〜一人で生きていけるだけのお金があれば、あんな男と一緒に居なくて
済むのに…
村の奥様方の、そんな会話を小耳に挟んだデイビーは、
素朴な疑問に行き当たります。
アンとギルバートは結婚する、あの二人は間違いない、
リンド夫人からそう聞かされていたデイビーは、アンに尋ねました。
「一人で生きていけるだけのお金があったら、アンはギルバートと
結婚しないの?」
アンはミス・バリーから、1000ドルの遺産を贈られていたのです。〜
21歳、タダ働きにも精を出す。
こどもは大人が思うよりずっと物事がよく分かっていて、こどもなりに
気を遣っているのだ、と私は思う。
少なくとも "私のお客のこども達" は、"空気を読む子が多かったように思う。
三人兄弟が父親と暮らす家は、閑静な住宅地にある。
「女房が家を出て行っちまって…。 末っ子を幼稚園に迎えに行って、
あとは上の二人が小学校から帰って来るまで、見てて欲しいんですよ。
夜は "ばあさん" に頼んであるから大丈夫なんで。」
父親は旅行代理店を経営している。
融通の利く立場なので、末っ子のお迎えを何とかこなしていたのだが…
「あの "お迎え" ってのがどうも苦手で… ついこの間まで、女房が
行ってたでしょうが。 僕が行くと "お母様方" の好奇の視線が… どうもね…
そういうのは、まっぴらだからねぇ」
え〜え〜 分かりますとも。
"ひろ" のおにいちゃんも通っている、名門幼稚園。
"お母様方" は筋金入りの暇なセレブ。 既に充分、 "噂" になっているはずだ。
我が社でも売れっ子のシッターが担当に決まり、私は彼女の都合がつかない時の
"補欠" になった。
「ただいま〜」
私も "お母様方" 同様、男所帯の家の切り盛りがどの程度なのか、好奇心はある。
しかし、意外にも家の中はよく片付いていた。
末っ子は真っ先に台所に直行した。
テーブルには、三人分のおやつがちゃんと用意されている。
汚れた茶碗が流しに放置されてるのでは? ない… 全部洗ってあった…。
冷蔵庫には、 「弁当のおかずを買うこと」 なんてメモまで貼ってあって…
へぇ〜 ヤルなぁ…!
私は指示されたことを思い出して、大急ぎで父親に "ファックス" を送った。
13:40 帰宅
園の先生からの言付けはありません。
シッター報告書とは別に、帰宅したことをファックスで知らせるように
言われていたのだ。
こんな指示は今まで一度も経験したことがなかった。
母親は子供が園から帰ってきたかどうか、気にならないのだろうか…
ふと思ってしまった。
先にお姉ちゃんが帰って来た。
「へぇ〜 いつもの先生じゃないんだぁ」
と言う顔をしながらも、冷蔵庫からジュースを出して私に勧めてくれる。
どんなゲームが好きだとか、こんな事できる?とか、 "お近付き" になって
いる間に、長男が帰宅。
ここで、二人の帰宅をファックスで報告して、 私の仕事は 「終わり」 である。
その前に、 お兄ちゃんに言い聞かせておかなければ。
一人で自転車で遊びに行っては駄目だって。 パパの言いつけだからね。
長男とお姉ちゃんが宿題に取り掛かるのを見届けて、私が帰ろうとした時、
長男が言った。
「4時まで僕らが帰ってこなかったことにして、もうちょっと居てくれない?
だって、こどもが三人になったらお金が倍かかるんでしょ。 パパが言ってたよ。
僕たち宿題するから、 先生に見ててもらわなくてもいいからさ」
あ〜もう、 泣かせるなぁ…
でも、3時20分に帰宅したってファックスしちゃったから、 内緒でサービスは
できないよ。
ベビーシッターってのは、時間で買われた身の上なのだ。
三人の視線が一斉に、私に注がれた。
これで 「おしごとだから」 などと割り切って帰るほど、私はベテランじゃない。
そんなこと、できません。
「バスの時間まで30分あるから、ここで本でも読んで待ってていいかなぁ?」
私は宿題を見てあげたり、本を読んであげたりして時を過ごした。
そして、 シッター報告書には 「終了時間 15:30」 と記入した。
「これからいっつも30分、タダ働きすることになるわよ!」
社長には叱られたけど、 私はあの三人兄弟が好きになってしまったのだから
仕方がない。
母親が居ないからかわいそうだ、 そんなありきたりな気持ちで
タダ働きなんかしない。
一所懸命なお父さんの、 ごくありふれた、フツウの可愛い、三人兄弟。
私はただ、 そんなこども達が好きになってしまっただけなのよ。
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