変わり者。 アヴォンリー村では、主に "よそ者" を指しているようだ。
村の人々と、 違うやり方や、考え方を持っていることが、
"変人" の特徴として、欠くことの出来ないものなのだ。
つまり、 田舎なのである。
グリーンゲーブルズの西隣、 ロバート・ベルの農場を買ったハリソンさんは、
ちょっとワケありの独身男性だ。
ずんぐりむっくりで、薄毛の中年男、 私の勘では、女性にコンプレックスが
ある。
「女なんぞというばかばかしいものに、まわりをうろつかれたくない。」
と公言する心の裏に、何かありそうな…。
変わり者…。 それは、 寂しいから、 "変わり者というバリア" を
張っているのだ、と、私は思っている。
寂し過ぎては、 素直にはなれない。
素直になってしまったら、 寂しさでヨヨッと泣きそうになるからだ。
男なんぞ、馬鹿で面倒なだけヨと、 昔の私なら片意地張って、
ツッパるだろう。
泣かせてくれる温かい胸もないのに、泣いてられるかよ!
よけいに寂しくなるわ。
男なら、どうするのだろう…
ハリソンさんの慰めは、 口の悪いオウムのジンジャーだ。
アンに向かって、「この赤毛の娘っ子が!」を連発するほど、
性格の悪い、このオウム。
しかし、 そんなオウムを、どれくらい可愛がっているか…、
「こいつのおかげで、寂しい思いをしないですんでいる。
なにがあっても、手放す気はないね − なにがあっても、絶対にだ」
ともかくは、 "聞いたらびっくりするくらい、可愛がっている" らしい。
別れた夫も、 最近、猫を飼っている。
こども達からの報告によると、 気持ち悪いくらい、可愛がっているそうだ。
寂しさの慰めになっているのだろうが、 猫を可愛がっている暇があったら、
再婚相手を探しなさい。
人から温もりを貰う方が、 ずっと温かい。
別れた私の方から、再婚を勧めるのはいかがなものか、 とも思うが…。
独りの生活が続くと、 世界が狭くなる。 どん詰まりになる。
私も、 何年か、孤独に耐えた時期があった。
振り返ると、 偏屈で、自分勝手になっていた。
人に合わせるとか、気持ちを汲むとかが面倒になるのだ。
どうでもいい話を聞くよりは、早く帰って自分のことをしたい、 と思うので、
付き合いも悪くなりがちだった。
誰か一人がプラスされるだけで、 世界は変わる。
むしろ、無限に大きく拡がっていく。
ところが、 そのきっかけは、いつも偶然に起こる。
ポイントは、 偶然を呼び寄せられるかどうか。
そして、 起こった偶然に、心を開いて対応できるかどうかだ。
片意地張った偏屈者にチャンスはない。 それが現実だ。
猫やオウムは、 慰めにはなっても、自分を変えてはくれないし、
ましてや、 新しい友達を紹介してはくれない。
一緒に生きる人、 側に居てくれる人は、 必要なのだ。
ハリソンさんの場合は、 ツイていた。
カラスムギ畑を喰い荒らすドリーをひっ捕まえたアンは、
その場で厄介者を売り払ってしまった。
ところが、 なんとその牛は、アンの "ドリー" ではなく、
ハリソンさんの牛だったのだ。
この事件をきっかけに、 アンと、ハリソンさんとの交流が始まる。
女性コンプレックスのハリソンさんも、若い娘には弱いらしい。
オジサンは、 洋の東西を問わず、若い娘の言うことは素直に聞くのだ…
しかし。 忘れてはいけない。
アンだって、 元は、カスバート家に貰われてきた "よそ者" だったのだ。
随分 "風変わりな" こどもだったのだ。
よそ者と、 変人と、 寂しい人の気持ちは、 誰よりも知っている。
それがアンの痛いところでもあり、 強みでもある。
何より、 あの変わり者のマシュー(独身でマザコン)を、
メロメロにした実績がある。
ハリソンさんにも、 良いことが起きそうな、予感がしてくるではないか。
そんな私も、 このマンションに入居した当初は、 "独り者の変人" だった。
近所付き合いなど、 適当にこなすつもりだったし、 特に、仲の良い友達など、
それこそ面倒なだけだと思っていた。
とはいえ、 犬や猫に慰めてもらうなど、まっぴらだが、
人との付き合いは、 距離のある方がよかった。
マンションの住人同士が挨拶しようと、しまいと、 私には関係なかったのだ。
私は、 誰にも迷惑かけず、トラブルも起こさず、 苦情も言わずに、
生きていける自信があった。
ところが…、 赤毛のアン太郎が住み着いた日から、
少しずつ、 私は変わっていったようだ。
「仕方がない…」 で、私なら我慢することも、 赤毛のアン太郎は、
大文句を言う。
挨拶しないとか、 立体駐車場の操作にいい加減なヤツがいて迷惑するとか、
ゴミの捨て方に配慮がないとか…。
果ては、 隣の工場の廃棄臭が臭い、と怒っている。
しかし、 これは確かに臭い。
ある日、 すれ違った住民に 「今日は一段とクサイですね。 」と、
思わず声を掛けた。
「えっ… (クンクン)… そうですかぁ…? 」だって。
鼻が悪いのか、愛想がないのか、 喰えないオヤジだった。
長い結婚生活の中で、いつの間にか、 "不平を言わず我慢する事" が
当たり前になっていた自分に、 気が付いた。
"何を言っても無駄な人" に沈黙を守り、
今まで凝り固まって生きていた事に、 気が付いた。
自分さえ我慢していればいい、関わらなければトラブルもない、
そう考えるようにする事、 それこそが、 自分を守る "知恵" だったからだ。
1階のポストで顔を合わせる時は、 部屋番号を横目で見ながら、
挨拶を交わす。
なんか、 手応えない返事…。
エレベーターでは、 「何階ですか?」 の問いかけに、お天気の話でも
してみようかと考えているうちに、 着いてしまう。
我が家は3階。 妙な半笑いを残して、降りるしかない。
犬を飼っている人が多い。 しかし、 可愛いとも思わない犬に、
「わ〜 かわいい!」 など、 私には言えない。
…。 どうも、 きっかけが掴めないでいる。
興味を持つ気さえなかった、このマンションに、 私は目を向けるように
なったのだ。
人間関係を築いてゆく中で、頑固な自分が変えられていく、 実感…。
人は一生、 人と関わることを止めてはいけない。
我が "グリーンゲーブルズ" マンションで、 暮らし始めて、5年。
"良いことが起こりそうな予感" を感じる人物には、 まだ出遇ってない。
赤毛のアン太郎の情報によれば、 "5階以上" の住人は、
人種が違うらしいが…。
偶然は、 誰にも平等に降って来るものだと、私は信じている。
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