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 赤毛のアン 〜毎日読むアン〜                           

No.76 『第5章  大学の社交界を知る』



  〜名士の令嬢である友人、フィル(フィリッパ)のおかげで、
   レッドモンドの社交界にすんなり入れたアン。
   他の1年生の羨望の的になります。

   男子学生を取り巻きに従える、フィル。
   しかし頭のいいフィルは、ギルバートがアンに夢中なのを
   見抜いていました。




私は、大学1年生。



この大学に社交界などない。

ラウンジでの井戸端会議が社交の全てだが、慣れてくると派閥のようなものが
ある事に気付く。

下宿派寮派、 自宅派の三派。

下宿派には何となく一人暮らしの生活臭が漂っており、自宅から通うお嬢様とは
違う独特の匂いで、それとわかる。

社交の幅を広げるには、下宿派の女と知り合いになることだ。

彼女達の部屋は、単位の攻略から男の子の攻略まであらゆる分野に関する
"談合" の場であり、 更に新しい友人と出会える一種の "アジト" のような
役割を果たしていた。



九州出身のミッチの下宿は、お好み焼き屋の二階。

頬骨が高く、笑うと唇の両端がキュッと上がる彼女は、大学進学の目的は
男を沢山つくって遊ぶ事、と明確だ。

  「私の顔、九州顔でしょ? この手は九州にはゴロゴロしてるけど、
   本土では珍しいから。 今が人生最大のモテどきなんよ。


はい、確かに。 私もあんたの顔には惹かれる。



ミッチの下宿で知り合ったアメリカ帰りのハルは、 私と同じ年生まれで、
誕生日が3日早い。

1年生とは思えない、落ち着きのある大人っぽい女だった。

  「私、アメリカで結婚するつもりの人がいたのよ。 でも、おばあちゃまが
   倒れたって騙されて。 帰国したらそのままお縄になって、大学に戻れって
   言われたの。 皇族御用達の大学には戻りたくないから、彼と別れるのと
   引き換えにここを選んだってわけ。」



合格祝いの電話を貰って以来、 私と京都のヨシロー君とは友達付き合いが
始まっていた。

私は彼に宛てて、月に一度は膨大な枚数の手紙を送り付けたが、
返事はめったに来ない。

その日もミッチにグチったり、のろけたりで騒いでいたのだった。


ハルはごく自然な仕草でたばこをバッグから取り出して、火を付けた。

そして、 「あなたは… 」 と切り出した。

私は、ぎくっとした。 ハルは軽々と人を見抜く目を持っていた。


  「あなたは、そのヨシロー君とやらを好きな自分が好きなのよ。
   一種のナルシストね。 それ、恋愛でも愛でもなんでもないわ。


心にも無い慰めを言われるよりいいが、ハルの冷たい言葉に私はカチンときた。

ナルシストですって!

自分勝手な恋愛願望で、ヨシロー君を利用してなんかいない。

私のどこがジコチューだっていうのよ!

  「じゃ、好きと言われたの?

痛いところを突かれてしまった。

好きだと言われてはないが、彼は私の気持ちを知っているはず。

目には見えない、耳でも聞けない事を私は感じるからわかるのだ。


私を大切にしてくれているのよ。」 私はムキになった。

  「よしこさん… 若い男なら好きな女を抱きたいと思って当たり前でしょ。
   何もないなんて、ヨシロー君、病気かもしれないわよ。


失礼な! ヨシロー君のことまで酷く言うのは許さん。


結婚しようと思ってたんなら、またアメリカに帰れば!

  「追いかけても来ないような男よ。 そんな男、追いかけてどうなるの… 」

あくまでクールなハル。

私なら、納得するまで追いかけるわ。

ハルはちょっと笑って、 「あなたならね。」 と言った。


ヨシロー君への想いが私の "独りよがり" かもしれないって事は、
心の底では気付いていた。

でも認めれば、私自身が壊れてしまう。

認めたくない事をハルは口に出しただけなのだ。

ハルにバッサリ斬られてかなり痛かったけど、私は諦めたりしない。

本当の事がわかるまで、止めたりはしない。



キチガイじみてるけど、あなたって面白いわ。」 ハルが言った。

こうして、先祖代々続いた庶民の私は、金持ちで美人で頭のいいハルと友達に
なった。



青春時代には、 相手とエネルギーを交換したり、利用したりすることで、
自分自身の膨らみすぎた力を放出しようとするものなのかもしれない。

それは時として、相手の気持ちを汲み取れず、自分勝手に暴走してしまう
悲しさがある。

うわべは無邪気に楽しく遊んでいるように見えても、心の底では寂しさを
溜め込んでいる。


だから何かに強烈に引き付けられ、情熱を注ぎ込まずにはおられないのだ。

見かけはクールなハルだって同じだ、と私は思った。
posted by 片岡 よしこ at 06:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | バックナンバー
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