〜18歳のアンは、レッドモンド大学への入学を前に
忙しい毎日を送っています。
そんなある日、ギルバートはアンの手に自分の手を重ね、
気持ちを伝えようとしますが、アンは彼を大切な友達としか
考えることができません。〜
私は今、19歳。
私の夢は、物語を書くこと。
美しい女性が愛のために死ぬ悲しい物語、
あるいは大自然の中で逞しく生きる人々の物語、
又は平凡で慎ましやかに暮らす人々の生活…、
ありとあらゆるものを描いてみたいと思う。
高校時代に書いた "マドモァゼル・ヨシコ パリを行く" では、
見た様なウソを書き、行った事もない外国の街を知ったかぶりに
話さねばならない、良心の呵責に耐えねばならなかったが、
今度は本当に、この目で見た事を書くつもりだ。
一年間、私は入試という "悪魔のようなアイツ" に追いかけられ、
息も絶え絶えになっていた。
"アイツ" は今や、 私を追いかけることに飽きてしまい、
私も追いかけられることに疲れ果て、海外逃亡を考えていた所で、
幸運な結末が訪れた。
志望大学に合格。
大学に入ったからといって、素晴らしい人生が約束されているわけではなく、
ある一つの望みが叶えられたというだけのことなのだから、
大学生活の終わりには、自分の目標をみつけられるよう…
これからが、本番なのだから… よく考えて…、
フニャ フニャ
ぁ〜 私、なんも考えたくない。
そういう時に限って、心を騒がす出来事が起きるのは何故?
高校の親友メグミが結婚を申し込まれたって…
相手は、スイミングスクールのコーチだった。 えっ、イエスなのか??
だってまだ20歳にもなってないし、ついこの前高校を出たばっかりじゃないの。
しかも… ひと回りも年上だなんて、おじさんじゃない!
去年の秋。 私は久しぶりにメグミと、クラスメートのナラコに会った。
聞けば二人は、一緒にスイミングスクールに通い始めたそうだ。
ナラコは 「先生」 と名の付く男に、やたら惚れっぽいので有名だった。
案の定、水泳のコーチと付き合っている事を匂わせていたが、メグミはその話を
穏やかに笑いながら聞いていたはずだ。
そのコーチとメグミが結婚するってことは…、 まさに水面下で女の戦いが
繰り広げられていたのか。
私には、わけがわからない。
海パン姿のコーチと、どこをどうやったらロマンスが芽生えるのか。
ぜんぜんロマンチックでないにも関わらず、 メグミは謎めいた微笑みを
浮かべて言う。
「あなたは大学に行って、波乱万丈な恋愛をすればいいわ。」
なんだか、さよならを言い渡された気分。
仲の良い友達が、自分とは全く違う感じ方の人間だった、と思い知らさせた。
ひんやりとして寂しい。
ついこの間まで、 男はかぼちゃ頭で、叩くとポカポカ音がするって
笑ってたのに…。
これからは、彼女はなんでもあの海パンに相談するんだ。
おうどんをすすりながら、涙が込み上げてきた。
おうどんの湯気のせいよ…
私達は "分かれ道" に来てしまったのだ。
「しかし、お嬢様には例の漢文の教師がおられるではありませんか。」
佐竹が口を出した。
佐竹は想像上の私の "執事" で、 勝手な時に出てきては、いらん事を言うのだ。
岩手県出身の、自称 "庄屋" のおぼっちゃま。
胡散臭いが、お茶をいれるのがうまいので気に入っている。
「私の勘では、お嬢様に気がありますな。」
佐竹の勘は当たっていた。
高校時代の漢文の先生。 変人ぽいのが好きだった。
私ほどの変わり者だったら、普通の人じゃつまらん。
でもある日、 彼が普通の男に見えてきて、怖くなった。
彼の友人の中国人が経営する雑貨屋で、熱いウーロン茶を頂いた帰り道、
夕暮れ時の河原を二人で散歩した。
その時、彼が私の手に触れようとした。 私は慌てて手を引っ込めたわ。
友達なのか恋人なのか、 このどっちつかずがいいのだ。
男って、どうして何も起こらないままにしておいてくれないのだろう。
「勉強を口実に敬遠してるんだから、いいの!」
私の理想の人。
隅っこにいる私、影の私、普段からは考えられないような私、 いつもの私、
色んな私を受け止めてくれて、それぞれにウソのない気持ちを分かってくれる人。
だから安心して、私をさらけ出せる人。
その人に出逢うのが、私のもうひとつの夢なのだ。
「ご婦人方の心は、わたくしには謎でございます。」
佐竹がコーヒーと糠漬けを持ってきた。
最近、趣味で糠漬けを作り始めたのが自慢で、 東北人らしく何にでも漬け物を
添えて出すのだ。
想像上の恋人は沢山いた。
ある男はターバンを巻き、輝く黒い瞳をしていた。
場末の酒場で飲んだくれた男は、芸術家。
毎日毎晩、日記の中で彼らに話をするのが私の密かな楽しみだった。
佐竹の言う通りだ。
はっきりわかるのは私の気持ちだけ。 人のことなんかわからない。
それが男ともなれば、何を考えているのか…、 私はわからない。
知る術を、私は知らない。
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