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 赤毛のアン 〜毎日読むアン〜                           

No.93 『22章  寝たきりのシノさん』

  〜春休み、アンは予定より一日早くアヴォンリーへ帰ってきました。
   驚きながらも大喜びのマリラ。 愛情を込めてアンを抱きしめるのでした。
   大好きなグリーンゲーブルズ。

   でもこの春、ギルバートは帰って来ません。

   アンがギルバートを "愛せない" と拒絶した日から、
   アンの心にもギルバートは戻って来ないのでしょうか…




21歳、女の逞しさを知る。



自称 "寝たきり" の "シノさん" は、居間の真ん中に万年床を敷いている。

人工透析を受けると大変疲れるそうだ。

買い物にも出て行けず、炊事もままならない、ゴミを捨てに外に出ることさえ
できない、
 と情けなさそうにグチる。



茶道の先生をしていたと言うシノさんのお宅は、 茶室のある、実に立派な造りだ。

玄関には立派な掛け軸があった… とおぼしき所に、こんな "張り紙" が訪問者を
歓迎する。

 "せっかくですが、糖尿病のため、手土産のお菓子はお断り致します。"


台所は更にスゴイことになっている。

 "食べたら死ぬぞ"

壁に3箇所貼ってある。


冷蔵庫のは、ちょっと気が利いている。

 "オヌシ、また、食べるのか、死んでもよいのだな"

 "冷蔵庫は地獄への門"

 "心にも しっかり締めよう カロリー計算" (?)

これって、交通標語のパクリよなぁ…



私がゴミの片付けや掃除をする間、シノさんは万年床に座卓を差し込んで、
くつろいでいる。


だがあくまで病人らしい、弱々しい声で、 指示を出す。

 「鍋や洗面器をごしごし擦って磨かなくてもよろしいのよ。
 時間がもったいないでしょ。 汚れたら新しいのを買ってくださいな


どうりで… 台所の鍋、道具、雑貨は新品同様。 風呂場の洗面器までピカピカ。

手間をかけるより、100円ショップで買った方がいいのだそうだ。

 「100円の安物と私の命と、どちらが長持ちするかですわ」 だってさ。



宅配の配達が呼び鈴を鳴らす。

 「上がって頂いて下さいな。 電球を取り替えて頂きましょうよ。 ねぇ?
 高い所は危ないから、あなたにさせるわけにはいきませんからね


って、シノさん… その宅配屋が危ないかもしれないのであって…


しかし、心配は無用。 そのおにいちゃん、これが初めてではないと判った。

壁掛け時計の電池やら蛍光灯の取替やらで、使われ慣れていたのだ。

郵便配達のおにいちゃんも、重宝に使っているらしい。

男手は必要よねぇ〜」 と、涼しい顔である。



買い物の時は、リストに書かれた品物について細かく確認をしてから、
近所の商店街へ行く。


人の買い物をするというのは、かなりやっかいだ。

商品がなかったり、いい品でない時はどうするかまで打合せしておかないと、
はたと困ってしまう。


レシートを見せて、釣銭を勘定して渡す。

 「あなたの家は近いのですか?

私は前もって、先輩のシッターさんに聞いていた。

シノさんは会社を通さずに "個人的に" 来てくれる、近場の人を探しているらしい。

へ〜 しっかりしている。



ある日、私は見てしまった。

本当にシノさんがしっかりして居られる姿を…

商店街を、買い物車を押しながらではあるが…、達者に歩いているではないか。

"寝たきり" なんかであるもんですか。

 シノさ〜んっ! 声を掛けると、おっ! ギクッとした!

 「まぁ、私、 こんな体でも一人でしょ…
 こうして無理にでも動くと、また寝込んでしまうのよ。
 あなたのように、お若い方にはお分かりにならないでしょうけれどねぇ


買い物車に目を落とすと、野菜や果物に混ざって "和菓子屋の包み" が嬉しそうに
存在をアピールしている。

たまには和菓子のひとつも食べなきゃ、楽しみがない。

シノさんと私は "そうだよねぇ" と、眼で語り合って笑った。


一日三食、 その上に二度のおやつを食べたとしても、シノさんは長生きすると私は思う。

一人で暮らす知恵と、バイタリティーがあるからだ。


望みは人を元気にしてくれる。

どんな望みであれ、それが本人の心からの希望であれば叶えられて欲しい。


"一食でも多く食べて逝きたい"。 それがシノさんの望みだ。
posted by 片岡 よしこ at 06:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | バックナンバー
 赤毛のアン 〜毎日読むアン〜                           

No.92 『第21章  "源爺"』



  〜アンはフィル・ゴードンの屋敷 "ひいらぎ荘" で、楽しい二週間を過ごします。

   馬車の遠乗り、ダンス、ピクニック、舟遊び。

   ギルバートのことを考えると、何かが痛んだけれど、
   毎日続くお祭り騒ぎの中で、彼の事を考える時間はありませんでした。




21歳、お年寄りの気持ちはわからない。



ここが市内なのかと思うほど、田舎じみた風景の中の一軒家に、
"源爺" は一人で住んでいる。


実際、たぬきが餌をねだりに来るらしい。

夕食が終わった頃、勝手口の辺りまで子連れでやって来て、じっとこちらを
見ているので、 源爺が食べ残した魚やら、野菜の煮付けやらを投げてやると、
おおきに」 も言わずに口に咥えて、裏山へ帰っていくのだそうだ。

 「かわいげのないもんじゃなぁ。 "畜生" ゆうもんは…

 それにしても、たぬきのどんべえ、 小そうて、かわいいなぁ。
 目に入れても痛うないほどじゃなぁ…


源爺、 "ミニどんべえ" を手で撫でるように、眺め回している。

レギュラーサイズの "どんべえ" は食べきれないとぼやくので、"ミニ" を買ってみた。

これなら残さずに済むが、畜生のたぬきはおこぼれに与れなくなるだろう。


他に頼まれた買い物は、 お造りとパックのご飯1週間分、それにバナナ。

源爺は電子レンジで温めるだけのご飯が、大のお気に入りだ。

姉妹品の赤飯も大好きだ。

 「下手な女房の炊いた飯よりうまいからのぅ

と、ほくほく顔である。 死んだばあさんが聞いたら何というやら。



源爺は10年前に女房に先立たれ、それ以後ずっと一人暮らしだ。

二人の息子は他県で働いて所帯を持っているという。

近くに住む妹が、ちょいちょい顔を出しては何かと世話を焼いていたのだが、
その妹も80歳を超え、自分の足元もおぼつかなくなり、
我が社に腕利きのお手伝いさんシッターを依頼したという訳だ。

その腕利きの一人がこの "わたし" (?)とは、笑わせる。


あんた、割烹着姿は結構老けて見えるじゃないの。 大丈夫、ベテランの28歳でとおるわ

 いやいや、とおらないって、 社長。

私はベビーシッターですから。

それにお年寄り… しかも男の年寄りは苦手なのよ!

男は歳をとっても "" を感じさせる時があって、私はそれが怖かったのだ。


と言うのも、祖父が亡くなる前に自宅で療養していた時のことだ。

珍しく四男夫婦が子供を連れて、泊りがけで遊びに来た。

狭い部屋に蒲団を敷き詰めて、騒ぎまわる子供達。

色白でふくよかな嫁の顔がうっすらと上気して、ピンクのモヘヤのセーターが
一層可愛らしさを引き立てていた。

おばちゃん、きれいだなぁ…」 そう思ったのは私だけではなかった。

それまで黙って、火鉢にあたりながら一杯飲んでいた祖父が、何気に呟いたのを
私は聞き逃さなかった。

 「かわいいのぅ…

それは、孫達に向けた言葉ではなかった。

その時の祖父の表情、艶かしい目つき。 私は忘れない。

年老いた男が、若い女を見る目とはこういうのを言うのだと、私はその顔を
覚えておく事にしたのだった。



源爺は "ひっつき虫" だった。 21歳の小娘にとっては、充分イヤラシイ。

振り向くと真後ろに立っていたり、味噌汁を温める私の側に寄ってきて、
鍋を覗き込んだりする。

その度に、私の心は 「ギャ!」 と叫んだ。

とにかく、 物珍しそうにうろつき回って、私をビビらせていた。



源爺の家の中は、まるでゴミ捨て場だ。 足の踏み場がない。

女房に先立たれた一人暮らしの男とは、 こうもやりたい放題の野放し状態なのか…??

好きな物だけを食べ、くだらない不用な買い物を楽しみ、出したら出しっぱなし、
ゴミは床に置きっぱなし。

嫁にうるさく言われない限り、男は衛生的かつ健康的な生活すら出来ないのだから、あきれる。


それに加えて、若い女を目で追う目つき。

私が嫁だったら、 「あんた! 何みてるの! みっともない!

女房の "睨み" と "小言" は、 度を越さなければ男には程良い "抑止力" に
なるのかもしれない。


源爺の台所はゴミの山。 何が出てくるかわからん… 

死んだばあさんの食べかけたジャムとか…。

"5年前の牛乳" なんて、学会で発表したいものだ。 匂いもしない、ツルンとしたヨーグルト状。

去年の "おせち" は手付かずで、テーブルに放置されている。

私が浦島太郎でも、蓋は開けたくない。


片付けんでええ、後でワシがするから。 ばあさんが生きとったらのぅ…

そう言うけど、 源爺…。

さっきから私の後ろを金魚のフンみたいに、ついて廻ってるでしょうが!

あ〜もぅ うっとうしい!



もしばあさんが生きてたら、嬉しそうに私の後をついて廻るなんてマネは、

ゼ ッ タ イ に で き ま せ ん
posted by 片岡 よしこ at 08:10 | Comment(0) | TrackBack(0) | バックナンバー
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