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 赤毛のアン 〜毎日読むアン〜                           

No.84 『第13章  不自由な毎日』



  〜ああせぇ、こうせぇ、 あれは駄目、これも駄目、
   リンド夫人はホントに神経にさわりますね。

   デイビーは 「やっちゃいけないと言われたことを、全部する。」 と
   決めました。
   しかしやってはみたものの、 後味の悪い思いに苦しむことに
   なるのでした。




大学2年生になった私。 なんだか不自由。



自由って、何なんだ?

自分の機嫌が良い時は自由になったような気がするが、実は何も変わっては
いない。

ミッチは寮を出て、自由を謳歌しているように見える。

  「男がいなきゃ、つまらないじゃないの。

ミッチは断言。 男と付き合うのが自由の中身なのだろうか。

それじゃあ、自由な気分を味わってるに過ぎないと私は思う。

気分は長続きしないし、一生このまま楽しく遊んで暮らせるはずもない。


お嬢様は、本当にやりたいことを何ひとつ、していらっしゃいませんでしょう

佐竹は言うが、 やりたいことをするには、私は能力も経済力も足りないから
できないの!



佐竹は、岩手県の旧家の長男に産まれたと聞いている。

だから、何でも好きな事ができたんだ。

しかし、 それがどうして帰る家もない、しがない年金暮らしの年寄りに
成り下がってしまったのだろう。

体つきはがっしりして、土木作業や警備員の仕事で日に焼けてはいるが、
どことなく育ちの良さそうな雰囲気は、自称 "おぼっちゃま" と言うのも
まんざら作り話ではないと思えた。


私は、佐竹の "名前" を聞いたことがなかった。

佐竹は最初から "佐竹" だし、彼も呼び捨てられる事を望んだからだ。

佐竹 一馬」。 それが本名だった。


わたくしは、母が佐竹の父の世話になる前に産んだ、私生児でございました

この事を知った日から、佐竹の人生は狂い始めた。

佐竹の母、百合子は、当時景気の良かった満州での商売に成功した親戚の家に、
行儀見習いに出された。

百合子は色白で、美しい顔立ちの娘だった。

両親の薦めに大人しく従って満州に旅立って行ったのだが、一年も経たないうちに
送り返されてきた。

身重の身体だった。

満州の叔父と叔母は、身持ちの悪い娘を預かれないと言ってよこした。

しかし、彼女を問いただすと驚くべき事実が明るみに出た。

なんと、満州の叔父が彼女に "手を付けた" というのだ。

叔母にさえも見て見ぬふりをされ、あげくに使用人との密通をでっち上げられて、
汚名を着せられたまま、送り返されたという話だった。


町の骨董屋で働く美しい百合子に一目惚れした佐竹の父は、この話を承知の上で
ふた回りも歳の若い彼女を "囲った" のだそうだ。

父には既に妻がいた。

しかし、病弱な妻に子供はなく、 プライドと嫉妬だけで命を繋いでいる彼女は、
百合子の存在を決して認めようとはせず、離婚して新しい人生を生きることではなく、
百合子と亭主を苦しめることを生き甲斐に選んだ。

佐竹の父は百合子の所に入り浸り、妻の所へはめったに帰らないようになった。

小作人を抱える豪農の彼と百合子の生活には、何不自由はなかったのだ。


百合子は、一馬を医者にしようと考えていたという。

"囲われ者" の子が、一人生きてゆくには職を身につけるしかない。

それも尊敬される職業でなければならない。

"囲われ者" の子、と馬鹿にされぬように。



母は、それはもう教育熱心でございました

佐竹は母に逆らうこともなく、言われた通りに医者になろうと熱心に
勉強に励んだ。

自分が私生児であることを知るまでは。


ある日急に、母が汚らしい女に見えてきたのでございます。
後はお決まりの悪行三昧。 お恥ずかしい限りでございます。


賭け事、女遊び、 悪いことはなんでもやった。

ある日、遊びで付き合った女が子供を孕んで、 首を括って死んだ。

とうとう町には居られなくなり、医者の勉強をするとかこつけて、
東京に出たのだそうだ。


自由で楽しゅうございました。 マジメに生きておりましたら決して味わえない
ような自由でごさいますよ。
わたくしは神仏など信じておりませんから、地獄に堕ちる心配もございませんし、
産まれも育ちも卑しい身の上には、怖いものなどありませんでしょう。
どんな悪行をしても、後味が悪かった事などございませんよ。

でも、さすがに母が亡くなったと聞いた時は、正直ほっと致しました。

これで、わたくしが何処でどう野垂れ死んでも、母が知ることは
ございませんから。

わたくしの良心など、その程度のものでございます。
決して、産まれ育ちが良いから好きなことが出来たのではございません。
自分からすすんで、道を踏み外したのでございます。




自由って、何なんだ。

道を踏み外すのも自由だというのか。

それなら、気分や機嫌に振り回されて毎日を過ごすような馬鹿者には、
自由は危険な刃物の様に思えてきた。


でも、佐竹… あなたは自由に生きたと言えるのだろうか。

卑しい生まれの自分から、自由になってはいないではないか。

あっ… そうか… 私だって同じだ。

貧乏だから、能力がないからとすぐに諦めてしまう時は、決まって後味が悪い。

逃げる時は、いつだって不自由な気持ちになる。

確かに現実的に限界はあっても、持っているものを最大限に生かすことは
できるはず。

持っている能力だけでやりたいことをするのが自由ってものなんだ。


佐竹、 私は決めたよ。


逃げないで、心の自由を求めて生きると私は決心した。
posted by 片岡 よしこ at 07:51 | Comment(0) | TrackBack(0) | バックナンバー
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