〜下宿先の女主人、ジャネットは40歳になりましたが、独身でした。
恋人のジョンが20年もの間、結婚を申し込まないからなのです。
ジョンの母親の看病をするのが嫌で、母親が死ぬのを待っている、などと
噂する者までいました。
それでもジョンは、ジャネットの所に通ってくるのを止めないのです。
なぜ? 理由がわかれば、何か手の打ちようもあるのに…〜
22歳の秋。
孤独を慰めてくれる人は誰なの?
孤独と寂しさの匂いを嗅ぎ取る時、心が動く。
だから、孤独な人は孤独な人を好きになる。
孤独のかけらもない人に憧れることがある。
その眩しさに惹きつけられてゆくけれど、
結局は理解してもらえず、離れていくもの。
寂しさは時として、人を駆り立てる。
「私はここに居るよ」 そう言いたいが為に人を動かす。
その声は小さくても… 動いた分だけ、足跡は残る…。
"ミエ" は目立ちたがりの女の子だ。 不器量でダサイからだろうか。
「一番ダサイ服装の人を探せ」と指令を下せば、ミエに会った事のない人でも、
おずおずと指をさして言うだろう。
「… あのひと… ?」
アタリです。
「どうして気付かれたのか、わからないの… 」
ミエはいつもより女らしく見える。 まともな服を着ているせいだろうか。
いつもは、上等な生地で縫ったダサい服を着ているのに。
「私が不倫しているらしいと会社で噂になってるの」
一瞬私は、この子に騙されていたのだろうかと思った。
ミエは高校時代から、 "男嫌いだ" と公言していた。
顔をしかめて両手をヒラヒラと振りながら… 男に触られたらジン麻疹が出る、などと
いささかオーバーアクション気味だった。
器量が悪いから、興味のないような事を言っているのだと、私は思っていた。
ミエだって、男の子に興味はあったのだ。
高校時代、 ミエは私になりすまして、東京あたりの男の子と文通していた。
私は家に来た手紙を、学校でミエに渡す日が続いた。
ミエは親が煩いからと言っていたが、 "本物の男嫌い" が文通したり、
修学旅行の時にその相手と会ったりはしない。
だが会ってから… 以降、文通は自然消滅してしまった。
就職したミエは、 OLになっても相変わらず不器量でダサかった。
シミひとつない滑らかな白肌で、多くの欠点のうちの "七つの難" を
かろうじて隠していた。
もし平安時代に生まれていれば、卵に目鼻の下膨れ…
絶世の美女だったに違いない。
「会社関係の人物ではないし。 彼は大阪にいるから、目撃されるはずない。
要するに、周囲に感づかれるなんて有り得ないのよ」
まるで、事件を捜査する刑事の口調だ。
実際その通りだろう。 段取りのいい彼女がミスを犯すとは考えられない。
相手は65歳の妻帯者で、 大阪でマンションの管理人をしながら、
歴史小説を書いているらしい。
原稿の校正と清書は彼女が手伝っていて、自費出版のための費用の一部を
彼女が貸したそうだ。
二人がどうして知り合ったのかは不明だが、プライドの高いミエは
話したがらないから、あえて聞かない。
そう… 誰も知りようのないことだから、ミエ… 私に知って欲しいんだよね。
不倫の噂話は "でっち上げ" かもしれないと、私は思ったのだ。
誰にも言わないでと、ミエに約束させられた。
いっそ約束を破った方が、彼女は喜んだかもしれない。
誰にも知られず始まって、誰にも知られず終わってしまうなら、
それではまるで "無かった事" になってしまう。
ミエは "事実だった" という刻印を、私の記憶の中に残しておきたかったのかもしれない。
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