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 赤毛のアン 〜毎日読むアン〜                           

No.102 『第31章   "亀" の歩みはのろい』



  〜バレー・ロードからフィルに宛てたアンの手紙は、かなり長いです。
   たっぷり "1章" あるんだから。

   でも、離れている人と手紙でしか話せない事が沢山あるのだと、私は思います。




22歳の秋。



部活のつきあいで、他の大学の文化祭を見に行った。

たまにはオトコのいる空気を吸っておかないと、免疫力が低下する。


秋の夕暮れは早く、木立の下に設営された模擬店のテントには灯りがともって、
考古学的発見に沸き立つ発掘隊の野営地のような賑やかさだった。

20歳になっていない連中を含めて、学生達は公然と酒を飲んでいた。


誰とも話が合わないとわかったら、そこから先の私は社交的だ。

話には尾ひれを付けて面白くもするし、見てきたような誠しやかなウソ話も得意だ。

だが、 相手が打ち解けてくればくるほど、私の心は孤独になる。

私が楽しませてあげてるのに、 「あなたって、楽しい人ですね」 って…、
あんた達が私を楽しませる立場じゃないかと思う。



類は友を呼ぶという。

紹介されたS大の "" は、名前通りの風体だが、いい目をしていた。

上っ面だけを見る目ではないって感じ。 ぼそぼそとはっきり、物を言う人だ。

おたくの女子大の学祭に行きましたよ。
 女の子が一人でいるのは情緒があっていいなぁと思うけど、あれだけ群れてると、
 何というか… 胸が悪くなって帰りましたよ。

 展示はどれも少女趣味で、ガッカリだなぁ


私は "少女趣味" と言われると、なぜかカ〜ッとなる。

女子大の学祭にオトコ一人で行くのが、そもそも間違いなのよ。
彼女に案内してもらうのが、お作法ってものよ


負けずに言い返した。



"亀" は登山、というか… 一人で山を徘徊するのが趣味だという。

山を登ったり降りたりの、何がそう楽しいのかわからんわ。

風呂にも入らないで、土の上でよく眠れるものだ。

ねぇ、眠れない時は、オナニーとかするの?

 「いや、しない

なにもしないで、ただ寝るの?

山の中なんだから、思いっきり声出してイケばいいのに。

 「いや、もともと声は出さないんだ


押され気味で "分" が悪い、 私はこういうドタンバで、
すごくいい事を思いつく天才だ。


ねえ、それじゃこうしたらどう?
寝袋の中で眠れない時は、わたしを "おかず" にするといいわ。

 むちゃくちゃいやらしいこと想像していいのよ。 やりたい放題を許可します。
 そのかわり、どうだったかちゃんと報告すること。 ねっ? いい考えでしょ?


"亀" は、甲羅からめいっぱい首を伸ばして驚いた。

そして、甲羅に隠した柔らかい腹の中から、クックッと笑う声が聞こえる。

 「ありがとう。 気が向いたらそうさせて貰うよ



偶然にも、 "亀" の下宿は私の家に近かった。

金色に輝く銀杏並木の下を抜けて、木立の茂る公園を横切れば、もうすぐ家だ。

酔いも覚めてしまった。


寒いわ…」 私が身震いすると、

 「もしかして、 きみ、トイレ?

「 …。 私の存在って、あんまりセクシーじゃないと思う?

"亀" は苦笑していた。

今度は顔でも笑っていたので、小さい目はすっかり肉に埋もれてしまった。

 「若い男ってのは、なんでもいいからとりあえず、女の子とヤリたいだけなんだ。
 セクシーかどうかなんて、考えてられないよ



私のこと、押し倒したい?

 「押し倒したいよ


というところで、残念ながら時間切れ。 私の家に着いた。

今夜、私を押し倒してるとこ想像していいよ

 「ありがとう。 やってみるよ


この事件以降、私達はご近所に住んでいたのに、長い間手紙の付き合いを続けた。

私は郵便屋さんを煩わせることもなく、買い物ついでに下宿のお婆ちゃんに
手紙を渡した。

二階の窓を見上げると、 洗濯物に混ざって、時に納豆の藁包が引っ掛けてある。

納豆が好物なんだ…


"亀" からは、切手を貼った手紙が来た。

結構なボリュームで "亀" の生態を綴ってあり、最後の締め括りには

  … 一緒に酒でも飲みましょう。 キミと話していると楽しい。
電話が苦手なのですが、ここは電話するしかないんでしょうね。




"亀" よ…、あんたまでそんなこと言うのね。

私を楽しませない、手も出さない、 そんな人はのろいにかけられ、
すべからく痛い目に遭うのよ。


あんたも "ヨシロー" と同じ目に遭いたくなかったら、
甲羅を脱いで、バッタの物マネでも何でもやって…

とにかく、私を心の底から笑わせてちょうだい。
posted by 片岡 よしこ at 23:11 | Comment(0) | TrackBack(0) | バックナンバー
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