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赤毛のアン 〜毎日読むアン〜
「アンの青春」を読んだのは数十年振りなのに、私はヘスター・グレーの物語を
忘れてはいなかった。
ヘスター・グレー。 なんとロマンチックな響きなんだろう。
夫と二人、野原と森以外なんにもない所で暮らし、そして花に埋もれて
亡くなったヘスター…。
花を育て、花に囲まれ短い生涯を閉じる。
若くて美しい娘と若者が恋をして死ぬ…
これほど悲しく、美しいお話はない。
ヘスター、 私はその名前を呟く。 たちまち私は秘密の花園へそっと滑り込む。
花園はロマンスと夢に溢れ、私は少女のままで時は止まる。
ヘスター・グレーの物語は、今もロマンチックな香りに満ちている。
ロマンチックってどんなことだと思う? それは不思議な物語のこと。
「なんて、ロマンチックなの…」
その時から物語は始まる。
彼女はどこでジョーダン・グレーと巡り逢ったのかしら…
ボストンの町の小さなレストラン、 ジョーダンはそこで働いていた
美しいヘスターに心を奪われたのだ。
彼女は、その気になればお金持ちの男と結婚して、裕福な生活を
手に入れられるほど、人目を惹く美人だったのに、 街の暮らしには
興味がなかった。
娘らしいロマンスを夢みることより、 生まれ故郷の懐かしい森や
草原のことばかり考えて暮らしていた。
体の弱い彼女は、 長くは生きられないような気がしていたのだ。
ジョーダンは毎日、このレストランに通い、 いつも同じ料理を注文した。
ジョーダンが店に入ってくると、彼女が目配せする。
「いつもの…」
ジョーダンの眼は笑っていた。
「どうしていつも同じものなの? 他にも美味しい料理は沢山あるのよ。」
「新しい料理を試すより、安心して食べられるいつもの一皿がいいんだ。」
物語はこうして始まり、 私の目の前には野菜と肉を煮込んだ料理が、
青い花模様の厚手の皿に盛られて、湯気を立てている。
傷だらけで曇った銀色のスプーンとフォークを、私は緑のクロスの上に並べる。
無骨なこの男には、故郷の匂いがする。
ヘスターは、たまらなく懐かしくなってしまうのだ。
事件は起こった。
身寄りのないヘスターは、たった一人の叔母と暮らしていた。
ある日、荷馬車の積み荷の材木が崩れ落ち、 その下敷きになった叔母が
亡くなってしまったのだ。
病院に駆けつけたヘスターの前に、 ジョーダンの姿があった。
荷馬車にはジョーダンが乗っていたのだ。
「もう二度と目の前に現れないで」
ヘスターは怒りと悲しみに駆られていた。
それでもジョーダンは、彼女のいるレストランに通い続けた。
彼女は決して眼をあわせてはくれなかったが、それでも良かったのだ。
そして、テーブルには "いつもの料理" が運ばれた。
しばらくして、ヘスターが店に出なくなった。
ジョーダンが、支配人から聞き出した住所に彼女を訪ねると、
古びたアパートの玄関先に二つの人影が見えた…
「ここを売り払うことにしたんでね。なんでも、壊して新しい建物に
するとか言ってたね。 悪いけど、今月一杯で出て行って欲しいんだ。」
ヘスターには、 他に行く所は何処にもなかったのだ。
話を聞きながらジョーダンは、ひとつの決心をした。
ヘスターと結婚し、アヴォンリーへ連れて帰ろう…
私は、現実には孤独ではないが、 時には一人ぼっちでいる人のように、
空を見上げることがある。
ヘスターはどうして、ジョーダンと結婚する気持ちになったのかしら…
最後の時を迎えるなら、こんな街では耐えられないと彼女は思う。
風に揺れる木立のざわめきと、花々の慰めの言葉もない世界で、
私の身体より先に魂が死んでしまう。
これが愛と言えるのかどうか判らないけれど、ヘスターはジョーダンの背中の
向こうに拡がる、森と野原のある世界に連れ出して貰おうと思ったのだ。
こうして二人は、アヴォンリーに戻り、 結婚した…
アンはどんな物語を心に浮かべ、ヘスターに思いを馳せたのだろう。
No.54 『第13章 秘密の花園』
「アンの青春」を読んだのは数十年振りなのに、私はヘスター・グレーの物語を
忘れてはいなかった。
ヘスター・グレー。 なんとロマンチックな響きなんだろう。
夫と二人、野原と森以外なんにもない所で暮らし、そして花に埋もれて
亡くなったヘスター…。
花を育て、花に囲まれ短い生涯を閉じる。
若くて美しい娘と若者が恋をして死ぬ…
これほど悲しく、美しいお話はない。
ヘスター、 私はその名前を呟く。 たちまち私は秘密の花園へそっと滑り込む。
花園はロマンスと夢に溢れ、私は少女のままで時は止まる。
ヘスター・グレーの物語は、今もロマンチックな香りに満ちている。
ロマンチックってどんなことだと思う? それは不思議な物語のこと。
「なんて、ロマンチックなの…」
その時から物語は始まる。
彼女はどこでジョーダン・グレーと巡り逢ったのかしら…
ボストンの町の小さなレストラン、 ジョーダンはそこで働いていた
美しいヘスターに心を奪われたのだ。
彼女は、その気になればお金持ちの男と結婚して、裕福な生活を
手に入れられるほど、人目を惹く美人だったのに、 街の暮らしには
興味がなかった。
娘らしいロマンスを夢みることより、 生まれ故郷の懐かしい森や
草原のことばかり考えて暮らしていた。
体の弱い彼女は、 長くは生きられないような気がしていたのだ。
ジョーダンは毎日、このレストランに通い、 いつも同じ料理を注文した。
ジョーダンが店に入ってくると、彼女が目配せする。
「いつもの…」
ジョーダンの眼は笑っていた。
「どうしていつも同じものなの? 他にも美味しい料理は沢山あるのよ。」
「新しい料理を試すより、安心して食べられるいつもの一皿がいいんだ。」
物語はこうして始まり、 私の目の前には野菜と肉を煮込んだ料理が、
青い花模様の厚手の皿に盛られて、湯気を立てている。
傷だらけで曇った銀色のスプーンとフォークを、私は緑のクロスの上に並べる。
無骨なこの男には、故郷の匂いがする。
ヘスターは、たまらなく懐かしくなってしまうのだ。
事件は起こった。
身寄りのないヘスターは、たった一人の叔母と暮らしていた。
ある日、荷馬車の積み荷の材木が崩れ落ち、 その下敷きになった叔母が
亡くなってしまったのだ。
病院に駆けつけたヘスターの前に、 ジョーダンの姿があった。
荷馬車にはジョーダンが乗っていたのだ。
「もう二度と目の前に現れないで」
ヘスターは怒りと悲しみに駆られていた。
それでもジョーダンは、彼女のいるレストランに通い続けた。
彼女は決して眼をあわせてはくれなかったが、それでも良かったのだ。
そして、テーブルには "いつもの料理" が運ばれた。
しばらくして、ヘスターが店に出なくなった。
ジョーダンが、支配人から聞き出した住所に彼女を訪ねると、
古びたアパートの玄関先に二つの人影が見えた…
「ここを売り払うことにしたんでね。なんでも、壊して新しい建物に
するとか言ってたね。 悪いけど、今月一杯で出て行って欲しいんだ。」
ヘスターには、 他に行く所は何処にもなかったのだ。
話を聞きながらジョーダンは、ひとつの決心をした。
ヘスターと結婚し、アヴォンリーへ連れて帰ろう…
私は、現実には孤独ではないが、 時には一人ぼっちでいる人のように、
空を見上げることがある。
ヘスターはどうして、ジョーダンと結婚する気持ちになったのかしら…
最後の時を迎えるなら、こんな街では耐えられないと彼女は思う。
風に揺れる木立のざわめきと、花々の慰めの言葉もない世界で、
私の身体より先に魂が死んでしまう。
これが愛と言えるのかどうか判らないけれど、ヘスターはジョーダンの背中の
向こうに拡がる、森と野原のある世界に連れ出して貰おうと思ったのだ。
こうして二人は、アヴォンリーに戻り、 結婚した…
アンはどんな物語を心に浮かべ、ヘスターに思いを馳せたのだろう。
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