なんかこう、 尾てい骨のあたりがむず痒い。
宵の明星は妖精の国の灯台、
黄昏に目覚めた天使たちは、そっと銀色の羽をたたみ
空からこぼれおちた星の光のステッキで
まどろむこども達の瞼に魔法をかける。
気分はポール・アービングで、書いたのが私。
ねっ? むず痒くならない?
小学校低学年の頃。
先生に無理やり書かされた詩が、新聞に掲載された。
あまりにオチが単純で独創性に欠けていて、こども心にも "もうひとつ" という
愚作だったので、 忘却の彼方に追いやりたいのに、今でもよく覚えている。
雨がやんで 水たまりができた
長ぐつでバシャバシャ
水が飛びちった
きれいだな
ダイヤモンドみたい
ダイヤモンドのおひめさまになりたい
いかがなモンじゃろうね…
ロマンチックも、 やり過ぎは気持ちが悪い。
中学生の時なんか、ロマンチックのナメクジが這い回って、そこら中が
銀色に光輝く詩が書けたものだ。
どうしても、と請われたらご披露せんでもないが、 なにしろナメクジだから
それなりの覚悟が必要だ。
グリーンゲーブルズマンションに、ほとんど手ぶらで越して来た私に比べると、
"赤毛のアン太郎" は結構な大荷物を持ち込んだが、 その中でも
"座敷童子(ざしきわらし)" はダントツであった。
ある日。 話をしている最中に "赤毛のアン太郎" が部屋の片隅に目を向けて、
「なぁ? みんな!」
声を掛けた瞬間。 "座敷童子" が現れた。
「ほら、かあさんがおこっとるよ…」
すると、童子達は側に寄って来て、 正座をして目を輝かせるのだ。
昨夜、 "赤毛のアン太郎" に、 童子は何人いるのか聞いてみた。
小学3年くらいの男の子、その弟、 そして小さい女の子の3人。
男の子2人は尋常小学校風の黒い木綿の半ズボンに、上は白のくたびれた
ランニング、もう一人は開襟シャツ姿。 女の子はおかっぱ頭。
「へ〜ぇ、 私は5人で、全員男の子だと思っていたわ。」
私と "赤毛のアン太郎" の、 実に都合のいい時だけに召還される童子達。
普段は何をしているのだろう、という話になった。
ピアノの下あたりで人生ゲームをしている。
黙々と、ビー玉遊びやめんこをしている。
でも、話し声は、 私達には聞こえない… 無声映画のようにみえるのだ。
岩手県に伝えられる "座敷童子" は、豪家や旧家の奥座敷に居て、
童子が出て行くと家の運勢が傾くと言われ、大切に扱われたそうだ。
姿は家の者にしか見えないとか、子供には見えても大人には見えないと
言われているが、 童子を見た人には幸運が訪れるらしい。
しかしウチの童子達は、それとはちょっと違っているように思う。
我が家の童子達は、呼ばれて出て来るのだ。
それは、アン太郎の "分" が悪い時、 私がイライラしている時。
「なぁ みんなもそう思うじゃろ?」
「ほら、みんな体操座りしてうなずいとる」
ホンマですか?
他人が聞いたら、どこか頭でもおかしいんじゃないかと思われるだろう。
離婚した時、女の子を妻にあずけてきたアン太郎の、寂しさ故なのかも
しれない…
でも、 それだけじゃ、ここまでリアルに存在を感じないでしょ。
想像で生み出されたこどもが、そこに居る気配を持ち始める。
おっ… 自分たちのことを書かれているのが判るのだろうか。
みんな集まってきて、興味しんしんの様子で目を輝かせている。
「ぼくらのこと、書いてるよ」
お兄ちゃんが、まだ字の読めない女の子に説明を始める。
「そうだよ。 あんたらのことじゃ。」
私は、 こども達を消滅させるような言葉は、口が裂けても言えなくなるだろう。
「こどもなんか、どこにもいないでしょうに! 死んじゃったのよ!」
もしこれを口にしたら、確実に、 彼らはたちどころに消え去る。
そして、 何かが壊れていく音がするだろう。
メキッ メキッ… とな。
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