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赤毛のアン 〜毎日読むアン〜
"アヴォンリー村改善協会"。
アンとギルバートが中心になって結成された、 この会の目的は、
村を、もっと美しくすることである。
改善されないことについては保証つきのリンド夫人は、
改善されたいと思う人などいない、 と言い、
改善される必要のありそうな、変人のハリソンさんは、
改善の必要がある人が村には沢山いる、 と言う。
その度にアンは、 改善の対象は人ではなく、村そのものだ、と
熱心に説いてまわる。
問題を解決するには、人に理解してもらい、
その上で動いてもらわなければならない。
一筋縄ではいかない村民相手に、 "活動の趣旨" をどのように
理解してもらうつもりなのだろうか。
我がマンションの、 無断、 いや、無法駐車は、
管理組合の "悩みの種" のひとつだ。
道路から奥まった所に建つマンションなので、
エントランスまでの侵入路がついている。
片側が歩行者用に区切られているのだが、そこに車を駐める者が後を絶たない。
牛は囲いに入れ、 車は駐車場に駐めるものである。
にも関わらず、 空いていれば、どこでも挨拶や断りなしに車を駐車する。
二台目の車を駐める者、夜中に帰ってきて駐める者、
なぜか毎晩、同じ来客のある者。
ひどい者は、管理人さんが帰った頃を見計らって、 管理人専用の駐車場に
ちゃっかり入れている。
良識ある他の住人達は、 憤懣やるかたない。
旗を立てたり、 植木鉢を並べたり、 コーンを置いたり、しまいには証拠写真まで撮り始めた。
管理組合は、侵入路にゲートをつけようと、 無理を承知で、見積まで取った。
さすがにこれは危険なので、総会で却下されたが、
住民の意識を鼓舞したことは確かだった。
更に… 良識ある住民は、 交通巡視員のように、不審な車を発見し、
違反切符のかわりに、警告を書いた "メモ" を貼り付ける。
入居間もない頃、 私は一度、いや二度、 間違った場所へ駐車してしまった。
言っておくが、 だだっ広い "空地" の駐車場なのに、
区画番号が消えてしまってわからないのだ。
二度ともキッチリ、メモが貼られていた。
「ここは私の駐車場です。すぐ移動して下さい。」
何でもないこの文章、 違反キップの罰金と同じ衝撃が走る。
でも… 「私」って、 誰なんだ…?
やれやれ、 鬼の管理人さんに訊ねなければならない。
そんな訳で、 荷物の積み下ろしのためちょっと駐車するのにも、
私はびくびくしている。
どこの誰かもわからない住民達に、いつも見張られているような気がするからだ。
「でかい車に乗っとる思うて、 エラそうな!」
ある日、赤毛のアン太郎が怒っていた。
会社の軽トラを、階段に通ずるドア付近に駐めて、物を取りに上がった時の事。
「こんな所に駐めるな」と、 相当な悪態をつかれたそうだ。
確かに、 その車も、おじさんもエラそうな顔をしている。
しかし、 この駐車場問題が、赤毛のアン太郎に更なる悲劇をもたらす事になった。
ほんのちょっとのつもりで、 人様の駐車場に駐めたまま、
うっかり忘れて、寝込んでしまったのだ。
怒った持ち主は、警察にナンバーブレートの照会を依頼。
かくして、 アン太郎は大慌てで、菓子折を買いに走ったのである。
駐車場の契約者を公開してはどうか、と思った事がある。
そして空いた時間帯には、スペースをうまくシェアすればいい。
挨拶すらできない、エラそうな住民にとっては、 まさに夢のような話だが。
「存在感のない男ばかりだ。」
赤毛のアン太郎は観察している。
マンションの理想を考える前に、 まずは住民を入れ替えたいくらいだ。
しかし。 私達にも、 確実に "触れられたくない泣きドコロ" がある。
私も、赤毛のアン太郎も、 ピアノを弾く。
ひとり30分ずつ弾いても、一時間は鳴りっぱなしになる。
時にはギターも入るし、歌も唄いたい。 おまけにアン太郎の声はデカイ。
日々、私達はよくしゃべるし、 大声で笑う。
そんな、賑やかな我が家に対し、 上下両隣は、物音こそすれど、
話し声がほとんど聞こえない。 気味が悪いくらいに。
苦情が来たら、 受けて解決するしかない。
それがきっかけで、 もし、仲良くなれたなら…、 それが理想だ。
アン太郎は、 無断駐車でトラブったにも関わらず、
以降、 その方とは、にこやかに挨拶を交わしている。
高校時代。 当時の恩師が、いきがる私達 "青二才" に、 笑顔で話してくれた。
「誰にも迷惑をかけないで生きるのは不可能。 楽になれや。」
この話を、 私は "お互い様" だと解釈している。
そんな、"お互い様" を認めない人達が、 このマンションには多いようだ。
No.42 『第2章 理想のマンションライフ その2』
"アヴォンリー村改善協会"。
アンとギルバートが中心になって結成された、 この会の目的は、
村を、もっと美しくすることである。
改善されないことについては保証つきのリンド夫人は、
改善されたいと思う人などいない、 と言い、
改善される必要のありそうな、変人のハリソンさんは、
改善の必要がある人が村には沢山いる、 と言う。
その度にアンは、 改善の対象は人ではなく、村そのものだ、と
熱心に説いてまわる。
問題を解決するには、人に理解してもらい、
その上で動いてもらわなければならない。
一筋縄ではいかない村民相手に、 "活動の趣旨" をどのように
理解してもらうつもりなのだろうか。
我がマンションの、 無断、 いや、無法駐車は、
管理組合の "悩みの種" のひとつだ。
道路から奥まった所に建つマンションなので、
エントランスまでの侵入路がついている。
片側が歩行者用に区切られているのだが、そこに車を駐める者が後を絶たない。
牛は囲いに入れ、 車は駐車場に駐めるものである。
にも関わらず、 空いていれば、どこでも挨拶や断りなしに車を駐車する。
二台目の車を駐める者、夜中に帰ってきて駐める者、
なぜか毎晩、同じ来客のある者。
ひどい者は、管理人さんが帰った頃を見計らって、 管理人専用の駐車場に
ちゃっかり入れている。
良識ある他の住人達は、 憤懣やるかたない。
旗を立てたり、 植木鉢を並べたり、 コーンを置いたり、しまいには証拠写真まで撮り始めた。
管理組合は、侵入路にゲートをつけようと、 無理を承知で、見積まで取った。
さすがにこれは危険なので、総会で却下されたが、
住民の意識を鼓舞したことは確かだった。
更に… 良識ある住民は、 交通巡視員のように、不審な車を発見し、
違反切符のかわりに、警告を書いた "メモ" を貼り付ける。
入居間もない頃、 私は一度、いや二度、 間違った場所へ駐車してしまった。
言っておくが、 だだっ広い "空地" の駐車場なのに、
区画番号が消えてしまってわからないのだ。
二度ともキッチリ、メモが貼られていた。
「ここは私の駐車場です。すぐ移動して下さい。」
何でもないこの文章、 違反キップの罰金と同じ衝撃が走る。
でも… 「私」って、 誰なんだ…?
やれやれ、 鬼の管理人さんに訊ねなければならない。
そんな訳で、 荷物の積み下ろしのためちょっと駐車するのにも、
私はびくびくしている。
どこの誰かもわからない住民達に、いつも見張られているような気がするからだ。
「でかい車に乗っとる思うて、 エラそうな!」
ある日、赤毛のアン太郎が怒っていた。
会社の軽トラを、階段に通ずるドア付近に駐めて、物を取りに上がった時の事。
「こんな所に駐めるな」と、 相当な悪態をつかれたそうだ。
確かに、 その車も、おじさんもエラそうな顔をしている。
しかし、 この駐車場問題が、赤毛のアン太郎に更なる悲劇をもたらす事になった。
ほんのちょっとのつもりで、 人様の駐車場に駐めたまま、
うっかり忘れて、寝込んでしまったのだ。
怒った持ち主は、警察にナンバーブレートの照会を依頼。
かくして、 アン太郎は大慌てで、菓子折を買いに走ったのである。
駐車場の契約者を公開してはどうか、と思った事がある。
そして空いた時間帯には、スペースをうまくシェアすればいい。
挨拶すらできない、エラそうな住民にとっては、 まさに夢のような話だが。
「存在感のない男ばかりだ。」
赤毛のアン太郎は観察している。
マンションの理想を考える前に、 まずは住民を入れ替えたいくらいだ。
しかし。 私達にも、 確実に "触れられたくない泣きドコロ" がある。
私も、赤毛のアン太郎も、 ピアノを弾く。
ひとり30分ずつ弾いても、一時間は鳴りっぱなしになる。
時にはギターも入るし、歌も唄いたい。 おまけにアン太郎の声はデカイ。
日々、私達はよくしゃべるし、 大声で笑う。
そんな、賑やかな我が家に対し、 上下両隣は、物音こそすれど、
話し声がほとんど聞こえない。 気味が悪いくらいに。
苦情が来たら、 受けて解決するしかない。
それがきっかけで、 もし、仲良くなれたなら…、 それが理想だ。
アン太郎は、 無断駐車でトラブったにも関わらず、
以降、 その方とは、にこやかに挨拶を交わしている。
高校時代。 当時の恩師が、いきがる私達 "青二才" に、 笑顔で話してくれた。
「誰にも迷惑をかけないで生きるのは不可能。 楽になれや。」
この話を、 私は "お互い様" だと解釈している。
そんな、"お互い様" を認めない人達が、 このマンションには多いようだ。
赤毛のアン 〜毎日読むアン〜
"一戸建て" は近所付き合いが煩わしい、 と言われている。
その点、マンションやコーポは、 隣近所付き合いをしなくていい、
…などと、本当に思い込んでいる人達がいる。
それが、私の住むマンションの住人達。 多くの場合、挨拶すらしてくれない。
顔見知りでなければ、 とことん口を開かない気なんだろうと思う。
私は、 相手が知らん振りを決め込んでいるなら、
こっちも知らん顔しとこうと思っていた。
ところが、 我が家の "赤毛のアン太郎" は、そうはいかない。
世帯主の私より、もっとにこやかに、「こんにちは〜」 などと挨拶している。
その上、 挨拶を返す人、返さない人を、 あらかた把握しているのだ。
「このマンションじゃ、大人より中・高生の方がきちんと挨拶するで。
どうなっとんじゃ…」
と、 したり顔である。
世帯主としては、 せめて、両隣だけは押さえておかなければ。
お付き合いの基本は "おすそ分け" 。 それなのに、 私としたことが…
素人農民からどっさりもらったじゃがいもを、両隣にお分けした。
雨降りに収穫されたじゃがいもは、翌日には腐っていた。
これではゴミを差し上げたようなものだ。
もう、 気の毒で、恥ずかしくて、 「ごめんなさい。」すら言えない。
手土産持って、断りに行くべきだったのだろうか。
近所付き合いは、 なぜ苦情から始まってしまうのだろう。
苦情が挨拶代わりになってしまうのだ。
我が家には、 ピアノのアントニオがいる。
引っ越して間もなくの頃。 発表会が間近に迫っていた。
午後9時を過ぎていた事に気付かず、 私は練習を続けていた。
勿論、ミュートするなどして、 音は小さくしていたのだが、
そうは言っても、 ピアノは響きの大きな楽器だ。
ピアノ側の隣室より、苦情が来た。 それも、管理人さんを通して。
正確には… "管理人さんのメモ" がポストに入れられていた。
こういう場合、 お詫びも、 "管理人さんを通してメモを回してもらう" のが、
正しい対応なのだろうか、 などと、本気で考えてしまった。
このマンションでは、 大概の事は、 "メモと回覧" で片付けられる。
「ここにゴミを置いてはいけません。 捨てて下さい。」
翌日。 ゴミは無くなったが、 貼ってあったメモだけが、
側にあった消化器に貼り付けられていた。
しばらくした、 蒸し暑い夏の夜。
夜もふけた未明、けたたましい笑い声と話し声が聞こえてきた。
例の隣室からだ。
声のボリュームと響きからして、 明らかに窓が開いている。
「飲み会でもやっとんかなぁ…
これって、 管理人さんを通してやかましいって言うのかなぁ…」
呑気な私に代わって、 "赤毛のアン太郎" は隣室に接する壁をドンと一殴り。
パタリと静かになった。
困ったことがあったら、すぐその場で対応するのが早いようだ。
グリーンゲーブルズの隣は、 レイチェル・リンド夫人。
そして最近越してきた、 "変人" と噂されている、 J・A・ハリソンさんだ。
ハリソンさんは、メモなんぞではなく、 堂々と押しかけてきた。
怒り狂った彼は、アンに苦情をぶちまけた。
アンの牛、ドリーが、 ハリソンさんの畑のカラスムギを喰い荒らしたからだ。
もし…、 耳の辺りにだけちょろちょろっと髪の残ったハゲ頭の、
ずんぐりむっくりのおじさんが、 怒りに顔を真っ赤にして、
玄関先に立っているとしたら…
想像するのも恐ろしい。
「申し訳ございませんでした。 今後ドリーがカラスムギ畑へ入らないよう、
気をつけます。 お宅も、畑へ入る柵を直されたほうがいいと思います。」
なんて、 私なら落ち着き払って言えっこない。
ピアノ騒音の苦情にしても、 ご本人に面と向かって叱られたら、
相当こたえるに違いない。
だがこの場合、私が悪いのだから、 言い訳も出来ない。
正直、メモでありがたかったというのが本音だ。
快適なマンションライフの理想はなんだろう、 と考えてみた。
トラブルを起こさないこと。 迷惑行為をしないこと。
息を殺して、ひっそり暮らすことなのだろうか。
それでは "ただそこに居る" ってだけだし、
居ることですら、忘れられてしまうだろう。
さて、 ハリソンさんが怒鳴り込んでくる前。
アンが読んでいたのは、 英語ではバージル(紀元前70年〜19年)と
呼ばれるローマの詩人、プブリウス・ウェルギリウス・マロの詩だった。
恐るべしアン。
それを訳そうというのだから、 たぶん、ラテン語で書かれたものを
読んでいたのだろう。
バージルは、ヨーロッパ文学史上、最も重要視される詩人で、
「牧歌」、「農耕詩」、「アエネイス」という詩を残している。
思うに、 アンは「牧歌」を読んでいたのではないだろうか。
この詩の中では、 イタリアの美しい風物や、
牧歌的人物を織り込んだ理想郷を表現しているらしい。
アンは、 アヴォンリーにそんな理想郷を描いていたのだろうか。
人が住んでいる限り、理想郷なんてあるもんか、 と私は思う。
しかし、強いて考えるならば、 ご近所との "程よい付き合い" に尽きる。
昨日、隣のご主人がバイクの手入れをしていたので、声を掛けた。
驚いたように顔を上げて、 私を見て、挨拶してくれた。
彼こそが、"メモを消火器に張り替えた犯人" だと、 私は睨んでいる。
それにしても、 どうして毎日バイクの手入れをしなくてはいけないのか、
駐輪場でもない所にバイクを駐めていて、鬼の管理人さんに注意されないのか、
聞きたい事が山ほどある。
お隣に、 情報通のリンド夫人がいれば "苦もなくわかる" 事も、
自分で内偵しなければならない。
なるほど… アンの "アヴォンリー田舎暮らし" の快適さは、
情報通のリンド夫人と、冷静なマリラの情報処理能力に支えられている訳だ。
快適なマンションライフに、 話せる友達は、やはり必要だ。
仲良くなれそうだったら、 度を越してもお付き合いしたいものだ。
ご飯をご馳走になったりしたい… という訳で、
ちゃんと顔を確認して、 眼があったら「こんにちは〜」、
ちょっと立ち話なんぞ、してみたり…。
このマンションの、どこかの一室に、ちょっと気の合う人がいるような、
そんな気がしてきた。
日々、 抜かりなく見張っていなければ。
それを、私の理想のマンションライフの、 第一歩にしよう。
No.41 『第1章 理想のマンションライフ』
"一戸建て" は近所付き合いが煩わしい、 と言われている。
その点、マンションやコーポは、 隣近所付き合いをしなくていい、
…などと、本当に思い込んでいる人達がいる。
それが、私の住むマンションの住人達。 多くの場合、挨拶すらしてくれない。
顔見知りでなければ、 とことん口を開かない気なんだろうと思う。
私は、 相手が知らん振りを決め込んでいるなら、
こっちも知らん顔しとこうと思っていた。
ところが、 我が家の "赤毛のアン太郎" は、そうはいかない。
世帯主の私より、もっとにこやかに、「こんにちは〜」 などと挨拶している。
その上、 挨拶を返す人、返さない人を、 あらかた把握しているのだ。
「このマンションじゃ、大人より中・高生の方がきちんと挨拶するで。
どうなっとんじゃ…」
と、 したり顔である。
世帯主としては、 せめて、両隣だけは押さえておかなければ。
お付き合いの基本は "おすそ分け" 。 それなのに、 私としたことが…
素人農民からどっさりもらったじゃがいもを、両隣にお分けした。
雨降りに収穫されたじゃがいもは、翌日には腐っていた。
これではゴミを差し上げたようなものだ。
もう、 気の毒で、恥ずかしくて、 「ごめんなさい。」すら言えない。
手土産持って、断りに行くべきだったのだろうか。
近所付き合いは、 なぜ苦情から始まってしまうのだろう。
苦情が挨拶代わりになってしまうのだ。
我が家には、 ピアノのアントニオがいる。
引っ越して間もなくの頃。 発表会が間近に迫っていた。
午後9時を過ぎていた事に気付かず、 私は練習を続けていた。
勿論、ミュートするなどして、 音は小さくしていたのだが、
そうは言っても、 ピアノは響きの大きな楽器だ。
ピアノ側の隣室より、苦情が来た。 それも、管理人さんを通して。
正確には… "管理人さんのメモ" がポストに入れられていた。
こういう場合、 お詫びも、 "管理人さんを通してメモを回してもらう" のが、
正しい対応なのだろうか、 などと、本気で考えてしまった。
このマンションでは、 大概の事は、 "メモと回覧" で片付けられる。
「ここにゴミを置いてはいけません。 捨てて下さい。」
翌日。 ゴミは無くなったが、 貼ってあったメモだけが、
側にあった消化器に貼り付けられていた。
しばらくした、 蒸し暑い夏の夜。
夜もふけた未明、けたたましい笑い声と話し声が聞こえてきた。
例の隣室からだ。
声のボリュームと響きからして、 明らかに窓が開いている。
「飲み会でもやっとんかなぁ…
これって、 管理人さんを通してやかましいって言うのかなぁ…」
呑気な私に代わって、 "赤毛のアン太郎" は隣室に接する壁をドンと一殴り。
パタリと静かになった。
困ったことがあったら、すぐその場で対応するのが早いようだ。
グリーンゲーブルズの隣は、 レイチェル・リンド夫人。
そして最近越してきた、 "変人" と噂されている、 J・A・ハリソンさんだ。
ハリソンさんは、メモなんぞではなく、 堂々と押しかけてきた。
怒り狂った彼は、アンに苦情をぶちまけた。
アンの牛、ドリーが、 ハリソンさんの畑のカラスムギを喰い荒らしたからだ。
もし…、 耳の辺りにだけちょろちょろっと髪の残ったハゲ頭の、
ずんぐりむっくりのおじさんが、 怒りに顔を真っ赤にして、
玄関先に立っているとしたら…
想像するのも恐ろしい。
「申し訳ございませんでした。 今後ドリーがカラスムギ畑へ入らないよう、
気をつけます。 お宅も、畑へ入る柵を直されたほうがいいと思います。」
なんて、 私なら落ち着き払って言えっこない。
ピアノ騒音の苦情にしても、 ご本人に面と向かって叱られたら、
相当こたえるに違いない。
だがこの場合、私が悪いのだから、 言い訳も出来ない。
正直、メモでありがたかったというのが本音だ。
快適なマンションライフの理想はなんだろう、 と考えてみた。
トラブルを起こさないこと。 迷惑行為をしないこと。
息を殺して、ひっそり暮らすことなのだろうか。
それでは "ただそこに居る" ってだけだし、
居ることですら、忘れられてしまうだろう。
さて、 ハリソンさんが怒鳴り込んでくる前。
アンが読んでいたのは、 英語ではバージル(紀元前70年〜19年)と
呼ばれるローマの詩人、プブリウス・ウェルギリウス・マロの詩だった。
恐るべしアン。
それを訳そうというのだから、 たぶん、ラテン語で書かれたものを
読んでいたのだろう。
バージルは、ヨーロッパ文学史上、最も重要視される詩人で、
「牧歌」、「農耕詩」、「アエネイス」という詩を残している。
思うに、 アンは「牧歌」を読んでいたのではないだろうか。
この詩の中では、 イタリアの美しい風物や、
牧歌的人物を織り込んだ理想郷を表現しているらしい。
アンは、 アヴォンリーにそんな理想郷を描いていたのだろうか。
人が住んでいる限り、理想郷なんてあるもんか、 と私は思う。
しかし、強いて考えるならば、 ご近所との "程よい付き合い" に尽きる。
昨日、隣のご主人がバイクの手入れをしていたので、声を掛けた。
驚いたように顔を上げて、 私を見て、挨拶してくれた。
彼こそが、"メモを消火器に張り替えた犯人" だと、 私は睨んでいる。
それにしても、 どうして毎日バイクの手入れをしなくてはいけないのか、
駐輪場でもない所にバイクを駐めていて、鬼の管理人さんに注意されないのか、
聞きたい事が山ほどある。
お隣に、 情報通のリンド夫人がいれば "苦もなくわかる" 事も、
自分で内偵しなければならない。
なるほど… アンの "アヴォンリー田舎暮らし" の快適さは、
情報通のリンド夫人と、冷静なマリラの情報処理能力に支えられている訳だ。
快適なマンションライフに、 話せる友達は、やはり必要だ。
仲良くなれそうだったら、 度を越してもお付き合いしたいものだ。
ご飯をご馳走になったりしたい… という訳で、
ちゃんと顔を確認して、 眼があったら「こんにちは〜」、
ちょっと立ち話なんぞ、してみたり…。
このマンションの、どこかの一室に、ちょっと気の合う人がいるような、
そんな気がしてきた。
日々、 抜かりなく見張っていなければ。
それを、私の理想のマンションライフの、 第一歩にしよう。
赤毛のアン 〜毎日読むアン〜
イタリアンに、 長葱と揚げの味噌汁は似合わない。
オリーブオイルの利いた、トマトソースの口になってしまっていては、
味噌汁を流し込む気には、 到底なれないのだ。
そう思って、 まず赤ワインとパンで、イタリアンな夕食を済ませた後、
改めて、味噌汁とご飯で和食とした。
胃腸はどちらもうまく消化仕切れず、ワインの酔いだけが残る。
お酒も、食事も、 チャンポンで頂くのは、身体に良くないようだ。
ホテルの11階にあるイタリア料理のレストラン。
窓の外には、冷たい雨に煙る街が沈んでいた。
そんな夜。 久しぶりのコース料理を頂いて、ひとつ気付いたことがある。
「一皿ずつ持って来ないで、全部いっぺんに出せばいいのに…」
これまでそう思ってきたけれど、 味を混ぜてしまうのは乱暴だとわかった。
一皿の料理は、それだけで完成された味だから、 じっくりそれだけを味わいたい。
「赤毛のアン」を、 〜全38章〜 まで、書いてきた。
「アンの青春」編を、 書こうか、 止めようか…
正直なところ。 私は、「アンの青春」は、面白くないと思っている。
赤毛だったアンは、赤褐色のアンになり、 "赤毛だった頃" の面白さは
半減している。
モンゴメリーは、 どうやら「赤毛のアン」の "その後" を書くことに、
乗り気ではなかったのではないか… とさえ、思える。
有名なSF映画 "ET" を製作したスピルバーグは、
どんなに説得されても、その続編は書かなかったらしい。
"ET" は完結した。 これ以上書く必要はない、 と。
モンゴメリーも、そんな気持ちに近かったのだろうか…
あまりにもアンの人気が高まり、 当然のように、読者はアンのその後を知りたい。
読者と出版社の期待に応えねばならなかったのかも知れない。
そうなると、 赤毛だったアンのイメージを大幅に壊すような事はできず、
必然的に、アンの内面の描き方が今一つ甘くなるのは、 否めない様に思う。
ただ、 "荒探し" のクセがある私としては、その辺りをツッコムのが面白い。
私だったら、 "ちびまる子ちゃん" や、 "磯野家のタラちゃん" みたいに、
アンを成長させない。
あるいは… 島を出て、 冒険の旅をさせたいわ。
そうか…
「赤毛のアン」というお料理は食べ終わり、 「アンの青春」は別の皿なんだ。
別の作品と考えて、読んでみよう。
と言う訳で、 赤褐色のアン(別人)、『第1章』の始まりだ。
どんな内容になるのか、 まだわからない。
物語の筋とは関係ないじゃないか、 と批判されるかもしれない。
もしこれが、 実際「赤毛のアン」ファンの耳にでも入ったら、
「赤毛のアンのファンにあらず!」と除名宣告され、
「赤毛のアン」を読む権利をも、剥奪されてしまうかもしれない。
しかし! どうせ書くなら、それくらいでなくては、 と少々強気である。
「アンの青春」は、 アンの出会いの物語である。
アンに出会ったことで、 少しの間でも楽しい時を持って欲しい。
一見何でもない、小さな出来事にも幸せを見い出し、
今まで見過ごしてきた事にも、喜びを感じるようになって欲しい。
それがアンの、 生き方の理想だ。
多くの人々との出会いの中で、アンの "理想" は試され、 成果を上げて行く。
そして…
これを読んでいる私は、どう感化されていくのだろう。
来年は2008年。 世の中は荒れている。 人々の心は不安と怒りで一杯だ。
正直、 こんな日本から逃げ出してしまいたいくらいだ。
そう、 悪い想像が現実になったような世の中なのだ。
「赤毛のアン」を読むと、 ほんの一時でも、世知辛い世の中に生きている事を忘れ、
若々しい少女に戻れるだろう。
しかし、それは自己満足に過ぎないではないか、 とも思う。
私は、今この瞬間、 生きる力になるものが欲しいのだ。
こんな世の中で「赤毛のアン」を読むと、 "おとぎ話" になってしまう。
私は、 おとぎ話の中のアンは嫌いだ。 アンは生身のアンがいい。
アンを取り巻く人々の中に、どれだけ "生身のアン" を見い出せるだろうか。
作者もあっと驚くような、 アンの本性を見つけられたら…
きっと面白いに違いない。
いや、 絶対、面白い。
それこそ、 私が望む、 まさに 「宝の山」だ。
No.40 『序章 生身のアンがいい』
イタリアンに、 長葱と揚げの味噌汁は似合わない。
オリーブオイルの利いた、トマトソースの口になってしまっていては、
味噌汁を流し込む気には、 到底なれないのだ。
そう思って、 まず赤ワインとパンで、イタリアンな夕食を済ませた後、
改めて、味噌汁とご飯で和食とした。
胃腸はどちらもうまく消化仕切れず、ワインの酔いだけが残る。
お酒も、食事も、 チャンポンで頂くのは、身体に良くないようだ。
ホテルの11階にあるイタリア料理のレストラン。
窓の外には、冷たい雨に煙る街が沈んでいた。
そんな夜。 久しぶりのコース料理を頂いて、ひとつ気付いたことがある。
「一皿ずつ持って来ないで、全部いっぺんに出せばいいのに…」
これまでそう思ってきたけれど、 味を混ぜてしまうのは乱暴だとわかった。
一皿の料理は、それだけで完成された味だから、 じっくりそれだけを味わいたい。
「赤毛のアン」を、 〜全38章〜 まで、書いてきた。
「アンの青春」編を、 書こうか、 止めようか…
正直なところ。 私は、「アンの青春」は、面白くないと思っている。
赤毛だったアンは、赤褐色のアンになり、 "赤毛だった頃" の面白さは
半減している。
モンゴメリーは、 どうやら「赤毛のアン」の "その後" を書くことに、
乗り気ではなかったのではないか… とさえ、思える。
有名なSF映画 "ET" を製作したスピルバーグは、
どんなに説得されても、その続編は書かなかったらしい。
"ET" は完結した。 これ以上書く必要はない、 と。
モンゴメリーも、そんな気持ちに近かったのだろうか…
あまりにもアンの人気が高まり、 当然のように、読者はアンのその後を知りたい。
読者と出版社の期待に応えねばならなかったのかも知れない。
そうなると、 赤毛だったアンのイメージを大幅に壊すような事はできず、
必然的に、アンの内面の描き方が今一つ甘くなるのは、 否めない様に思う。
ただ、 "荒探し" のクセがある私としては、その辺りをツッコムのが面白い。
私だったら、 "ちびまる子ちゃん" や、 "磯野家のタラちゃん" みたいに、
アンを成長させない。
あるいは… 島を出て、 冒険の旅をさせたいわ。
そうか…
「赤毛のアン」というお料理は食べ終わり、 「アンの青春」は別の皿なんだ。
別の作品と考えて、読んでみよう。
と言う訳で、 赤褐色のアン(別人)、『第1章』の始まりだ。
どんな内容になるのか、 まだわからない。
物語の筋とは関係ないじゃないか、 と批判されるかもしれない。
もしこれが、 実際「赤毛のアン」ファンの耳にでも入ったら、
「赤毛のアンのファンにあらず!」と除名宣告され、
「赤毛のアン」を読む権利をも、剥奪されてしまうかもしれない。
しかし! どうせ書くなら、それくらいでなくては、 と少々強気である。
「アンの青春」は、 アンの出会いの物語である。
アンに出会ったことで、 少しの間でも楽しい時を持って欲しい。
一見何でもない、小さな出来事にも幸せを見い出し、
今まで見過ごしてきた事にも、喜びを感じるようになって欲しい。
それがアンの、 生き方の理想だ。
多くの人々との出会いの中で、アンの "理想" は試され、 成果を上げて行く。
そして…
これを読んでいる私は、どう感化されていくのだろう。
来年は2008年。 世の中は荒れている。 人々の心は不安と怒りで一杯だ。
正直、 こんな日本から逃げ出してしまいたいくらいだ。
そう、 悪い想像が現実になったような世の中なのだ。
「赤毛のアン」を読むと、 ほんの一時でも、世知辛い世の中に生きている事を忘れ、
若々しい少女に戻れるだろう。
しかし、それは自己満足に過ぎないではないか、 とも思う。
私は、今この瞬間、 生きる力になるものが欲しいのだ。
こんな世の中で「赤毛のアン」を読むと、 "おとぎ話" になってしまう。
私は、 おとぎ話の中のアンは嫌いだ。 アンは生身のアンがいい。
アンを取り巻く人々の中に、どれだけ "生身のアン" を見い出せるだろうか。
作者もあっと驚くような、 アンの本性を見つけられたら…
きっと面白いに違いない。
いや、 絶対、面白い。
それこそ、 私が望む、 まさに 「宝の山」だ。
赤毛のアン 〜毎日読むアン〜
クリスマスのイルミネーションがきらめく夜、
社会保険事務所では、 職員達が、年金番号の照合に疲れ切っている。
経理ソフトを扱ったことがあれば、誰だって身に覚えがある過ち。
ミスタッチ… 漢字が読めない… 男か女かわからない…
休みが明けたら、今日の日付が昨日の日付。
彼と別れた朝に、人の年金がなんなのさ。 どうだっていいわ。
そんなことより、 私は彼を愛していたのに…
失恋年金、 欲しいわ…
でも、アンタ達、 自分のデータの入力は間違ってないはず。
家族を葬った家から、ツリーと微笑が奪い去られた。
悲惨な事件の後に、またさらに悲惨な殺戮が続く。
辛い思い出は、 クリスマスと共に、永遠に棘のように突き刺さる。
クリスマスなんて行事があるばっかりに、 幸せの明暗がはっきりと分かれる。
ボーナスの出た人、 出なかった人、 年金の出る人、出ない人、
家族のいる人、 いない人。
昔、 クリスマスは、ひどい扱いを受けていました。
お父さん達は酔っ払って、 「めりー くりすます!」を連発していました。
例の "円すい型のぴかぴかお帽子" をかぶり、手にはクラッカー、
パンパン鳴らし、 綺麗なおねいちゃん達と肩組んで、
にぎやかに夜の街を飲み歩いていました。
サンタクロースは、 飲み屋さんの "宣伝係" のアルバイトをしていました。
楽しそうな人達の喧噪を尻目に、 凍える手でプラカードを持ち…、
時給が安くて、 プレゼントを買うお金どころか、
トナカイの蹄鉄も取り替えてやれませんでした。
そう…、 サンタクロースは、働きづめだったのです。
まだ真っ暗な、夜明け前、 午前4時23分。
サンタのおじいさんは、ぱっちり眼がさめました。
「起きるには惜しい。 夢でもみることにしよう。」
夢の中で、 小さな男の子が服を着るのを手伝いました。
上着のボタンを、ボタンの穴に入れて、 下から押し上げる様に押込むと…
スルリとボタンが顔を出す。
それが、ボタンにズームアップして、コマ送りの映像になるのです。
ホッ! ホッ〜!
さあ、 傘をさしてお買い物。
エリアと呼ばれている高級ショッピンクモールに行きましょう。
おやおや… ママが、 向こうから赤いトラックで迎えに来た。
エリアなんてやめやめ、 お魚市場に行きましょう。
雨がいつの間にやら雪にかわって、 男の子も、サンタも、
大喜びで走っていきました。
向こうの方まで、 ずぅ〜っと、ずぅ〜っと先まで、 雪が舞い踊っています。
ホッ! ホッ〜!!
まるで、お空を飛んでるようじゃ!
サンタは、なんだか生まれ変わった気がしてきた所で、眼がさめました。
「そうじゃ、 ワシはもともと飛べるんじゃったわい。。」
なんか空しいサンタでした。
サンタクロースを故郷に帰してあげよう。
サンタが、もとのサンタに戻れるなら、 クリスマスというイベントは
なくてもいい。
イベントがなければ、 地球温暖化対策も、 歳の瀬の残業も、
社会保険業務もはかどる。
クリスマスは、 新しい何かが降ってくる時、 生まれ変わる時。
一人ぼっちだって、 二股かけてたって、 お金持ちでも、 貧乏人でも、
握った手のひら、 開けてみれば、何があるかしら…
砂粒ひとつでも見つけたら…、 クリスマスは夢の中で祝おう。
温かいコートのボタンを しっかり留めて、
真っ白な、 何もない、 雪の世界へ出かけよう。
こどもの様に、足取り軽く、 飛べる者は飛び、 歌う者は歌い、
慰める者は慰め、 嘘つきはホラ吹き回り、 守銭奴はゴッソリ持ち逃げ、
生まれ変わって自由にやろう。
眼が覚めた時、 「もともとこうだったわい」。
そう言えるまで。
No.39 クリスマス増刊号 『No More クリスマス』
クリスマスのイルミネーションがきらめく夜、
社会保険事務所では、 職員達が、年金番号の照合に疲れ切っている。
経理ソフトを扱ったことがあれば、誰だって身に覚えがある過ち。
ミスタッチ… 漢字が読めない… 男か女かわからない…
休みが明けたら、今日の日付が昨日の日付。
彼と別れた朝に、人の年金がなんなのさ。 どうだっていいわ。
そんなことより、 私は彼を愛していたのに…
失恋年金、 欲しいわ…
でも、アンタ達、 自分のデータの入力は間違ってないはず。
家族を葬った家から、ツリーと微笑が奪い去られた。
悲惨な事件の後に、またさらに悲惨な殺戮が続く。
辛い思い出は、 クリスマスと共に、永遠に棘のように突き刺さる。
クリスマスなんて行事があるばっかりに、 幸せの明暗がはっきりと分かれる。
ボーナスの出た人、 出なかった人、 年金の出る人、出ない人、
家族のいる人、 いない人。
昔、 クリスマスは、ひどい扱いを受けていました。
お父さん達は酔っ払って、 「めりー くりすます!」を連発していました。
例の "円すい型のぴかぴかお帽子" をかぶり、手にはクラッカー、
パンパン鳴らし、 綺麗なおねいちゃん達と肩組んで、
にぎやかに夜の街を飲み歩いていました。
サンタクロースは、 飲み屋さんの "宣伝係" のアルバイトをしていました。
楽しそうな人達の喧噪を尻目に、 凍える手でプラカードを持ち…、
時給が安くて、 プレゼントを買うお金どころか、
トナカイの蹄鉄も取り替えてやれませんでした。
そう…、 サンタクロースは、働きづめだったのです。
まだ真っ暗な、夜明け前、 午前4時23分。
サンタのおじいさんは、ぱっちり眼がさめました。
「起きるには惜しい。 夢でもみることにしよう。」
夢の中で、 小さな男の子が服を着るのを手伝いました。
上着のボタンを、ボタンの穴に入れて、 下から押し上げる様に押込むと…
スルリとボタンが顔を出す。
それが、ボタンにズームアップして、コマ送りの映像になるのです。
ホッ! ホッ〜!
さあ、 傘をさしてお買い物。
エリアと呼ばれている高級ショッピンクモールに行きましょう。
おやおや… ママが、 向こうから赤いトラックで迎えに来た。
エリアなんてやめやめ、 お魚市場に行きましょう。
雨がいつの間にやら雪にかわって、 男の子も、サンタも、
大喜びで走っていきました。
向こうの方まで、 ずぅ〜っと、ずぅ〜っと先まで、 雪が舞い踊っています。
ホッ! ホッ〜!!
まるで、お空を飛んでるようじゃ!
サンタは、なんだか生まれ変わった気がしてきた所で、眼がさめました。
「そうじゃ、 ワシはもともと飛べるんじゃったわい。。」
なんか空しいサンタでした。
サンタクロースを故郷に帰してあげよう。
サンタが、もとのサンタに戻れるなら、 クリスマスというイベントは
なくてもいい。
イベントがなければ、 地球温暖化対策も、 歳の瀬の残業も、
社会保険業務もはかどる。
クリスマスは、 新しい何かが降ってくる時、 生まれ変わる時。
一人ぼっちだって、 二股かけてたって、 お金持ちでも、 貧乏人でも、
握った手のひら、 開けてみれば、何があるかしら…
砂粒ひとつでも見つけたら…、 クリスマスは夢の中で祝おう。
温かいコートのボタンを しっかり留めて、
真っ白な、 何もない、 雪の世界へ出かけよう。
こどもの様に、足取り軽く、 飛べる者は飛び、 歌う者は歌い、
慰める者は慰め、 嘘つきはホラ吹き回り、 守銭奴はゴッソリ持ち逃げ、
生まれ変わって自由にやろう。
眼が覚めた時、 「もともとこうだったわい」。
そう言えるまで。
赤毛のアン 〜毎日読むアン〜
「神は天にあり、この世はすべてなにごともなし」
アンがそっとつぶやく、ロバート・ブラウニング(1821〜1889)の詩の一節で、
物語は終わる。
初めて「赤毛のアン」を読んだ時から、 この詩は謎だった。
神様が守ってくれているから、 この世は平和で、安心だ…
こどもの私はそのくらいに考えていた。
勉強机に頬杖をついて、窓辺の木立が夕暮れの風に揺れるのを見ると、
アンの真似をしてつぶやいてみたものだ。
しかし、全文は知らなかった。
この一節は、英国の詩人ロバート・ブラウニングの長編詩、
"ピッパは行く" のなかでピッパがくちずさむ歌で、
英語圏ではよく引用される、有名な詩だと、 最近知った。
日本では、1905年に出版された "海潮音" の中で、 上田 敏が訳している。
時は春、 日は朝、 朝は七時、
片岡に露みちて、
揚雲雀なのりいで、蝸牛枝に這ひ、
神、空に知ろしめす。 すべて世は事も無し。
なぜ、この一節で物語を締めくくったのだろう。
物語の始まりと終わりは繋がっているものだと思う。
第1章は… 何でもお見通しの、村のお目付け役、 レイチェル・リンド夫人から
始まっている。
もちろん38章でも、 リンド夫人は情報収集能力を発揮して、
アンに嬉しい知らせを持って、 登場してはいるが…。
これも最近知って、非常に驚いた。
「赤毛のアン」には、 もう一箇所、ブラウニングの詩が引用されていると
いうのだ。
冒頭の扉の部分、 それはなぜか、 村岡花子訳、掛川恭子訳共に省略している。
幸せの星 汝が天球に会し、
精と炎と露もて 汝をつくれり
つまり… 天球の星の定めに従って、 アンは物語の最初から、
幸せの星として、登場していたわけだ。
いくら何でもお見通しのリンド夫人でも、 星の定めた巡り合わせなど、
わかるはずもない。
読者なら気付くだろう。
34章で、 マシューは、星の輝く、青い夏の夜空の下でつぶやく。
「神さまが天上からごらんになっていて、あの子をお遣わしになったんだ。」
アンがグリーン・ゲーブルズに来たのは春、 りんごの白い花が咲き乱れ、
雲雀が飛び、 ミツバチの歌声があふれていた。
「大好きなグリーン・ゲーブルズ、
世界は、そして人生は、なんて美しいんでしょう。」
ブラウニングの詩に、 アンはそんな想いを込めたのだと思う。
物語の始まりと終わりが繋がった。 私は腑に落ちて、すっきりした。
しかし…、
リンド夫人の許しを得て書き始めた私は、 彼女に断りもなく、
締め括ることはできそうもない。
何事も、彼女に相談なしでは始まらないし、
言わなければ、彼女の方から押しかけて来ること間違いなしだもの。
「おや、アンはアヴォンリーで教えるんだよ。
それは、書かなくていいのかい?」
でも、 リンドのおばさま… 私、仕事もあるし、家の切り盛りも
しなくちゃならない。 オルガンの練習だって骨が折れるのよ。
それに、父も随分歳をとって、手伝いが必要だわ。
赤毛のアンは10巻まで続くのよ。
書き続けるなんて、 そんなことしたら死んじまうわ…
「その間に、私なら18枚目のキルトを仕上げちまうだろうよ。」
リンドのおばさま… 私にあなたの真似はできません。
「へぇ… それじゃあ、アンのことを書いたからって、
なにも変わってないってわけだね。」
おばさま…
私は、きれいな心を取り戻したくて、「赤毛のアン」を手にした訳じゃない。
この物語が大好きだったからだ。
いつか、こんな物語を自分でも書けたら、 と夢みていた頃があったからだ。
だが私は、 どこかで道の曲がり角を間違えたのかもしれない。
いつだって、 曲がり角の先には… 退屈な仕事や面倒なもめ事があった。
何人もの社長や部長に仕えたが、ロクでもないヤツばっか。
最近じゃ、 不況で会社が潰れる心配に加えて、お金と老後の心配まである。
別れた亭主は、未だに私にアイソを尽かされたことを分かっちゃない。
見渡せば嫌いな人々の山。 私のお腹の中は皮肉と毒舌でまっくろけだ。
「全38章」を書き通した結果、 取り戻したのは、 むしろ辛口な、批評家の
私自身だったようだ。
私は、もっとはっきりものを言ったほうがいいのでは、 と思うようになった。
そう… 間違った曲がり角はない。 この道はどこかに向かって繋がっているのだ。
私は今、 この曲がり角の先に広がる風景に眼を向けようとしている。
プレハブの事務所へ車を走らせる寒い朝…、 もう、ドラマのような人生や、
テレビで見たモデルハウスを夢見たりしない。
嫌いな人々の山を目の前に、 歯切れのいい毒舌と、
生クリームのように滑らかな皮肉を考えるのは、実に楽しい。
リンドのおばさま…
私はワタシ、アンに似せて真似をしたものではない、 私の望みを持って、
新たな夢を描いてみることにした。
勇気がいるものね、 自分に心を開いて現実を認めるというのは。
ここが、 私のプリンスエドワード島。
工業地帯の朝にも、鳥はさえずり、 すすけた木々には虫が這い出し、
片岡には露が光る…
No.38 最終章 『第38章 片岡に露みちて』
「神は天にあり、この世はすべてなにごともなし」
アンがそっとつぶやく、ロバート・ブラウニング(1821〜1889)の詩の一節で、
物語は終わる。
初めて「赤毛のアン」を読んだ時から、 この詩は謎だった。
神様が守ってくれているから、 この世は平和で、安心だ…
こどもの私はそのくらいに考えていた。
勉強机に頬杖をついて、窓辺の木立が夕暮れの風に揺れるのを見ると、
アンの真似をしてつぶやいてみたものだ。
しかし、全文は知らなかった。
この一節は、英国の詩人ロバート・ブラウニングの長編詩、
"ピッパは行く" のなかでピッパがくちずさむ歌で、
英語圏ではよく引用される、有名な詩だと、 最近知った。
日本では、1905年に出版された "海潮音" の中で、 上田 敏が訳している。
時は春、 日は朝、 朝は七時、
片岡に露みちて、
揚雲雀なのりいで、蝸牛枝に這ひ、
神、空に知ろしめす。 すべて世は事も無し。
なぜ、この一節で物語を締めくくったのだろう。
物語の始まりと終わりは繋がっているものだと思う。
第1章は… 何でもお見通しの、村のお目付け役、 レイチェル・リンド夫人から
始まっている。
もちろん38章でも、 リンド夫人は情報収集能力を発揮して、
アンに嬉しい知らせを持って、 登場してはいるが…。
これも最近知って、非常に驚いた。
「赤毛のアン」には、 もう一箇所、ブラウニングの詩が引用されていると
いうのだ。
冒頭の扉の部分、 それはなぜか、 村岡花子訳、掛川恭子訳共に省略している。
幸せの星 汝が天球に会し、
精と炎と露もて 汝をつくれり
つまり… 天球の星の定めに従って、 アンは物語の最初から、
幸せの星として、登場していたわけだ。
いくら何でもお見通しのリンド夫人でも、 星の定めた巡り合わせなど、
わかるはずもない。
読者なら気付くだろう。
34章で、 マシューは、星の輝く、青い夏の夜空の下でつぶやく。
「神さまが天上からごらんになっていて、あの子をお遣わしになったんだ。」
アンがグリーン・ゲーブルズに来たのは春、 りんごの白い花が咲き乱れ、
雲雀が飛び、 ミツバチの歌声があふれていた。
「大好きなグリーン・ゲーブルズ、
世界は、そして人生は、なんて美しいんでしょう。」
ブラウニングの詩に、 アンはそんな想いを込めたのだと思う。
物語の始まりと終わりが繋がった。 私は腑に落ちて、すっきりした。
しかし…、
リンド夫人の許しを得て書き始めた私は、 彼女に断りもなく、
締め括ることはできそうもない。
何事も、彼女に相談なしでは始まらないし、
言わなければ、彼女の方から押しかけて来ること間違いなしだもの。
「おや、アンはアヴォンリーで教えるんだよ。
それは、書かなくていいのかい?」
でも、 リンドのおばさま… 私、仕事もあるし、家の切り盛りも
しなくちゃならない。 オルガンの練習だって骨が折れるのよ。
それに、父も随分歳をとって、手伝いが必要だわ。
赤毛のアンは10巻まで続くのよ。
書き続けるなんて、 そんなことしたら死んじまうわ…
「その間に、私なら18枚目のキルトを仕上げちまうだろうよ。」
リンドのおばさま… 私にあなたの真似はできません。
「へぇ… それじゃあ、アンのことを書いたからって、
なにも変わってないってわけだね。」
おばさま…
私は、きれいな心を取り戻したくて、「赤毛のアン」を手にした訳じゃない。
この物語が大好きだったからだ。
いつか、こんな物語を自分でも書けたら、 と夢みていた頃があったからだ。
だが私は、 どこかで道の曲がり角を間違えたのかもしれない。
いつだって、 曲がり角の先には… 退屈な仕事や面倒なもめ事があった。
何人もの社長や部長に仕えたが、ロクでもないヤツばっか。
最近じゃ、 不況で会社が潰れる心配に加えて、お金と老後の心配まである。
別れた亭主は、未だに私にアイソを尽かされたことを分かっちゃない。
見渡せば嫌いな人々の山。 私のお腹の中は皮肉と毒舌でまっくろけだ。
「全38章」を書き通した結果、 取り戻したのは、 むしろ辛口な、批評家の
私自身だったようだ。
私は、もっとはっきりものを言ったほうがいいのでは、 と思うようになった。
そう… 間違った曲がり角はない。 この道はどこかに向かって繋がっているのだ。
私は今、 この曲がり角の先に広がる風景に眼を向けようとしている。
プレハブの事務所へ車を走らせる寒い朝…、 もう、ドラマのような人生や、
テレビで見たモデルハウスを夢見たりしない。
嫌いな人々の山を目の前に、 歯切れのいい毒舌と、
生クリームのように滑らかな皮肉を考えるのは、実に楽しい。
リンドのおばさま…
私はワタシ、アンに似せて真似をしたものではない、 私の望みを持って、
新たな夢を描いてみることにした。
勇気がいるものね、 自分に心を開いて現実を認めるというのは。
ここが、 私のプリンスエドワード島。
工業地帯の朝にも、鳥はさえずり、 すすけた木々には虫が這い出し、
片岡には露が光る…
赤毛のアン 〜毎日読むアン〜
6月6日は 雨ざあざあ
三角定規に ヒビいって…
誰でも知っている絵描き唄。 10年前のこの日、朝の空は晴れわたっていた。
ところが会社に着くなり、突然雷と共に大雨が降り始めた…
その時、 私は "母危篤" の知らせを受けた。
傘を握りしめて事務所の玄関を出ると、雨は嘘のように止み、
太陽が顔を出していた。
なんか、遊ばれてるみたいな天気…
もうこれだけで、6月6日は忘れようがない。
母の命日は、 雨…ざあざあ だったのだから。
母は思い出の手がかりを残したのかしらと思う。
思い出は、 香りや、物や、空気と、一緒に刻まれていく。
マシューが倒れた朝、アンは白ズイセンの花束を胸に抱えていた。
それから長い間、 アンは白ズイセンの花を見ることも、匂いを嗅ぐことも
できなかった。
" 母の日 "が近づくと、私は花屋の前を眼を伏せて通るようになった。
余命を宣告され、来年のこの日には母はいない。 耐え難い悲しみが蘇るからだ。
母は肺癌だった。
入院した時は既に手遅れだった。 たった1ヶ月の入院だった。
意識がある最後まで、 母は母らしかった。
病院のパジャマは、前の合わせを紐でくくるようになっている。
痩せた母には紐の位置が合わなかったのだろう。
きれいにほどいて付け替え、返す時にはまた元の位置に付け直していたのだ。
丁寧に縫いつけてあった。
「おかあさんらしい…」
私はしみじみ感心した。
お葬式は大変盛り上がった。 マイクロバス一台分の親戚縁者がやって来て、
通夜の夜は、お料理もお酒も足りないくらい。
お酒を医者から止められている叔父が、こんな時くらい飲ませろと暴れた。
アンタが一番母に面倒かけたのよ。
叔母達は娘や息子、孫まで連れて来て、 皆おなか一杯に食べた。
結婚披露宴みたいだった。
そして、 母は、花嫁のように美しかった。
亡くなる一週間前に外出許可を貰い、 行きつけの美容院で、
髪もきちんとセットしていた。
眉を形よく整えたせいか、 生きてるときよりキマッていたくらいだ。
少々色黒な母だったが、 肌は白く蒼ざめて、
「白雪姫みたいだよ…」
母も、まんざらでもないという顔をして、 すましていた。
魂は身体を離れて、 自由に飛びまわっていると私は感じていた。
どんなに悲しみに打ちひしがれていても、眠気には勝てない。
葬祭場の一室で、 父と私は、一夜を明かした。
本当は母の側で線香を絶やさず、寝ずの番をするはずなのに、
父ときたら、爆音とも言えるイビキをかいて、 寝てしまった。
うるさくてたまらん。
おかあさん、なんとかしてくれ…
もし、亡くなったのが父なら、 母と抱き合って泣けたかもしれない。
しかし、 母を失って、 父は途方に暮れていた。
私の務めは、父を支えて葬式を無事に済ませることだ。
起き抜けのコーヒーが飲みたい。 父もコーヒー好きだ。
私が物心ついた時から、朝は欠かさずドリップコーヒーだ。
「しょうがない… 缶コーヒーでも飲むか…」
私達は葬祭場を出て、向かい側にある自動販売機まで、
ぶらぶらと歩いて行った。
空は晴れ、 明け方の空気はピリッと冷たい。
毎日繰り返される通勤ラッシュが始まろうとしている。
人々は起き出して、いつもの平凡な朝を迎える。
母は逝ってしまった。
父と私は、同じ悲しみを分かち合って、 黙ったまま歩いた。
私はこの朝のことを、 今も大切に思う。
ふと母を思い出す時、そこに風が吹く。 気が付くと、母の日が近づいている。
それは悲しい事の様だが、 時が経つと、亡き人と魂の交信をする時の
鍵にもなる。
旅先で迎えた朝、 コーヒーの自動販売機に小銭を入れる時、
どこからか冷たい風が頬に吹いてきて、 一瞬、 心が後ろを振り返る。
おかあさん、 私は元気でやっています。
私は、 言葉になる前の気持ちを母に贈る。
No.37 『第37章 朝、コーヒーをすする時』
6月6日は 雨ざあざあ
三角定規に ヒビいって…
誰でも知っている絵描き唄。 10年前のこの日、朝の空は晴れわたっていた。
ところが会社に着くなり、突然雷と共に大雨が降り始めた…
その時、 私は "母危篤" の知らせを受けた。
傘を握りしめて事務所の玄関を出ると、雨は嘘のように止み、
太陽が顔を出していた。
なんか、遊ばれてるみたいな天気…
もうこれだけで、6月6日は忘れようがない。
母の命日は、 雨…ざあざあ だったのだから。
母は思い出の手がかりを残したのかしらと思う。
思い出は、 香りや、物や、空気と、一緒に刻まれていく。
マシューが倒れた朝、アンは白ズイセンの花束を胸に抱えていた。
それから長い間、 アンは白ズイセンの花を見ることも、匂いを嗅ぐことも
できなかった。
" 母の日 "が近づくと、私は花屋の前を眼を伏せて通るようになった。
余命を宣告され、来年のこの日には母はいない。 耐え難い悲しみが蘇るからだ。
母は肺癌だった。
入院した時は既に手遅れだった。 たった1ヶ月の入院だった。
意識がある最後まで、 母は母らしかった。
病院のパジャマは、前の合わせを紐でくくるようになっている。
痩せた母には紐の位置が合わなかったのだろう。
きれいにほどいて付け替え、返す時にはまた元の位置に付け直していたのだ。
丁寧に縫いつけてあった。
「おかあさんらしい…」
私はしみじみ感心した。
お葬式は大変盛り上がった。 マイクロバス一台分の親戚縁者がやって来て、
通夜の夜は、お料理もお酒も足りないくらい。
お酒を医者から止められている叔父が、こんな時くらい飲ませろと暴れた。
アンタが一番母に面倒かけたのよ。
叔母達は娘や息子、孫まで連れて来て、 皆おなか一杯に食べた。
結婚披露宴みたいだった。
そして、 母は、花嫁のように美しかった。
亡くなる一週間前に外出許可を貰い、 行きつけの美容院で、
髪もきちんとセットしていた。
眉を形よく整えたせいか、 生きてるときよりキマッていたくらいだ。
少々色黒な母だったが、 肌は白く蒼ざめて、
「白雪姫みたいだよ…」
母も、まんざらでもないという顔をして、 すましていた。
魂は身体を離れて、 自由に飛びまわっていると私は感じていた。
どんなに悲しみに打ちひしがれていても、眠気には勝てない。
葬祭場の一室で、 父と私は、一夜を明かした。
本当は母の側で線香を絶やさず、寝ずの番をするはずなのに、
父ときたら、爆音とも言えるイビキをかいて、 寝てしまった。
うるさくてたまらん。
おかあさん、なんとかしてくれ…
もし、亡くなったのが父なら、 母と抱き合って泣けたかもしれない。
しかし、 母を失って、 父は途方に暮れていた。
私の務めは、父を支えて葬式を無事に済ませることだ。
起き抜けのコーヒーが飲みたい。 父もコーヒー好きだ。
私が物心ついた時から、朝は欠かさずドリップコーヒーだ。
「しょうがない… 缶コーヒーでも飲むか…」
私達は葬祭場を出て、向かい側にある自動販売機まで、
ぶらぶらと歩いて行った。
空は晴れ、 明け方の空気はピリッと冷たい。
毎日繰り返される通勤ラッシュが始まろうとしている。
人々は起き出して、いつもの平凡な朝を迎える。
母は逝ってしまった。
父と私は、同じ悲しみを分かち合って、 黙ったまま歩いた。
私はこの朝のことを、 今も大切に思う。
ふと母を思い出す時、そこに風が吹く。 気が付くと、母の日が近づいている。
それは悲しい事の様だが、 時が経つと、亡き人と魂の交信をする時の
鍵にもなる。
旅先で迎えた朝、 コーヒーの自動販売機に小銭を入れる時、
どこからか冷たい風が頬に吹いてきて、 一瞬、 心が後ろを振り返る。
おかあさん、 私は元気でやっています。
私は、 言葉になる前の気持ちを母に贈る。
赤毛のアン 〜毎日読むアン〜
ヒヤシンスの水栽培をしたことがある。
首の括れた独特の形をしたガラス瓶。 水を張ると妙に艶めかしい。
そっと乗せた球根は無骨な表情をしている。
やがて、白い髭のように根が生え始める。
根は血の通っていない白い血管に似ている。
瓶の中に、そんな血の通わない血管が張り巡らされる。
しかし、硬い芽が頭をのぞかせるのは、まだ遠い先のことだ。
もしヒヤシンスが、 同性愛者の痴情の縺れで死んだ、
ヒュアキントスの血から生まれた花だと知っていたら、
ひと時でもロマンチックな気分になれただろう。
その頃、 私は悲しい受験生だった。
「花が咲いたら合格する」。 願かけをしていたのだ。
土に植えたら、心配でほじくり返して、駄目にしてしまう。
どうなっているかを確認するには、 水栽培が一番だ。
桜の木立は寒そうに見せかけているが、
密かに着々と開花の準備を整えている。
勉強しとらんと言いながら、合格するヤツみたいだ。
その点、ヒヤシンスは、 机の上で、すべてを私にみせてくれる。
万が一の保険に、色違いの球根もスタンバイさせた。
しかし、万が一受験に失敗した時の保険は、用意していない。
失敗すればそこからの時は止まり、 たとえ花が咲いても、
私には春は二度と来ない、と思っていた。
「良妻賢母」の育成を旨とする私立の女子校から、4年制の大学を目指すのは
かなり大きな望みだった。
高校に入学した時の成績を基に50人が選ばれ、進学クラスが編成された。
中学では100番以内に入らなかった私が、ここに来て優等生扱いを
受けるのだから、世の中の評価は当てにならないものだ。
私達50人は、他の生徒とは別のカリキュラムで鍛えられた。
10名が4年制に合格、その内の1名が国立大学だった。
皆、よく頑張った。 そして、浪人生になったのは私一人だった。
私は英文科を目指していた。 得意科目だったからだ。
でも… 本音は…
外人が好きだったのよ…
外国のラジオ番組や歌を聴いて、内容がスラスラ理解できたら、
カッコいいよなぁ…
かなりの、ミーハーだったのだ。
しかし、この世の中、 例えそれがミーハーな望みであろうとも、
何かを手に入れようとするなら、それなりの代償を支払わなければ
ならないのだ。
こつこつと努力し、怠けたい自分を厳しく叱り、
不安に耐えなければならない。
予備校へ行かなかった私は、昼間は家業の印刷屋を手伝った。
今考えると、これは両親の作戦だったのではないかと思う。
両親と私の三人は、 朝は車で工場へ出勤し、夕方にはまた三人で帰宅した。
昼食時は、 三人で近所のレストランや喫茶店をハシゴした。
レストランでは、全員 "エビピラフ" 、
喫茶店では、全員 "日替わり定食 コーヒー付き" を注文した。
これでは、ムシも寄りつかない。 ガラス張りの箱入り受験生だ。
家では、 母にめちゃめちゃ家事をやらされた。
しかも、忙しい受験生が手早く簡単に作るための料理を教えてくれるのだから、
徹底している。
お薦めは、タマゴの天ぷら。 熱した油にタマゴを割り入れるだけでいい。
油の中で、たちまち白身がプクプクと膨らんで、はじっこはカリカリに揚がる。
気を付けないといけないのは、タマゴの水分が、雷の様な音と共に
飛び散ることだ。 床が油でぬるぬるになる。
同時進行でご飯を炊く。 炊飯用の鍋は、火加減をいつも気にしていなければ
ならない。
母の躾の甲斐あって、これらのことを手順よく出来る様になっていた。
リンド夫人でさえ文句をつけなかっただろう。
大学に入れなかったら、すぐにでも嫁に行けそうだった。
実際、 母は "企んでいた" のかもしれないが。
でも… 私には好きな人がいた。 想像の中の人なんだけど。
当時は「赤毛のアン」のページを開けもしなかったし、
忘れていたと言っていいくらい。
それなのに、グリーンゲーブルズに来る前のアンと、同じ事をしていたようだ。
想像上の友達をつくったのだ。 私の頭の中に、大好きな "誰か" がいた。
本を読んだらその感想を話し、 好きな音楽を一緒に聴いた。
ある時、その "誰か" に手紙を書いた。 ここまでくると普通じゃないけど…。
散歩する河原の、土手の下、 家もないのにポストがぽつんとたっている。
あのポストなら、 宛先のない手紙を届けてくれるかもしれない…
大丈夫。 投函するほど重傷ではなかった。
私は、瓶の中で発芽し続ける白い根に似ていた。
ヒヤシンスは地面に根を広げることはできず、とぐろを巻いて、
瓶一杯に増殖していった。
大好きな "誰か" は、 私を広い世界に連れ出して、
夢を現実のものにしてくれる人だった。
その人は、どこかに必ずいると思っていた。
その人に守って貰わなければ、現実の世界では生きられないような
気がしていた。
発表は一人で見に行った。
ベニヤ板一枚に貼り付けられた模造紙一枚で、
辛かった一年の決着をつけられるのだ。
たばこでも買いに行くつもりでなきゃ、ショックに耐えられないわ。
私は不安を隠して、ぶらぶらと歩いて行った。
自販機を壁代わりにしてやっと建っている酒屋を過ぎ、
配給所の看板が未だに取り付けられたままになっている米屋の手前、
通用門から大学講内へ突入。
ところで、 意外にも、私の受験番号はあった。
「わたし…受かったん?」 受かったらしいよ… なんで?
こんなに簡単に、合格者になっていいものなのかと、私は悩んだ。
ジョシー・パイなら一番で合格したように自慢するとこだが、
これは奇跡以外の、何かの間違いである。
いいえ、 間違っていたのは私の方。
あれから20年余りが過ぎ、私はあの日を思い出す度に、
何かやり残したことがあるような気がしていた。
こういう肝心な場面でどうするかが将来を決めるものだと思う。
大きな望みが叶えられた時は、心から喜ぶことだ。
そしてわき上がってくる思いに、 素直になることだ。
アンがした様に、心の底から感謝と願いをこめて祈ればよかったのだ。
遅ればせながら、私は祈る。 望みが叶えられたことに感謝すると。
でっ? ヒヤシンスは、咲いたかって?
2月の寒い朝に咲いているはずもなく、結局ヤツが咲く気になったのは
入学式の頃だった。
薄紫の豪華な花が目に浮かぶ。
それは、 大好きな "誰か" が贈ってくれたお祝いの花束だったんだと、
今頃になって気付いた。
カードまで添えられている。
「夢は夢見るためにあるのではなく、実現するためにある。」
No.36 『第36章 "誰か" の贈り物』
ヒヤシンスの水栽培をしたことがある。
首の括れた独特の形をしたガラス瓶。 水を張ると妙に艶めかしい。
そっと乗せた球根は無骨な表情をしている。
やがて、白い髭のように根が生え始める。
根は血の通っていない白い血管に似ている。
瓶の中に、そんな血の通わない血管が張り巡らされる。
しかし、硬い芽が頭をのぞかせるのは、まだ遠い先のことだ。
もしヒヤシンスが、 同性愛者の痴情の縺れで死んだ、
ヒュアキントスの血から生まれた花だと知っていたら、
ひと時でもロマンチックな気分になれただろう。
その頃、 私は悲しい受験生だった。
「花が咲いたら合格する」。 願かけをしていたのだ。
土に植えたら、心配でほじくり返して、駄目にしてしまう。
どうなっているかを確認するには、 水栽培が一番だ。
桜の木立は寒そうに見せかけているが、
密かに着々と開花の準備を整えている。
勉強しとらんと言いながら、合格するヤツみたいだ。
その点、ヒヤシンスは、 机の上で、すべてを私にみせてくれる。
万が一の保険に、色違いの球根もスタンバイさせた。
しかし、万が一受験に失敗した時の保険は、用意していない。
失敗すればそこからの時は止まり、 たとえ花が咲いても、
私には春は二度と来ない、と思っていた。
「良妻賢母」の育成を旨とする私立の女子校から、4年制の大学を目指すのは
かなり大きな望みだった。
高校に入学した時の成績を基に50人が選ばれ、進学クラスが編成された。
中学では100番以内に入らなかった私が、ここに来て優等生扱いを
受けるのだから、世の中の評価は当てにならないものだ。
私達50人は、他の生徒とは別のカリキュラムで鍛えられた。
10名が4年制に合格、その内の1名が国立大学だった。
皆、よく頑張った。 そして、浪人生になったのは私一人だった。
私は英文科を目指していた。 得意科目だったからだ。
でも… 本音は…
外人が好きだったのよ…
外国のラジオ番組や歌を聴いて、内容がスラスラ理解できたら、
カッコいいよなぁ…
かなりの、ミーハーだったのだ。
しかし、この世の中、 例えそれがミーハーな望みであろうとも、
何かを手に入れようとするなら、それなりの代償を支払わなければ
ならないのだ。
こつこつと努力し、怠けたい自分を厳しく叱り、
不安に耐えなければならない。
予備校へ行かなかった私は、昼間は家業の印刷屋を手伝った。
今考えると、これは両親の作戦だったのではないかと思う。
両親と私の三人は、 朝は車で工場へ出勤し、夕方にはまた三人で帰宅した。
昼食時は、 三人で近所のレストランや喫茶店をハシゴした。
レストランでは、全員 "エビピラフ" 、
喫茶店では、全員 "日替わり定食 コーヒー付き" を注文した。
これでは、ムシも寄りつかない。 ガラス張りの箱入り受験生だ。
家では、 母にめちゃめちゃ家事をやらされた。
しかも、忙しい受験生が手早く簡単に作るための料理を教えてくれるのだから、
徹底している。
お薦めは、タマゴの天ぷら。 熱した油にタマゴを割り入れるだけでいい。
油の中で、たちまち白身がプクプクと膨らんで、はじっこはカリカリに揚がる。
気を付けないといけないのは、タマゴの水分が、雷の様な音と共に
飛び散ることだ。 床が油でぬるぬるになる。
同時進行でご飯を炊く。 炊飯用の鍋は、火加減をいつも気にしていなければ
ならない。
母の躾の甲斐あって、これらのことを手順よく出来る様になっていた。
リンド夫人でさえ文句をつけなかっただろう。
大学に入れなかったら、すぐにでも嫁に行けそうだった。
実際、 母は "企んでいた" のかもしれないが。
でも… 私には好きな人がいた。 想像の中の人なんだけど。
当時は「赤毛のアン」のページを開けもしなかったし、
忘れていたと言っていいくらい。
それなのに、グリーンゲーブルズに来る前のアンと、同じ事をしていたようだ。
想像上の友達をつくったのだ。 私の頭の中に、大好きな "誰か" がいた。
本を読んだらその感想を話し、 好きな音楽を一緒に聴いた。
ある時、その "誰か" に手紙を書いた。 ここまでくると普通じゃないけど…。
散歩する河原の、土手の下、 家もないのにポストがぽつんとたっている。
あのポストなら、 宛先のない手紙を届けてくれるかもしれない…
大丈夫。 投函するほど重傷ではなかった。
私は、瓶の中で発芽し続ける白い根に似ていた。
ヒヤシンスは地面に根を広げることはできず、とぐろを巻いて、
瓶一杯に増殖していった。
大好きな "誰か" は、 私を広い世界に連れ出して、
夢を現実のものにしてくれる人だった。
その人は、どこかに必ずいると思っていた。
その人に守って貰わなければ、現実の世界では生きられないような
気がしていた。
発表は一人で見に行った。
ベニヤ板一枚に貼り付けられた模造紙一枚で、
辛かった一年の決着をつけられるのだ。
たばこでも買いに行くつもりでなきゃ、ショックに耐えられないわ。
私は不安を隠して、ぶらぶらと歩いて行った。
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配給所の看板が未だに取り付けられたままになっている米屋の手前、
通用門から大学講内へ突入。
ところで、 意外にも、私の受験番号はあった。
「わたし…受かったん?」 受かったらしいよ… なんで?
こんなに簡単に、合格者になっていいものなのかと、私は悩んだ。
ジョシー・パイなら一番で合格したように自慢するとこだが、
これは奇跡以外の、何かの間違いである。
いいえ、 間違っていたのは私の方。
あれから20年余りが過ぎ、私はあの日を思い出す度に、
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こういう肝心な場面でどうするかが将来を決めるものだと思う。
大きな望みが叶えられた時は、心から喜ぶことだ。
そしてわき上がってくる思いに、 素直になることだ。
アンがした様に、心の底から感謝と願いをこめて祈ればよかったのだ。
遅ればせながら、私は祈る。 望みが叶えられたことに感謝すると。
でっ? ヒヤシンスは、咲いたかって?
2月の寒い朝に咲いているはずもなく、結局ヤツが咲く気になったのは
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赤毛のアン 〜毎日読むアン〜
読者の皆様へ
『お詫びとご連絡』
先般2007/12/14より、 当ブログサイトにて、
皆様からお寄せ戴いた「コメントの一覧」、
及び、 「一部の読者様から頂戴したコメント」が
表示されない、または表示内容がおかしくなる障害が発生しております。
当現象につきましては、未だ原因が判らず、
ただいまブログサイト側へ連絡、対応中です。
つきましては、【対応完了】まで、当ブログのコメント機能を使わず、
以下の「問い合わせフォーム」をご使用戴けますよう、お願い致します。
◇◇【フォームズ 問い合わせフォーム】◇◇
『赤毛のアン 〜毎日読むアン〜 ご意見・ご感想』
http://www.formzu.net/fgen.ex?ID=P7214639
読者の皆様方には、 ご迷惑をお掛けし、誠に申し訳ありません。
この場をお借りして、読者の皆様へお詫び、ご連絡させて頂きます。
今しばらくお待ち下さいませ。
『お詫びとご連絡』
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赤毛のアン 〜毎日読むアン〜
「赤毛のアン」のファンの皆様、 いつもご愛読ありがとうございます。
蒸し暑さの続いた9月から始めたメルマガでしたが、
今週で「赤毛のアン」では最後となる、"38章" を迎えることになりました。
早いもので、もうじきクリスマスがやって来ます。
最後の章まで書き上げて、 ほっとしたのもつかの間、
「アンの青春」に入ろうか… 迷っています。
「アンの青春」は、 新しい登場人物も増えて、更に楽しい作品です。
書きたい気持ちは一杯あるのですが、 どんな風に書き進めたらいいものか、
決めかねているのです。
そこで、ファンの皆様に、 ご意見、ご希望などを伺ってみたいと思います。
「アンの青春」の中で、どの登場人物が好きですか。
どのエピソードか心に残りますか。
九官鳥のジンジャーとか…、 人でなくても結構ですよ。
どうか、 皆様のお声をお聞かせ下さい。
よろしくお願いいたします。
片岡 よしこ
〜皆様からのコメントを楽しみにお待ちいたしております。〜
〜※お詫びとご連絡〜
先般2007/12/14より、 当ブログサイトにて、皆様からお寄せ戴いた
「コメントの一覧」が表示されない、 また、一部の方からのコメントが表示されない、
障害が発生しております。
当現象につきましては、ただいまブログサイト側へ連絡、対応中です。
この場をお借りして、読者の皆様へお詫び、ご連絡させて頂きます。
今しばらくお待ち下さいませ。
増刊号 『 お知らせとお願い 』
「赤毛のアン」のファンの皆様、 いつもご愛読ありがとうございます。
蒸し暑さの続いた9月から始めたメルマガでしたが、
今週で「赤毛のアン」では最後となる、"38章" を迎えることになりました。
早いもので、もうじきクリスマスがやって来ます。
最後の章まで書き上げて、 ほっとしたのもつかの間、
「アンの青春」に入ろうか… 迷っています。
「アンの青春」は、 新しい登場人物も増えて、更に楽しい作品です。
書きたい気持ちは一杯あるのですが、 どんな風に書き進めたらいいものか、
決めかねているのです。
そこで、ファンの皆様に、 ご意見、ご希望などを伺ってみたいと思います。
「アンの青春」の中で、どの登場人物が好きですか。
どのエピソードか心に残りますか。
九官鳥のジンジャーとか…、 人でなくても結構ですよ。
どうか、 皆様のお声をお聞かせ下さい。
よろしくお願いいたします。
片岡 よしこ
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先般2007/12/14より、 当ブログサイトにて、皆様からお寄せ戴いた
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赤毛のアン 〜毎日読むアン〜
恐れながら申し上げます。
クイーンでの生活がたったの一章だなんて、短過ぎるんではないでしょうか。
いくら短大で、アンが一年の短期集中コースをとったからって、
あまりにも簡単にヤッツケてませんか。
しかも、 15、16歳ともなれば思春期の真っ只中、精神的にも何かと不安定な年頃。
手短に言えば…、 脇目もふらずに懸命に勉強し、エイブリー奨学金を獲得した…
なんて、 それ以外にも他に何かあるでしょうが。
ぜんぜんロマンチックじゃないと思います。
男の子のことを考えないではなかった、と書かれているけれど、
実際、 どんな人に興味を持ったのか、どう言葉を交わしたのかとか…
詳しくぶっちゃけて欲しかったです。
男の子の研究をするために、とても参考になったと思うからです。
しかし、 よく考えてみると、私の15、16歳だって…
手短に言えば、三度の食事、おやつと夜食の合間に勉強し、 大学受験にすべった…。
頭の中の妄想とは裏腹に、 ロマンチックとは無縁な生活をしていたように思う。
男の友達が欲しかったわ。
男の子の "合い呼ぶ魂の友" 、そんな彼の自転車の荷台に乗せられて走り回りたかったな。
絶対好きになりそうだ。 好きになるのは、つまらない感情ではないと思う。
ところが、 そんな願いは叶えられないのが女子高の定め。
何しろ我が校は「良妻賢母」の育成を目的としており、
男女交際は、〜最重要禁止事項〜 だったのだ。
男の子は宇宙人レベルの未確認生物として、私の研究対象となった。
まずは一般常識から、と、 本を読んでみた。
トルストイとか、ドストエフスキーとか、 マト外れもいいとこ。
日本男児なら "竜馬が行く" 、 山本周五郎も泣けた…
"研究" にはほど遠く、 単なる読書になってしまった。
これでは肝心な所がさっぱりわからない。
女子高にはサンプルなどある訳がなく、研究は行き詰まり始めた。
交際をしていそうなクラスの子にインタビュー。
「誰か紹介するわ、付き合ったらわかるんじゃないん?」
迷っている間に彼女は謹慎処分になり、 この話は立ち消えた。
一度だけ男子校の学祭に、独りでこそっと行ってみた。
しばらくぶらぶらしていると、何か匂いが違う… 長居は無用、と逃げ帰った。
結局、何にもわからずじまいだった。
ところが大学生ともなるとそうはいかない。 合コンとかに誘われる。
私は平静を装いながら様子を伺っていた。
何人かの男の子と会って、わかった事。
"男の子" とは… 「恋愛の対象」なんだぁ…
納得がいかない。
女子大生に近寄って来る男の子は、 皆、「友達を求めていない」のだ。
私は友達が欲しいのに。
私はつまらなかった。
そんな時、 面白い女の子が現れた。
彼女(仮に"O嬢"とでも呼ぼう)は、女子大生のなかにあって "浮いて" いた。
背が高く細身で、まっすぐな髪をのばして、後ろで束ねていた。
服装は清楚。 丸襟の白いブラウスにチェックのフレアースカート、
昭和30年頃の私服に着替えた、女子高生みたいなの。
高校生でない証拠に、 他の学生は見向きもしなかった大学のペンダントと
指輪を身につけていた。
将来の目標は、学院に進学して修道院に入るという。
口の悪い学生は、 O嬢はシスターどころか、マリア様を目指していると噂した。
初めての夏休みが終わり、O嬢が帰って来た。 なんと、うっすらと化粧をしている。
服装は相変わらずダサイのだが、口紅までひいているではないか。
いったい何が彼女に起こったの? それはまもなく明らかになった。
英会話の講義はアメリカ人講師で行われていて、 その日は
"夏休みの出来事" について発表することになった。
"O嬢" は嬉しそうに話し始めた。
まるで、「ハワイはアメリカと日本の間の太平洋上にある島である」を
英語に訳すように、
I got a boy friend in this summer …
みんな、ブッたまげた。 蝉も驚いて鳴くのを止めたくらいだ。
彼とは将来の夢を語り合う仲で、友情で結ばれているそうだ。
ということは、お相手は坊主か修道師になるしかなく、彼は一生
欲望の成就する機会さえ、与えられないわけだ。
男の子を、 "恋愛の対象" としか考えない女子達は笑いころげた。
ごめんね、 自分の事を棚に上げて、一緒になって笑ったりして。
男の子の友達がほしいなら求めよ、そうすれば与えられる。
"O嬢" だって例外ではない。 「友達になってぇ〜」それで済む。
恋愛するなら… 私の理想は、友達からの "自然発展" 型。
言うは易し…で、結構苦労した。 好きとか嫌いとかの方向へ話題が行かないよう、注意。
イイ感じになりかけると、的外れな事を言って必死で落した。
男の子との友情を保つには、 常に "一定の距離" がいる。 だいたい… 1mくらい。
こんなに涙ぐましい努力して、彼を段々好きになって来ると、
「キミとはずっと、いい友達でいたい。」
ンなぁ… ぬけぬけと… よく言うわ〜
でも、 理想のために私も頑張った。 後を追いかけて行って、持っていた傘の柄で
背中をドツイてやった。
私達は初めてキスしたんだけど、それがなんか変なのよ。
つまり、 何というか… 身内の挨拶代わりみたいな感じ。
やっぱり「いい友達」で正解だったのだ。
こうして私は研究レポートにこう書き加えた。
「男の子は極めて鈍感である。」
No.35 『第35章 拝啓 モンゴメリー様』
恐れながら申し上げます。
クイーンでの生活がたったの一章だなんて、短過ぎるんではないでしょうか。
いくら短大で、アンが一年の短期集中コースをとったからって、
あまりにも簡単にヤッツケてませんか。
しかも、 15、16歳ともなれば思春期の真っ只中、精神的にも何かと不安定な年頃。
手短に言えば…、 脇目もふらずに懸命に勉強し、エイブリー奨学金を獲得した…
なんて、 それ以外にも他に何かあるでしょうが。
ぜんぜんロマンチックじゃないと思います。
男の子のことを考えないではなかった、と書かれているけれど、
実際、 どんな人に興味を持ったのか、どう言葉を交わしたのかとか…
詳しくぶっちゃけて欲しかったです。
男の子の研究をするために、とても参考になったと思うからです。
しかし、 よく考えてみると、私の15、16歳だって…
手短に言えば、三度の食事、おやつと夜食の合間に勉強し、 大学受験にすべった…。
頭の中の妄想とは裏腹に、 ロマンチックとは無縁な生活をしていたように思う。
男の友達が欲しかったわ。
男の子の "合い呼ぶ魂の友" 、そんな彼の自転車の荷台に乗せられて走り回りたかったな。
絶対好きになりそうだ。 好きになるのは、つまらない感情ではないと思う。
ところが、 そんな願いは叶えられないのが女子高の定め。
何しろ我が校は「良妻賢母」の育成を目的としており、
男女交際は、〜最重要禁止事項〜 だったのだ。
男の子は宇宙人レベルの未確認生物として、私の研究対象となった。
まずは一般常識から、と、 本を読んでみた。
トルストイとか、ドストエフスキーとか、 マト外れもいいとこ。
日本男児なら "竜馬が行く" 、 山本周五郎も泣けた…
"研究" にはほど遠く、 単なる読書になってしまった。
これでは肝心な所がさっぱりわからない。
女子高にはサンプルなどある訳がなく、研究は行き詰まり始めた。
交際をしていそうなクラスの子にインタビュー。
「誰か紹介するわ、付き合ったらわかるんじゃないん?」
迷っている間に彼女は謹慎処分になり、 この話は立ち消えた。
一度だけ男子校の学祭に、独りでこそっと行ってみた。
しばらくぶらぶらしていると、何か匂いが違う… 長居は無用、と逃げ帰った。
結局、何にもわからずじまいだった。
ところが大学生ともなるとそうはいかない。 合コンとかに誘われる。
私は平静を装いながら様子を伺っていた。
何人かの男の子と会って、わかった事。
"男の子" とは… 「恋愛の対象」なんだぁ…
納得がいかない。
女子大生に近寄って来る男の子は、 皆、「友達を求めていない」のだ。
私は友達が欲しいのに。
私はつまらなかった。
そんな時、 面白い女の子が現れた。
彼女(仮に"O嬢"とでも呼ぼう)は、女子大生のなかにあって "浮いて" いた。
背が高く細身で、まっすぐな髪をのばして、後ろで束ねていた。
服装は清楚。 丸襟の白いブラウスにチェックのフレアースカート、
昭和30年頃の私服に着替えた、女子高生みたいなの。
高校生でない証拠に、 他の学生は見向きもしなかった大学のペンダントと
指輪を身につけていた。
将来の目標は、学院に進学して修道院に入るという。
口の悪い学生は、 O嬢はシスターどころか、マリア様を目指していると噂した。
初めての夏休みが終わり、O嬢が帰って来た。 なんと、うっすらと化粧をしている。
服装は相変わらずダサイのだが、口紅までひいているではないか。
いったい何が彼女に起こったの? それはまもなく明らかになった。
英会話の講義はアメリカ人講師で行われていて、 その日は
"夏休みの出来事" について発表することになった。
"O嬢" は嬉しそうに話し始めた。
まるで、「ハワイはアメリカと日本の間の太平洋上にある島である」を
英語に訳すように、
I got a boy friend in this summer …
みんな、ブッたまげた。 蝉も驚いて鳴くのを止めたくらいだ。
彼とは将来の夢を語り合う仲で、友情で結ばれているそうだ。
ということは、お相手は坊主か修道師になるしかなく、彼は一生
欲望の成就する機会さえ、与えられないわけだ。
男の子を、 "恋愛の対象" としか考えない女子達は笑いころげた。
ごめんね、 自分の事を棚に上げて、一緒になって笑ったりして。
男の子の友達がほしいなら求めよ、そうすれば与えられる。
"O嬢" だって例外ではない。 「友達になってぇ〜」それで済む。
恋愛するなら… 私の理想は、友達からの "自然発展" 型。
言うは易し…で、結構苦労した。 好きとか嫌いとかの方向へ話題が行かないよう、注意。
イイ感じになりかけると、的外れな事を言って必死で落した。
男の子との友情を保つには、 常に "一定の距離" がいる。 だいたい… 1mくらい。
こんなに涙ぐましい努力して、彼を段々好きになって来ると、
「キミとはずっと、いい友達でいたい。」
ンなぁ… ぬけぬけと… よく言うわ〜
でも、 理想のために私も頑張った。 後を追いかけて行って、持っていた傘の柄で
背中をドツイてやった。
私達は初めてキスしたんだけど、それがなんか変なのよ。
つまり、 何というか… 身内の挨拶代わりみたいな感じ。
やっぱり「いい友達」で正解だったのだ。
こうして私は研究レポートにこう書き加えた。
「男の子は極めて鈍感である。」
赤毛のアン 〜毎日読むアン〜
12月になったばかりだというのに、 この寒さったらない。
今年の冬も去年のセーターで乗り切ろう。 ウール10%の安物でも、下着を着れば温かい。
それでもという時は、腰にカイロを貼ればいい。
不況の土木業界だから、 まる3年というものボーナスは支給されていない。
懐は寒く、 プレハブ社屋はさらに寒い。
去年、 大型ストーブが修理不能になり、小型ストーブひとつで暖を取った。
今年はそれさえも、寒がり常務の背中を温めるために持って行かれてしまった。
私はひざ掛けで足をぐるぐる巻きにし、机の下に置いた電気ストーブ(自前)で
こがさぬように、 足を炙っている。
そのくらい、 この業界は冷え込んでいる。
「赤毛のアン」を読んでる暇があったら、職探しにやっきになった方がいいのではないかと、
多くの良識ある読者は忠告するだろう。
にもかかわらず、 私ときたら頭の中はアンで一杯。
たまにかかって来る電話に、
「はい、赤毛のアンでございます。」
これじゃ、再就職も思いやられる。
「大きな望みがあるのって楽しいわ。」
そんなアンの言葉に、 おばさんは圧倒されてしまう。
その、 なんだ、 おばさんはもう年だし、
おまけにこんなに冷え込んだ業界で、
この先何の望みが輝いているっていうの?
奨学金や金メダルを取る望みに比べれば少々見劣りするけど、
私にだって立派に望みはある。
私の望みは、円満に定年退職することだ。 寒さくらいでイチイチ辞めてたら、
雪国の人に申し訳ないでしょう。
会社が潰れない限りは、 自分からケツをわったりしない。
晴れて退職する時は、送別会をしてもらおう。
忘年会で使う、大衆酒場みたいな安上がりの席じゃ不満だわ。
お料理屋さんの座敷の上座に座って、 大きな花束を貰うのよ。 勿論、餞別もね。
心の中では歓喜の大爆笑をしながらも、空涙のひとつも流そうと思う。
「セクハラしないようになれたのは、あんたのおかげだ。」と、
ある者は感謝するだろう。
またある者は、 私の手を取り、
「あの時あんたにスリッパで叩かれて、ワシは目が覚めました。
今のワシがあるのは、あんたが叱ってくれたからだ。」
だが、 今まさに別れんとする時、私には何の未練さえも残ってはいない。
アンタ達ともおさらばできる! へっ へ〜んだ! バイバイ オッサン!
これを "大きな望み" といわずして何と言えようか、 だ。
今まで私は、何人の送別会の世話役をしてきたことか。
本人に似合った花束を見立て、とりまとめた餞別に別れの言葉を添え…
ようやく私の番が来るというのに、みすみす逃してなるものか。
…と、 そんな望みを抱いて、私は寒い事務所に踏み留まっている。
そのくせ私は、取り立てて何もしていない。
それどころか、 最近、眼がうすくなってきたので、よく間違える。
おまけに、"物忘れ" も多くなった。
潰れる心配をしている場合ではないと、現実的な読者は思うだろう。
正直、 潰れたら、それでもいいかぁ… いや、潰れたほうが諦めも付く…
え〜い ツブれてしまえ!
定年まで勤めようと決めてたのに… この経営不振はご時世だろうか。
いいや、社長一族の責任でしょうが。 公共工事の減少はかなり前から読めていたはず。
なのに、 何の手も打たなかったのは誰?
ママ(専務)によく聞いて、教えて貰ってたんじゃないの?
ママは、何もわからん幼稚なオバハンのふりして、あちこちで情報仕込んで
来てるでしょうに。
アンタがマザコンってことはみんな知ってるんだから、安心してママに頼んで、
して貰えばいいじゃない。
少なくとも、アンタよりは仕事が速いわ。
働くんだから、報酬はちゃんと支払ってほしい。
また、 約束した昇給と賞与は、払って貰わなければならない。
支払えない理由を、その都度説明しなさい。
IQと偏差値だけが高い、 神経質なお坊チャマの心は傷つきやすく、
うっかりモノも言えやしない。 誰にブチまけたらいいのよ?
グズグズしてたら、私が社長になって、 アンタの送別会をしてやるわ。
かくして… 私は社長となり、会社は潰れない。 それどころか繁盛する。
細かい数字は部下に出してもらうようになり、 新しいアイデアを次々に
考え付いては忘れるようになる…
事務所は日当たりが良くて、暖かくて、 トイレはウォシュレット付き。
更に、 居心地のよい個室を社員に提供。 内職でも、アフィリでも、
自由にやってくれ。
でも上納金は取るから、しっかり儲けてね。 勿論、給料は払う。
私は社長として、 日々、自分と会社の名前を売る。
営業担当が話の種に困らんように。
"赤毛のアン 〜毎日読むアン〜" の出版を機に、
『ジョシー・パイ記念賞 "毒舌コンテスト"』を開催。
日頃の鬱憤をアンにぶつけるコンセプトがウケて、 大成功。
優勝者には、 アンに流れるケルト民族の故郷、スコットランドへのツアーを
プレゼント。 私を含む毒舌家達は、 快適なビジネスクラスで、憧れのUKへ飛ぶ。
こんな望み、 本当に馬鹿げている。
だけど、言わずにはいられなかったの。 自分の姿をまっすぐ見つめられないから。
本当は、 送別会などどうでもいい。
今、 ここがどんなに冷え込んでいても、
「これだから人生はおもしろい。」
そんな望みを持って生きていたいのだ。
忍耐が成功に変わるまでやり通したい、 と望む勇気が、今の私にはない。
私は望みの山々から目をそらしている。
顔をあげれば、 既に私は、広い地平線を見渡す場所に立っている。
低い山、小高い丘、 その先にそびえる山脈。
生きている限り、すべての山を登り
すべての流れをわたり
すべての虹を追って
夢を見いだしなさい
大好きだった歌を思い出している。
望みは、 まだない。 しかし私は、 寒くてもこの山を登り続けるだろう。
No.34 『第34章 すべての山に登れ』
12月になったばかりだというのに、 この寒さったらない。
今年の冬も去年のセーターで乗り切ろう。 ウール10%の安物でも、下着を着れば温かい。
それでもという時は、腰にカイロを貼ればいい。
不況の土木業界だから、 まる3年というものボーナスは支給されていない。
懐は寒く、 プレハブ社屋はさらに寒い。
去年、 大型ストーブが修理不能になり、小型ストーブひとつで暖を取った。
今年はそれさえも、寒がり常務の背中を温めるために持って行かれてしまった。
私はひざ掛けで足をぐるぐる巻きにし、机の下に置いた電気ストーブ(自前)で
こがさぬように、 足を炙っている。
そのくらい、 この業界は冷え込んでいる。
「赤毛のアン」を読んでる暇があったら、職探しにやっきになった方がいいのではないかと、
多くの良識ある読者は忠告するだろう。
にもかかわらず、 私ときたら頭の中はアンで一杯。
たまにかかって来る電話に、
「はい、赤毛のアンでございます。」
これじゃ、再就職も思いやられる。
「大きな望みがあるのって楽しいわ。」
そんなアンの言葉に、 おばさんは圧倒されてしまう。
その、 なんだ、 おばさんはもう年だし、
おまけにこんなに冷え込んだ業界で、
この先何の望みが輝いているっていうの?
奨学金や金メダルを取る望みに比べれば少々見劣りするけど、
私にだって立派に望みはある。
私の望みは、円満に定年退職することだ。 寒さくらいでイチイチ辞めてたら、
雪国の人に申し訳ないでしょう。
会社が潰れない限りは、 自分からケツをわったりしない。
晴れて退職する時は、送別会をしてもらおう。
忘年会で使う、大衆酒場みたいな安上がりの席じゃ不満だわ。
お料理屋さんの座敷の上座に座って、 大きな花束を貰うのよ。 勿論、餞別もね。
心の中では歓喜の大爆笑をしながらも、空涙のひとつも流そうと思う。
「セクハラしないようになれたのは、あんたのおかげだ。」と、
ある者は感謝するだろう。
またある者は、 私の手を取り、
「あの時あんたにスリッパで叩かれて、ワシは目が覚めました。
今のワシがあるのは、あんたが叱ってくれたからだ。」
だが、 今まさに別れんとする時、私には何の未練さえも残ってはいない。
アンタ達ともおさらばできる! へっ へ〜んだ! バイバイ オッサン!
これを "大きな望み" といわずして何と言えようか、 だ。
今まで私は、何人の送別会の世話役をしてきたことか。
本人に似合った花束を見立て、とりまとめた餞別に別れの言葉を添え…
ようやく私の番が来るというのに、みすみす逃してなるものか。
…と、 そんな望みを抱いて、私は寒い事務所に踏み留まっている。
そのくせ私は、取り立てて何もしていない。
それどころか、 最近、眼がうすくなってきたので、よく間違える。
おまけに、"物忘れ" も多くなった。
潰れる心配をしている場合ではないと、現実的な読者は思うだろう。
正直、 潰れたら、それでもいいかぁ… いや、潰れたほうが諦めも付く…
え〜い ツブれてしまえ!
定年まで勤めようと決めてたのに… この経営不振はご時世だろうか。
いいや、社長一族の責任でしょうが。 公共工事の減少はかなり前から読めていたはず。
なのに、 何の手も打たなかったのは誰?
ママ(専務)によく聞いて、教えて貰ってたんじゃないの?
ママは、何もわからん幼稚なオバハンのふりして、あちこちで情報仕込んで
来てるでしょうに。
アンタがマザコンってことはみんな知ってるんだから、安心してママに頼んで、
して貰えばいいじゃない。
少なくとも、アンタよりは仕事が速いわ。
働くんだから、報酬はちゃんと支払ってほしい。
また、 約束した昇給と賞与は、払って貰わなければならない。
支払えない理由を、その都度説明しなさい。
IQと偏差値だけが高い、 神経質なお坊チャマの心は傷つきやすく、
うっかりモノも言えやしない。 誰にブチまけたらいいのよ?
グズグズしてたら、私が社長になって、 アンタの送別会をしてやるわ。
かくして… 私は社長となり、会社は潰れない。 それどころか繁盛する。
細かい数字は部下に出してもらうようになり、 新しいアイデアを次々に
考え付いては忘れるようになる…
事務所は日当たりが良くて、暖かくて、 トイレはウォシュレット付き。
更に、 居心地のよい個室を社員に提供。 内職でも、アフィリでも、
自由にやってくれ。
でも上納金は取るから、しっかり儲けてね。 勿論、給料は払う。
私は社長として、 日々、自分と会社の名前を売る。
営業担当が話の種に困らんように。
"赤毛のアン 〜毎日読むアン〜" の出版を機に、
『ジョシー・パイ記念賞 "毒舌コンテスト"』を開催。
日頃の鬱憤をアンにぶつけるコンセプトがウケて、 大成功。
優勝者には、 アンに流れるケルト民族の故郷、スコットランドへのツアーを
プレゼント。 私を含む毒舌家達は、 快適なビジネスクラスで、憧れのUKへ飛ぶ。
こんな望み、 本当に馬鹿げている。
だけど、言わずにはいられなかったの。 自分の姿をまっすぐ見つめられないから。
本当は、 送別会などどうでもいい。
今、 ここがどんなに冷え込んでいても、
「これだから人生はおもしろい。」
そんな望みを持って生きていたいのだ。
忍耐が成功に変わるまでやり通したい、 と望む勇気が、今の私にはない。
私は望みの山々から目をそらしている。
顔をあげれば、 既に私は、広い地平線を見渡す場所に立っている。
低い山、小高い丘、 その先にそびえる山脈。
生きている限り、すべての山を登り
すべての流れをわたり
すべての虹を追って
夢を見いだしなさい
大好きだった歌を思い出している。
望みは、 まだない。 しかし私は、 寒くてもこの山を登り続けるだろう。
赤毛のアン 〜毎日読むアン〜
ホワイトサンズでのコンサートの帰り道。 アン達を乗せた馬車は、
ダイヤモンドや白いレースの豪華なドレスやらの話で賑やかだったのだろう。
お金持ちになりたいという女の子達に、アンはきっぱり言い切った。
「一生ダイヤモンドに慰めてもらえる身分になれなくても、
自分以外の人にはなりたくない。」
私は、今のまんまの私で、お金持ちになりたいわ、 アン。
私は、裕福な人達とお付き合いするのが好きだ。 自分も裕福になったような気がする。
大学時代の何人かの友人は、 実際、ほんとうに裕福だった。
仲良しになってみたら実家がお金持ちだった、 というだけの事で、
お金持ちとしか付き合わない訳じゃない。
真面目で分別のありそうな同級生に比べると、不良っぽくて魅力的だったのだ。
私はそんな人に弱い。
仲良くなって下宿へ遊びに行くと、家ごと借りていて、 ばあやさんまでいた。
下宿したいと親にお願いしたら、こうなったそうだ。
片想いで、告白さえしていないのに、 立派に "振られた" つもりになり、
朝まで彼女のヤケ酒に付き合った事がある。
それも、お気に入りの銘柄のワインしか飲まなかったり、オードブルがない、と怒ったり。
ヤケ酒のツマミは "失恋話" だと教えてあげたら、大泣きしていた。
一所懸命で、ちょっと傍迷惑な、 かわいい友人だった。
卒業してまもなく、 そんな彼女から結婚式の招待を受けた。
ヤケ酒を飲み、一緒に泣いてくれた、 ただ一人の友人だからという理由だった。
但し、新郎は振られた相手ではなく、大阪で飲食店を中心に手広く事業する家のご子息、
なのに将来医者を目指しているという、 複雑な男性らしい。
対する彼女は、九州湯布院の老舗温泉旅館のお嬢さん。
ここまで聞けば、相当豪華な披露宴になるのは明らかだった。
前泊まりで大阪のホテルに着いた瞬間、 そこは別世界だった。
一流ホテルってこうよね、 とまずは感心。
私の田舎で一番の老舗ホテルにも "国際" と名がつけられているが、
あれのどこが国際なんだか。
ホテルには地元の土産物店、という私の常識を覆すように、ブランドショップや
高級ブティックが並んで、買い物客で賑わっていた。
素敵な品を見る度にお金持ち気分になるが、 世間ではこれを "妄想" と呼ぶ。
こんなホテルで食事するお金はないので、シッカリ者の私は、昼食にお弁当を
作って持参していた。
ただの "節約" なのだが、彼女らは口々に感心するのだ。
「あなたはよく気がつく、いい奥様になれるわ〜」
夕食は、 別室に泊まっている招待客も含めた6人で、"美味しい" と評判の
中華料理を食べに行くことに決まった。
お願いだから、勝手にきめないでくれ〜
私は外でたこ焼きとか おうどんを食べたい〜
支度の整った人が次々に集まった。
一人は、先月香港にお父様のお供で旅行した折にあつらえた、チャイニーズドレス。
太もも辺りまでスリットが入って、すごくセクシー。
街の中華料理屋のアルバイトが、制服に着せられているペラッペラのとは、
もう雲泥の差。 どこから見ても、香港マフィアの悪い女だ。
また一人は、妊娠中だからおしゃれできないとボヤきながら、素晴らしいダイヤの
ネックレスとブレスレットを付けている。
ナニが "おしゃれできない" よ! 嫌味だわ、 と思ってはいけない。
本当に "先祖代々お金持ち" の方に、"嫌味"という概念はありません。
それらのダイヤは、 彼女の祖母がお嫁に来る時持って来た品で、
最近彼女に譲られたのだそうだ。
そんな素晴らしい光景を、私はベットの中からうっとりと眺めていた。
都会の空気に酔ったのか、昼から痛み始めた頭痛がピークに達し、
気分が悪くなってしまったのだ。
残念な一夜だった。
私がもし、「たこ焼きとか、おうどんが食べた〜い!」
そうお願いしたら、きっとカクテルドレスとチャイニーズドレスのままで、
街に繰り出して行っただろう。
更に残念なことに、この結婚式以降、 彼女達には一度も会っていない。
世界が違い過ぎて、交わる事がなかったのだろう。
また、 彼女達ほど個性的で、傍迷惑だが心の自由なお金持ちには、
その後も出遇った事がない。
だが、 彼女達と知り合ったおかげで、本物のお金持ちと成金の区別が
付けられるのかもしれない。
下町のしがない印刷屋の娘だった私が、気後れする事もなく "自分自身" で
いることができた。
彼女達は、 本当に "懐の温かいお金持ち" だったのだ。
今日の私は、古着屋で買ったスカートに、バーゲン品のセーターを着ている。
胸には、小さい人工ダイヤのネックレス。
充分に幸せだ。 想像の余地も残っているしね。
なんたって、
「彼はこのネックレスを、あなたのおばあさまに負けない位の愛情を
込めて、私に贈ってくれたんですもの。」
これから先、 また彼女達に会うことがあったら、そう言って自慢するだろう。
No.33 『第33章 私はワタシよ』
ホワイトサンズでのコンサートの帰り道。 アン達を乗せた馬車は、
ダイヤモンドや白いレースの豪華なドレスやらの話で賑やかだったのだろう。
お金持ちになりたいという女の子達に、アンはきっぱり言い切った。
「一生ダイヤモンドに慰めてもらえる身分になれなくても、
自分以外の人にはなりたくない。」
私は、今のまんまの私で、お金持ちになりたいわ、 アン。
私は、裕福な人達とお付き合いするのが好きだ。 自分も裕福になったような気がする。
大学時代の何人かの友人は、 実際、ほんとうに裕福だった。
仲良しになってみたら実家がお金持ちだった、 というだけの事で、
お金持ちとしか付き合わない訳じゃない。
真面目で分別のありそうな同級生に比べると、不良っぽくて魅力的だったのだ。
私はそんな人に弱い。
仲良くなって下宿へ遊びに行くと、家ごと借りていて、 ばあやさんまでいた。
下宿したいと親にお願いしたら、こうなったそうだ。
片想いで、告白さえしていないのに、 立派に "振られた" つもりになり、
朝まで彼女のヤケ酒に付き合った事がある。
それも、お気に入りの銘柄のワインしか飲まなかったり、オードブルがない、と怒ったり。
ヤケ酒のツマミは "失恋話" だと教えてあげたら、大泣きしていた。
一所懸命で、ちょっと傍迷惑な、 かわいい友人だった。
卒業してまもなく、 そんな彼女から結婚式の招待を受けた。
ヤケ酒を飲み、一緒に泣いてくれた、 ただ一人の友人だからという理由だった。
但し、新郎は振られた相手ではなく、大阪で飲食店を中心に手広く事業する家のご子息、
なのに将来医者を目指しているという、 複雑な男性らしい。
対する彼女は、九州湯布院の老舗温泉旅館のお嬢さん。
ここまで聞けば、相当豪華な披露宴になるのは明らかだった。
前泊まりで大阪のホテルに着いた瞬間、 そこは別世界だった。
一流ホテルってこうよね、 とまずは感心。
私の田舎で一番の老舗ホテルにも "国際" と名がつけられているが、
あれのどこが国際なんだか。
ホテルには地元の土産物店、という私の常識を覆すように、ブランドショップや
高級ブティックが並んで、買い物客で賑わっていた。
素敵な品を見る度にお金持ち気分になるが、 世間ではこれを "妄想" と呼ぶ。
こんなホテルで食事するお金はないので、シッカリ者の私は、昼食にお弁当を
作って持参していた。
ただの "節約" なのだが、彼女らは口々に感心するのだ。
「あなたはよく気がつく、いい奥様になれるわ〜」
夕食は、 別室に泊まっている招待客も含めた6人で、"美味しい" と評判の
中華料理を食べに行くことに決まった。
お願いだから、勝手にきめないでくれ〜
私は外でたこ焼きとか おうどんを食べたい〜
支度の整った人が次々に集まった。
一人は、先月香港にお父様のお供で旅行した折にあつらえた、チャイニーズドレス。
太もも辺りまでスリットが入って、すごくセクシー。
街の中華料理屋のアルバイトが、制服に着せられているペラッペラのとは、
もう雲泥の差。 どこから見ても、香港マフィアの悪い女だ。
また一人は、妊娠中だからおしゃれできないとボヤきながら、素晴らしいダイヤの
ネックレスとブレスレットを付けている。
ナニが "おしゃれできない" よ! 嫌味だわ、 と思ってはいけない。
本当に "先祖代々お金持ち" の方に、"嫌味"という概念はありません。
それらのダイヤは、 彼女の祖母がお嫁に来る時持って来た品で、
最近彼女に譲られたのだそうだ。
そんな素晴らしい光景を、私はベットの中からうっとりと眺めていた。
都会の空気に酔ったのか、昼から痛み始めた頭痛がピークに達し、
気分が悪くなってしまったのだ。
残念な一夜だった。
私がもし、「たこ焼きとか、おうどんが食べた〜い!」
そうお願いしたら、きっとカクテルドレスとチャイニーズドレスのままで、
街に繰り出して行っただろう。
更に残念なことに、この結婚式以降、 彼女達には一度も会っていない。
世界が違い過ぎて、交わる事がなかったのだろう。
また、 彼女達ほど個性的で、傍迷惑だが心の自由なお金持ちには、
その後も出遇った事がない。
だが、 彼女達と知り合ったおかげで、本物のお金持ちと成金の区別が
付けられるのかもしれない。
下町のしがない印刷屋の娘だった私が、気後れする事もなく "自分自身" で
いることができた。
彼女達は、 本当に "懐の温かいお金持ち" だったのだ。
今日の私は、古着屋で買ったスカートに、バーゲン品のセーターを着ている。
胸には、小さい人工ダイヤのネックレス。
充分に幸せだ。 想像の余地も残っているしね。
なんたって、
「彼はこのネックレスを、あなたのおばあさまに負けない位の愛情を
込めて、私に贈ってくれたんですもの。」
これから先、 また彼女達に会うことがあったら、そう言って自慢するだろう。
赤毛のアン 〜毎日読むアン〜
いつも「赤毛のアン 〜毎日読むアン〜」をご覧戴き、 誠にありがとうございます。
当ブログをご覧の皆さんに、 ちょっとしたお知らせです。
既にご存じかもしれませんが、 来年は「赤毛のアン」がアメリカで
出版されて100年になります。
これを記念して、来る 2008年1月3日(木)
午前 10:00〜10:58
NHK教育テレビで、 特集番組が放送されます。
(※ 放送日時・スケジュール等は、新聞などで再度ご確認下さい)
出演は、 脳科学者の茂木健一郎さん、 タレントの山瀬まみさん、
翻訳家の松本侑子さんなど…
また、 女優の松坂慶子さんの、プリンスエドワード島訪問なども
予定されているようですね。
私も是非見なくちゃ… と思っています。
NHK的 "おりこうさんな番組" になるのでは、 という危惧もあります。
私のような、「ジョシー・パイの毒舌ファン」の出番は、 こんな日の当たる所には
なさそうな気もしますが…。
とはいえ、 「赤毛のアン」のファンとしては嬉しい限りです。
皆様も感じたことをお聞かせ下さいね。
私の感想は… ブログでお話したいと思います。
甘いか、 辛いか…
お楽しみに。
増刊号 『〜お知らせ〜』
いつも「赤毛のアン 〜毎日読むアン〜」をご覧戴き、 誠にありがとうございます。
当ブログをご覧の皆さんに、 ちょっとしたお知らせです。
既にご存じかもしれませんが、 来年は「赤毛のアン」がアメリカで
出版されて100年になります。
これを記念して、来る 2008年1月3日(木)
午前 10:00〜10:58
NHK教育テレビで、 特集番組が放送されます。
(※ 放送日時・スケジュール等は、新聞などで再度ご確認下さい)
出演は、 脳科学者の茂木健一郎さん、 タレントの山瀬まみさん、
翻訳家の松本侑子さんなど…
また、 女優の松坂慶子さんの、プリンスエドワード島訪問なども
予定されているようですね。
私も是非見なくちゃ… と思っています。
NHK的 "おりこうさんな番組" になるのでは、 という危惧もあります。
私のような、「ジョシー・パイの毒舌ファン」の出番は、 こんな日の当たる所には
なさそうな気もしますが…。
とはいえ、 「赤毛のアン」のファンとしては嬉しい限りです。
皆様も感じたことをお聞かせ下さいね。
私の感想は… ブログでお話したいと思います。
甘いか、 辛いか…
お楽しみに。
赤毛のアン 〜毎日読むアン〜
No.32 『第32章 好奇心の過ち』
クイーン短大に合格した夜。 アンがみた夢は何だったんだろう。
それは、 少女ならば誰もが見たいと願う、汚れのない、華やかな、
美しい夢だとだけ書かれている。
でっ、 想像してみた。
純白のウエディングドレスに身を包み、最愛の人が差し伸べる、手をとる姿…
…って、 そんなんツキナミだわ。
ジョシー・パイの言い草じゃないけど、10歳のこどもにだって想像できる。
病気のため休職した教授の代わりを勤めるため、新任の講師が赴任して来た。
老教授によって淡々と進められていた散文講義が、にわかに
魅力ある、活き活きとした授業に変わった。
彼は古典を今に甦らせた。 彼が一度口を開いて語り始めると、
古に死に絶えた兵士は雄々しく立ち上がり、 悲運の王達は
孤独の涙を隠しもせず語り始めた。
山々は静寂の中から姿を現し、 今そこにあるがごとくに思えた。
アンはその講義に夢中になった。 詩の中に入り込みすぎて、
涙を流してしまう程だった。
ある日の講義で、友との別れを悲しむ詩の最後のところまで来ると、
ポケットからハンカチを取り出さなければならないほどになってしまった。
鼻水が垂れ始めたのだ。
講師は、アンと隣の生徒との間で何かあって、それで泣いているのだと
勘違いしてしまう。
アンは手紙を書いた。 泣いていたのは詩に感動したからだということ、
そしてもっと詩の世界を知りたい、という気持ちを伝えたかったからだ。
彼は喜んでアンに返事を書き送り、こうして二人の交際が始まっていく。
(なかなか… いいカンジだわぁ…)
彼が教鞭を取る期限が終わりを告げても、小川のほとりを散歩したり、
時には美術館に足を運んだりした。
二人は美しい物について、お互いの率直な感想を熱心に語り合った。
それが、いつしか愛情に変わり始めるのはごく自然なことだった。
アンがグリーン・ゲーブルズにやって来た日と同じ、
りんごの白い花が咲き乱れる季節に、二人は永遠の誓いをたてるのだ。
と、まぁ、 こんな感じでしょうか…
少しハッタリも利かせたけど…、 これは私に実際あったことなの。
若い漢文の先生とはとても親しくさせて頂いた。
お宅に遊びに伺った時、 "ジャスミン茶"(中国の極上品)を入れて下さり、
初めての香りとおいしさにうっとりした。
"ジャスミンティー" は、私の初恋の味だ。
今に至るまで、あれ以上のお茶は飲んだことがない。
私は手紙を書き、返事も沢山頂いた。
どれもユーモアに溢れて楽しく、勉強にもなった。
愛や、恋に憧れて、「もし、先生と…」
なんて、 夢みたいに考えて、ゾクゾクッとして喜んでるだけで、
"恋愛する" ってどういう事なのかサッパリわかってない、無免許運転。
少女の夢に付き合わされるのも楽じゃない。
結局、勉強が忙しくなるにつれて、私から疎遠になってしまい、
先生には申し訳ないことをしたと悔やまれる。
それにしても、恥ずかしい、 私の過ち…
最初に書いた手紙の "誤字" 。
「先生に "好奇心" を持っています。」 と書いたつもりが.
「先生に "好寄心" を持っています。」 になっていた。
ラブレターになってしまっていた訳だ。
先生、 まさかそのつもりだったんじゃないよねぇ… 変な汗でるわぁ…
それは、 少女ならば誰もが見たいと願う、汚れのない、華やかな、
美しい夢だとだけ書かれている。
でっ、 想像してみた。
純白のウエディングドレスに身を包み、最愛の人が差し伸べる、手をとる姿…
…って、 そんなんツキナミだわ。
ジョシー・パイの言い草じゃないけど、10歳のこどもにだって想像できる。
病気のため休職した教授の代わりを勤めるため、新任の講師が赴任して来た。
老教授によって淡々と進められていた散文講義が、にわかに
魅力ある、活き活きとした授業に変わった。
彼は古典を今に甦らせた。 彼が一度口を開いて語り始めると、
古に死に絶えた兵士は雄々しく立ち上がり、 悲運の王達は
孤独の涙を隠しもせず語り始めた。
山々は静寂の中から姿を現し、 今そこにあるがごとくに思えた。
アンはその講義に夢中になった。 詩の中に入り込みすぎて、
涙を流してしまう程だった。
ある日の講義で、友との別れを悲しむ詩の最後のところまで来ると、
ポケットからハンカチを取り出さなければならないほどになってしまった。
鼻水が垂れ始めたのだ。
講師は、アンと隣の生徒との間で何かあって、それで泣いているのだと
勘違いしてしまう。
アンは手紙を書いた。 泣いていたのは詩に感動したからだということ、
そしてもっと詩の世界を知りたい、という気持ちを伝えたかったからだ。
彼は喜んでアンに返事を書き送り、こうして二人の交際が始まっていく。
(なかなか… いいカンジだわぁ…)
彼が教鞭を取る期限が終わりを告げても、小川のほとりを散歩したり、
時には美術館に足を運んだりした。
二人は美しい物について、お互いの率直な感想を熱心に語り合った。
それが、いつしか愛情に変わり始めるのはごく自然なことだった。
アンがグリーン・ゲーブルズにやって来た日と同じ、
りんごの白い花が咲き乱れる季節に、二人は永遠の誓いをたてるのだ。
と、まぁ、 こんな感じでしょうか…
少しハッタリも利かせたけど…、 これは私に実際あったことなの。
若い漢文の先生とはとても親しくさせて頂いた。
お宅に遊びに伺った時、 "ジャスミン茶"(中国の極上品)を入れて下さり、
初めての香りとおいしさにうっとりした。
"ジャスミンティー" は、私の初恋の味だ。
今に至るまで、あれ以上のお茶は飲んだことがない。
私は手紙を書き、返事も沢山頂いた。
どれもユーモアに溢れて楽しく、勉強にもなった。
愛や、恋に憧れて、「もし、先生と…」
なんて、 夢みたいに考えて、ゾクゾクッとして喜んでるだけで、
"恋愛する" ってどういう事なのかサッパリわかってない、無免許運転。
少女の夢に付き合わされるのも楽じゃない。
結局、勉強が忙しくなるにつれて、私から疎遠になってしまい、
先生には申し訳ないことをしたと悔やまれる。
それにしても、恥ずかしい、 私の過ち…
最初に書いた手紙の "誤字" 。
「先生に "好奇心" を持っています。」 と書いたつもりが.
「先生に "好寄心" を持っています。」 になっていた。
ラブレターになってしまっていた訳だ。
先生、 まさかそのつもりだったんじゃないよねぇ… 変な汗でるわぁ…
赤毛のアン 〜毎日読むアン〜
勤め先の事務所の前は、通学路になっている。
午後3時を過ぎると、小学校のこども達が帰ってくる。
走ったり、手をつないだり、 じゃんけん負けたら鞄持ち。 賑やかだ。
こっちは後2時間も仕事だっていうのに、シャクにさわる。
実は、 この子達の小学校に、私も通っていた。
ハローワークでこの会社が目に留まったのは、こどもの頃住んでいた家に
近かったこともあった。
前の職場で、"身も心も疲れ切っていた私" は、 なつかしいこの町から
出直す気持ちで再就職を決めたのだ。
高いと思っていた小学校の塀が、「こんなに低かったかぁ〜?」 とまず驚いた。
通い慣れた道も、住んでいた長屋も、 箱庭の中にすっぽり収まっている。
これは… まるで、ガリバーだ。
仲良しだった木はどうなったかしら?
センスのかけらでもあれば、こんなブサイクに刈り込んだりしないのに… 残念。
水神祭りで賑わった小川のほとり、 夏になると橋の上から飛び込むこども達に
羨望の眼差しを送った私。
小川を隔てて向こう岸にいる、 同級生の窓の明かりが消えるのを見て、
おやすみを言った私。
お風呂屋さんからの帰り道、 落としてしまった宝物。
ガラス玉を入れたマッチ箱。
確か… この辺だったよなぁ…
落とした辺りを探そうとしたその時。
私は、はっと気が付いた。
40歳をとうに過ぎた"いい年"をして、 私って… まだこどものまま…
こどもの私が、何をどんな風に感じていたのかをはっきり憶えている。
なつかしい、この不安…。 こどもの時からの小さな不安。
母は私を受け入れてくれていたのだろうか。
期待通りにならなかったと思っていたのだろうか。
母の本音を聞かなければ、 私は箱庭の中をさまよい歩くだけ。
再スタートなんか切れるわけがない。
少女時代、 私は、母ほど素晴らしい人はいないと心底思っていた。
母のように何でも出来る人になるつもりだった。
強いて言えば母はマリラと似て、 ごきげんをとるのに骨は折れるし、
甘やかしてくれないのが不満だった。
"お嬢様育ちのマリラ" といった感じだった。
母は、 地方都市の駅前で運送業を営む、商家の四女として産まれた。
道楽者で遊び人の父親に代わって、母親が家業の切り盛りをしていたそうだ。
小さい時から言い出したら聞かない性格で、 随分我儘だったらしい。
琴、三味線、和裁、洋裁、習字、茶道…、 テニスまでやっていたらしい。
お菓子作りは修道院のシスターに教わったそうだ。
更に油絵が好きで、ちょっとした画家の画廊に通っていた。
自分の裸体を描いた油絵が、物置の壁に掛けられていた。
つまり…、 母は、お稽古事に明け暮れて、家事は一切出来なかった訳だ。
それでも彼女は、 家事全般を私に教えた。 "水泳" とほぼ同じやり方で。
彼女にとっては、家事も "お稽古事" のひとつだったのかもしれない。
本に書いてある基本通りに、「厳重に」教えられた。
覚えた事は、 私のお手伝いとしてきっちりと割り振られた。 情け容赦なく…
私はよく母を手伝った。 その年頃の子にしては上出来だったと思うが、
母は難しい顔して、粗探し。
私も気分が悪いが、 母は「あぁ〜 胃がいたい…」と、最悪に機嫌が悪い。
勇気を出して、 小学校の頃の日記を読んでみる。
誤字、脱字だらけの、 心の叫びだ。
おかあさんは、わかってくれない。 頑張ってるのに、怒るばかりする。
もう、 おかあさんのいうことなんかきかんから
そう言いながらも、私はあなたのいう事を聞いてきた。
でも、 もし言うこと聞かなくても、すごく悪い子でも、それでもいいと言ってくれる?
廊下の壁に掛かった母の絵に、私は訊ねてみる。
そう! そうです!
そんなに頑張らなくてもいいのよ、 よしこさん。
おかあさんだって… 結構しのぎがキビシかったのよ。
お嬢様育ちで、世の中を知らないでしょ?
実はね、 尋ねられたって知らないことの方が多くてね。
でも… 親としての威厳ってものがあるでしょ。
それに、 知らない、出来ない、とは言えない性格だから、
安請け合いしては後悔で胃が痛くなるわ…
あなたに腹を立てて怒ってるんじゃないから。 とにかく、胃が痛いのよ…
お稽古事して、一生安気に暮らしたいわぁ。
え〜っ?! そうだったんデスかぁ〜?!!
わかったよ、 おかあさん。
それなら、 そう言ってくれたら、 もっと愉快に話ができたのに。
私も、やはり親の子よ。 お稽古が大好き。
好きなことに夢中になって一生のんきに暮らせたら…、 いいわよねぇ…。
そうは問屋が卸さないのが、 人生よね…。
「あ〜 めんどくさい」 (二人でハモる)
天国のお母さん、 勝手に台詞を作りよって! …って、 怒ってる?
でも、 まんざらハズレでもないと思うわ。
どちらかというと、そんなおかあさんの方が人間らしくて好き。
だからさぁ…、 マリラ、 アンに言ってあげて…
「おまえを、愛しているよ。
口が裂けても言うつもりはなかったがね。」
No.31 『第31章 おかあさんもぶっちゃける』
勤め先の事務所の前は、通学路になっている。
午後3時を過ぎると、小学校のこども達が帰ってくる。
走ったり、手をつないだり、 じゃんけん負けたら鞄持ち。 賑やかだ。
こっちは後2時間も仕事だっていうのに、シャクにさわる。
実は、 この子達の小学校に、私も通っていた。
ハローワークでこの会社が目に留まったのは、こどもの頃住んでいた家に
近かったこともあった。
前の職場で、"身も心も疲れ切っていた私" は、 なつかしいこの町から
出直す気持ちで再就職を決めたのだ。
高いと思っていた小学校の塀が、「こんなに低かったかぁ〜?」 とまず驚いた。
通い慣れた道も、住んでいた長屋も、 箱庭の中にすっぽり収まっている。
これは… まるで、ガリバーだ。
仲良しだった木はどうなったかしら?
センスのかけらでもあれば、こんなブサイクに刈り込んだりしないのに… 残念。
水神祭りで賑わった小川のほとり、 夏になると橋の上から飛び込むこども達に
羨望の眼差しを送った私。
小川を隔てて向こう岸にいる、 同級生の窓の明かりが消えるのを見て、
おやすみを言った私。
お風呂屋さんからの帰り道、 落としてしまった宝物。
ガラス玉を入れたマッチ箱。
確か… この辺だったよなぁ…
落とした辺りを探そうとしたその時。
私は、はっと気が付いた。
40歳をとうに過ぎた"いい年"をして、 私って… まだこどものまま…
こどもの私が、何をどんな風に感じていたのかをはっきり憶えている。
なつかしい、この不安…。 こどもの時からの小さな不安。
母は私を受け入れてくれていたのだろうか。
期待通りにならなかったと思っていたのだろうか。
母の本音を聞かなければ、 私は箱庭の中をさまよい歩くだけ。
再スタートなんか切れるわけがない。
少女時代、 私は、母ほど素晴らしい人はいないと心底思っていた。
母のように何でも出来る人になるつもりだった。
強いて言えば母はマリラと似て、 ごきげんをとるのに骨は折れるし、
甘やかしてくれないのが不満だった。
"お嬢様育ちのマリラ" といった感じだった。
母は、 地方都市の駅前で運送業を営む、商家の四女として産まれた。
道楽者で遊び人の父親に代わって、母親が家業の切り盛りをしていたそうだ。
小さい時から言い出したら聞かない性格で、 随分我儘だったらしい。
琴、三味線、和裁、洋裁、習字、茶道…、 テニスまでやっていたらしい。
お菓子作りは修道院のシスターに教わったそうだ。
更に油絵が好きで、ちょっとした画家の画廊に通っていた。
自分の裸体を描いた油絵が、物置の壁に掛けられていた。
つまり…、 母は、お稽古事に明け暮れて、家事は一切出来なかった訳だ。
それでも彼女は、 家事全般を私に教えた。 "水泳" とほぼ同じやり方で。
彼女にとっては、家事も "お稽古事" のひとつだったのかもしれない。
本に書いてある基本通りに、「厳重に」教えられた。
覚えた事は、 私のお手伝いとしてきっちりと割り振られた。 情け容赦なく…
私はよく母を手伝った。 その年頃の子にしては上出来だったと思うが、
母は難しい顔して、粗探し。
私も気分が悪いが、 母は「あぁ〜 胃がいたい…」と、最悪に機嫌が悪い。
勇気を出して、 小学校の頃の日記を読んでみる。
誤字、脱字だらけの、 心の叫びだ。
おかあさんは、わかってくれない。 頑張ってるのに、怒るばかりする。
もう、 おかあさんのいうことなんかきかんから
そう言いながらも、私はあなたのいう事を聞いてきた。
でも、 もし言うこと聞かなくても、すごく悪い子でも、それでもいいと言ってくれる?
廊下の壁に掛かった母の絵に、私は訊ねてみる。
そう! そうです!
そんなに頑張らなくてもいいのよ、 よしこさん。
おかあさんだって… 結構しのぎがキビシかったのよ。
お嬢様育ちで、世の中を知らないでしょ?
実はね、 尋ねられたって知らないことの方が多くてね。
でも… 親としての威厳ってものがあるでしょ。
それに、 知らない、出来ない、とは言えない性格だから、
安請け合いしては後悔で胃が痛くなるわ…
あなたに腹を立てて怒ってるんじゃないから。 とにかく、胃が痛いのよ…
お稽古事して、一生安気に暮らしたいわぁ。
え〜っ?! そうだったんデスかぁ〜?!!
わかったよ、 おかあさん。
それなら、 そう言ってくれたら、 もっと愉快に話ができたのに。
私も、やはり親の子よ。 お稽古が大好き。
好きなことに夢中になって一生のんきに暮らせたら…、 いいわよねぇ…。
そうは問屋が卸さないのが、 人生よね…。
「あ〜 めんどくさい」 (二人でハモる)
天国のお母さん、 勝手に台詞を作りよって! …って、 怒ってる?
でも、 まんざらハズレでもないと思うわ。
どちらかというと、そんなおかあさんの方が人間らしくて好き。
だからさぁ…、 マリラ、 アンに言ってあげて…
「おまえを、愛しているよ。
口が裂けても言うつもりはなかったがね。」
赤毛のアン 〜毎日読むアン〜
人間、 死にそうな目に遭うまで、止められないことがある。
高い所から華麗にジャンプキックを決めるのは、変身したヒーローだけだ。
それはテレビの話なのに、足を折らねばわからないヤツがいる。
エレイン姫遊びで、死ぬほどの目に遭って以来、 アンは目に見えないくらい、
少しずつ子供の衣を脱いで行く。
アボンリーは、ロマンチックには向いていない村ですもの、
エレイン姫をするなら、塔の立ち並ぶキャメロットでなきゃ…
今、その世界は遠い昔、歴史の中に沈んでいる。
成長と共に、物語の世界と現実の世界を分けて考えられるようになるのかもしれない。
揺れる年頃にさしかかり、アンの本当の胸の内はどうなの? と、私は思う。
アン14歳の夏休みが始まった。
クイーン短大入学を目指して「全力投球で勉強」を始めたアン。
成績も熱心さもトップクラス。 良い友と、教師との実りある関係。
一日一日が、 "一年" という首飾りの黄金の玉を、ひとつひとつ繰るように過ぎていく。
アンは器量も良くなった。
「白い水仙が真っ赤な芍薬に交じっているように見える」
リンド夫人が言うのだから間違いない。
料理の腕も上がったらしい。
リンド夫人でさえ文句のつけようがないスコーンを、一人で作れるくらいしっかりしてきたのだ。
この辺りまで読み進むと、 何か今までと違う空気が感じられて、私は戸惑っている。
なんか… 出来過ぎていて ついていけない…
アンが遠くに行っちゃった。
あんた… 眩しすぎるわぁ。
14歳の、私の胸の内…
勉強できるモンはええな。 先生に叱られないし、 親だって優しくしてくれるし…
私の通う中学校は、高校の合格率最優先。
国立大学のお膝元にある、自称 "教育熱心" なマンモス校で、
一学年に700人の生徒を抱えていた。
まずは生徒のライバル意識を燃やすために、 試験毎に上位100人の生徒の成績が
廊下に張り出された。
それ以外の生徒の答案用紙は、運動場のお立ち台の上からばらまかれたりもした。
豆まきじゃあるまいし、 まったく馬鹿ばかしい。
勉強のできない者の居場所は、 校庭の隅にある焼却炉。
拾った答案用紙を燃やしてくれる、心温かい友達よ。
教師達に見張られている限り、私達には悪に走るチャンスはなかった。
例えば…、通りかかった教師に聞こえるように「ヤバイ…」って言ったとしよう。
即、教員室に呼ばれる。
教員室は "生徒改造工場" 。一度入り込んだら最後、ベルトコンベアに
乗せられ、 流れ作業的に、次々と担当教員に説教されて…、
ドアから吐き出された時には、 人格はおろか、顔つきまで変えられる。
そんなことが、 子供達に良い影響を与えているとは決して思えない。
私は勉強嫌いじゃないが、好きなことに夢中になっていた。
毎夜ラジオから流れる、洋楽のヒットチャートに、 遅くまで耳を傾けた。
おかげで学校では居眠りして叱られたけど、そんなこと 「どうでもいいわ」。
それに、お人形の服。
わたくしがデザイン致しました、何処にも売ってない "イッテンモノ"。
「ん〜 トレビア〜ン」
そんな熱い毎日を、小学校時代の "相呼ぶ魂" の友に手紙で書き送った。
ところが、彼女からの返事は予想もしない言葉だった。
「今は勉強に打ち込む時です。 一つの試験の終わりは次のテストの始まりでも
あるのです。 音楽に夢中になるのは入試が終わってからがいいと思いますよ。」
…。 ごもっともである。 アンを眩しく感じるのと同じ後味を残した。
一緒に騒いでくれたら嬉しかったのに、 わかってくれなかったのね。
ただでさえ、 将来の目標を決めろ、受験勉強しろ、とうるさく言われて辛いのに、
あんたまで同じこと言わなくたっていいじゃない!
アンまで必死で受験勉強始めるし… 裏切り者…
おあいにくさま。 私はまだまだ、夢や想像の世界で遊ぶつもりよ。
私達はそれぞれの個性をまとって、自分を知るための道の前に立っていたのだろう。
私は絶対、想像力をしなびさせたりしない。
アン、 あなたの胸の内、当てて見ましょうか。
教師をしながら、詩や物語を書きたい、 と思っているでしょう?
誰にも明かさない、密かな野心がある、って、 私は感じる。
No.30 『第30章 優等生なんか嫌いだ』
人間、 死にそうな目に遭うまで、止められないことがある。
高い所から華麗にジャンプキックを決めるのは、変身したヒーローだけだ。
それはテレビの話なのに、足を折らねばわからないヤツがいる。
エレイン姫遊びで、死ぬほどの目に遭って以来、 アンは目に見えないくらい、
少しずつ子供の衣を脱いで行く。
アボンリーは、ロマンチックには向いていない村ですもの、
エレイン姫をするなら、塔の立ち並ぶキャメロットでなきゃ…
今、その世界は遠い昔、歴史の中に沈んでいる。
成長と共に、物語の世界と現実の世界を分けて考えられるようになるのかもしれない。
揺れる年頃にさしかかり、アンの本当の胸の内はどうなの? と、私は思う。
アン14歳の夏休みが始まった。
クイーン短大入学を目指して「全力投球で勉強」を始めたアン。
成績も熱心さもトップクラス。 良い友と、教師との実りある関係。
一日一日が、 "一年" という首飾りの黄金の玉を、ひとつひとつ繰るように過ぎていく。
アンは器量も良くなった。
「白い水仙が真っ赤な芍薬に交じっているように見える」
リンド夫人が言うのだから間違いない。
料理の腕も上がったらしい。
リンド夫人でさえ文句のつけようがないスコーンを、一人で作れるくらいしっかりしてきたのだ。
この辺りまで読み進むと、 何か今までと違う空気が感じられて、私は戸惑っている。
なんか… 出来過ぎていて ついていけない…
アンが遠くに行っちゃった。
あんた… 眩しすぎるわぁ。
14歳の、私の胸の内…
勉強できるモンはええな。 先生に叱られないし、 親だって優しくしてくれるし…
私の通う中学校は、高校の合格率最優先。
国立大学のお膝元にある、自称 "教育熱心" なマンモス校で、
一学年に700人の生徒を抱えていた。
まずは生徒のライバル意識を燃やすために、 試験毎に上位100人の生徒の成績が
廊下に張り出された。
それ以外の生徒の答案用紙は、運動場のお立ち台の上からばらまかれたりもした。
豆まきじゃあるまいし、 まったく馬鹿ばかしい。
勉強のできない者の居場所は、 校庭の隅にある焼却炉。
拾った答案用紙を燃やしてくれる、心温かい友達よ。
教師達に見張られている限り、私達には悪に走るチャンスはなかった。
例えば…、通りかかった教師に聞こえるように「ヤバイ…」って言ったとしよう。
即、教員室に呼ばれる。
教員室は "生徒改造工場" 。一度入り込んだら最後、ベルトコンベアに
乗せられ、 流れ作業的に、次々と担当教員に説教されて…、
ドアから吐き出された時には、 人格はおろか、顔つきまで変えられる。
そんなことが、 子供達に良い影響を与えているとは決して思えない。
私は勉強嫌いじゃないが、好きなことに夢中になっていた。
毎夜ラジオから流れる、洋楽のヒットチャートに、 遅くまで耳を傾けた。
おかげで学校では居眠りして叱られたけど、そんなこと 「どうでもいいわ」。
それに、お人形の服。
わたくしがデザイン致しました、何処にも売ってない "イッテンモノ"。
「ん〜 トレビア〜ン」
そんな熱い毎日を、小学校時代の "相呼ぶ魂" の友に手紙で書き送った。
ところが、彼女からの返事は予想もしない言葉だった。
「今は勉強に打ち込む時です。 一つの試験の終わりは次のテストの始まりでも
あるのです。 音楽に夢中になるのは入試が終わってからがいいと思いますよ。」
…。 ごもっともである。 アンを眩しく感じるのと同じ後味を残した。
一緒に騒いでくれたら嬉しかったのに、 わかってくれなかったのね。
ただでさえ、 将来の目標を決めろ、受験勉強しろ、とうるさく言われて辛いのに、
あんたまで同じこと言わなくたっていいじゃない!
アンまで必死で受験勉強始めるし… 裏切り者…
おあいにくさま。 私はまだまだ、夢や想像の世界で遊ぶつもりよ。
私達はそれぞれの個性をまとって、自分を知るための道の前に立っていたのだろう。
私は絶対、想像力をしなびさせたりしない。
アン、 あなたの胸の内、当てて見ましょうか。
教師をしながら、詩や物語を書きたい、 と思っているでしょう?
誰にも明かさない、密かな野心がある、って、 私は感じる。