袋に包んで、 私はよろよろと
歩き始めたのである。
街路樹に縁取られた道を、人々が通り過ぎる。
待ち合わせてお茶をするのにちょうどいい時間だ。
食事をして映画を観るのもいい。
車のヘッドライトは互いに反射し、暗闇で光る魚達のようにヌメヌメとして
見えた。
バスの窓から見るそんな景色は、 私がこれから戻ろうとする生活とは
かけ離れたものだった。
その頃私は、 "家庭内離婚" の生活を送っていた。
夫の給料は弁護士に差し押さえられ、私一人で家族の生活を支えていた。
「この街角で、誰かと待ち合わせて…」
私だって、私だって… 男とデートしたいやい!
昔、同僚の女性に聞いた話だが、 "付き合う" ってのは、私の考えているような
甘いものではないらしい。
「あの二人付き合ってるらしいよ…」
意味深に声をひそめる彼女。 え〜 どういう付き合いなんだろう。
「んっもう!」
バシッ!
「 "付き合う" ゆうたら、 "最後までいく" ゆうことじゃないの!」
バシッ バシッ! と叩かれた。
しっ… 知らなかった… そんな深い意味があろうとは。
この深い意味を知って "仮免を取ったつもりの私" は、 路上教習に出かけた。
お相手は、時々会社に来る社長の友人。
お昼ご飯を食べに行こうとしきりに誘われていたから。
土曜日の昼、中華レストランで待ち合わせすることになった。
5分程前に私が到着すると、すでに彼は来ていた。
だだっ広い駐車場で、 彼はタクシー運転手が使うような "羽ぼうき" で
クラウンの車体をにこやかに磨いていた。
私に気付くと更ににこやかに、まるで青年のように高々と手をあげた。
「ゲッ… どういうつもりなんじゃ こいつ」
味はまぁまぁの中華料理を食べ、好物のジャスミン茶もたっぷり頂いたところで、
ドライブに誘われた。
わたし、ご年配の男性はやっぱり駄目…
お断りしたのだが、 コーヒーだけでもと熱心に誘われて、私も折れた。
道を間違えたふりをしてラブホテルに突っ込むヤツはいるが、この方はほんとに
道に迷い、 田舎のお百姓の家の前でドン詰まってしまった。
どんな喫茶店なんやろか。 不安…
畑仕事中のおじいちゃんを捕まえて道を尋ねる彼。
おじいちゃんが目当ての喫茶店を知っているとは思えない、 と思っていると
彼は意気揚揚と帰って来た。
どうやら海へ出るつもりが、山へ登っていたと言うのだが、 明らかに山へ
登っている事は、聞かなくてもわかりそうなもの。
さっきからずっと坂道だったじゃん。
海辺に建つ、白亜のホテルの一階にある喫茶店に行きたかったらしい。
それなら私が道を知っていると言うと、彼はほっとしたようにハンドルを握ると
おしゃべりを始めた。
喫茶店でもしゃべりっぱなしの彼は、帰り道でついにクロージングに入った。
「最近の奥様方は、カラオケやら飲み屋でいい男性を見つけてはお付き合い
してるんですよ。」
ほぅ! でっ?
「ボクは、戦没者の慰霊をする退役軍人の会に入っておりましてね。」
はぁ?
「なんというか… 家庭にいる奥さんが、お付き合いするには
一番安全なんですよ。」
でっ?
「ボクと付き合いませんか。」
待ってました! その言葉の意味、知っとる、知っとる。
心の中では手を叩いて大喜びした私だが、最初から付き合う気はないので、
きっぱりとお断りした。
それから何度もお誘いの電話があったが、私が断るのでついには逆ギレ。
性悪女が昼飯目当てに、純情な男心をもて遊んだような言われ方で幕切れと
なった。
一人よがりもいいところ。
何が "戦没者の霊を慰める" よ。 とんだ偽善者だわ。
別にどうでもいいけど、あの男のどこが純情なのか未だにわからない。
私はまたひとつ賢くなった。
離婚が成立するまでは、このことを誰にも話さないと心に決めたから。
心の幼い、世渡りのへたな私を認めます。
そんな自分を守るには、黙って闘うしかない。
「男って… 男って… バツイチの女性とか、離婚調停中の女性を見ると
下心むきだしなんだから。」
かくして心に秘めたデートの夢は、私の破れた乙女心の中にあった。
心に思い描いているようなデートでなきゃ、絶対しない。
心が通じ合う人とお付き合いしなければ、せっかくバカ亭主と別れる意味がない。
柔らかな乙女の心は中年女(!)の革袋に包んで、 私はよろよろと
歩き始めたのである。
赤毛のアン 〜毎日読むアン〜
No.63 『第22章 乙女の夢が破れる時 その3』
薔薇色の45歳、ミス・ラベンダーに、 再びロマンスの花が咲くのは
間違いなさそうな展開になってきた。
些細な行き違いで仲たがいした者同士を再び出会わせ、幸せな結末を
用意するのは、 モンゴメリー得意の筋書きだ。
キューピットは喧嘩別れしたスティーヴン・アービングの息子、 ポール。
そしてアン。
現実ではあり得ない奇跡が、物語のなかでは起こる。 それもまことしやかに。
ほんとに些細な事、 ちょっとしたやきもちなら可愛いもの。
ミス・ラベンダーは 「ごめんなさい」 と言えばよかったのだ。
彼女はただその一言が言えなかった心のまま、45歳まで持ちこたえた "少女" 。
やり直せる。
「お互いに理解しあえば仲良く暮らしていけるわ。」
?! 理解しあう??
別れた亭主が私をどう理解したかは謎だが、 何というか…、ヤツの頭が悪すぎた。
何に付け "理解不能" なヤツだが、 少なからず、それは理解できた。
何を聞いても私の納得できる回答は得られず、 日々繰り返される口論も、
後半戦に入ると段々アホらしくなってきた。
「あんたが苦労かけどうしだから、こんな白髪になったんよ!」
もう、こうなったら、 なんでもバカ亭主のせいじゃ!
「あんたのせいで、こんなにシミだらけになったでしょうが。」
化粧品代と美容院代、1年分=6万円。 出せ。
こんな修羅場でもユーモアを忘れない私であった。
そう、 私がユーモアを忘れない間に心を入れ替えるべきだったのよ。
だから "バカ亭主" 、なのだ。
「ワシが悪かった。」
バカ亭主は土下座して謝ったけど、私は更に腹が立っただけ。
「私がまだ笑えるうちに謝るべきだったわね。」
大人の別れに、理由は二つしかないだろう。 金か女。
だがこれもまた "大人の物語" なので、私の場合は金だった… というところで、
ここは止めておこう。
煮ても焼いても喰えないようなヤツと、口論をしている時間が惜しい。
元気のあるうちに別の人とロマンスを考えたがいい。
仲直りは現実ではあり得ない。 まさに "奇跡" なのだ。
でもね、別れて知ったけど、 別の人とのロマンスも結構、奇跡。
離婚後のモチベーションを上げるには大切な夢だけど。
その後まもなく別居して、家庭裁判所にも通い、 おかげで "離婚" については
人の相談にも乗れる。
先日、70歳を過ぎた叔母が 「離婚する」 と言い出した。
後添えに嫁いだ亭主とは、たびたび離婚騒動を起こしていた。
何かにつけて死んだ女房の事を口にしては、叔母をいじめていたが、
歳をとったらお前はもう必要ない、とばかりに追い出しにかかったのだ。
男って、 なぜ歳と共に馬鹿さ加減が増すのかしら。
だから、女は腹黒く生き抜くしかない。
「おばちゃん、別れたら損よ。 ほっといても、亭主が先に死ぬから。
それまで元気でおり。」
今までの苦労も涙も、報われる時がきっと来る。 それは亭主のお葬式。
それを聞いていた父が一言。
「その話はやめんか…」
母に先立たれた父の微妙な男心なのだろうか。
とは言え、なんでもかんでも別れたらいいと言う訳には行かないだろう。
世の中には、別れるために一緒になるようなカップルもいれば、
別れないで忍耐させられるカップルもあるみたいだ。
それぞれに、そこから学んでいくためなのだろうが、 辛いものは辛い。
友人の一人に、別れた亭主と再婚した人がいる。
ロマンスはない。 癌で余命宣告を受けた彼を引取ったのだ。
そんな状況に到っても、彼はまるで何事もなかったかのように、
お気楽に過ごしているらしい。
「あんなに嫌で別れたのに… 私もお人よしよねぇ…」
グチることしきり。
亭主を見捨てられなかった彼女も、早く死んじまえと悪態ついてる彼女も、
正直で私は大好きだ。
世の男達へ。
こいつと一緒に居る、と気付ける回路がひとかけらでもあるのなら…。
自分のお葬式で少しは惜しまれて、 涙を流して貰えるように、
もう少し考えてみたらどう?
間違いなさそうな展開になってきた。
些細な行き違いで仲たがいした者同士を再び出会わせ、幸せな結末を
用意するのは、 モンゴメリー得意の筋書きだ。
キューピットは喧嘩別れしたスティーヴン・アービングの息子、 ポール。
そしてアン。
現実ではあり得ない奇跡が、物語のなかでは起こる。 それもまことしやかに。
ほんとに些細な事、 ちょっとしたやきもちなら可愛いもの。
ミス・ラベンダーは 「ごめんなさい」 と言えばよかったのだ。
彼女はただその一言が言えなかった心のまま、45歳まで持ちこたえた "少女" 。
やり直せる。
「お互いに理解しあえば仲良く暮らしていけるわ。」
?! 理解しあう??
別れた亭主が私をどう理解したかは謎だが、 何というか…、ヤツの頭が悪すぎた。
何に付け "理解不能" なヤツだが、 少なからず、それは理解できた。
何を聞いても私の納得できる回答は得られず、 日々繰り返される口論も、
後半戦に入ると段々アホらしくなってきた。
「あんたが苦労かけどうしだから、こんな白髪になったんよ!」
もう、こうなったら、 なんでもバカ亭主のせいじゃ!
「あんたのせいで、こんなにシミだらけになったでしょうが。」
化粧品代と美容院代、1年分=6万円。 出せ。
こんな修羅場でもユーモアを忘れない私であった。
そう、 私がユーモアを忘れない間に心を入れ替えるべきだったのよ。
だから "バカ亭主" 、なのだ。
「ワシが悪かった。」
バカ亭主は土下座して謝ったけど、私は更に腹が立っただけ。
「私がまだ笑えるうちに謝るべきだったわね。」
大人の別れに、理由は二つしかないだろう。 金か女。
だがこれもまた "大人の物語" なので、私の場合は金だった… というところで、
ここは止めておこう。
煮ても焼いても喰えないようなヤツと、口論をしている時間が惜しい。
元気のあるうちに別の人とロマンスを考えたがいい。
仲直りは現実ではあり得ない。 まさに "奇跡" なのだ。
でもね、別れて知ったけど、 別の人とのロマンスも結構、奇跡。
離婚後のモチベーションを上げるには大切な夢だけど。
その後まもなく別居して、家庭裁判所にも通い、 おかげで "離婚" については
人の相談にも乗れる。
先日、70歳を過ぎた叔母が 「離婚する」 と言い出した。
後添えに嫁いだ亭主とは、たびたび離婚騒動を起こしていた。
何かにつけて死んだ女房の事を口にしては、叔母をいじめていたが、
歳をとったらお前はもう必要ない、とばかりに追い出しにかかったのだ。
男って、 なぜ歳と共に馬鹿さ加減が増すのかしら。
だから、女は腹黒く生き抜くしかない。
「おばちゃん、別れたら損よ。 ほっといても、亭主が先に死ぬから。
それまで元気でおり。」
今までの苦労も涙も、報われる時がきっと来る。 それは亭主のお葬式。
それを聞いていた父が一言。
「その話はやめんか…」
母に先立たれた父の微妙な男心なのだろうか。
とは言え、なんでもかんでも別れたらいいと言う訳には行かないだろう。
世の中には、別れるために一緒になるようなカップルもいれば、
別れないで忍耐させられるカップルもあるみたいだ。
それぞれに、そこから学んでいくためなのだろうが、 辛いものは辛い。
友人の一人に、別れた亭主と再婚した人がいる。
ロマンスはない。 癌で余命宣告を受けた彼を引取ったのだ。
そんな状況に到っても、彼はまるで何事もなかったかのように、
お気楽に過ごしているらしい。
「あんなに嫌で別れたのに… 私もお人よしよねぇ…」
グチることしきり。
亭主を見捨てられなかった彼女も、早く死んじまえと悪態ついてる彼女も、
正直で私は大好きだ。
世の男達へ。
こいつと一緒に居る、と気付ける回路がひとかけらでもあるのなら…。
自分のお葬式で少しは惜しまれて、 涙を流して貰えるように、
もう少し考えてみたらどう?
赤毛のアン 〜毎日読むアン〜
No.62 『第21章 乙女の夢が破れる時 その2』
仕事帰りに、父の家に立ち寄った。
「あんた、元気になったなぁ…」
感心されてしまった。 最近では若いとよく言われる。
しかし、 離婚する前後の5年間で、私は窶れ切っていたらしい。
鏡を見ても、自分では分からないものなのだ。
うまく繕っているつもりでいても、写真と他人の目にはよく事実が見えるらしい。
それって、 お〜、嫌だ。
乙女の夢が破れ、夫とは解り合えないままに終了。
修羅場を乗り越えて生まれ変わろうという瀬戸際に、私は数十万円もする
"美顔機" を購入した。
とりあえず "綺麗" であれば、人生なんとかなる。
「ムフフ… こいつさえあれば、永遠に… 私は美しい、ムフッ…」
ミス・ラベンダーは少女の心を持った、薔薇色に美しい45歳。
でも、髪は真っ白。
「それは、魔法にかけられている証拠よ。」
アン… それは、おとぎ話。
誰かが魔法を解いてくれさえすれば、輝くばかりの若さと美しさを
再び取り戻すって?
それは、あり得んわ…
魔法だなんて非現実的な事で、ごまかされていられない。
私も40代から立派な白髪頭だったけど、 魔法を解いたのは美容師の使う
白髪染め。
今や年間6万円余りを使って維持している。
これのどこが魔法でなんかあるものか。
もし、黒い髪に生え変わる薬ができたとしたら、それこそが魔法だ。
時間もお金もかけて、維持したい美しさってなんだろう。
若々しく、美しくあるために努力したあげく、 へとへとのすっからかんに
なってしまう。
どっちみち、皺くちゃになって死ぬんだろうに。
今朝。 目は覚めたのに、体が起きられない。
「いやだ! 起きれんがな。 おまえ、会社休めや。」
私の身体がそう言った。
いい歳になった今でも、時には会社に行きたくないことがある。
頭が痛いとか、お腹が痛いとか、子供みたいだと思うが、 私はいつも
身体の言うことを聞いて休むか、重役出勤する。
実は面目ないのである。
「若いってことは、非常識ってことかもしれん。」
"赤毛のアン太郎" が優しい口調で付け加えた。
「他人から見ればな。」
いつまでも年をとらないでいるには、勇気が要る。
そしてもうひとつ、 子供の頃どう感じたかを忘れない事。
ミス・ラベンダーは食事の前に言う。 楽しそうにね。
「さぁ、なにかおいしくて消化の悪いものをいただきましょう。」
「さぁ、いい歳をして人から笑われるような事を考えましょう。」
私ならこう言うかしら。
この度、アン太郎のキーボードに、友人達のベース、ドラム、ギターを加えて
バンドをすることになった。
で、私が歌うつもりよ。
幼稚園の劇でソロを歌って以来だけど、これぞ笑われるにはもってこいの
選択でしょう。
いつも座って聴いているだけじゃつまらないんですもの。
「昔からやってみたかったのよ。」
決まって私はそう思う。 笑われるのが恥ずかしいようでは、まだまだ青い。
乙女の夢が破れて、 私は大人になった。
おばさんになりたくないとジタバタし、散財したけれど、何とか変われたようだ。
だが、いざ変わってみると、 なんだか懐かしい、この感じは…
私は子供の頃に戻っていたんだ。 これって、ふりだしに戻るってこと?
「まぁ、それも良しか…」
ゲームにも人生にも、 "ふりだしに戻る" ってのはつきものだ。
「あんた、元気になったなぁ…」
感心されてしまった。 最近では若いとよく言われる。
しかし、 離婚する前後の5年間で、私は窶れ切っていたらしい。
鏡を見ても、自分では分からないものなのだ。
うまく繕っているつもりでいても、写真と他人の目にはよく事実が見えるらしい。
それって、 お〜、嫌だ。
乙女の夢が破れ、夫とは解り合えないままに終了。
修羅場を乗り越えて生まれ変わろうという瀬戸際に、私は数十万円もする
"美顔機" を購入した。
とりあえず "綺麗" であれば、人生なんとかなる。
「ムフフ… こいつさえあれば、永遠に… 私は美しい、ムフッ…」
ミス・ラベンダーは少女の心を持った、薔薇色に美しい45歳。
でも、髪は真っ白。
「それは、魔法にかけられている証拠よ。」
アン… それは、おとぎ話。
誰かが魔法を解いてくれさえすれば、輝くばかりの若さと美しさを
再び取り戻すって?
それは、あり得んわ…
魔法だなんて非現実的な事で、ごまかされていられない。
私も40代から立派な白髪頭だったけど、 魔法を解いたのは美容師の使う
白髪染め。
今や年間6万円余りを使って維持している。
これのどこが魔法でなんかあるものか。
もし、黒い髪に生え変わる薬ができたとしたら、それこそが魔法だ。
時間もお金もかけて、維持したい美しさってなんだろう。
若々しく、美しくあるために努力したあげく、 へとへとのすっからかんに
なってしまう。
どっちみち、皺くちゃになって死ぬんだろうに。
今朝。 目は覚めたのに、体が起きられない。
「いやだ! 起きれんがな。 おまえ、会社休めや。」
私の身体がそう言った。
いい歳になった今でも、時には会社に行きたくないことがある。
頭が痛いとか、お腹が痛いとか、子供みたいだと思うが、 私はいつも
身体の言うことを聞いて休むか、重役出勤する。
実は面目ないのである。
「若いってことは、非常識ってことかもしれん。」
"赤毛のアン太郎" が優しい口調で付け加えた。
「他人から見ればな。」
いつまでも年をとらないでいるには、勇気が要る。
そしてもうひとつ、 子供の頃どう感じたかを忘れない事。
ミス・ラベンダーは食事の前に言う。 楽しそうにね。
「さぁ、なにかおいしくて消化の悪いものをいただきましょう。」
「さぁ、いい歳をして人から笑われるような事を考えましょう。」
私ならこう言うかしら。
この度、アン太郎のキーボードに、友人達のベース、ドラム、ギターを加えて
バンドをすることになった。
で、私が歌うつもりよ。
幼稚園の劇でソロを歌って以来だけど、これぞ笑われるにはもってこいの
選択でしょう。
いつも座って聴いているだけじゃつまらないんですもの。
「昔からやってみたかったのよ。」
決まって私はそう思う。 笑われるのが恥ずかしいようでは、まだまだ青い。
乙女の夢が破れて、 私は大人になった。
おばさんになりたくないとジタバタし、散財したけれど、何とか変われたようだ。
だが、いざ変わってみると、 なんだか懐かしい、この感じは…
私は子供の頃に戻っていたんだ。 これって、ふりだしに戻るってこと?
「まぁ、それも良しか…」
ゲームにも人生にも、 "ふりだしに戻る" ってのはつきものだ。
赤毛のアン 〜毎日読むアン〜
No.61 『第20章 快適なマンションライフ 〜埃との戦い編〜』
ある爺様が若い時、料理の下手な嫁に言うたそうな。
「わしは炊事洗濯させるために "オンナ" をもろうたんじゃ。
"カンナ" はいらん。」
大工道具の "
「わしは炊事洗濯させるために "オンナ" をもろうたんじゃ。
"カンナ" はいらん。」
大工道具の "