"励ましクリック"、 よろしくお願いします! にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ

 赤毛のアン 〜毎日読むアン〜                           

No.99 『第28章  "青いうわっぱり"の女 その2』

  〜ダイアナは後5日で結婚です。
   人は変わっていくものと判ってはいても、
   アンは寂しさを隠しきれませんでした。

   そして、アンギルバートは…

   アンがギルバートの申し込みを断った事は、村中に知れ渡っていました。

   物事を動かしているしくみのどこかに、狂いが生じたような悲しさを、
   マリラは感じるのでした。




21歳の夏休み。



"青いうわっぱり" の女は、郵便局に戻っていた。

スラックスと、青いうわっぱりの下に隠された体はむっちりとして、
よく見ると目鼻立ちの整った、男好きのする美人である。

しかし、あまりに強い眼力のせいで、せっかくの美貌も帳消しになり…

預金を引き出しに来た客は、何か悪い事をしている様な、
後ろめたい気分になるのだった。


島では面倒見がいいと評判の彼女。

てきぱき出来ない人を、見て見ぬ振りができないのだ。

ひとたび彼女が動き出すと物事は驚くほど早く、彼女のペースで進んだ。

彼女が人の世話になるなど有り得ないのだが、それでも借りたものはお礼を添えて
きちんと返し、義理を欠くことはなかった。


そんな彼女にとって、 "田辺夫人" とのことは "汚点" ともいえる思い出だった。

夫人とは "お互いに" 世話になったと言える間柄だったのに、礼を言わないどころか、
見送りにも行かなかったからである。

だがそれには、彼女なりの理由があった。

 そもそも、田辺夫人が彼女に何の相談もなく、島を出て行ったのがいけないのだ。

 "何も聞いていない" これほど腹の立つことはない。


彼女にとって、それは裏切りに等しいことなのだ。



診療所が、郵便局の隣を借りて診察を始めるようになってからは、
彼女はしょっちゅう、診療所に入り浸っていた。


 田辺夫人は、用もないのに診療所に来る連中に、気前良くふるまい過ぎる。

 野菜や魚を診療代に受け取るのも考え物だ。

 島の連中には、睨みをきかせる必要があるのに。


しかし、鶴のように痩せた伏目がちな彼女に、荒っぽい島の連中に言い返す勇気など
あるはずがない。

上品で町の匂いのする田辺夫人は、守ってやらねばならない
"頼りない" 存在だったのだ。

その代わり彼女は、島の連中の噂話や悪口を田辺夫人にブチまけて、
大いにストレスを解消したのだった。



田辺夫妻は月に何度か土曜日に島を出て、何でも日曜日の礼拝とやらに出るために、
本土に出掛けた。


好奇心から彼女は一度、礼拝に連れて行ってもらったことがあった。

土曜日、三人は本土に渡り、その夜は田辺夫妻の家に泊まることになった。


夫妻の家は、細くて急な坂道を登りきった山の斜面に建っていた。

日当たりの良い島育ちの彼女には、こんな湿っぽく陰気な家に
よく住んでいられるものだと思う。

 「山の木におるんでしょうねぇ、むかでが沢山出るんですよ

田辺夫人は、さも嫌そうに体を縮めて震えてみせた。

どうやら田辺医師は、家を選ぶに際しても、妻に意見があるとは
思いもよらないらしい。

台所が暗い家なんて、まっとうな主婦なら決して選びはしないだろうから。

奥さんは先生に、もっと口煩く言ってやった方がいい」 と彼女は思うのだった。



教会は、駅前の大通りを横切って南北に流れる小川のほとりにあった。

西洋風の尖った屋根の先端に十字架が青空に向かって立つ、
絵に描いたような当たり前の教会だ。

半円のガラスがはめ込まれた、両開きの重々しい木のドアを入る。

床も椅子も窓枠も全てが木造で、島のお寺と変わりはないが、
派手な飾りも仏像さえもない、 貧乏臭い教会だった。

 こんなお寺にお布施を払うとは、田辺夫人も人が良すぎる。

 オルガン弾きは間違えてばかりいる。 これでは拍子抜けだ。

 「練習さえすれば、アタシの方がマシに弾ける…」

 それに、牧師の説教。 島の坊さんはマイクなんぞ使わなくても、よく声が通る。

 やはりお経をあげてもらわないことには有難味がない。


どうも "教会" とは頼りのないものと、しみじみ思うのだった。



"青いうわっぱり" の女は、事務机の引き出しを開けた。

鍵をかけ、何年も閉めたままの引き出しだった。

中には、田辺夫妻からの手紙が何通か入っていた。

一度も返事を書いたことはないし、今後もそのつもりはなかった。

ワタシなんぞは相談相手にならんらしいわ

それが、彼女の結論だった。


荒くれ者の多い島で暮らしていけたのは、誰のおかげだと思っているのやら…
馬鹿にしてくれるじゃないか


田辺夫人には世話になったが、 その分おつりが出るくらいお返しはした。

自分を捨てた者は、こっちから捨ててやる。



"青いうわっぱり" の女は、引き出しから手紙を取り出すと、
書き損じた伝票と一緒にシュレッダーにかけた。


紙が切り裂かれる轟音と共に、彼女は長年の躊躇いを捨てた。

 別れは寂しい…

シュレッダーの音は、そんな悲鳴にも聞こえた。
posted by 片岡 よしこ at 20:23 | Comment(0) | TrackBack(0) | バックナンバー
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/99630654
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。

この記事へのトラックバック
"おもしろい!" と思ったらクリックしてくださいね にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ