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 赤毛のアン 〜毎日読むアン〜                           

No.92 『第21章  "源爺"』



  〜アンはフィル・ゴードンの屋敷 "ひいらぎ荘" で、楽しい二週間を過ごします。

   馬車の遠乗り、ダンス、ピクニック、舟遊び。

   ギルバートのことを考えると、何かが痛んだけれど、
   毎日続くお祭り騒ぎの中で、彼の事を考える時間はありませんでした。




21歳、お年寄りの気持ちはわからない。



ここが市内なのかと思うほど、田舎じみた風景の中の一軒家に、
"源爺" は一人で住んでいる。


実際、たぬきが餌をねだりに来るらしい。

夕食が終わった頃、勝手口の辺りまで子連れでやって来て、じっとこちらを
見ているので、 源爺が食べ残した魚やら、野菜の煮付けやらを投げてやると、
おおきに」 も言わずに口に咥えて、裏山へ帰っていくのだそうだ。

 「かわいげのないもんじゃなぁ。 "畜生" ゆうもんは…

 それにしても、たぬきのどんべえ、 小そうて、かわいいなぁ。
 目に入れても痛うないほどじゃなぁ…


源爺、 "ミニどんべえ" を手で撫でるように、眺め回している。

レギュラーサイズの "どんべえ" は食べきれないとぼやくので、"ミニ" を買ってみた。

これなら残さずに済むが、畜生のたぬきはおこぼれに与れなくなるだろう。


他に頼まれた買い物は、 お造りとパックのご飯1週間分、それにバナナ。

源爺は電子レンジで温めるだけのご飯が、大のお気に入りだ。

姉妹品の赤飯も大好きだ。

 「下手な女房の炊いた飯よりうまいからのぅ

と、ほくほく顔である。 死んだばあさんが聞いたら何というやら。



源爺は10年前に女房に先立たれ、それ以後ずっと一人暮らしだ。

二人の息子は他県で働いて所帯を持っているという。

近くに住む妹が、ちょいちょい顔を出しては何かと世話を焼いていたのだが、
その妹も80歳を超え、自分の足元もおぼつかなくなり、
我が社に腕利きのお手伝いさんシッターを依頼したという訳だ。

その腕利きの一人がこの "わたし" (?)とは、笑わせる。


あんた、割烹着姿は結構老けて見えるじゃないの。 大丈夫、ベテランの28歳でとおるわ

 いやいや、とおらないって、 社長。

私はベビーシッターですから。

それにお年寄り… しかも男の年寄りは苦手なのよ!

男は歳をとっても "" を感じさせる時があって、私はそれが怖かったのだ。


と言うのも、祖父が亡くなる前に自宅で療養していた時のことだ。

珍しく四男夫婦が子供を連れて、泊りがけで遊びに来た。

狭い部屋に蒲団を敷き詰めて、騒ぎまわる子供達。

色白でふくよかな嫁の顔がうっすらと上気して、ピンクのモヘヤのセーターが
一層可愛らしさを引き立てていた。

おばちゃん、きれいだなぁ…」 そう思ったのは私だけではなかった。

それまで黙って、火鉢にあたりながら一杯飲んでいた祖父が、何気に呟いたのを
私は聞き逃さなかった。

 「かわいいのぅ…

それは、孫達に向けた言葉ではなかった。

その時の祖父の表情、艶かしい目つき。 私は忘れない。

年老いた男が、若い女を見る目とはこういうのを言うのだと、私はその顔を
覚えておく事にしたのだった。



源爺は "ひっつき虫" だった。 21歳の小娘にとっては、充分イヤラシイ。

振り向くと真後ろに立っていたり、味噌汁を温める私の側に寄ってきて、
鍋を覗き込んだりする。

その度に、私の心は 「ギャ!」 と叫んだ。

とにかく、 物珍しそうにうろつき回って、私をビビらせていた。



源爺の家の中は、まるでゴミ捨て場だ。 足の踏み場がない。

女房に先立たれた一人暮らしの男とは、 こうもやりたい放題の野放し状態なのか…??

好きな物だけを食べ、くだらない不用な買い物を楽しみ、出したら出しっぱなし、
ゴミは床に置きっぱなし。

嫁にうるさく言われない限り、男は衛生的かつ健康的な生活すら出来ないのだから、あきれる。


それに加えて、若い女を目で追う目つき。

私が嫁だったら、 「あんた! 何みてるの! みっともない!

女房の "睨み" と "小言" は、 度を越さなければ男には程良い "抑止力" に
なるのかもしれない。


源爺の台所はゴミの山。 何が出てくるかわからん… 

死んだばあさんの食べかけたジャムとか…。

"5年前の牛乳" なんて、学会で発表したいものだ。 匂いもしない、ツルンとしたヨーグルト状。

去年の "おせち" は手付かずで、テーブルに放置されている。

私が浦島太郎でも、蓋は開けたくない。


片付けんでええ、後でワシがするから。 ばあさんが生きとったらのぅ…

そう言うけど、 源爺…。

さっきから私の後ろを金魚のフンみたいに、ついて廻ってるでしょうが!

あ〜もぅ うっとうしい!



もしばあさんが生きてたら、嬉しそうに私の後をついて廻るなんてマネは、

ゼ ッ タ イ に で き ま せ ん

posted by 片岡 よしこ at 08:10 | Comment(0) | TrackBack(0) | バックナンバー
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