「あなたって、思いがけない事件を起こす名人なんですもの、アン。」
ダイアナ、 私が変わり者だから判るのだろうけど、 「赤毛のアン」 の
登場人物のうち、 平凡で、幸せな暮らしに一番近い人はあんたよ。
真面目な事ばかり言う、お馬鹿さん呼ばわりされたとしても、
最後に笑うのはダイアナ、 あんただわ。
物語の主人公は必ずしも立派な人、 とは限らない。
世界の偉人に名を連ねるシュバイツァー博士でさえも、ピアノの音色で
看護婦達を毎夜、虜にしていたという噂だ。
真面目な事ばかりでは面白くも何ともない。
性格的に欠けた所があって、生い立ちが複雑で、少々毒もあり、
変人であってこそ、 立派な主人公と言える。
私は元来、 波ひとつない、静かな水面をじっと見つめているのが好きだ。
微かな風や、落ち葉がつくり出す水紋を見逃さないよう、
目を凝らしているだろう。
そうしていたい、 いつもそう願っている。
しかしアンは、 そこへ石を投げ入れて波紋をつくる人。
石がなければ自分から飛び込んで、平和に水底を泳ぐ魚たちを
右往左往させるのだ。
その波に巻き込まれたら、 私も、もう眺めているだけでは収まらない。
一緒になってばんばん石を投げ、どろべちゃになって駆けずり回る。
変人には、向こうから変人が寄って来るのよ。
夫の転勤で引っ越してきた "O夫人" と私は、親友になった。
今でこそ "親友" だが、 出逢いの発端は彼女がマックシェークひとつを
持って、突然押しかけてきた… という、奇妙なもの。
ドアの隙間からシェークを受け取って、私はドアを閉めた。
なんで… ?
シェークを手に、 私は呆然とした。
一度会っただけじゃし… いきなりシェーク持って来られても…。
その後、入院した彼女のお嬢さんを見舞いに行ったのをきっかけに、
私達は段々親しくなっていった。
彼女、 たいして強くもないのに、すぐ飲みたがるヤツなんだ。
「飲みに行こうや〜」
お酒飲みながら、穏やかに語り合うつもりでいたのに…。
現実というのは何故、いつも私をとんでもない目に遭わせるのだろう。
彼女の方針としては、酒は酔うために飲むのであって、飲んだらすぐさま
酔わねば "損" なのである。
と言うわけで、ヤツはたちどころにできあがってしまった。
お願い… カクテルバーなんだから地元の民謡は唄わないで…。
しかし、もはや何を言っても無駄。
私は何か言う度に、頭やら背中やらをばんばん叩かれた。
ほんま… むちゃくちゃ力いっぱい叩かれた。
「タクシーなんかもったいのうて乗れん。 アンタんトコまで歩く!」
いえいえ、しらふでも1時間はかかります。
「酔うたでぇ〜 夜風に吹かれて歩いて帰る!」
いえいえ、既に真夜中です。
「うぉ… 気分わるくなってきた…」
やっぱタクシー乗らなくて正解。
「アスファルトは冷とうて気持ちええなぁ〜」
彼女は歩道の真ん中にデンと寝転んだ。
「アンタも寝んかい! 付き合いの悪いやっちゃな〜」
うっ… 確かに気持ちいいぞ、と思ったのもつかの間、彼女は国道に向かって、
ふらふらと走り寄って行く。
夜中なので、走る車はトラックばかりだ。 それに飛び込んで死ぬんだと。
こんな所でケガでもされたら、それこそ "風" が悪い。
だって、そこは夫の勤める会社のビルの前。
「うちの主人の会社の前で死なんでよ…」
にやりと振り向く彼女。
「冗談やがな… あんた、マジメじゃなぁ〜」
ヌカしたな!
結局。 もし死んで "司法解剖" に廻されたとき、恥ずかしくないパンツを
履いているかどうかが最大の決め手になった。
彼女は下ろしたてのパンツだから恥ずかしくない、と力説。
「それ、ヘソまであるデカパンじゃん。」
「そっ それじゃ… ダメなのかぁ!?」
はい、ダメです。
ふと見上げると、私達を見下すようにそびえ立つビル。
大企業を気取った鼻持ちならないビルに、 私は無性に腹が立ってきた。
女房を泣かせてナニが仕事じゃ。
「アンタにはぁ、お世話になっているのでぇ、ここでゲロ吐いて帰ります…」
しおらしくなった彼女は、指をクチに突っ込んでいた。
友達が飲んだくれのアホなら、 私も一緒にアホになりたい。
愛人が泥棒なら、 一緒に精進して泥棒になりたい。
私一人おりこうさんで、罪も犯さないでおいて、 「愛している」 なんて
よう言わんからだ。
もし、なんとしても止めさせなければならない、 と思ったら、
それこそ白装束の、決死の覚悟で止める。
どちらの価値もない、アホらしい相手だったら、 さっさと逃げる。
でも振り返ると…、 そのどちらかの人物ばかりに出会ってしまうみたいだ。
私にはそれをどうすることも出来ない。
どうやら、 その種の才能を持っているかどうかは生まれつきのものなのね。
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