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 赤毛のアン 〜毎日読むアン〜                           

No.80 『第9章  眠りの森』

  〜宵の明星のように輝く灰色の目をした、すらりと細い
   赤毛の女子学生をエスコートしたいと狙っている男子学生は、
   ギルバートだけではありませんでした。

   出目のチャーリー・スローンでさえ、プロポーズしたくらいですから。

   ギルバートは周囲の男子学生に先を越されないよう、
   慎重にアンとの距離を保っているのでした。




私はもうすぐ20歳。



夏休みが明けると、 シスターの監視にしびれをきらした一部の寮生達の
下宿探しが始まった。

一年我慢すれば、広い部屋に移れるのに… 寮のご飯はうまいし。


下宿に移ったミッチは大満足だった。

  「寮生活にはウンザリ。 高校の寮じゃ、エンピツを削るための時間まで
  決められてたんだから。 先生がチリンと鈴を鳴らすと一斉にエンピツ
  削って、チリンと鳴ったらまた勉強。

   それによ、学校中に誰それの御像とか聖人像とかがやたらとあって、
  その前を通る時は必ず会釈するキマリになってるのよ。 馬鹿みたいでしょ。

  授業に遅れそうでも、トイレに急いでても、そこでピタッと "止まれ"
  なんだから。

   おかげで、商店街のマスコット人形とか着ぐるみにまで、つい会釈して
  しまうの… 悲惨な習慣だわ。



それは確かに難儀な寮である。

だが聖人像への礼節を守らせる前に、基本的な生活習慣を教えていないようだ。

炊事、洗濯、掃除…、 更に現金管理もできないミッチの自由とは、残念ながら
不自由としか言いようがない。

ミッチ… 自分の世話を自分でできる、これぞ自由ってモンじゃないの?

私はミッチに、おうどんのダシのとり方を教えながら諭した。

  「う… 〜ン!  ミッチ、 ガ ン バ ル !


何をガンバルのか釈然としないが、 わかっているのは、私はミッチにとって
役に立つ友人として利用されるということだ。

  「よしこちゃんて、すご〜い なんでもできるんだぁ。
  いつでもお嫁に行けるわね〜


とご機嫌をとられてね。

しかし、私は抜け目がない。  "ダシ" のとり方だけは、ミッチに仕込んだ。

これで、彼女は少なくとも "おうどん" を食べる自由だけは手に入れたわけだ。




そんなある日。

ベーシストに捨てられ…、落ち込んで、 しばらくはおとなしく家事見習いを
していたミッチに、 新しい男ができた。


しかし、なんで…? 前よりタチが悪くなってる…

"和宮" という公家のような名字の男だが、中身は遊び人とお見受けした。

  「ヤキモチやきなんよ〜  それでぇ〜 私のタンポンにまで
  ヤキモチやくんだから…


ミッチ… 遊ばれてると思うよ。 前の男と同じだわ。


ミッチは私の言葉を教科書を読むように繰り返して、屋根裏のトランクに
しまい込み、 鍵をかけた。


自分で自分の世話もできないこどもだったのに、 自由で幸せだった時代を
永遠に取り戻せない世界に行ってしまったのだ。

大人になるのに、こんな胸焼けのような思いをしなければならないものなのか。

今の気持ち… 魔法使いのクソ婆に、 "毒入りリンゴ" を食べさせられたようだ。

胃袋に収めないで喉に詰まらせていれば、白雪姫のように "バク睡" して
いられたのに。

自由で束縛のない生活って… 毒リンゴだったのか?


大切にしてきた私の感受性、 こどもらしい感じ方…。

みんな毒にやられてしまったら、 私が私でなくなってしまう。



そうだ、眠りの森に隠してしまおう。 眠りの森に、時は流れない。

これで私がもし、バカな男に惹かれて "打ち勝ち難い誘惑" に負け、
心が腐ったとしても、 本当の私だけは守れるかもしれない…

私はそう思うと、 少しほっとするのだった。
posted by 片岡 よしこ at 16:09 | Comment(0) | TrackBack(0) | バックナンバー
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