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 赤毛のアン 〜毎日読むアン〜                           

No.103 『第32章  "ミエ" 』

  〜下宿先の女主人、ジャネットは40歳になりましたが、独身でした。
   恋人のジョンが20年もの間、結婚を申し込まないからなのです。

   ジョンの母親の看病をするのが嫌で、母親が死ぬのを待っている、などと
   噂する者までいました。

   それでもジョンは、ジャネットの所に通ってくるのを止めないのです。

   なぜ?  理由がわかれば、何か手の打ちようもあるのに…




22歳の秋。



 孤独を慰めてくれる人は誰なの?

 孤独と寂しさの匂いを嗅ぎ取る時、心が動く。

 だから、孤独な人は孤独な人を好きになる。


 孤独のかけらもない人に憧れることがある。

 その眩しさに惹きつけられてゆくけれど、

 結局は理解してもらえず、離れていくもの。


 寂しさは時として、人を駆り立てる。

 「私はここに居るよ」 そう言いたいが為に人を動かす。


 その声は小さくても… 動いた分だけ、足跡は残る…。



"ミエ" は目立ちたがりの女の子だ。 不器量でダサイからだろうか。

一番ダサイ服装の人を探せ」と指令を下せば、ミエに会った事のない人でも、
おずおずと指をさして言うだろう。

… あのひと… ?

アタリです。



 「どうして気付かれたのか、わからないの… 」


ミエはいつもより女らしく見える。 まともな服を着ているせいだろうか。

いつもは、上等な生地で縫ったダサい服を着ているのに。


 「私が不倫しているらしいと会社で噂になってるの

一瞬私は、この子に騙されていたのだろうかと思った。


ミエは高校時代から、 "男嫌いだ" と公言していた。

顔をしかめて両手をヒラヒラと振りながら… 男に触られたらジン麻疹が出る、などと
いささかオーバーアクション気味だった。

器量が悪いから、興味のないような事を言っているのだと、私は思っていた。

ミエだって、男の子に興味はあったのだ。


高校時代、 ミエは私になりすまして、東京あたりの男の子と文通していた。

私は家に来た手紙を、学校でミエに渡す日が続いた。

ミエは親が煩いからと言っていたが、  "本物の男嫌い" が文通したり、
修学旅行の時にその相手と会ったりはしない。

だが会ってから… 以降、文通は自然消滅してしまった。



就職したミエは、 OLになっても相変わらず不器量でダサかった。

シミひとつない滑らかな白肌で、多くの欠点のうちの "七つの難" を
かろうじて隠していた。

もし平安時代に生まれていれば、卵に目鼻の下膨れ
絶世の美女だったに違いない。


会社関係の人物ではないし。 彼は大阪にいるから、目撃されるはずない。
要するに、周囲に感づかれるなんて有り得ないのよ


まるで、事件を捜査する刑事の口調だ。

実際その通りだろう。 段取りのいい彼女がミスを犯すとは考えられない。


相手は65歳の妻帯者で、 大阪でマンションの管理人をしながら、
歴史小説を書いているらしい。


原稿の校正と清書は彼女が手伝っていて、自費出版のための費用の一部を
彼女が貸したそうだ。

二人がどうして知り合ったのかは不明だが、プライドの高いミエは
話したがらないから、あえて聞かない。


そう… 誰も知りようのないことだから、ミエ… 私に知って欲しいんだよね。

不倫の噂話は "でっち上げ" かもしれないと、私は思ったのだ。


誰にも言わないでと、ミエに約束させられた。

いっそ約束を破った方が、彼女は喜んだかもしれない。

誰にも知られず始まって、誰にも知られず終わってしまうなら、
それではまるで "無かった事" になってしまう。

ミエは "事実だった" という刻印を、私の記憶の中に残しておきたかったのかもしれない。
posted by 片岡 よしこ at 07:58 | Comment(0) | TrackBack(0) | バックナンバー
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