鞆がこれほど美しい港とは思っていなかった。
妙なことが縁で知り合った人が、鞆の港でライブコンサートをすると聞いて、
彼と二人でぶらりとでかけたのだった。
港だから漁師街なんだけど、今まで見たどの港とも違っている。
何かしら、優雅なものが流れている。
日差しにはまだ夏の強さはなく、ただ夏の香りだけを感じさせてくれる。
私たちは、初めて海水浴に連れて来てもらった子供みたいに、
はしゃいだ気分になっていた。
偶然にも鞆には彼の母方のお墓があるので、ついでにお参りしてみることにした。
お寺に続く、長くてなだらかな坂は、初夏の新鮮な暑さに包まれていた。
人々の生活道路ともなっているらしく、細い道を自動車が『ゴメンヨ〜』と
言いながら身を縮めながら通りすぎてゆく。
墓地のある寺に着いたものの、親戚の墓がどこにあるのかわからない。
名字だけを頼りに、二人で探し回る。 墓地だというのにちっとも怖くない。
どの墓の埋葬者もその場所がひどく気に入って、毎日気分よく過ごしているようで、
突然の我々の”侵入”が、ちょうどよい話の種になっているらしく、
さわさわと風のようにしゃべりあっている。
眼下に美しい裾を緩やかに広げたような鞆の湾がみえた。
風が、ゆっくりと、大切なものを乗せて湾の方から吹き寄せてくる。
静かに…… どこにいるの…… と聴く、、、。
と、 ちょうど真ん中辺りに目が留まった。
きっと、 そこよ、 やっぱり、 みつけたわ。
アンがグリーン・ゲーブルズを、マシューが指差す前にみつけたみたいでしょ。
私にもちょっとそんなマネができるっていう、 これ、自慢話でした。
アンの家からは海もみえるのよ。
海が見える家にすごく憧れてるの。
一度友達に打ち明けた。
「あんた、塩気がひどくて、一番に車がやられるわよ。
風は強いし、家だって長持ちしやしないし、年を取ってから
そんなヘンピな所でどうやって生活するの?!」
彼女からみれば、そんな「ヘンピ」な所で暮らしているなんて、
とても暮らしているうちには入らないのだろう。
「ただここにいる、ってだけでしょうに!」と言わんばかり。
でも私はその「ヘンピ」が好きだときてるのね。
夢をみるのは人に許された一番美しい自由よ。
そう、私は湾を望む小高い丘に家を持ちたいの。
鞆はそんな夢を見させてくれる。
アボンリーからホワイトサンズへ向かう海沿い街道は見たことないけど、
でも… 鞆はたぶん、私の中では今のところ一番ね。
もし、海沿い街道が聞きしに勝るほど美しかったとしても、鞆のことは別格よ。
だって、鞆が気を悪くするでしょ。
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