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 赤毛のアン 〜毎日読むアン〜                           

No.95 『第24章  離れ小島でリゾート?』

  〜プロスペクト岬にある、お上品な人向けのリゾートホテルに滞在する
   フィルから、アンに手紙が届きました。

   ハンサムでお金持ちでなければ結婚しないはずのフィルは、
   全く正反対の人を好きになり、戸惑っていたのです。

   ブ男で、貧乏な神学生のジョウナスを好きになるなんて…
   フィルにとっては "あり得ない" ことだったからです。

   でも… どうやら、本気のようです。




21歳の夏休み。



私と "ミス・クセ" は、用心棒代わりの "佐竹" を伴って2泊3日の
リゾートに出掛けた。
 

早い話が "海水浴" だ。

だが、リゾート地でもない "ただの小島" に、しゃれたホテルはない。

釣り客用の民宿が数件と、廃船を利用したユースホステルが
1件あるだけのさびれた島を選んだのには、 理由があった。

79歳の友達 "キヨコ" が、夫と一緒に渡り住んだ島だと聞いて、
どんな所か行ってみたくなったのだ。



当時、島には医者がいなかった。

 「無医村と聞いたら、どこにだって行くんですから。
 まぁ、着いてみたら、何にもありゃしません



確かに… 何にも無い…

食事をする店もない。 車が走っていない。

港の反対側にあるユースホステルへは、徒歩で小山を超えるか、
船で行くしかない。

私達は歩くことにした。


いい釣り場がいっぱいあるじゃないの!

ミス・クセは、肩に掛けた釣り竿のケースをグイと握りしめて言った。

彼女、付き合っているカレシに釣りを仕込まれたのだ。

彼のどこがいいの?

我が儘で子供っぽいカレシ。 頭のいいミス・クセとお似合いとは思えない。

 「強いて言えば、私の気付かなかった才能を発掘してくれたからかなぁ…

なに、それ?

 「釣りよ。 私、先天的に凄い腕前なのよ


"釣りの天才" ミス・クセは、真剣な面持ちで釣り道具一式を背負って歩く。

一方、私といえば… 赤いワンピースに白いフリルの付いた日傘という、
なんとも場違いな出で立ちである。

佐竹は荷物を持って、無言で私達の後に続いた。

どう見ても、不思議な3人である。



ユースホステルまでは一本道。

高い木立のない斜面には、背の低いみかんが植えられている。

濃い緑の向こうには、キラキラ輝く夏の青い海が拡がっていた。

アスファルトのような、人工的な物のない所では、 夏の日差しですら優しい。



キヨコは、島の暮らしが結婚生活の中で一番辛かった、と話していた。

看護師が本土から週に一度やって来るのだが、 "居ない時" に限って
けが人が担ぎ込まれて来るからだ。

医師の夫は有無を言わせず、キヨコに手伝わせる。

血を見るのが恐ろしいキヨコは、目を背けながらいやいや傷口を消毒し、
包帯を巻いたそうだ。

 「わたしには出来ませんですよ… 海から死体があがるんですけどね。
 自殺する方が多くてね。 腐ってどろどろになっておりますでしょ?
 掴むとヌルリと肉が剥けて、 そりゃ、かわいそうな姿で。

 わたしには見ることも触ることも… とてもできたもんじゃありません


…って、 見る事も触る事もできないあんたが、何でそれを知ってるんだよ!


夕食を終えて廃船の "ホステル" のデッキでくつろぎながら、私はキヨコの
話をしていた。

佐竹が妙な顔をして、口を挟んで来た。

 「その方、田辺さんとおっしゃるのでは?

そう、田辺さん…

 「名前はキクさんではございませんか?

名前は違うが、 どうやら佐竹の言う "キクさん" と "キヨコ" は、
同一人物のようだ。


彼は昔、博打の借金取りから逃げてこの島へ来た時、自殺死体が岩場に
打ちあげられた現場に出くわしたらしい。


中年の女性と何人かの男達が、診療所へ死体を運ぼうとしている。

見物を決め込んでいた佐竹に、女性が声を掛けてきた。

 「あなたも手伝いなさい

佐竹は言われるがままに、手を貸したそうだ。

 「気丈な方だと思いましたよ。 腐乱しかけた死体ですから…。
 わたくしは、吐きそうでございましたよ


見るのも触るのも出来ないと言いながら、キヨコは勤めを果たしていたのだ。


佐竹の話によると、その後一週間ほどキヨコの家で世話になったという。

 「あなたも自殺しに来たのなら、おやめなさいよ

キヨコと夫は島で見知らぬ顔の人を見掛けると、家に連れ帰ってタダで宿を貸し、
飲み食いさせていたということだった。

キヨコはいつも隅っこで小さくなっているような人だったが、
実はすごい婆サマなのかも…


私だったら、無医村で医師をする夫と共に献身的に働いた、と
自慢話にするところだが。

辛いから、辛いと言う、 彼女のそんなところが正直でいいなぁと思う。


自分のことで精一杯の私でも、 良い人に出会うこと、あるいは人の良いところを
知る機会がある。


コレって、ツイてるよ。

でも、黙っていよっと。 佐竹がイイ気になるだけだから。
posted by 片岡 よしこ at 13:34 | Comment(0) | TrackBack(0) | バックナンバー
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