"励ましクリック"、 よろしくお願いします! にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ

 赤毛のアン 〜毎日読むアン〜                           

No.69 『第28章  ちょっと悲しいところ』

春の日差しが温かい土曜日の午後、 車で1時間程の処にある美術館に、
父と二人で出掛けた。

春の衣替えにはまだ早く、常設展示は冬の風景である。


この画家は、木を大変丁寧に描く。

黒々とした枝が雪に映えて、悲しいコントラストを創り出していた。

絵を描いたことがあれば判ると思うが、木の枝を描くのは結構難しい。

適当に描き流すと、ただの木ぎれになってしまう。

画家の描いた枝は確かに幹に繋がり、大地に根を下ろしている。

命が繋がっているのだ。


父にとっては亡くなった母とよく来た、 思い出深い美術館。

帰り道に立ち寄ったレストランでも、母の思い出に話が及んだ。



父は、祖父が始めた小さな印刷工場で働いていた。

結婚して2年の間、祖父は決まった給料をくれないので苦労したそうだ。

ある日、ふと通りがかった古道具屋の店先に、母が持ってきた茶道具や着物が
並んでいるではないか。

母はこっそり嫁入り道具を売り払って、しのいでいたのだ。

これではたまらんと、父は給料を取れる仕組みを作り、初めて母にお金を渡した。

その翌日、母はデパートに出掛けて全部使って帰って来た。

なにしろ1個で足りるものでもロットで買う癖は、母の武勇伝として
あまりに有名。

しかもそのお金を何に使ったのかは、さっぱり判らないのだ。

私も、そこまでヤルとは思ってもみなかった。 さすが母である。

しかし、資金繰りに父がどれほど苦労したかは初めて聞いた話だった。



物事には幾つかの側面があり、見る方の側によって違うとよく言われる。

話は両方の側から聞かなければ、本当に知っているとは言えない。

母はよくぼやいていたものだ。

  「お父さんはお金をくれない

それはそうだ、 渡したら最後、使っちまうんだもの…



「たんすの着物を全部ほり捨ててしまったが、悪かったのう…」

たんすの中身は母の着物だったが、その中に一枚私のものが仕舞ってあった。

お正月に着ようと思っていた矢先のことだった。

  「どうにも… 腹が立ってのう…


片付けをしていたら、箱の中から年金手帳が出てきたというのだ。

母は自分だけに掛けていた。

ゆとりがなく、二人とも厚生年金を支払っていないと母から聞いていたので、
私も正直驚いた。

父の場合は、驚きよりも怒りが勝った。

持って行き場のない彼は、母の着物をゴミ袋に詰め込むしかなかったのだろう。


父はいい男だ。 使っても使っても、なんとか工面してくる。

まぁ、母に惚れた弱みだからしかたない。

私と出掛けても財布ごと渡してくれるのだから、気前がいいと言っていい。


そんな父の心配は、 "私と妹の経済観念がしっかりしているか" ということ
だった。

それは、大丈夫。 私はむしろ、父に似ているのだ。

やはり、血は確実に繋がっている。

それが証拠に、別れた亭主は母みたいな人だった。

経済観念がない上に見栄っ張りで、計画性ゼロ。

父もそこには気付いてないようなので、私はそっと心に仕舞っておくことにした。



今、私は自分自身を生きていると思えるから、 辛いことなどない。

父も最近では、「お母さんが、生きていれば…」 と言う回数が減って来た
ように思う。

その代わり、残りの人生は自分がやりたい事にお金を使おうという姿勢に
なっている。

母が自分にだけ内緒で年金を掛けていた事、父に数口掛けた死亡保険の意味、
それらを父は、年月を掛けてやんわりと受け止めたように思う。

妻にしてみればそりゃ当然、 女とはそんなものと思えることでもあり、
娘としてはちょっと悲しい所も混じっているようでもある。


世の中には、手に負えないものがいくらでもあるんですから、
どうせ手に負えないなら、旦那さんのほうがまだましですよ。


いいえ、シャーロッタ四世、 世の中で一番手に負えないのは旦那さんなのだ。

惚れていればなおのこと、 愛が冷めればさらに修羅場。

だから、ちょっと悲しいのだ。
posted by 片岡 よしこ at 09:11 | Comment(2) | TrackBack(0) | バックナンバー
この記事へのコメント
またブログ巡り中に立ち寄りました。
応援ポチッ!
Posted by サトシ at 2008年03月13日 21:53
サトシ様

応援ありがとうございます!

今後ともよろしくお願いします。
Posted by 片岡 よしこ at 2008年03月14日 07:55
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/88988812
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。

この記事へのトラックバック
"おもしろい!" と思ったらクリックしてくださいね にほんブログ村 小説ブログ エッセイ・随筆へ