〜アンは初めて、プロポーズされます。
申し込んだのは友人であるジェーンの兄、ビリー。
遊びに来たジェーンが、兄に代わってこの話を持ってきたのです。
しかもその上、アンに断られたらブリューエット家の娘を貰うと
決めている、 というのです。
プロポーズに描いていた、アンの薔薇色の夢は壊され、
後はもう、笑うしかないアンなのでした。〜
もうすぐ20歳の私。
なんとも思ってない、 いや、むしろどっかへ消えてほしい男に周りを
うろつかれたところで、 結局めんどくさいだけ。
残るのは疲労感と自己嫌悪でしかない。
私を、日差しの爽やかな緑の公園に誘った男、 グリークラブの部長。
誠実そうで清潔感溢れる、銀縁メガネに騙された。
「どうだい、僕って素敵だろ?」 と身体中でモノを言ってるような人。
で、自分の事ばかり聞かされて、あくびが出る。
声を掛けてやったんだから、付き合うのが当たり前みたいな、
妙な口説き言葉にウンザリ。
適当な口実を作って、それ以後のお誘いは断った。
すると今度は、 「じゃ、あの時なんで来たんだ?」 と、逆ギレ。
アンタ、私以外にも何人か呼び出したでしょうが。 調べはついてるんだから。
そりゃ私だって女だし、ちょっとした魅惑的光線くらい出すわよ。
勝手に勘違いしておいて、思わせぶりな態度をとる私が悪いみたいに言わないで。
なんなら、はっきり言ってもいいのよ。
「あなたは最初っからナシです」
大体、女子大生を恋愛の対象としか見ない男が多すぎる。
「どう、俺とつきあわない?」
その "付き合う内容" がイカガワシイからナシなんだよッ!
お願いだから "下心モッコリ光線" を出さないでほしい…。
しかし、まるでイカガワシクなくてもナシという、 非常に残念なケースもある。
夏休みも終わる頃、ハルの幼友達が通っている医大の "なんとやらを記念する"
ダンスパーティーに、ハルと二人で出かけた。
会場になる学生会館は、赤レンガ造りの古風な建物だった。
しかし、一歩入るとそこでは既に、強烈なロックのライブが始まっていた。
ハルが幼友達と、そのツレの男を紹介してくれた。
そのツレが私を今夜エスコートしてくれることになっている、と私は聞いていた。
黒縁メガネにカジュアルなスーツ姿の "ツレ" は、紹介によれば優秀な医学生
なのだそうだ。
「へ〜 これがねぇ…」
それにしても、踊りっぷりが… ものすごい…
ロックと言うより、阿波踊りみたいな…
バンドの演奏が "ハイウェイスター" になったその時、 ツレは狂ったように
踊り始め、黒縁メガネは床にぶっ飛び、 私とツレの周りの人並みは
サット引き潮。
ぽっかり開いた丸い空き地に踊り狂う、ツレ。
たじたじともじもじと、ステップを踏む私に、 彼は叫んだ。
「ボクはバカですから〜 」
「はぁあ? なに?」
「ば か で す か ら ぁ 〜 」
叫ばんでもええ。 見ればわかる。
ふと見ると隣では、ハルが幼友達に腰を抱かれて、互いの耳元で笑いながら
ささやき合っているではないか。
それに引き換え、私のツレときたら… 私の事なんか全然見もせず、ほとんど
陶酔状態で踊り続けている。
「アンタ、エスコートの意味わかってんの?」
バンド交代の休憩時間にツレを廊下につまみ出して、私はアネゴ風を吹かせた。
「はい?」
マヌケな返事してくれるじゃないの。
「このパーティーじゃ、残念ながら私とアンタはカップルなのよ。
私をほったらかしで、一人で悦に入って踊ってんじゃないわよ。」
曇ったメガネのせいでますますマヌケに見えて、また腹が立つ。
「ハルだって、幼友達だから全然恋愛感情なんかないのに、恋人みたいに
踊ってるじゃないよ。 アンタはね、気が利かないのよっ!」
「そうかぁ〜 でもロック好きなんだろ? ブワッ〜とやろうよ」
むかつく…
再び鳴り始めたドラムの音にせかされた人波に乗って、私達はフロアに
押し出されていた。
もう黒縁メガネとは踊らないことにした。 その方がせいせいする。
思いっきり踊って、お気に入りの茶色のワンピースもぐちゃぐちゃになったけど、
令嬢の柄じゃない、と認めて頂いたので気が楽だ。
女のヤル気光線は時と場所、いや相手を選べってことよ。
帰り際、後ろの方から黒縁メガネの声が聞こえた。
「今日は楽しかったなぁ〜」
見ると、大汗かいて真っ赤な顔。
ヤツにとっては、 吹っ飛んだメガネなど、もうどうでもいいらしい。
こういう男達との出会いを重ねるたびに、乙女は女になっていくものだと…。
もうじき20歳のよしこ、 きっちり教えてもらいましたで。
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赤毛のアン 〜毎日読むアン〜
No.79 『第8章 退屈な夏休み 後半』
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