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 赤毛のアン 〜毎日読むアン〜                           

No.106 『第35章  笑い』

 


   〜「生きていて、いったいなんになるの? アン?」
    ステラアンにグチをこぼしました。

    アンの答えはいつも通り立派だわ。
    でも、憂鬱な雨の夜には、 心は響き合うのを忘れてしまうようです。

    ごもっともな答えではなく、ステラはアンの本音を聞きたかったのよ。




22歳ともなれば、もう大人。



4年生になり、卒論で忙しくなった。

ミッチミス・クセの下宿に入り浸って、オトコの話で暇を潰す事もなくなった。


夜遅くまで勉強していると、これが何になるんだろうと何度も考えてしまう。

そりゃ、できることなら立派な卒論を書いて褒められたいが、
私の脳ミソじゃ無理なのは明白。

とにかく、提出することに意義があるのだ。

卒業させてもらうにはとりあえず、卒論をやっつけねばならないと、
私は自分に言い聞かせる。


しかし、蒸し暑い雨の夜、 煮詰まった頭で私は悩んでしまう。

これが何になるんだろう… 

立派な業績を残した、偉大な学者達の考えをただコピーしているだけだ。

新しい論理はおろか、自分の解釈で光をあてるなんて… 夢のまた夢。



頭が疲れると、学生バンドのライブに私はたびたび足を運んだ。

忘れようとしても思い出される卒論の事… ストレスのせいか、舌がヒリヒリする。

脳ミソが痺れる音量は、そんなウサを忘れさせてくれるからだ。


ところが今夜のバンドは… ほんとに、まぁ、 あまりにひど過ぎる。

これでは逆にウサが溜まってしまう。

オリジナル曲をやるバンドはなく、ほとんどは好きなバンドや曲のコピーだ。

そういうのに限って、まず自分が楽しんで演る事をモットーにしている
などと平気で言うから腹が立つ。

ハモらないビートルズや、音がデカイだけのロックを聴かされる身にも
なってくれや…。

この人達は自分が楽しめればいいのであって、これが何になるのかと
自分に問う事もなく、苦しむこともないのだろう。


設備もミキサーもボロのライブハウス。 それに見合ったバンドの迷演奏。

この暑いのに、エアコンはダウンする始末。

機材と照明と出演者の熱気でむせ返る中、店のマスターは涼しい顔で打ち水を
始めたが、窓際の客はびしょ濡れ。 それが汗のせいか、打ち水なのか…。

マスターは苦笑しながら、演奏中の必死の面々には目もくれず、
ステージ前の床をのんびり拭き始めた。

あんまり見られん絵よなぁ…


ビートルズのコピーバンドは、最初のコーラスの第一声からハモれていない。

それ以前に声が潰れ、メロディーになっていない。

そして最後まで、 とうとうハモリは聴けなかった。


ヘビメタバンドは… リズムはおろか、チューニングさえ合っていない。

聴いている方が "ヘビー" だ。

弾けないんなら、せめて最後はギターをブチ壊して、大暴れしてよ。

そしてそれを最後に、音楽はヤメて学業に専念して…。 お願いだから…



私は耐えられなくなって、外に出た。

"佐竹" は、軽く耳栓をしているから平気で居られるのだ。

 「名曲は誰がやっても名曲でございますよ。 迷演奏の名曲でございます
と、一人でウケている。


私は、アンのご立派な見解を思い出していた。

数々の名曲を生み出した、偉大なるビートルズ。

彼らの曲をコピーすることで、彼らが創り上げた音楽や感じ方を引き継いで
いけるのだから、 迷演奏にも価値があるってことかしら…

いや、そうではないらしい。

 「お嬢様! ご覧下さいませ!

佐竹が爆笑している。

 「本気で唄っておられるのに、ぜんぜんハモっておりませんよ。

 いやぁ〜 来て良かった。 こんなに笑わせてもらえるとは…

 この世に笑いがある限り、生きている甲斐があったというものでございます



そんな佐竹の "一言" で、私はどうにか "ヘビー" な気持ちを持ち帰ることなく、
むしろ、何かしらほっとした気持ちで家に帰り着いたのだった。



確かに… 何事も笑いに変える能力は、価値無きごときものに価値を見出すのだ。

そういう自分だって、なんぼのモンなんよ〜 って、自分を笑える事。

思い通りにはならない人生を生き抜く知恵とは、 笑って切りぬける
ってことなのだ。


笑ってもらえるような卒論を書いて卒業しよう。

私はほっと肩の力を抜いた。
posted by 片岡 よしこ at 21:04 | Comment(0) | TrackBack(0) | バックナンバー
 赤毛のアン 〜毎日読むアン〜                           

No.105 『第34章  赤白水玉のお稽古かばん』

  〜ジョンの母親が亡くなりました。 そして、真相が明らかにされたのです。

   なんてクソババアなんでしょう。

   息子を誰にも渡したくないからって、ジャネット
   結婚を申し込まないことを誓わせるなんて。

   余命半年のはずが、結局20年近く生き永らえたものだから、
   ジョンも辛かったでしょうが…

   ジャネットも、余程ジョンの事が好きだったのね。




22歳ともなれば、もう大人。



15年、 かなり長いと言っていい年月だ。

その間 "一度だけしか洗濯していない" キルティングの手提げバッグは、
結構カワイイと褒められる事が多い。

それも、何故か皆オトコだ。

両端のどちらからでもファスナーでパックリ開閉できるようになっていて、
ピアノの教則本がすっぽり入るので、初めはお稽古かばんに使っていた。

柄は、赤地に白い水玉模様。 …なんて、もしこれが服なら派手過ぎる。

これを着こなせるのはミッキーマウスの "オンナ" ミニーと、
オールディーズバンドの老けたポニーテールくらいのものかしら…



通学には大きな黒いバッグ。 春も夏もコイツだけ。

それ以外は赤白水玉。 正直くたびれて、色も褪せている。

バーゲンを見る度に心が動くが、 新しいのを買ったらこの "赤白水玉の子" は
どうなるのか?

きっと私は、この子を捨てちゃうに違いない。

いや… 何でも捨てて始末するのが大好きだから、ゼッタイ捨てるだろう。

店頭で新しいバッグを右肩に、赤白水玉を左肩に…、 鏡の前で見比べて、
ため息と共に、新しい方を棚に戻す。

新しいのと入れ替えに "この子" を捨てる自分に、気が滅入ってしまうのだ。



ある時。  "ゴウコン" に、赤白水玉を下げて行った。

他の女の子達は、普通に流行のデザインとかブランドものとかをお伴に
めかし込んでるから、私みたいな赤白水玉は無視されるどころか、 評価外" だ。

 「かわいいカバンですね

男の子のうちの一人に言われたが、私にはわかってる。

これって、褒められてんじゃないからねぇ。

つまり、大学生が "赤白水玉のお稽古かばん" ですかぁ、ってことで…。

喜んでる場合じゃないのに、 やっぱ… オトコ受けいいんだわ…

わかっていても、内心私は嬉しい。



長く付き合ってきたものを捨てるには、それなりにちゃ〜んとした理由が要る。

引っ掛けてバリッと破れるとか、お弁当に入れたオカズの煮汁がこっぴどく
こびりつくとか、 加えて、こぼれた煮汁の魚臭さが抜けないとか…

そんな決定的な事でも起こらない限り、新しいのに変えられない。

だが… そうなったらなったで、私は自責の念に駆られて落ち込むだろう。


赤白水玉のバッグが好きでたまらん訳ではない。

使いものになる間は決して捨てない、と約束しているのでもない。

むしろ新しいバッグが欲しいと考えるのは自然なことだし、
取っ替えるのも私の自由だ。

日頃から目星をつけているものが何点かあるのだが、本当は買う気など全くない。

10年以上も同じバッグを持ち続けると、違うバッグがある事など
考えられなくなるものなのだ。



それでも人は変わる。

新しい葡萄酒は新しい皮袋にいれろ」 っていうでしょ。

新しい葡萄酒は、古い皮袋を破いてしまうから。

でもね、 "まぁいいや まだ使えるから" と、新しい葡萄酒を古い袋に
いれちゃうのよ、 私は。

そして、 破けて初めて、赤白水玉が似合わないオンナになったと気付く。



お気に入りと言う訳でもないのに、新しいのに変えられない。

それはやはり、 私は "赤白水玉" のバッグを愛しているのだ。

もしかすると… 愛するとは、捨てる理由が見つからないことなのかもしれない。


次が見つかればそれで良い、というものでもない。

捨てられないから、見つけられないのだ。 それが愛というものなのだから。


"愛する" とは、 自分から相手を捨てることができないってことなのだ。
posted by 片岡 よしこ at 22:31 | Comment(0) | TrackBack(0) | バックナンバー
 赤毛のアン 〜毎日読むアン〜                           

No.104 『第33章   "亀族" 』


  〜態度をはっきりさせないままで、20年も女を待たせる男なんて
   許せないでしょ?

   毅然とした態度で "根性" のあるところを見せて、
   ジョンを炊きつけてやりましょうよ。

   アンは思わせぶりなジョンに、復讐心を燃やすのでした。

   でもジョンには、人に言えない様な事情があるのです、きっと…




22歳の冬はホンマに寒いワ。



私は "" に1ヶ月に一通の手紙を書き、 "" は3ヶ月に一通、
きちんと切手を貼った封筒で返事をよこした。

そうして4ヶ月目になる頃、二人で飲みに出掛けた。



"亀" はちょうど穂高から帰ったところで、 山の空気がまだ、左肩あたりに
靄のようにかかっていた。


山男歩きになってるわよ〜
でっ、試してみた? わたしを "おかず" にしてくれた?


 「忘れてた…

 … … 。

"おかず" になってみたかったのに、ガッカリである。



私は "亀" が好きだった。

山でどんな夢を見るのか尋ねたら、 「寝袋の中で、寝てる夢」。

そんな事を、ごく普通に答える所が好きだ。


なんでもっと手紙くれないのよ

 「頭の中ではうまく書けるのに、紙に書くと別モノになるから

その感じ、わかる…。


飲みに行くのは安い店に決まっているし、行きも帰りも徒歩。

私の大学のちゃらちゃらしたお嬢サマは、 "男友達"をつくるなら
想像も出来ないくらいに "貧乏くさい" のがイイ。

要するに、  "亀" は私には分相応な "男友達" だった。

そう、男友達。 男友達は、死ぬまで恋人にはならないものなのだ。


一方、 "亀" の方は… 私の事をどう思っていたのかは分からない。

なんにもしないって事は、私には性的魅力がないって事だろう。

この年頃の男ってのは、とりあえず何でもいいからヤリたいものなのでしょ?


カメ! 何かお歌を唄いなさい!

横断陸橋の上で、 "亀" は唄った。

スイスだかオーストリアの、古い山の歌…

恋する娘に贈ろうと、崖に咲いた黒百合を採ろうとして、若者が足を滑らせて死ぬ…

そんな、ロマンチックな歌。


体が自然に動いて、私は "亀" の胸に体を預けていた。

そして顔を上げ、小鳥のように "亀" に口づけした。

暗くて、 "亀" の目がよく見えない。

ごめん… 気が利かなくて… 女の子に恥をかかせて、ごめん… 


一瞬 "亀" が何を言っているのか、私にはわからなかった。

そして次の瞬間。 私は "亀" をぶち殴っていた。

キスしといて、ごめんって…、 それ、なに?
私を好きでもなんでもないって事じゃないよ!

何でそんなこと言うんよ!


"亀" はアホみたいに黙っている。

アンタなんかねぇ、崖から落ちて記憶喪失になって、何もかんも忘れて、
イチからやり直ししたらエエんじゃ。
言うとくけど、何遍やり直してもまた崖から落ちるんじゃ。

一生オンナとヤレんのじゃ! アホ! ボケ! ハゲ!


我ながら素晴らしい、呪いの言葉。 さぞや "亀" もビビッているに違いない。

しかし…  "亀" の甲羅は厚かった。


 「片岡って、面白いよ。 誰も言わんようなこと言う。 そこが好きだけど…
 僕は普通のヤツだから…



つまり…

普通の "亀" は普通の事を言い、普通にかわいい "女の子の亀" がいいという事で、
それは 「わたしは "亀族" ではない」 という事に他ならない。

私と "亀" とは、千年でも万年でも友達のままなのだろう。

あの夜のキスは、その証。

だって、まるで兄弟同士の挨拶みたいで…。 体の芯が疼かないんだもの。



後日私は、 "亀" がイメージ通りの "普通にかわいい亀族の女の子" と歩くのを見て、
ひどく得心したのだった。
posted by 片岡 よしこ at 06:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | バックナンバー
 赤毛のアン 〜毎日読むアン〜                           

No.103 『第32章  "ミエ" 』

  〜下宿先の女主人、ジャネットは40歳になりましたが、独身でした。
   恋人のジョンが20年もの間、結婚を申し込まないからなのです。

   ジョンの母親の看病をするのが嫌で、母親が死ぬのを待っている、などと
   噂する者までいました。

   それでもジョンは、ジャネットの所に通ってくるのを止めないのです。

   なぜ?  理由がわかれば、何か手の打ちようもあるのに…




22歳の秋。



 孤独を慰めてくれる人は誰なの?

 孤独と寂しさの匂いを嗅ぎ取る時、心が動く。

 だから、孤独な人は孤独な人を好きになる。


 孤独のかけらもない人に憧れることがある。

 その眩しさに惹きつけられてゆくけれど、

 結局は理解してもらえず、離れていくもの。


 寂しさは時として、人を駆り立てる。

 「私はここに居るよ」 そう言いたいが為に人を動かす。


 その声は小さくても… 動いた分だけ、足跡は残る…。



"ミエ" は目立ちたがりの女の子だ。 不器量でダサイからだろうか。

一番ダサイ服装の人を探せ」と指令を下せば、ミエに会った事のない人でも、
おずおずと指をさして言うだろう。

… あのひと… ?

アタリです。



 「どうして気付かれたのか、わからないの… 」


ミエはいつもより女らしく見える。 まともな服を着ているせいだろうか。

いつもは、上等な生地で縫ったダサい服を着ているのに。


 「私が不倫しているらしいと会社で噂になってるの

一瞬私は、この子に騙されていたのだろうかと思った。


ミエは高校時代から、 "男嫌いだ" と公言していた。

顔をしかめて両手をヒラヒラと振りながら… 男に触られたらジン麻疹が出る、などと
いささかオーバーアクション気味だった。

器量が悪いから、興味のないような事を言っているのだと、私は思っていた。

ミエだって、男の子に興味はあったのだ。


高校時代、 ミエは私になりすまして、東京あたりの男の子と文通していた。

私は家に来た手紙を、学校でミエに渡す日が続いた。

ミエは親が煩いからと言っていたが、  "本物の男嫌い" が文通したり、
修学旅行の時にその相手と会ったりはしない。

だが会ってから… 以降、文通は自然消滅してしまった。



就職したミエは、 OLになっても相変わらず不器量でダサかった。

シミひとつない滑らかな白肌で、多くの欠点のうちの "七つの難" を
かろうじて隠していた。

もし平安時代に生まれていれば、卵に目鼻の下膨れ
絶世の美女だったに違いない。


会社関係の人物ではないし。 彼は大阪にいるから、目撃されるはずない。
要するに、周囲に感づかれるなんて有り得ないのよ


まるで、事件を捜査する刑事の口調だ。

実際その通りだろう。 段取りのいい彼女がミスを犯すとは考えられない。


相手は65歳の妻帯者で、 大阪でマンションの管理人をしながら、
歴史小説を書いているらしい。


原稿の校正と清書は彼女が手伝っていて、自費出版のための費用の一部を
彼女が貸したそうだ。

二人がどうして知り合ったのかは不明だが、プライドの高いミエは
話したがらないから、あえて聞かない。


そう… 誰も知りようのないことだから、ミエ… 私に知って欲しいんだよね。

不倫の噂話は "でっち上げ" かもしれないと、私は思ったのだ。


誰にも言わないでと、ミエに約束させられた。

いっそ約束を破った方が、彼女は喜んだかもしれない。

誰にも知られず始まって、誰にも知られず終わってしまうなら、
それではまるで "無かった事" になってしまう。

ミエは "事実だった" という刻印を、私の記憶の中に残しておきたかったのかもしれない。
posted by 片岡 よしこ at 07:58 | Comment(0) | TrackBack(0) | バックナンバー
 赤毛のアン 〜毎日読むアン〜                           

No.102 『第31章   "亀" の歩みはのろい』



  〜バレー・ロードからフィルに宛てたアンの手紙は、かなり長いです。
   たっぷり "1章" あるんだから。

   でも、離れている人と手紙でしか話せない事が沢山あるのだと、私は思います。




22歳の秋。



部活のつきあいで、他の大学の文化祭を見に行った。

たまにはオトコのいる空気を吸っておかないと、免疫力が低下する。


秋の夕暮れは早く、木立の下に設営された模擬店のテントには灯りがともって、
考古学的発見に沸き立つ発掘隊の野営地のような賑やかさだった。

20歳になっていない連中を含めて、学生達は公然と酒を飲んでいた。


誰とも話が合わないとわかったら、そこから先の私は社交的だ。

話には尾ひれを付けて面白くもするし、見てきたような誠しやかなウソ話も得意だ。

だが、 相手が打ち解けてくればくるほど、私の心は孤独になる。

私が楽しませてあげてるのに、 「あなたって、楽しい人ですね」 って…、
あんた達が私を楽しませる立場じゃないかと思う。



類は友を呼ぶという。

紹介されたS大の "" は、名前通りの風体だが、いい目をしていた。

上っ面だけを見る目ではないって感じ。 ぼそぼそとはっきり、物を言う人だ。

おたくの女子大の学祭に行きましたよ。
 女の子が一人でいるのは情緒があっていいなぁと思うけど、あれだけ群れてると、
 何というか… 胸が悪くなって帰りましたよ。

 展示はどれも少女趣味で、ガッカリだなぁ


私は "少女趣味" と言われると、なぜかカ〜ッとなる。

女子大の学祭にオトコ一人で行くのが、そもそも間違いなのよ。
彼女に案内してもらうのが、お作法ってものよ


負けずに言い返した。



"亀" は登山、というか… 一人で山を徘徊するのが趣味だという。

山を登ったり降りたりの、何がそう楽しいのかわからんわ。

風呂にも入らないで、土の上でよく眠れるものだ。

ねぇ、眠れない時は、オナニーとかするの?

 「いや、しない

なにもしないで、ただ寝るの?

山の中なんだから、思いっきり声出してイケばいいのに。

 「いや、もともと声は出さないんだ


押され気味で "分" が悪い、 私はこういうドタンバで、
すごくいい事を思いつく天才だ。


ねえ、それじゃこうしたらどう?
寝袋の中で眠れない時は、わたしを "おかず" にするといいわ。

 むちゃくちゃいやらしいこと想像していいのよ。 やりたい放題を許可します。
 そのかわり、どうだったかちゃんと報告すること。 ねっ? いい考えでしょ?


"亀" は、甲羅からめいっぱい首を伸ばして驚いた。

そして、甲羅に隠した柔らかい腹の中から、クックッと笑う声が聞こえる。

 「ありがとう。 気が向いたらそうさせて貰うよ



偶然にも、 "亀" の下宿は私の家に近かった。

金色に輝く銀杏並木の下を抜けて、木立の茂る公園を横切れば、もうすぐ家だ。

酔いも覚めてしまった。


寒いわ…」 私が身震いすると、

 「もしかして、 きみ、トイレ?

「 …。 私の存在って、あんまりセクシーじゃないと思う?

"亀" は苦笑していた。

今度は顔でも笑っていたので、小さい目はすっかり肉に埋もれてしまった。

 「若い男ってのは、なんでもいいからとりあえず、女の子とヤリたいだけなんだ。
 セクシーかどうかなんて、考えてられないよ



私のこと、押し倒したい?

 「押し倒したいよ


というところで、残念ながら時間切れ。 私の家に着いた。

今夜、私を押し倒してるとこ想像していいよ

 「ありがとう。 やってみるよ


この事件以降、私達はご近所に住んでいたのに、長い間手紙の付き合いを続けた。

私は郵便屋さんを煩わせることもなく、買い物ついでに下宿のお婆ちゃんに
手紙を渡した。

二階の窓を見上げると、 洗濯物に混ざって、時に納豆の藁包が引っ掛けてある。

納豆が好物なんだ…


"亀" からは、切手を貼った手紙が来た。

結構なボリュームで "亀" の生態を綴ってあり、最後の締め括りには

  … 一緒に酒でも飲みましょう。 キミと話していると楽しい。
電話が苦手なのですが、ここは電話するしかないんでしょうね。




"亀" よ…、あんたまでそんなこと言うのね。

私を楽しませない、手も出さない、 そんな人はのろいにかけられ、
すべからく痛い目に遭うのよ。


あんたも "ヨシロー" と同じ目に遭いたくなかったら、
甲羅を脱いで、バッタの物マネでも何でもやって…

とにかく、私を心の底から笑わせてちょうだい。
posted by 片岡 よしこ at 23:11 | Comment(0) | TrackBack(0) | バックナンバー
 赤毛のアン 〜毎日読むアン〜                           

No.101 『第30章  ナルシズム』


  〜エスター・ヘイソーンに代わって、7月と8月の間だけ
   アンはバレー・ロードの学校で教えることになりました。

   アンを迎えに来たのは、最近結婚したばかりだという
   中年の太った女性でした。

   「私は自分に向かって言ってやったんだよ。
   サラ・クローさんや、 そうしたいんなら、その金持ちのW・Oと
   結婚するがいいけど、幸せにゃなれないよ。
   人間、ちょいとでも愛がなけりゃ、一緒にやっていけるもんじゃない。」

   それで金持ちのW・Oをフって、貧乏なトーマスと結婚したんですって。




22歳になってもこんな私…



夢を見て、夜中に目が覚めた。 どうせ夢だ、気にせんとこっ… 二度寝した。


しばらくして、京都の "柏木さん" から手紙が届いた。

一ヶ月ほど前ですが、ヨシロー君が夜中に車で事故をしました。
ガードレールに激突し、朝まで発見されなかったそうです。
幸い大事にはならず、今は元気です



正夢だったのかしら… あの夜の夢は…。

"ヨシロー君" が田舎道の急カーブで、曲がり角にまつられている "地蔵堂" に
突っ込む、という夢だった。

ひっくり返ったお地蔵さんの頭突きで割れたフロントガラスが飛び散っている。

ヨシロー君は額から血を流して、死んだようにぐったりしていた。

私ったら、まだ彼に未練があるのだろうか。


柏木さんの手紙にはこんな事も書かれていた。

でも、妙な噂があります。 事故以来 "あっちの方" が…
つまり、男としての "機能" が具合の悪い事になってるという噂です。

本人から聞いたと言う人もいるそうです。 よしこさん、何か聞いていますか?」


うんにゃぁ なんも聞いてない…

だって、私は彼とはとっくにお別れしているし。



それにしても…

オ〜 ホッ ホッ ホッ! これぞ、執念の正夢攻撃とでも言おうか。

ヨシローを諦めはしたが、別れても潜在意識の中では恨んでいるとは、
我ながらなかなかアッパレな執念である。

 ヤツは私の想いを無視し、手紙の返事もよこさない。

 下宿に押しかけて行っても手を出さないから、こんなことになるのよ。

 今から後悔しても手遅れよ。 いい気味だ。

 私の方から好きになってあげたのに。

 私を好きになってくれない男はすべからく憎まれて、痛い目に遭うのよ。

 思い知ったか、ヨシロー。 復讐してやったような気分だわ。


私にとって "男" とは愛する対象ではなく、自分を愛してくれる者でなければ
ならないの。

「好きだよ」 「かわいいよ」

最低でも100回くらいは言ってくれる人が必要なのだ。

少なくとも22歳の小娘にはね。


心理学の講義で教えられた。

こういうのをナルシズム、自己性欲、あるいは自己愛と呼ぶのだそうだ。


美少年ナルキッソスに恋いこがれて、片想いのままもだえ死んだ妖精にでも
なったつもりで、恋に狂ってみたけれど…

所詮私は未熟で、他人を愛することを知らなかったのだ。



あの時、 私は本物の恋をしていると思った。

だけど、何にもわかっていなかった。




信じよう、 いつか笑い飛ばせる日が来ることを。

こうしている間も、現在はかたっぱしから過去になる。

"詩人が夢みた恋" は終わり、今はさよならを言うだけ。

笑って過ごせる日のために。
posted by 片岡 よしこ at 11:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | バックナンバー
 赤毛のアン 〜毎日読むアン〜                           

No.100 『第29章  海の夜明け』


  〜ギルバートはダイアナの結婚式に参列する為、
   アヴォンリーへ帰ってきました。

   時は移りゆき、人は変わり、アヴォンリーはさみしくなりました。

   ギルバートは、本当にクリスティーンと付き合っているのでしょうか。
   彼は、アンのことを諦めてはいない… そんな気がするのです。

   気付いていないのは、アンだけなのではないでしょうか。




21歳の夏休み。



"キヨコが暮らした島" を見たくてここにやって来たのだが、
なんだかガッカリしてしまった。


キヨコの知り合いだ、と島の人々に歓迎され、獲れたての魚料理なんぞを
ご馳走になり、お土産まで頂いてる場面を想像して、
良い気分になっていたのだが…

青いうわっぱりの女には、知らんぷりされてしまった。

頼みのミス・クセは岩場で転んだ時の打ち身のせいで、釣りは断念。

獲れたての魚のさしみは、幻と消えた。



田舎とは、住み心地がよいものとは言えないようだ。

田舎暮らしに憧れる人が増え、夢を叶えた人々の暮らしぶりが紹介されているが、
人付き合いに関する情報が少なすぎる。

良いことばかり書かれているが、本当のところはどうなんだろうか。

余所者は、しょせん余所者扱いしかされないような気がするのだ。



赤毛のアンの舞台であるアヴォンリーでも、余所者は変人扱いだ。

村の人々は余所から移って来たというだけで、色眼鏡で見る。

格好の "噂話の種" なのだ。


アンの家で家政婦をしているスーザンの言うには、 噂話やゴシップの情報を
知りたがるのは、まっとうな婦人である証拠なんだそうだ。

田舎暮らしを楽しんでいる人々の多くは、家族ぐるみで移り住んでいるようだ。

言い換えれば、一人では田舎暮らしは到底楽しめないと言うことなのだろう。

キヨコが毎夜、涙で枕を濡らしたのも判る気がする。


そう言えば、 島での楽しい思い出をキヨコから聞いたことがない。

辛い思いをしてまで、島に居たのは何のためだったんだろう…


私は、夜明け前に起きて海岸に出た。

海の夜明け、 空は徐々に日の光に溢れ、色づく。

波はまるで、生きて呼吸しているかのようだ。

だが、海は何も答えてはくれない。


佐竹がゆっくりと、波打ち際に向かって歩いている。

靴を波が取り囲み、一気にズボンの裾まで濡らしていく。

私は大声で佐竹を呼んだが、振り返らない。 心臓が少し震えた。

か ず ま ! 」 たまらなくなって、名前を呼んだ。

佐竹が振り向いた。 私の心臓はホッとする。

佐竹が私の所まで歩いて来る時間が、ひどく長く感じられた。

 「早起きでございますね」 

そうよ、 今日、帰るのだから。


 「お嬢様… 私は、かつてこの島に死ぬためにきたのでございます。
 岩場で引き揚げた "どざえもん" は私自身だったのだろうと思います。
 死ねば、私もあのような姿になったのですから。

 あの時キヨコ様に大声で怒鳴られ、お手伝いをし…
 気分が悪くなりまして… 死ぬ気が失せました


佐竹…、 意気地がなくてよかったわね


面目なさそうな佐竹の笑顔をみながら、私は思った。

何かの役に立ったかどうかなんて、ずっとずっと後にならなきゃ
判らないものなのだろう。

その場で結果の出ることは、その場で終わりなのだ。

いつ、何処で、何をしたかも忘れたような事が、 ずっと先になって
自分の知らない場所で花咲く。

そんな瞬間をこの目で見たいと思う。

口惜しくて、残念だけど、 そんなものなのかもしれない。
posted by 片岡 よしこ at 16:25 | Comment(0) | TrackBack(0) | バックナンバー
 赤毛のアン 〜毎日読むアン〜                           

No.99 『第28章  "青いうわっぱり"の女 その2』

  〜ダイアナは後5日で結婚です。
   人は変わっていくものと判ってはいても、
   アンは寂しさを隠しきれませんでした。

   そして、アンギルバートは…

   アンがギルバートの申し込みを断った事は、村中に知れ渡っていました。

   物事を動かしているしくみのどこかに、狂いが生じたような悲しさを、
   マリラは感じるのでした。




21歳の夏休み。



"青いうわっぱり" の女は、郵便局に戻っていた。

スラックスと、青いうわっぱりの下に隠された体はむっちりとして、
よく見ると目鼻立ちの整った、男好きのする美人である。

しかし、あまりに強い眼力のせいで、せっかくの美貌も帳消しになり…

預金を引き出しに来た客は、何か悪い事をしている様な、
後ろめたい気分になるのだった。


島では面倒見がいいと評判の彼女。

てきぱき出来ない人を、見て見ぬ振りができないのだ。

ひとたび彼女が動き出すと物事は驚くほど早く、彼女のペースで進んだ。

彼女が人の世話になるなど有り得ないのだが、それでも借りたものはお礼を添えて
きちんと返し、義理を欠くことはなかった。


そんな彼女にとって、 "田辺夫人" とのことは "汚点" ともいえる思い出だった。

夫人とは "お互いに" 世話になったと言える間柄だったのに、礼を言わないどころか、
見送りにも行かなかったからである。

だがそれには、彼女なりの理由があった。

 そもそも、田辺夫人が彼女に何の相談もなく、島を出て行ったのがいけないのだ。

 "何も聞いていない" これほど腹の立つことはない。


彼女にとって、それは裏切りに等しいことなのだ。



診療所が、郵便局の隣を借りて診察を始めるようになってからは、
彼女はしょっちゅう、診療所に入り浸っていた。


 田辺夫人は、用もないのに診療所に来る連中に、気前良くふるまい過ぎる。

 野菜や魚を診療代に受け取るのも考え物だ。

 島の連中には、睨みをきかせる必要があるのに。


しかし、鶴のように痩せた伏目がちな彼女に、荒っぽい島の連中に言い返す勇気など
あるはずがない。

上品で町の匂いのする田辺夫人は、守ってやらねばならない
"頼りない" 存在だったのだ。

その代わり彼女は、島の連中の噂話や悪口を田辺夫人にブチまけて、
大いにストレスを解消したのだった。



田辺夫妻は月に何度か土曜日に島を出て、何でも日曜日の礼拝とやらに出るために、
本土に出掛けた。


好奇心から彼女は一度、礼拝に連れて行ってもらったことがあった。

土曜日、三人は本土に渡り、その夜は田辺夫妻の家に泊まることになった。


夫妻の家は、細くて急な坂道を登りきった山の斜面に建っていた。

日当たりの良い島育ちの彼女には、こんな湿っぽく陰気な家に
よく住んでいられるものだと思う。

 「山の木におるんでしょうねぇ、むかでが沢山出るんですよ

田辺夫人は、さも嫌そうに体を縮めて震えてみせた。

どうやら田辺医師は、家を選ぶに際しても、妻に意見があるとは
思いもよらないらしい。

台所が暗い家なんて、まっとうな主婦なら決して選びはしないだろうから。

奥さんは先生に、もっと口煩く言ってやった方がいい」 と彼女は思うのだった。



教会は、駅前の大通りを横切って南北に流れる小川のほとりにあった。

西洋風の尖った屋根の先端に十字架が青空に向かって立つ、
絵に描いたような当たり前の教会だ。

半円のガラスがはめ込まれた、両開きの重々しい木のドアを入る。

床も椅子も窓枠も全てが木造で、島のお寺と変わりはないが、
派手な飾りも仏像さえもない、 貧乏臭い教会だった。

 こんなお寺にお布施を払うとは、田辺夫人も人が良すぎる。

 オルガン弾きは間違えてばかりいる。 これでは拍子抜けだ。

 「練習さえすれば、アタシの方がマシに弾ける…」

 それに、牧師の説教。 島の坊さんはマイクなんぞ使わなくても、よく声が通る。

 やはりお経をあげてもらわないことには有難味がない。


どうも "教会" とは頼りのないものと、しみじみ思うのだった。



"青いうわっぱり" の女は、事務机の引き出しを開けた。

鍵をかけ、何年も閉めたままの引き出しだった。

中には、田辺夫妻からの手紙が何通か入っていた。

一度も返事を書いたことはないし、今後もそのつもりはなかった。

ワタシなんぞは相談相手にならんらしいわ

それが、彼女の結論だった。


荒くれ者の多い島で暮らしていけたのは、誰のおかげだと思っているのやら…
馬鹿にしてくれるじゃないか


田辺夫人には世話になったが、 その分おつりが出るくらいお返しはした。

自分を捨てた者は、こっちから捨ててやる。



"青いうわっぱり" の女は、引き出しから手紙を取り出すと、
書き損じた伝票と一緒にシュレッダーにかけた。


紙が切り裂かれる轟音と共に、彼女は長年の躊躇いを捨てた。

 別れは寂しい…

シュレッダーの音は、そんな悲鳴にも聞こえた。
posted by 片岡 よしこ at 20:23 | Comment(0) | TrackBack(0) | バックナンバー
 赤毛のアン 〜毎日読むアン〜                           

No.98 『第27章  "青いうわっぱり" の女』

  〜アンは、ロイヤル・ガードナーに恋をしていると思い込んでいました。
   というより、"思い込もう" としていたのです。

   でも、どうかしら? ロイにはユーモアがわからないのよ。
   ギルバートとは笑いあえた事が、ロイにはさっぱり理解できないのです。

   ユーモアのわからない人と人生を共にするのは…
   さて、どうしたものでしょうか。




21歳の夏休み。



診療所があったという建物は、 港に近い、郵便局の隣にあった。


コンクリートの箱のような造りで、玄関の引き戸は埃をかぶって、
今は住む人もないことを物語っている。

隣の郵便局も、入り口の壁に "赤い〒マーク" がついているだけのことで、
民家と変わりはない。

ふと、葉書でも買ってみようと思い、中に入った。

カウンターの向こうには、局長らしき男と半袖の "青いうわっぱり" を着た
中年の女が一人いるきりだった。

隣に診療所があった、って聞いたことがあるんですけど…
 ご存知ですか?


愛想笑いもしない女の顔に、明らかな警戒の色が読んで取れた。

 「さぁ… 知らんねぇ…

10年ほど前までは、ご夫婦で診療所をしておられたと… 」

女は、島のもんじゃないから知らない、ということだった。



郵便局の向かい側には、 "おしゃれの店" の看板のかかった洋品店がある。

そっと戸を開けて 「こんにちは」 と声を掛けるが、コトリとも言わない。

奥の住居と思われる方へ向かって大声を出すが、依然答えがない。


 「おばちゃんは、昼にならんと帰らんよ

振り向くと、先ほどの "青いうわっぱり" が立っている。

洋品店の主人は、漁の水揚げの手伝いに出ているそうだ。

私はこそこそと店を出て、更に歩きだした。

時折振り返ると、まだ "青いうわっぱり" がこちらを見ている。



両側に民家が軒を並べるなだらかな坂を登ると、 "食堂" と書かれたのれん。

商品見本を入れるべきガラスケースに、なぜか色あせた黄色い熊の縫いぐるみが
押込まれている。

滑りの悪い引き戸を開けて、中に入る。

 「いらっしゃい

皺だらけのじいさんが、タバコをふかしながら店番をしていた。

あの… 10年ほど前、診療所があったと聞いてるんですけど、
なにかご存知では…?


じいさんは、覚えていた。 ふと懐かしそうな表情を見せたからだ。


 「おとうさん、何しとるん?

奥から声がして、私はたまげた。 "青いうわっぱり" の女だった。

 「おとうさん、早う仕込みしてしまわんと

なんで私の先回りができるのだろう?

というより、なぜ私をつけてきたのだろうか。

 「島には月に一回、医者が巡回してくるだけ。 若いもんは出て行って…
 年寄りばかりじゃ金儲けなんかできんでね。

 よそから来てこの島には住めるもんかね


そんなつもりでは… またしても私は訳のわからないまま、店を追い出された。



診療所の夫婦を懐かしむ、島の人々の暖かい反応を期待していたのに、
いったいこれはどういう事なんだろう。


あの "キヨコ" が、島暮らしが辛くて逃げ出したとも思えないし、
少なくとも私は、医師の夫が高齢になって退いた、と聞いていた。



私は、坂を登り切った見晴らしの良い場所に立った。

港は海に向かって大きく開かれているのに、人の心の近寄りがたさに、
ふっとため息が漏れた。

 「娘の事は気にせんとって下さい

背後から声がした。 食堂のおじいちゃんだ。

 「あれは、よそもんを嫌いよります


おじいちゃんの話によると、 島から出ていく者が増える事を懸念し、
住む人のいない家を貸して田舎暮らしをしたい本土の連中を呼び込もう、
という村役場の企画があったそうだ。

ツアーを組んで視察に訪れる人々を、島を挙げて歓迎したが、
結局はそれっきりで終わってしまった。

住み着いた者はたった一家族。 子沢山の、韓国系の母子家族だったそうだ。

 「診療所の先生と奥さんは、ええ方でしたなぁ。
 ワシらは、ずっと住みついてくれるもんと思うとったがね。

 娘もそのつもりでお二人とは仲良うしとったもんで、帰られると判った時は
 がっかりして、見送りにも出んかったですよ




海から吹く風に聞いてみる。 この島で余生を過ごせるかしら… と。

私には、薄汚れた港町にしか見えない。

この風景から、何かのインスピレーションを感じることもない。


だが反対に、 知らない場所なのに、何故かそこを好きになることがある。

前に来たことがあるような、懐かしい気持ちになる…

誰でも一度は、そんな経験をしたことがあるのではないだろうか。

残念ながら私にとって、この島は "ナシ" だったのだ。



キヨコはただ、生まれ育った所に帰りたかったのだ。

それは誰にも止められないし、責められることでもない。

"青いうわっぱり" の落胆した気持ちもわかるが、それは理不尽な逆恨み。


話をすれば、わかるのに…

寂しいけれど、 お互いの幸せを祈って、手を振り、別れていけるのに。


私はただ、それを残念に思った。
posted by 片岡 よしこ at 13:32 | Comment(0) | TrackBack(0) | バックナンバー
 赤毛のアン 〜毎日読むアン〜                           

No.97 『第26章  佐竹が見えた日』


ギルバートが夢中になっているという噂のクリスティーンは、
アンが持っていないもの全てを備え持っているように見えました。

薔薇色の頬、艶やかな黒髪、すみれ色の瞳…

ギルバートを愛することはできない、と言ったアンなのに、
どうして彼女のことが気になるのでしょう。




21歳の夏休み。



まだ暗いうちから、 "ミス・クセ" は釣り場に向かっていた。

昨日、ホステルの主人から聞いた岩場までは、30分程かかる。

釣竿にビクンと伝わる獲物の動きを思うと、わくわくしてくる。

日が昇るに従って、先客の釣り人達の姿が遠くに見え始めた。

遅れをとっては、と足を速める。



それにしても、よしこさん、 最近ますますおかしい…

"ヨシロー君" に夢中になっていた時は、恋に狂って頭がおかしいのだと
思っていたが、 彼を諦めてからも別の意味でオカシイ。

 「 "佐竹" って… だれよ…?


昨日、島に来る間も宙に向かって話をしていた。

荷物は佐竹に持たせているからと、自分はバッグひとつ下げたきりだ。

どう考えてもイカれている。

今朝も蒲団から顔だけ出して、妙な事を言っていた。

一人で釣りに行くのは危険だから、佐竹にお供をさせるわ

寝ぼけていたのだろう… ミス・クセは、よしこについて考えるのを打ち切った。

適当なポイントを見つけたのだ。



正直、独りで釣りに行ったことはない。

以前カレと、日本海の荒波の打ち上げる岩場に行った事があった。

ライフジャケットを身に付け、カレから教わった通りの手順を確認しながら、
一心に海に向きあった。

カレがいなくても釣りくらい行けるってことを、自分自身に証明するのだ。


ミス・クセはまるで物分りのいい姉のように、カレが黒髪の同級生と旅行に行く事を
知りながら、 "見て見ぬ振り" をした。


行き先が、釣り場とは縁のない所だったからだ。

あの黒髪の同級生は、一緒に釣りをするタイプではない。

日に焼けるとか、餌が気持ち悪いとか言う女に決まっている。


そう結論を出すと、いくらか勝ったような気分になった。



それにしても "アタリ" が来ない… 一匹の小魚でさえも引っかからない。

ミス・クセは、淡々と "引き" を待っていた。

日は高く昇り、ライフジャケットの下で、胸の谷間を汗が流れるのがわかる。

たまらずジャケットを脱いだ。


カカッタ!

大物だっ、と思った瞬間、足を取られた。

岩に肩を強かにぶつけ、そのまま水中に頭から落ちていく。

浅いはずの水中から何故か、起き上がる事ができない。

始めから海水を吸い込み、鼻も喉も痛い。


溺れる… 


その時、体がふわりと持ち上がった。 真夏の日差しが眼に飛び込む。

大丈夫でございますか?


初老の男性だった。 心配そうにミス・クセを見つめている。

よしこお嬢様に申し付けられて、お供してようございました

ミス・クセは、あっけに取られて言った。

 「あなた… 佐竹…?



ミス・クセは、佐竹に負ぶわれて帰って来た。

魚は釣れなかったが、そんなことはどうでも良かった。

"佐竹" が見えたのだから。

こうしておんぶされ、今は佐竹が点てたコーヒーを啜って
人心地ついていることに、 なんの違和感もない。

今までどうして存在が見えなかったのか。 ますます不思議だ。

また次の瞬間には、見えなくなってしまうのかしら…

いいえ、 一度見えたら、その存在を知ってしまったら、もう二度と
それを無視することも、無かったことにも出来ないのだ。

佐竹が死んだ、と口にするまでは…。


いやいや、ドザエモンを引き揚げた岩場で、今度は生きたお嬢様を連れ帰る
ことができて、ホントにようございました


当の佐竹は満足そうに、ミス・クセに持参した漬物を勧めていた。
posted by 片岡 よしこ at 21:01 | Comment(0) | TrackBack(0) | バックナンバー
 赤毛のアン 〜毎日読むアン〜                           

No.96 『第25章  私のそまつな想像力』


  〜アンはついに、夢に描いていた通りの "王子様" に巡り会います。
   その名も、ロイヤル・ガードナー

   フランス帰りのお金持ち。
   甘いマスクの彼に、アンは恋をしているというのでしょうか。
   ギルバートのことを忘れてしまうのでしょうか。




21歳の夏休み。



今、アクセル踏んだらトラックに激突して死ぬ…

今、反対にハンドル切ったら崖から転落して、死ぬ…


運転しながら、事故を想像してしまう時がある。

日常の中のある瞬間、別の選択をすれば生が死に切り替わってしまうのだ。


また、人の悩みや苦言のようなシビアな話を聞いている最中に、その話とは
全く関係のない事に神経が行ってしまい、困ることがある。


 もしも今、すごく臭いオナラなんか出たら、不謹慎だ…

 口紅がはみ出してるけど、今注意せんかったらどんどん話が深刻になり、
 キッカケ失う…


しかし、私は悲しいかな、どんなに高尚かつ深刻な悩みに苦しんでいようとも、
頭の中で妙な想像が止まらなくなることがある。



宿泊施設と言っても、浜辺に置いた廃船の一室に蒲団が置いてあるだけである。

本館で食事と入浴を済ませて、 私達は船のデッキに置かれた椅子で
涼しい風に吹かれていた。

船室にはエアコンがないのである。

佐竹は人に預けてきた "糠床" が気になって、電話を掛けに席を立った。

沖を走る船影もなく、星空だけが拡がる夜の海は恐ろしいほど真っ暗で、
波の打ち寄せる音だけが響いていた。

"夜明け前には釣りに出掛けるから早寝する" と言っていたミス・クセは、
じっと海を見つめて一向に寝る様子もない。


 「今頃… カレ、あの子と旅行しているはずよ… 」

理想の女の子に出会えたから、我がままを許してくれと言われたそうだ。

相手は私も知っている同級生。 お人形さんみたいな美人だ。

陶器のように白い肌。 柔らかな黒髪がこれまた白い肩に掛かっている。

あれだけ綺麗だったら、頭の中は空っぽでも何の問題もないだろう。


 「二股カケルようなまねはしたくないんだってサ

はぁ… 二股をカケルねぇ…

この言葉が誘発剤になってしまった。



ミス・クセの "カレ" は陸上部で、短距離の選手である。

"いかに記録を更新するか" で、いつも頭が一杯なんだそうだ。

が、私の見る限り…、 カレはちんちくりんで、足が短か過ぎるように思う。

あの体型で記録を更新するには、二股の分岐点を中心にして、扇風機の羽みたいに
高速回転させないといけない。

ホレ、走っている足の見えないマンガみたいだわ…


  土煙があがる陸上競技場。

  トラックの向こうには黒髪の美人が高速回転で走っている。

  汗もかかず、化粧崩れもなく。

  後方にはミス・クセが続く。 おっ、釣竿が邪魔だ!

  「そんなもの、捨てちゃえ〜」 観衆が叫ぶ。


 「カレと生まれて初めて釣りに行って、すごく釣れたのよ。
 ビギナーズラックかもしれないけど、カレは悔しがりもしないで言うの。

 『キミはフィッシュ・チャーマーなんだよ。 魚が寄ってくるんだ』って…


  えっ〜? ホントに寄ってきたがな… ミス・クセの周りに魚群が迫る。

  魚が邪魔で走れない。 おっと、ついに釣竿を捨てた。

  しかし既に、カレに大きく水をあけられている。


 「それからもうひとつ。 私を花に例えてたら何かしらって聞いてみたらね。
 ピンクのカーネーションですって。
 後にも先にもこの花の名前しか知らないんですって。 正直な人なのよね


正直者は馬鹿をみるって言うけど、 近頃では正直者と関わったら、こっちの方が馬鹿をみる。

ウソつけ〜 桜とかチューリップくらい知っとるはずやぁ。 小学校で習うやろが〜。


  二股回転走りのカレは、ついに白肌黒髪美人に追いついた。

  ところが、回転は急には止まらない。

  不本意にも美人にタックルをかけてしまい、美人を巻き込んでの
  ものすごいスライディング。

  二人ともゼンマイの切れたおもちゃのように無様に止まって、
  足だけがいつまでもカタカタと動き続けている。

周囲が暗闇だった事と、ミス・クセが終止私に背を向けていたおかげで、
私はこの深刻な問題を、ちんけなお笑い草に変えてしまった。


それにしても… この島に来る前になんで私に話してくれなかったのよ。

ここへ来る道中だって、たっぷり時間はあったのに。

ずっと、傷ついていたはずなのに。


何でもないフリをしていたのなら、可哀想過ぎる。

友達が傷ついているのに、変な想像した自分が申し訳ない。


ごめん… あんたの話で… 変な想像して、ごめん


結局ミス・クセも大笑いしたのだが、その前にキッチリ嫌味を言われたわ。

やっぱり、正直に打ち明ければ許して貰えると思ったら大間違い。

勇気を出して本当の事を話したら、笑われる。



正直だからって、大して良い事がある訳でもない。

自分に正直な人が、 どれだけ周囲に迷惑をかけ、人を傷つけていることか。

所詮私も自分勝手な正直者だ、とガックリしたのである。
posted by 片岡 よしこ at 13:04 | Comment(0) | TrackBack(0) | バックナンバー
 赤毛のアン 〜毎日読むアン〜                           

No.95 『第24章  離れ小島でリゾート?』

  〜プロスペクト岬にある、お上品な人向けのリゾートホテルに滞在する
   フィルから、アンに手紙が届きました。

   ハンサムでお金持ちでなければ結婚しないはずのフィルは、
   全く正反対の人を好きになり、戸惑っていたのです。

   ブ男で、貧乏な神学生のジョウナスを好きになるなんて…
   フィルにとっては "あり得ない" ことだったからです。

   でも… どうやら、本気のようです。




21歳の夏休み。



私と "ミス・クセ" は、用心棒代わりの "佐竹" を伴って2泊3日の
リゾートに出掛けた。
 

早い話が "海水浴" だ。

だが、リゾート地でもない "ただの小島" に、しゃれたホテルはない。

釣り客用の民宿が数件と、廃船を利用したユースホステルが
1件あるだけのさびれた島を選んだのには、 理由があった。

79歳の友達 "キヨコ" が、夫と一緒に渡り住んだ島だと聞いて、
どんな所か行ってみたくなったのだ。



当時、島には医者がいなかった。

 「無医村と聞いたら、どこにだって行くんですから。
 まぁ、着いてみたら、何にもありゃしません



確かに… 何にも無い…

食事をする店もない。 車が走っていない。

港の反対側にあるユースホステルへは、徒歩で小山を超えるか、
船で行くしかない。

私達は歩くことにした。


いい釣り場がいっぱいあるじゃないの!

ミス・クセは、肩に掛けた釣り竿のケースをグイと握りしめて言った。

彼女、付き合っているカレシに釣りを仕込まれたのだ。

彼のどこがいいの?

我が儘で子供っぽいカレシ。 頭のいいミス・クセとお似合いとは思えない。

 「強いて言えば、私の気付かなかった才能を発掘してくれたからかなぁ…

なに、それ?

 「釣りよ。 私、先天的に凄い腕前なのよ


"釣りの天才" ミス・クセは、真剣な面持ちで釣り道具一式を背負って歩く。

一方、私といえば… 赤いワンピースに白いフリルの付いた日傘という、
なんとも場違いな出で立ちである。

佐竹は荷物を持って、無言で私達の後に続いた。

どう見ても、不思議な3人である。



ユースホステルまでは一本道。

高い木立のない斜面には、背の低いみかんが植えられている。

濃い緑の向こうには、キラキラ輝く夏の青い海が拡がっていた。

アスファルトのような、人工的な物のない所では、 夏の日差しですら優しい。



キヨコは、島の暮らしが結婚生活の中で一番辛かった、と話していた。

看護師が本土から週に一度やって来るのだが、 "居ない時" に限って
けが人が担ぎ込まれて来るからだ。

医師の夫は有無を言わせず、キヨコに手伝わせる。

血を見るのが恐ろしいキヨコは、目を背けながらいやいや傷口を消毒し、
包帯を巻いたそうだ。

 「わたしには出来ませんですよ… 海から死体があがるんですけどね。
 自殺する方が多くてね。 腐ってどろどろになっておりますでしょ?
 掴むとヌルリと肉が剥けて、 そりゃ、かわいそうな姿で。

 わたしには見ることも触ることも… とてもできたもんじゃありません


…って、 見る事も触る事もできないあんたが、何でそれを知ってるんだよ!


夕食を終えて廃船の "ホステル" のデッキでくつろぎながら、私はキヨコの
話をしていた。

佐竹が妙な顔をして、口を挟んで来た。

 「その方、田辺さんとおっしゃるのでは?

そう、田辺さん…

 「名前はキクさんではございませんか?

名前は違うが、 どうやら佐竹の言う "キクさん" と "キヨコ" は、
同一人物のようだ。


彼は昔、博打の借金取りから逃げてこの島へ来た時、自殺死体が岩場に
打ちあげられた現場に出くわしたらしい。


中年の女性と何人かの男達が、診療所へ死体を運ぼうとしている。

見物を決め込んでいた佐竹に、女性が声を掛けてきた。

 「あなたも手伝いなさい

佐竹は言われるがままに、手を貸したそうだ。

 「気丈な方だと思いましたよ。 腐乱しかけた死体ですから…。
 わたくしは、吐きそうでございましたよ


見るのも触るのも出来ないと言いながら、キヨコは勤めを果たしていたのだ。


佐竹の話によると、その後一週間ほどキヨコの家で世話になったという。

 「あなたも自殺しに来たのなら、おやめなさいよ

キヨコと夫は島で見知らぬ顔の人を見掛けると、家に連れ帰ってタダで宿を貸し、
飲み食いさせていたということだった。

キヨコはいつも隅っこで小さくなっているような人だったが、
実はすごい婆サマなのかも…


私だったら、無医村で医師をする夫と共に献身的に働いた、と
自慢話にするところだが。

辛いから、辛いと言う、 彼女のそんなところが正直でいいなぁと思う。


自分のことで精一杯の私でも、 良い人に出会うこと、あるいは人の良いところを
知る機会がある。


コレって、ツイてるよ。

でも、黙っていよっと。 佐竹がイイ気になるだけだから。
posted by 片岡 よしこ at 13:34 | Comment(0) | TrackBack(0) | バックナンバー
 赤毛のアン 〜毎日読むアン〜                           

No.94 『第23章 ベビーシッターの定め』



  〜いつもの夏休みなら、 どこに行くにも、何をするときも、
   側にはギルバートがいました。

   でもこの夏、アンはひとりでした。
   ギルバートは、アンに手紙すらよこして来なかったのです。

   しかしアンは、この淋しさを気付こうとさえしませんでした。




21歳、ママにヤキモチ。



私達ベビーシッターの役目は、 お母様に代わって、依頼された時間だけ
こども達のお世話をすることが目的だ。


だから、お母様の考え方の通りにしなければならない。


必ず外に連れ出してほしい」 というお母様がいた。

まだ1歳にもならない赤ん坊を、 雨の日も、寒い日もベビーカーに乗せて
連れて歩く。

私達が赤ん坊を預かる日は、"男性が家に来る日" なのだ。

その人が赤ん坊の父親なのか、他人なのか、それはわからない。

とにかく、 "事情" があるのだ。


 赤ん坊がかわいそうじゃないですかぁ…

呟く私に、社長が言った。

 「かわいそうだからって、かたおか、 あんたが母親になれるのかい?

 ひとぉつ! シッターは "ママ" じゃない。
 ふたぁつ! お客様のプライバシーを詮索するな。


 駐車場の車に置き去りにしてパチンコする親だっているんだ。
 シッターに世話を頼むってことは、この母親はちゃんとしてるじゃないの


"かわいそう" だけでは、こどもを育て上げることはできないのだ。


また、ある母親は赤ん坊をあやしたり、話しかけたりしない。

暗い顔をして黙っていた。 シッターが来るとふらりと何処かへ出掛けてしまう。

私達仲間は、どうしたものかと途方に暮れた。

だが、どんなに愛情を込めて接しても、 母親が帰ってくると、
足をばたばたさせて喜ぶこども…。

なんだか悔しいような、アホらしい様な気になってしまう。

さびしいけれど、ベビーシッターはやっぱり "ママじゃない" のだ。



再婚して、夫の連れ子だった3人の娘の母親になった人がいる。

79歳になる、私のお友達 "キヨコ" 。 最初の夫を結核で亡くした。

かわいそうでしたよ。 戦争中のことですからね、
薬もなく、だんだん痩せて弱って、亡くなりました


呉服屋の息子だったそうだ。

西洋の音楽や小説が好きで、  "鬼畜米英" のご時勢にも倉に隠れて
こっそり楽しんでいる様な人だった。

キヨコは最初の夫の話をする時は、瞳をしっとりと濡らして若やいでいた。


夫を亡くして間もなく、戦争が終わった。

キヨコは実家に帰らず、婚家にとどまっていた。

実家はキヨコの兄が後を継ぎ、嫁との間にはこどもが産まれていた。

気を遣う生活も嫌だったが、食いブチを増やすことに気が引けた。

姑もキヨコが家に残ることを喜んでくれたそうだ。


そんな時、医者の居なかった山間の町に医者がやって来た。

女の子3人の子持ちの "やもめ" の医師。 町は彼を大歓迎した。

特に町の教会は喜んだ。

なぜならこの医者は、"長老派のクリスチャン" だったのだ。


会員は、競って医者の世話を焼いたそうだ。

野菜やら米やらを届けるが、いったい誰が料理するのやら。

12歳の長女に、家の切り盛りができるはずがない。

下の二人の妹の世話をするので手一杯。 進学したくても勉強する暇がない。

オマケに、先生ときたら…  よれよれのズボンにくしゃくしゃのシャツ、
その上にシミだらけの白衣をひっかけて、仕上げにおしゃれなソフト帽をかぶり、
年中靴下も履かずに、革靴をつっかけて往診している。

こどもにまともな食事をさせず、コーヒーばかり飲ませていると噂する者もいた。


再婚させるしかない、これが長老達の結論だった。 キヨコに白羽の矢が立った。

私は、何度説得されてもお断りいたしましたよ。
亡くなった夫が好きでしたからね


長老達は諦めなかった。

キヨコもクリスチャンだったので、教会へ行く度に再婚話になった。

しかし、キヨコも簡単にうんと言うようなタマではない。

決心いたしましたよ。 このまま婚家にいたら、いつかは厄介者に
なりますでしょう。

何より、3人の女の子達がかわいそうでね。
こども達には、ちゃんと世話をして、躾をしてやれる人間が必要だと
思いましたよ。

でもそれが、私でなければならないのだと思えるまで、時間がかかりました



町には他に、 "" は余るほどいたはずなのに…

つまり相手の女性は、同じ "長老派クリスチャン" でなければならなかったのだ。

そして、その条件を満たすのはキヨコだけだった、と言うわけだ。


ひとつしかない道を、自分の意志で選んで、 キヨコは医者の所に嫁いだ。

"なさぬ仲" のこども達を育てるのは、並大抵の事ではなかったと言う。

誰かがきちんと育てなければならんでしょ?
善悪の区別を教えてやらねばならんでしょ?

それが継母でも、誰でもいいじゃありませんか




"かわいそう" だけでは、こどもに向き合う事はできない。

本当の母親でも、母親の責任を自覚できない人が沢山いるのに、
私達、時間で雇われたベビーシッターに何ができるだろうか。

ただひとつ、 こどもと居る時の楽しい時間を作り出すことだけだ。

ママが帰ってきたら、あっさり捨てられる身だけれどね。

社長が面白く言う。

ホステスさんみたいなもんよ。 結局、本妻のところへ戻るんだからさ


毎回続く、そんな繰り返しの中で、 私は思った。

こども達の中に、私の記憶など残らなくても良い。

むしろ、消えてしまうようでなければならない、とさえ思う。

楽しかった思い出だけが残ればいい。


だけど、私は覚えている。 こども達、一人一人のこと。
posted by 片岡 よしこ at 10:31 | Comment(2) | TrackBack(0) | バックナンバー
 赤毛のアン 〜毎日読むアン〜                           

No.93 『第22章  寝たきりのシノさん』

  〜春休み、アンは予定より一日早くアヴォンリーへ帰ってきました。
   驚きながらも大喜びのマリラ。 愛情を込めてアンを抱きしめるのでした。
   大好きなグリーンゲーブルズ。

   でもこの春、ギルバートは帰って来ません。

   アンがギルバートを "愛せない" と拒絶した日から、
   アンの心にもギルバートは戻って来ないのでしょうか…




21歳、女の逞しさを知る。



自称 "寝たきり" の "シノさん" は、居間の真ん中に万年床を敷いている。

人工透析を受けると大変疲れるそうだ。

買い物にも出て行けず、炊事もままならない、ゴミを捨てに外に出ることさえ
できない、
 と情けなさそうにグチる。



茶道の先生をしていたと言うシノさんのお宅は、 茶室のある、実に立派な造りだ。

玄関には立派な掛け軸があった… とおぼしき所に、こんな "張り紙" が訪問者を
歓迎する。

 "せっかくですが、糖尿病のため、手土産のお菓子はお断り致します。"


台所は更にスゴイことになっている。

 "食べたら死ぬぞ"

壁に3箇所貼ってある。


冷蔵庫のは、ちょっと気が利いている。

 "オヌシ、また、食べるのか、死んでもよいのだな"

 "冷蔵庫は地獄への門"

 "心にも しっかり締めよう カロリー計算" (?)

これって、交通標語のパクリよなぁ…



私がゴミの片付けや掃除をする間、シノさんは万年床に座卓を差し込んで、
くつろいでいる。


だがあくまで病人らしい、弱々しい声で、 指示を出す。

 「鍋や洗面器をごしごし擦って磨かなくてもよろしいのよ。
 時間がもったいないでしょ。 汚れたら新しいのを買ってくださいな


どうりで… 台所の鍋、道具、雑貨は新品同様。 風呂場の洗面器までピカピカ。

手間をかけるより、100円ショップで買った方がいいのだそうだ。

 「100円の安物と私の命と、どちらが長持ちするかですわ」 だってさ。



宅配の配達が呼び鈴を鳴らす。

 「上がって頂いて下さいな。 電球を取り替えて頂きましょうよ。 ねぇ?
 高い所は危ないから、あなたにさせるわけにはいきませんからね


って、シノさん… その宅配屋が危ないかもしれないのであって…


しかし、心配は無用。 そのおにいちゃん、これが初めてではないと判った。

壁掛け時計の電池やら蛍光灯の取替やらで、使われ慣れていたのだ。

郵便配達のおにいちゃんも、重宝に使っているらしい。

男手は必要よねぇ〜」 と、涼しい顔である。



買い物の時は、リストに書かれた品物について細かく確認をしてから、
近所の商店街へ行く。


人の買い物をするというのは、かなりやっかいだ。

商品がなかったり、いい品でない時はどうするかまで打合せしておかないと、
はたと困ってしまう。


レシートを見せて、釣銭を勘定して渡す。

 「あなたの家は近いのですか?

私は前もって、先輩のシッターさんに聞いていた。

シノさんは会社を通さずに "個人的に" 来てくれる、近場の人を探しているらしい。

へ〜 しっかりしている。



ある日、私は見てしまった。

本当にシノさんがしっかりして居られる姿を…

商店街を、買い物車を押しながらではあるが…、達者に歩いているではないか。

"寝たきり" なんかであるもんですか。

 シノさ〜んっ! 声を掛けると、おっ! ギクッとした!

 「まぁ、私、 こんな体でも一人でしょ…
 こうして無理にでも動くと、また寝込んでしまうのよ。
 あなたのように、お若い方にはお分かりにならないでしょうけれどねぇ


買い物車に目を落とすと、野菜や果物に混ざって "和菓子屋の包み" が嬉しそうに
存在をアピールしている。

たまには和菓子のひとつも食べなきゃ、楽しみがない。

シノさんと私は "そうだよねぇ" と、眼で語り合って笑った。


一日三食、 その上に二度のおやつを食べたとしても、シノさんは長生きすると私は思う。

一人で暮らす知恵と、バイタリティーがあるからだ。


望みは人を元気にしてくれる。

どんな望みであれ、それが本人の心からの希望であれば叶えられて欲しい。


"一食でも多く食べて逝きたい"。 それがシノさんの望みだ。
posted by 片岡 よしこ at 06:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | バックナンバー
 赤毛のアン 〜毎日読むアン〜                           

No.92 『第21章  "源爺"』



  〜アンはフィル・ゴードンの屋敷 "ひいらぎ荘" で、楽しい二週間を過ごします。

   馬車の遠乗り、ダンス、ピクニック、舟遊び。

   ギルバートのことを考えると、何かが痛んだけれど、
   毎日続くお祭り騒ぎの中で、彼の事を考える時間はありませんでした。




21歳、お年寄りの気持ちはわからない。



ここが市内なのかと思うほど、田舎じみた風景の中の一軒家に、
"源爺" は一人で住んでいる。


実際、たぬきが餌をねだりに来るらしい。

夕食が終わった頃、勝手口の辺りまで子連れでやって来て、じっとこちらを
見ているので、 源爺が食べ残した魚やら、野菜の煮付けやらを投げてやると、
おおきに」 も言わずに口に咥えて、裏山へ帰っていくのだそうだ。

 「かわいげのないもんじゃなぁ。 "畜生" ゆうもんは…

 それにしても、たぬきのどんべえ、 小そうて、かわいいなぁ。
 目に入れても痛うないほどじゃなぁ…


源爺、 "ミニどんべえ" を手で撫でるように、眺め回している。

レギュラーサイズの "どんべえ" は食べきれないとぼやくので、"ミニ" を買ってみた。

これなら残さずに済むが、畜生のたぬきはおこぼれに与れなくなるだろう。


他に頼まれた買い物は、 お造りとパックのご飯1週間分、それにバナナ。

源爺は電子レンジで温めるだけのご飯が、大のお気に入りだ。

姉妹品の赤飯も大好きだ。

 「下手な女房の炊いた飯よりうまいからのぅ

と、ほくほく顔である。 死んだばあさんが聞いたら何というやら。



源爺は10年前に女房に先立たれ、それ以後ずっと一人暮らしだ。

二人の息子は他県で働いて所帯を持っているという。

近くに住む妹が、ちょいちょい顔を出しては何かと世話を焼いていたのだが、
その妹も80歳を超え、自分の足元もおぼつかなくなり、
我が社に腕利きのお手伝いさんシッターを依頼したという訳だ。

その腕利きの一人がこの "わたし" (?)とは、笑わせる。


あんた、割烹着姿は結構老けて見えるじゃないの。 大丈夫、ベテランの28歳でとおるわ

 いやいや、とおらないって、 社長。

私はベビーシッターですから。

それにお年寄り… しかも男の年寄りは苦手なのよ!

男は歳をとっても "" を感じさせる時があって、私はそれが怖かったのだ。


と言うのも、祖父が亡くなる前に自宅で療養していた時のことだ。

珍しく四男夫婦が子供を連れて、泊りがけで遊びに来た。

狭い部屋に蒲団を敷き詰めて、騒ぎまわる子供達。

色白でふくよかな嫁の顔がうっすらと上気して、ピンクのモヘヤのセーターが
一層可愛らしさを引き立てていた。

おばちゃん、きれいだなぁ…」 そう思ったのは私だけではなかった。

それまで黙って、火鉢にあたりながら一杯飲んでいた祖父が、何気に呟いたのを
私は聞き逃さなかった。

 「かわいいのぅ…

それは、孫達に向けた言葉ではなかった。

その時の祖父の表情、艶かしい目つき。 私は忘れない。

年老いた男が、若い女を見る目とはこういうのを言うのだと、私はその顔を
覚えておく事にしたのだった。



源爺は "ひっつき虫" だった。 21歳の小娘にとっては、充分イヤラシイ。

振り向くと真後ろに立っていたり、味噌汁を温める私の側に寄ってきて、
鍋を覗き込んだりする。

その度に、私の心は 「ギャ!」 と叫んだ。

とにかく、 物珍しそうにうろつき回って、私をビビらせていた。



源爺の家の中は、まるでゴミ捨て場だ。 足の踏み場がない。

女房に先立たれた一人暮らしの男とは、 こうもやりたい放題の野放し状態なのか…??

好きな物だけを食べ、くだらない不用な買い物を楽しみ、出したら出しっぱなし、
ゴミは床に置きっぱなし。

嫁にうるさく言われない限り、男は衛生的かつ健康的な生活すら出来ないのだから、あきれる。


それに加えて、若い女を目で追う目つき。

私が嫁だったら、 「あんた! 何みてるの! みっともない!

女房の "睨み" と "小言" は、 度を越さなければ男には程良い "抑止力" に
なるのかもしれない。


源爺の台所はゴミの山。 何が出てくるかわからん… 

死んだばあさんの食べかけたジャムとか…。

"5年前の牛乳" なんて、学会で発表したいものだ。 匂いもしない、ツルンとしたヨーグルト状。

去年の "おせち" は手付かずで、テーブルに放置されている。

私が浦島太郎でも、蓋は開けたくない。


片付けんでええ、後でワシがするから。 ばあさんが生きとったらのぅ…

そう言うけど、 源爺…。

さっきから私の後ろを金魚のフンみたいに、ついて廻ってるでしょうが!

あ〜もぅ うっとうしい!



もしばあさんが生きてたら、嬉しそうに私の後をついて廻るなんてマネは、

ゼ ッ タ イ に で き ま せ ん
posted by 片岡 よしこ at 08:10 | Comment(0) | TrackBack(0) | バックナンバー
 赤毛のアン 〜毎日読むアン〜                           

No.91 『第20章  上野さん、亡くなる』


  〜 ギルバートがついに告白をしました。

   「きみを愛している。 いつか僕のところに来てくれると約束してくれるかい?」

   アンの答えは?

   「世界じゅうであなたが一番好きよ。」

   でも、それは友達として。 ギルバートは落胆して去っていきました。

   アンは、ギルバートのいない世界で生きることがどんなに寂しいかを
   かみしめるのでした。
 〜



21歳、人の死に出会う。


上野さん… あなたは幸せでしたか?

派遣された家庭の事情を、勝手に詮索してはいけないけれど、
なぜ、どうして、 と思うことがある。

"上野さん" の奥様に初めてお目にかかったのは、主治医から病状説明を
受けるために病院に付き添った日だった。


 「上野さんの息子さん、すらっとしてハンサムよ〜 奥さんに似たんだわ。
 ありゃぁ、上野さんの血は一滴も入ってないわ


社長の言葉の通り、 上野さんより頭ひとつは背の高い彼女は、きりっとした美人だった。

私と挨拶を交わすと、上野さんの手を無理やり引っ張るように、病室に消えて行った。

彼は、まるで母親に連れられた子供のように、黙って引かれて行った。


上野さんを奥様の手に引き渡した時の、彼女の鋭い視線。

なによ、あの態度。 まるで、不倫相手だとでも思っているみたいじゃないのよ。

誰があんなブ男と援助交際なんかするもんですか!

仕事ででもなきゃ、誰も相手にせんワ!


ともかくそれが、奥様に会った "最初で最後" 。



私は上野さんのお葬式に行かなかった。

初七日を過ぎ、 社長とご挨拶に伺った時も奥様の姿はなかった。

なんだか冷たい人だな、 というのが率直な印象だった。



上野さんが亡くなる、前日。

いつものように、病院で待ち合わせることになっていた。

当日になって、迎えに来てほしいとの連絡。 具合が良くないらしい。

家の中に、初めて入る。

南向きの明るい部屋にお蒲団が敷いてあり、上野さんが着替えをして座っている。

静かなクラシック音楽が流れている。

タクシーを待つ間、彼はお手洗いを済ませてくる、と席を立った。

手持ち無沙汰の私は、隣室にあったマホガニー色のピアノに引き寄せられ、
鍵盤を叩いてみた。

サティの "3つのジムノペディ" のメロディーを弾いたところで、バタンと音がした。

風呂場で上野さんが倒れたのだ。 二階にいた息子さんが慌てて降りてきた。

 えっ? 息子さんがいたの?

息子さんがいるなら、私を付き添いに呼ばなくてもいいのでは。

正直、不可解だった。 ハンサムな息子さんが救急車を呼んだ。


救急隊員がゴム長を履いている。

 なんで? こんな非常時に… 素朴な疑問が通り過ぎる。

 「なにか、掛けてあげて下さい

隊員の声に、上野さんが下半身はだかのことに気づく。

 えっ? 私が救急車に乗るの? なんでぇ〜? 家族じゃないのにぃ〜

生まれて初めて乗る救急車の乗り心地は、すこぶる悪い。


上野さん! しっかりしてください! わかりますか? わかりますか?

病院に着くと、看護師さんは意識の確認に余念が無い。

白いベッドの上で彼は目をつぶったまま、小さく頷く。

 お別れの時が来たんだ。

顔見知りの看護師さんが、 とうとう帰って来たねと小声で呟いた。

しばらくして息子さんが、上野さんの奥様を伴って到着し、 "仕事で付き添う"
私の出番は終わった。


病院に送り届ける  終了時間 14:00



その日の夜、 "佐竹" と遅くまでお酒を飲んだ。

私たちだけのお通夜になるのでしょうか?」 と佐竹が言う。

 まだ、亡くなると決まったわけじゃないでしょ。


家族があるのに、なんでウチの会社に付き添いを頼むんだろう。

詮索したくなってしまう。 何か、訳があるはずだ。

でも、上野さんは何にも言わないし、社長も 「知らない」 と言う。


考えるに、ひとつは彼なりの思いやりと遠慮だったのでは、と思う。

上野さんの奥様も、重い糖尿病で人工透析を受けていた。

彼女へのいたわりの気持ちと、私は考えたい。


もうひとつ、 我慢強く紳士的な彼は、人に甘える事を潔しとしなかったのでは
ないか
とも思う。

でも、 ブッチャけても良かったんじゃないの、 上野さん。

家族には本当の気持ちをぶつけてた?

さびしいとか、辛いとか、痛くて不安だとか… 我がまま言って、甘えてた?

できんかったんだろうなぁ、
 と思う。

だって、声の素敵な "男前" だもんね。 乱れた所は見せられませんってか。



この世に、 揃って健康で、障害もない夫婦が何組いるだろうか。

そして、 そのうちの何組が、病気もせず最後まで添い遂げられるだろうか。




病気の時はもちろん、 いつも "正味の自分" で生きていたい。

苦しい時には、あたり散らして困らせたい。

逆に相手が病気の時は、あたり散らされて泣きたい。


人生は "男前" より、 "ブ男" の方がきっとオモロイ。


上野さん、 次は "男前" に生まれ変わって、 "ブ男" な人生を送りなよ。

そう祈らずにはおられない。
posted by 片岡 よしこ at 06:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | バックナンバー
 赤毛のアン 〜毎日読むアン〜                           

No.90 『第19章  上野さん』


  〜ジェムジーナおばさんはお年寄りだけれど、
   心はまだ18歳のままなのです。

   そして、いつも大切な事を教えてくれます。

   「神様と隣人と自らの命じる義務を果たして、人生を楽しみなさい」

   「愛してもいない人と結婚するものではありませんよ」




21歳、援助交際ごっこ?



希望を失った時、人は死ぬ。


全盲の "上野さん" は、肝臓ガンだった。


盲学校で針灸の教師をしていた。

最初の手術の後、職場に復帰できたのを喜んでいたが、1年後に再発。

休職して病院通いが始まった。



我が社では、シルバー・シッターの派遣もしていた。

聞こえはいいが、お年寄りのためのお手伝いさんの事だ。

他にも、障害者の "外出の付き添い" などもやっていた。

派遣業というのは儲かる職種ではなく、シッターに時給と交通費を払ったら
利益はほとんど残らないのだ。

とにかく何でもやって、 "" をこなさなければならない。



かたおか〜 上野さんは "いい声" なのよ。
どんだけハンサムかと思ったら…。 ショックだったわぁ



なるほど… 上野さんは小さくて、ずんぐりして、 松本清張にそっくりだった。

つまり、そのぅ…、 正真正銘の "