〜アンは天真爛漫な令嬢フィリッパ・ゴードンと友達になります。
大学一の美人、フィルの目にもギルバートのハンサムぶりは
目に留まったようです。〜
私は、女子大1年生。
ジュリーホール。
初代学長様(我が校では、学長には必ず "様" をつけねばならない。)の
シスター・ジュリーを記念して名づけられた、 学生食堂兼ラウンジ。
そこは、 "女" ばっかりだ。
うへ〜というくらい "女" で埋め尽くされて、はみ出した "女" は中庭に並んだ
テーブルにひしめき合っている。
昼食時のラウンジに足を踏み入れた瞬間、 食べ物とコーヒーと、女の匂いで
息が止まりそうになる。
そんな中からクラスメートを見つけるのは至難の業だ。
向こうから見つけて貰えるまで売店の付近に立っているのがいいと気が付いた。
高校時代の英語の先生は、 私達のことを主体性がないとか、人の意見に
すぐなびくとか…
要するに、髪型や服装の事だけに脳ミソを使い、 日々喰い、眠り、しゃべるに
全精力を使う動物だと決めつけていた。
主体性を持たせる教育をしないで、一方的に言い過ぎだし、少なくとも私は
有意義な事にも脳ミソを使っている、と先生に反論した。
女子校生だと思って馬鹿にしていませんか、と言った。
しかし、ジュリーホールにたむろする "おねいさま方" を見る限りでは、
先生の意見もごもっともという気になる。
むしろ高校生の方が自己主張があり、不良らしく "私はひねくれています" と
顔に書いてあって、潔い。
この女子大の女達は化粧とファッションで腹黒さを隠し、しがないサラリーマンの
娘のクセにお高くとまった、お嬢様気取りだ。
「これから学長様の講義だから、急いで前の席を取らなければね。」
卒業したらお見合いをしてそこそこの家に嫁ぐのに、学長の講義が何になるのか。
大学の事務方の人間まで "学長様" だから、どうかしている。
私と斉藤女史はそんな連中の前で、わざと大きな声で「がくちょう」と
呼び捨てることにした。
経済的理由と学力の程度を考えて選んだ大学だったが、これは選択間違ったかな…
そんな時。
「よしこさん… 新聞部に部員がいないなんて信じられる?」
ある日、斉藤女史があきれ顔で訴えた。
アカデミックであるべき大学に新聞部はあっても、部員が集まらないのを
嘆いているのだ。
「よしこさん… 2年生になったら、新聞部を立て直して、新聞を出そうよ。
一緒にやらない?」
大学にも学生にも、言いたいことはかなりあったし、そりゃ面白そうだ。
しかし、これが意外に難航した。
結局3年生になった秋、斉藤女史が国文科の変わり者1年生を勧誘するのに成功。
私も英文科から1名を引っ張り込んで、やっと第1号を発刊する運びとなった。
記念すべき1号のインタビューには、 "がくちょう" が選ばれた。
テープレコーダーを肩に下げた凛々しい姿の斉藤女史を引き連れて、
私はインタビューに向かった。
学長は大学祭の記念講演を終えたところだった。
講演内容の補足質問の後、私は隠し球を出した。
「学長様と呼ばれることについて、ご自身はどう思われますか?」
学長は絹の上を滑るような綺麗な抑揚で答えた。
「あなたはどう思われますか?」
私が聞いとんじゃ! こいつ、結構やるな…
「私は学長様とお呼びしておりません。 私にとっては、学長以外の
何者でもないですから。」
「それで、よろしいですよ。 わたくしは学長でございますから。」
「では、何故みんなが学長様と呼ぶのをやめさせないのですか?」
「わたくしは木を切ることに専念するあまり、森を見ることを疎かに
していたのだと思い、反省しております。」
はっ? 斉藤! 助けてくれ!
「あなたは、なかなか鋭い質問をされましたね。」
固まった斉藤を尻目に、私は続けた。
「わかるように言って頂けませんか?」
上に立つ者は、自分の事を自分の思うようには出来ないものなのだ、
そう学長は話してくれたが、 私には充分理解できなかった。
つまりマザー・テレサは "聖人" と呼ばれたが、テレサ自身は自分のやるべき
仕事をしていただけ。
そんな風に、私は理解した。
学生達の中には、この学長のいる大学に学んでいることを誉れにする者も
多くいた。
尊敬、というより自慢の種にしているようで、私は胸が悪くなる。
学長と直に話してわかったことだが、彼女だって周囲のから騒ぎにムナクソが
悪いのだ。
目の動きでわかったような気がする。
汚れ無き偉い人である学長としては言えないだろうから、私が代わって
新聞に書いてあげることにした。
学生なら勉強せえや。 自分の大学の塀の中だけが世界じゃない。
他の大学と、学問の交流や情報の交換をしよう。
ハクを付けるために来てるんじゃないでしょ。
私はいつも、こういうはめになる。
書いた以上は、私も斉藤女史も引っ込みがつかない。
成績結果はともかく、 かなり無理して勉強した。
その後、卒業謝恩会が派手すぎるのを批判。
決められてもいないのに "全員振り袖" はおかしいし、ホテルで開催する
必要もない。
私も斉藤女史も出席するに及ばず、と潔く欠席した。
反対の立場を表明しておいて、のこのこと振り袖なんて着て行かれるか。
そんなこと誰もとやかく言わない、と周囲の学生は出席を勧めたが、
不審に思わないアンタ達がどうかしているって言ってるんでしょうが!
でも、この頑固一徹が私ってもの。
これでいいんだ。 信じて疑ってない。
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