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 赤毛のアン 〜毎日読むアン〜                           

No.90 『第19章  上野さん』


  〜ジェムジーナおばさんはお年寄りだけれど、
   心はまだ18歳のままなのです。

   そして、いつも大切な事を教えてくれます。

   「神様と隣人と自らの命じる義務を果たして、人生を楽しみなさい」

   「愛してもいない人と結婚するものではありませんよ」




21歳、援助交際ごっこ?



希望を失った時、人は死ぬ。


全盲の "上野さん" は、肝臓ガンだった。


盲学校で針灸の教師をしていた。

最初の手術の後、職場に復帰できたのを喜んでいたが、1年後に再発。

休職して病院通いが始まった。



我が社では、シルバー・シッターの派遣もしていた。

聞こえはいいが、お年寄りのためのお手伝いさんの事だ。

他にも、障害者の "外出の付き添い" などもやっていた。

派遣業というのは儲かる職種ではなく、シッターに時給と交通費を払ったら
利益はほとんど残らないのだ。

とにかく何でもやって、 "" をこなさなければならない。



かたおか〜 上野さんは "いい声" なのよ。
どんだけハンサムかと思ったら…。 ショックだったわぁ



なるほど… 上野さんは小さくて、ずんぐりして、 松本清張にそっくりだった。

つまり、そのぅ…、 正真正銘の "ブ男" だったのだ。



生まれつき目の見えない人は、全盲の中では "エリート" だと思う。

見えているかのように歩き、躊躇なく手を出して物を掴むのに、
私は驚かされた事がある。

しかし、 徐々に視力を失った上野さんは、何をするにも慎重に動く人だった。


片岡さん、あなたは美人なんでしょうねぇ

盲人にとって "美人" とは、声のきれいな人のことだと教えてくれた。

となると、 上野さんは "ハンサム" だということになる…。



ある日の事。

職場に復帰できるかどうかを審議する "審問会" に、付き添って出掛けた。


しかし、審問の結果は彼の期待を裏切るものだった。

病人とは思えない足取りで歩いていた上野さんが、本当に病人らしく変わって
しまう。

毎回、結構な金額をつぎ込んでいた宝くじを買わなくなった。

病院帰りには好物の鰻やお寿司を食べて、デザートにソフトクリームを3口で
平らげていたのに。

 「僕は食べられないから、あなたが代わりに食べて下さい

私が食べているのを見るのが (実際見えないのだが) 嬉しいから、
食べて欲しい
と言われ、 小食の私もいつになく頑張って食べた。

おいしいです〜ぅ、を連発しながらね。



そうこうしているうちに、 病院に行く日以外にも付き添いの予約が入るようになった。

デパ地下で買い物をして、鰻やお寿司を食べる。

昼間だというのにビールも飲みなさいと、強引に勧められたりした。


同じ年頃のおじさまの心理は、 "佐竹" に任せろ、だわ。

上野さまは、 "援助交際ごっこ" をなさっておられるのでは…?」

 なに〜ぃ! そうなのか〜ぁ?

援助交際だなんて、  "ごっこ" にしろ、上野さんにそう思われているとしたら、
私は不愉快だわ。

あんなブ男のおじさんと付き合ってるって、周りから見られてたのかと思うと、
ゾッとする。

どう見ても "金目当て" 、って感じだもの… 

とは言え、 ご指名で予約が入れば、断るわけにはいかない。

あぁ〜 つらいわぁ…



ある日、病院から出されたを確認した上野さんが言った。

 「これを貰うようになったら、最期です

その薬は、末期の患者に出される "死の宣告" だったのだ。



上野さんが職場に復帰できていたら、もっと長く、元気で居られたに違いない、と
私は今でも信じている。


審問委員はバカ揃いなんだ。


彼は針灸の先生なのだから、自分の病気がどの程度進んでいるかくらいは
把握していただろう。

普通の病人ならいざ知らず、 実際彼は、職場に復帰して仕事をこなす方法を
知っていた。

痛みのある時は自分で針を打ち、サルノコシカケとかの漢方薬を取り寄せたり…。

意外に効果があるのは、クラシック音楽を聴くことなのだそうだ。


良くなる望みのない病人は、何に希望を見出して生きろというのだろう。

段々と無口になる上野さんから、私は何一つ聞きだすことは出来なかった。

もし佐竹の言うように "ごっこ" をしていたのなら、私がうわついたお調子者で、
更にベテランでも何でもない "21歳の小娘" だった事を、私は感謝する。

ふわふわとおじさまと付き合うには、もってこいのキャラだもの。

だって、タダ飯を食べさせて貰って、スクラッチの宝くじで大騒ぎして、
それなりに結構楽しかったんだから。



希望を失うと、人は死ぬ。

でも、 希望がなくても健康であれば、人は生きていける。

しかし、希望がなければ生きている甲斐がない。

posted by 片岡 よしこ at 06:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | バックナンバー
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